雲ひとつない空が広がっていた。
「今日は絶好の飛行訓練日和だね〜」
「……そうだね。風が心地良さそう……」
隣から少しテンション高めの声が聞こえ、シェアトもトースト片手に眠そうに返す。
昨夜、ダンブルドアに先導され、寮に帰れたシェアトはダフネ達の質問攻めに会い、睡眠不足であった。
「にしても昨日の夜、シェアトが泣きながら帰ってきた時は驚いたよ。しかも『みぞの鏡』の虜になりかけたなんて」
「………恥ずかしいから、やめて……」
「そんな感じに表情増やせば?シェアト、顔整ってるんだから」
ダフネがからかい混じりに言い、シェアトが顔を赤くする。
それを見たミラベルが助けようと話題を変える。
「……そういえば、飛行訓練って箒に乗るんだよね。みんな箒に乗ったことあるの?」
「そりゃ何回か乗ったことはあるわよ。セリーナもシェアトも乗ったことあるでしょう?」
ダフネが答え、2人に質問を振る。
その質問にセリーナが苦笑いしながら答える。
「もちろん乗ったことはあるけど……降りれなくなったり、壁に何回も衝突するんだよね」
「私は入学前に杖を買いに数百キロ飛んだぐらい?」
「もうそれは上級者レベルでしょ……」
シェアトの返答にダフネが呆れた様に言う。
会話を聞いていたミラベルが恥ずかしそうに話す。
「みんな箒に乗れるんだね……。私高いところ苦手だからさ、乗れなくて……」
「大丈夫だよ!安心して!」
セリーナが胸を張りながら言う。
なぜそんなに自信があるのか、とシェアトはまじまじ見る。
「ダフネとシェアトが教えてくれるから!」
「……あっ、ちょっと!?」
セリーナはミラベルの手を取り、逃げるように去っていく。
シェアトとダフネは呆然と二人が去っていく方向を見ていた。
「………他力本願ね」
「日差しが心地いい……」
「よく箒の上で寝れるわね……」
ダフネが感心と呆れが混ざった声で言う。
シェアトが大広間に置いてきぼりにされた日の午後、飛行訓練を受けるために彼女達は校庭に来ていた。
天気は快晴。爽やかな風が吹いている。
「……家の庭で昼寝する時みたいに芝生で寝っ転がるのも良いんだけど、箒の上で寝るとふわふわした感じがして気持ちが良いんだよ……」
「もう寝そうな声ね。……シェアトって冷静沈着だと思ってたけど、意外に自由なんだね」
「……それ、……よく言われ──「ミス・スペイシャル!箒の上で寝ない!」──ひゃあっ!……痛っ!」
突如大きな声で注意され、シェアトは箒から落ちる。
顔を上げると短い白髪と、鷹のような目の女性が立っていた。
「授業中にその様なことをしたら減点ですからね!──ほらみんな箒の側に立って。さぁ、早く!」
シェアトはローブについた芝生を払いながら箒の側に立つ。
ダフネはシェアトの隣に、箒が苦手なセリーナとミラベルは離れたところに立つ。
「誰?あのおばさん」
「おばさんじゃなくてロランダ・フーチ、みんなはマダム・フーチと呼んでいるわよ」
「右手を箒の横に突き出して! 『上がれ!』と言う!」
「「「「上がれ!」」」」
一斉に生徒達が言い出す。
そんな様子を横目にシェアト右手を箒にかざす。
箒が右手の中に収まる。
その光景を見たダフネが驚きの声を上げる。
「え!シェアト、上がれ!って言った?」
「慣れれば手をかざすぐらいで上がる様になるよ」
「慣れればって、相当時間かかったでしょ」
「でも、無言呪文を使う様な感じだよ」
「あなた無言呪文もできるの!?」
無言呪文、という言葉にダフネの集中が切れ、途中まで上がっていた箒が落ちる。
「あ〜!あと少しだったのに……」
「シェアト〜、箒上がらないよ〜」
「……騒がしい」
そう言い、シェアトは周りの様子を見る。
まだほとんどの生徒が箒を上げられていなかった。
シェアトの他に箒を上げることが出来たのはハリーとドラコぐらいだ。
「シェアト〜、助けてよ〜」
「……仕方ない、教えるか……」
セリーナの助けを呼ぶ声が聞こえるので、その方向にシェアトは歩き出した。
しばらくすると箒が上がった生徒も増えた。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください 。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ ──1、2の── 」
笛が鳴る前に1人のグリフィンドール生が勢いよく飛び出した。
「うわぁぁぁぁ!!」
悲鳴とともに、箒が制御を失って空を切る。
一瞬の出来事に、誰一人声を上げられない。
ただ見上げることしかできなかった。
「こら、戻って来なさい!!」
マダム・フーチが叫ぶが降りてこない。
「落ちる……!」
ドンッ、と乾いた音を立てて地面に叩きつけられる。
息を呑む音が一斉に広がり、次の瞬間、校庭は静まり返った。
マダム・フーチが急いで駆け寄る。
「……骨が折れてるわ」
小さく呟く。
そして泣いているグリフィンドール生を立たせると
「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間誰も動いてはいけません 。箒もそのままにして置いておくように 。さもないと、クィディッチの『ク 』を言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」
そう言い放つと、医務室に歩いて行った。
マダム・フーチがいなくなったのを確認するとドラコが笑い始めた。
「お前ら見たか? あの笑える大マヌケ面を!」
他のスリザリン寮生も同じ様に笑う。
すると、長い黒髪のグリフィンドールの女子生徒がマルフォイを咎めた。
「止めてよ、マルフォイ」
「へー、アンタ、ロングボトムの肩を持つの? パーバティったら、まさかアンタが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」
パーバティと言う名前の生徒をパグ犬顔のスリザリン女子生徒が冷やかす。
いつの間にかドラコがガラス玉を手に戻って来た。
「見ろよ、ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」
シェアトはドラコの持っているガラス玉を見たことある様な気がした。
どこで見たか思い出そうとしているとグリフィンドールの方から声がした。
「マルフォイ、その玉を返せ」
声の主であるハリーが静かな声で言う。
その言葉にドラコが口を歪めて笑う。
「ロングボトムが後で取りにこられる場所に置いておくよ。木の上なんてどうだい?」
「いいから返せったら!」
ハリーが手を伸ばし、それをドラコが避け、箒に乗って上がる。
「此処まで取りに来いよ、ポッター」
ドラコの挑発に乗ったハリーが箒に乗って追う。
それを見ているダフネが呆れた様に言う。
「……あいつらバカなの?」
「知らないよ。あの鷹の目教師がいなくなったから寝ようかな」
「ちょっとあなた!寝る暇があったら2人を止めるのを手伝ってよ」
シェアトが箒に乗って寝ようとしたら茶色い髪のグリフィンドール生が止める。
寝るところを妨害されたシェアトが不機嫌そうに睨む。
「誰?私は興味無いから他をあたって。私は手伝わないよ」
「あなたアメリカの純血なんでしょ?止めるのぐらい簡単じゃないの?減点されたくなかったら止めてよ」
「……なんでグリフィンドールにまで広まってるの?」
「シェアトが魔法薬学の授業で寝たからじゃない?」
「あー……なるほどね」
なぜグリフィンドールに広まったのか、と考えているシェアトにダフネが指摘する。
勝手に会話が脱線していることに茶髪のグリフィンドール生が怒りの声を上げる。
「会話をずらさないで!2人共減点されたくないなら止めてよ!」
「減点なんかどうでも良いし、……そもそも君、誰?」
「ハーマイオニー・グレンジャーよ。列車の中で会ったでしょ。カエルがどこにいるか尋ねたでしょう?」
「そうだっけ?じゃあ改めて、シェアト・スペイシャルだよ。よろしく」
シェアトがハーマイオニーを忘れていたこともあって、急にお互いに自己紹介が始まる。
さらに会話の内容がズレた。
ダフネが気になったことをハーマイオニーに尋ねる。
「ダフネ・グリーングラスよ。ところでグレンジャー、あなたが箒に乗って止めてくれば良いんじゃない?」
「箒なんて乗ったこと無いわよ」
「箒、買ってもらえなかったの?」
「私、あなた達が言うマグル生まれよ」
マグルの意味がわからないシェアトが首を傾げる。
そんなシェアトにダフネが教える。
「マグル生まれって言うのは両親が魔法族じゃないのに魔法が使える魔法使いの事よ」
魔法族でない、と聞いてシェアトは納得する。
「なるほど、ノー・マジのことなんだね。そういえば組み分け帽子もそんなこと話していたような……」
「シェアト、また話が脱線してる」
「え?………あ、そうだった。あの二人を止めてくれば良いんだっけ?」
任せてよ、と急にやる気を見せたシェアトが歩き出す。
「あのー、お二人さん。降りてきてもらえませんか?下でゆっくり話しましょう」
話かけられた二人は驚いて一旦止まり、声の主がシェアトだとわかると同時に話し始めた。
「シェアト!君もドラコからネビルの持ち物を取り返すのを手伝ってよ」
「スペイシャル、君も参加したいのかい?なら、ポッターに取られないように手伝ってくれ」
「………え?」
両方から手伝うようにと言われ、シェアトは軽く混乱する。
二人はどちらについてもらうか、と口論を始めた。
「スペイシャルはスリザリンだ。君のことなんか手伝わない」
「僕の方がシェアトと先に仲良くなったぞ!お前のことなんか手伝うか!」
「え?えぇ………?」
「シェアト、落ち着いて。とりあえずあの二人を降ろすの」
ダフネが混乱するシェアトを落ち着かせる。
その間も口論は続いていた。
そんなことをしていると、校庭に大声が響き渡る。
「ハリー・ポッター!」
そこに立っていたのはマクゴナガルだった。
彼女はハリーの元に駆け寄る。
「まさか──こんなことはホグワーツで一度も……」
マクゴナガルはショックを受けた様な声で言う。
「よくもまぁ、そんな大それた事を……。首の骨を折ったかもしれないのに……」
「先生、ハリーが悪いんじゃないんです」
何人かのグリフィンドール生が弁明するがマクゴナガルは聞き入れない。
「ミスター・ポッター、付いてきなさい」
ハリーが連れていかれる。
マクゴナガルが来る直前に地面に降りたドラコが笑う。
「これでもう ポッターは退学だな」
周りのスリザリン生もドラコと同じ様にグリフィンドールを笑う。
「止めたけど止められなかった」
「あなたが介入した瞬間に別の話題に変わったわね」
やがて授業が終わると生徒は寮に戻っていく。
ダフネが思い出した様に言う。
「ハリーって結局退学なのかな?」
「それは無いでしょ」
「どうして?」
「マクゴナガル、嬉しそうにしてたもん」
そんな会話をしながら2人は寮に戻っていく。
爽やかな風が校内に吹き入れていた。
読んでくださりありがとうございます。
◇登場設定解説
・飛行訓練
担当教授 ロランダ・フーチ
第1学年からの必須科目。O.W.L.試験は無し(ゲームは有り)。
マグルの学校で言う体育。
原作ではフーチは何度も登場するが映画では『賢者の石』のみ。
シェアトが1番好きな教科だと思われる。
感想、評価などお待ちしてます。