遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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10. 月影に揺らぐ面影

 

「ホグワーツって広いなぁ……」

 

シェアトは見知らぬ廊下をひとり歩いていた。

鍵の開錠に成功したセリーナに追いかけられ、撒くことはできたが迷子になってしまった。

1、2時間前にはいろんな所で生徒を見たが、今は見渡す限り誰もいない。

しかもホグワーツでは姿くらましも姿あらわしも禁止されているため、寮に戻ることもできない。

 

「ま、探索でもしますか」

 

まだホグワーツの内部を詳しく知らないシェアトは、いい機会だと思い、探索を開始する。

 

 

 

 

 

どれほど時間が経った頃か、ふと背後から声をかけられた。

 

「ミス・スペイシャル、こんな時間に何をしているのですか?」

「………ミネルバ・マクゴナガル」

 

背後に立っていたのは、このホグワーツの副校長でもあるマクゴナガルだった。

 

「この時間に寮の外に出るのは減点対象ですよ?いったい何をしているのですか?」

「……寮に戻れなくなったので、校内を探索しているだけです」

「そうなのであれば、寮に案内しましょう。今回は減点はしません。今度から気をつけてください」

 

淡々とした言葉。

けれどシェアトは、胸の奥に引っかかりを覚えた。

足音だけが響く沈黙。しばらくして、マクゴナガルが口を開く。

 

「《ルーモス 光よ》。──これで歩きやすいでしょう。ところでミス・スペイシャル、ホグワーツの生活はいかがです?」

「どうもこうもありません。私は父の死の理由を知るために来たんです。異国の学校生活を楽しみにして来たわけじゃありません」

 

シェアトがばっさり切り落とし、しばし沈黙が落ちる。

それでもマクゴナガルは口を開いた。

 

「ダンブルドアは、ただそれだけのためにあなたを迎えたわけではありません」

「……まだ理由があると?」

 

「ええ。あなたが孤独や憎しみに呑み込まれ、闇に傾いてしまわないようにするためです」

 

足が止まる。シェアトは振り返り、低く問うた。

 

「つまり……あなた達は、私が“闇に染まり始めている”と考えているんですか?」

 

怒りを孕んだ視線がマクゴナガルに向けられる。

彼女が返答に詰まる間に、シェアトは冷たい声で言い放った。

 

「私は父や母を殺した連中のようにはなりません。……そう思うなら、なぜスネイプのような元死喰い人を教師にしているんです?」

「それは……」

 

マクゴナガルの顔に影が落ちた。言葉は出ない。

その沈黙が、シェアトの怒りに油を注ぐ。

 

「答えられないなら、これ以上話す意味はありません。──では、授業で」

 

杖先の光が消える。

 

「《ノックス 闇よ》」

 

慌てて光を取り戻したときには、シェアトの姿はもうなかった。

 

 

 

 

「……へぇ、やっぱり使えた」

 

別の場所に現れたシェアトは、自分の手を見つめていた。

彼女が用いたのは《ペルムタティオ 入れ替え》。

先程通った床に落ちていた紙と自身の位置を入れ替えることで、マクゴナガルの視線から逃れたのだ。

 

しかし彷徨っていた時に見つけた紙なので、さっきいた場所に戻ってきてしまった。

辺りを見渡すと、不思議な光を放つ鏡があった。

 

「鏡……?なんでこんなところに?」

 

額縁には古い文字が彫り込まれている。読めはしないが、ただの鏡ではないと直感する。

恐る恐る覗き込むと──

 

「……母さん? 父さん……?」

 

そこには白髪の女性と銀髪の男性。

そしてその二人と手をつなぎながら笑う、小さな少女が映っていた。

 

込み上げる涙が頬を伝う。

幼い頃から夢見てきた、失われた家族の姿。

 

手を伸ばす。しかし指先は、冷たい鏡面に阻まれる。

鏡という壁が、無情に立ちはだかっていた。

 

(なんで、なんで届かないの……。すぐそこにいるのに!)

 

「………こんな壁なんて………壊しちゃえばいいんだ」

 

目の前の鏡は今のシェアトには壁にしか見えない。

右手を鏡に向ける。

呪文が口から零れかけた、そのとき。

 

 

「待つのじゃ、シェアト」

 

 

柔らかな声と共に、肩に手が優しく置かれる。

振り返れば、ダンブルドアがそこにいた。

 

「ダンブルドア……。どうしてここに……?」

「ミネルバから、君がいなくなった、と言われたからじゃ」

 

声の主であるアルバス・ダンブルドアは柔らかく微笑む。

しかしシェアトは、そんなことどうでもいい、と鏡へ向く。

 

「……この先に両親がいるんです。……でも、見えない壁があるので──」

「シェアト、これは壁ではない。『みぞの鏡』という、見た者の”のぞみ“を映し出す鏡じゃ」

 

シェアトは信じられない、といった表情になる。

 

「そんな……だって、ここに家族が……」

「わしには見えぬ。……けれども、君がどれほど望んでいるかは伝わってくる」

 

シェアトの唇が震える。

家族の幻を見つめる瞳に、涙が滲む。

 

「なんで……なんで私は……こんなに……」

 

ダンブルドアはそっと近づき、彼女の肩に手を置いた。

その声は、深い静けさを帯びていた。 

 

「わしが君を呼んだのは、父のことを伝えるためでも、闇から遠ざけるためでもある。──けれど本当の理由はただ一つ」

 

シェアトが顔を上げる。

彼はやわらかな眼差しで告げた。

 

「君に、”愛“を忘れてほしくなかったからじゃ」

 

その言葉に、シェアトの心が決壊した。

堰を切った涙と共に、彼女は静かな嗚咽と共にしゃがみ込む。

ダンブルドアはシェアトの顔の位置に合わせるようにかがみ込み、頭を撫でる。

 

 

 

「遠い空の下からようこそ、ホグワーツへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりが優しく2人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。


◇登場設定解説


・みぞの鏡
鏡を見た者の心の一番奥底にある“のぞみ”を映し出す鏡。
“のぞみ”の虜になり、廃人になった人もいる。
シェアトも虜になりかけた。
額縁には「Erised stra ehru oyt ube cafru oyt on wohsi」と彫られており、
逆から読むと「I show not your face but your heart's desire」になる。


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