遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

14 / 17
13. 月影に送られて

 

休暇の半分を過ぎた頃、屋敷の空気は少しずつ「終わり」の気配を帯び始めていた。

次にホグワーツへ戻る日が迫っている。そう意識した途端、時間の流れが急に早くなった気がして、シェアトは胸の奥に小さな焦燥を覚えていた。

 

その日の朝。

窓辺で庭を見下ろしながら、シェアトはぽつりと言った。

 

「ねぇ、ルーカス。今日は決闘の練習をしない?」

 

ソファに寝転んでいたルーカスは、驚いたように目を瞬かせた。

 

「君から誘うなんて珍しいな。どういう風の吹き回し?」

「……ホグワーツに戻ったら、きっと色んなことが待ってる。鍛えておきたいんだ」

「そっか。いいね。僕も腕が鈍らないようにしておきたかった」

 

二人の視線が交わり、にやりと笑い合う。

その笑みには、友情だけでなく、互いを刺激する良きライバルとしての輝きも宿っていた。

 

 

 

 

 

庭の中央。芝生の上に立ち、二人は向かい合った。

杖を掲げるだけで、胸の鼓動が早まる。

秋の風が頬をかすめ、空には澄んだ青が広がっている。

 

「本気でやるからな」

「もちろん。ごっこじゃないんだから」

 

ルーカスが先に動いた。短く呪文を唱えると、赤い閃光がシェアトに迫る。

即座にプロテゴを張るが、衝撃が腕に響いた。光がはじけ、芝に焦げ跡を残す。

 

「いきなり強めに撃つなんて……容赦ないな」

「手加減したら失礼だろ?」

 

シェアトは口元に笑みを浮かべ、すぐに反撃の呪文を放った。青白い光が走り、ルーカスの肩口を狙う。だが彼は滑るようにかわし、返す刀でさらに二発。

火花が散るたび、芝が焦げ、焦げた匂いが風に混じった。鼓動が耳の奥で暴れ、呼吸が荒くなる。

 

 

 

しばらくの間、攻防は拮抗していた。

だがシェアトの頭は冷静だった。

 

(――ルーカスの動きは速い。けど、勢いに頼る分、次の一手が読める)

 

彼の杖の振り方、詠唱の間合い。小さな癖を観察し、次の動きを先読みして防ぎ、時には受け流す。

 

「……やっぱり観察してるな、シェアト」

 

合間に笑みを浮かべたルーカスが言う。

 

「僕の癖、気づいてるだろう?」

「さっきのステップ、二回同じ方向だった。だから狙えた」

「ぐ……そこまで見抜かれると恥ずかしいな」

 

互いに笑いながらも、杖は止めない。

シェアトの呪文がルーカスの外套をかすめ、彼の攻撃がシェアトの髪を揺らす。

緊張と興奮の狭間で、ふたりはますます夢中になっていった。

 

「じゃあ、少しだけ本気を見せるか」

 

ルーカスの声色が変わる。杖先から稲妻のように空気を裂いた閃光が放たれ、呪文はこれまでとは違う重みを帯びていた。

 

「っ……!」

 

シェアトはプロテゴを展開するも、押し返される。

防御の膜が悲鳴を上げ、腕に鈍い痺れが広がり、体が後ろへと弾かれた。

芝の上に足を取られ、膝をつく。

 

「大丈夫か!?」

「……まだいける」

 

立ち上がるシェアトの目は真剣そのものだった。

 

――逃げちゃいけない。見極めるんだ。

 

ルーカスが再び攻撃を繰り出す。今度は三連撃。

だがシェアトは一歩、半歩と位置をずらし、光をすり抜けさせた。

 

「受け止めた……いや、流したのか?」

「そういうこと」

 

シェアトの反撃が鋭く突き刺さる。ルーカスが防御に追われ、初めて表情を引き締めた。

観察と洞察、それを実際の動きに落とし込む。

その瞬間、シェアトは自分の武器を掴んだ気がした。

だがルーカスも黙ってはいない。

 

「負けてられないな!」

 

声と共に一気に距離を詰める。間近で撃ち込まれた呪文が、シェアトの視界を白く染める。

反射的にプロテゴを展開。衝撃で腕がしびれ、息が詰まる。

 

「っ……!」

「捕まえた!」

 

ルーカスが勝利を確信した瞬間――

シェアトは逆にその近さを利用し、無言で呪文を唱える。

防御に意識を割いていたルーカスの足元を直撃し、芝が弾け飛ぶ。

 

「わっ……!」

 

彼がバランスを崩し、尻もちをついた。

呆然とした後、ルーカスは大笑いした。

 

「やられた! 本気で負けた気分だ!」

 

シェアトも笑い、杖を下ろした。

 

「お互い様。最後まで勝ちは決まらなかったよ」

 

芝生の上に二人同時に倒れ込み、青空を仰ぐ。

汗が流れ、全身は疲れ切っているのに、胸の奥には小さな炎のような充足感が灯っていた。

 

 

 

 

 

夕暮れ。

屋敷のバルコニーに腰かけ、二人は並んで遠くを眺めていた。

森が赤く染まり、空には一番星が輝き始める。

 

「やっぱり君は強いな」

「強いんじゃなくて……見てるだけ」

「それが強さだと思う。相手を読めるのは才能だよ」

 

ルーカスの声には尊敬が滲んでいた。

シェアトは小さく笑い、風に揺れる髪を押さえた。

 

「この前言ったけど、ホグワーツでは、いつも誰かに見られてる気がするんだ。視線に押されて、逃げ出したくなることもある。でも……今日みたいに君と向き合うと、見返せる気がする」

 

「じゃあ、次に会ったときもまた決闘だな」

「うん。もっと上手く戦えるようになってるから」

「僕も負けないよ」

 

自然と交わした約束が、二人の間に固く刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

休暇の最終日。

屋敷の広間には、古びた銀の燭台がひとつ置かれていた。それが今回のポートキーであり、シェアトを再びホグワーツへ連れ戻す道具だった。

 

「これに触れれば、すぐ戻れるんだね」

 

シェアトがつぶやくと、隣のルーカスは静かにうなずいた。

 

「そうだ。……でも、もう少し話していたい気もする」

「私もだよ」

 

短い言葉に互いの思いが滲む。数日間を共に過ごし、幼なじみ以上の絆を感じ始めていた。別れの時は、思っていたよりずっと重く胸にのしかかる。

 

「また冬にでも会えるさ」

 

ルーカスは努めて明るく言った。その目には幼いながらも当主としての責任が光っていて、シェアトは自然と口角を上げた。

 

「うん。その時は、もっと強くなってるところを見せるよ」

「じゃあ僕も負けないようにしておく」

 

ふっと笑い合い、シェアトは燭台へ手を伸ばした。

冷たい金属の感触が指先に触れた瞬間、視界がぐるりと反転する。

 

――風が鳴り、胸が一瞬浮き上がった。

 

気づけば、足元は石畳の地面に変わり、周囲には高い城壁と尖塔がそびえていた。

夜空の下、湖が黒く光り、ホグワーツ城が威厳を放って立っている。

 

「……戻ってきたか」

 

小さく息を吐いたシェアトの胸の奥には、寮の仲間や教師たち、そして未だ拭えぬダンブルドアへの疑念。

ここでまた、騒がしくも重い日々が始まる。仲間たちと、あの校長と、数えきれない視線と共に。

 

シェアトは深く息を吸い、城へと歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後の湖面に映る月影が、彼女の背中を押すように揺らめいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。



◇登場設定解説

・ポートキー

《ポータス(Portus)》と言う呪文で作れる。
キーになる物はなんでも良い。
姿あらわし / 姿くらましよりも安全。
未成年でも作れる。


感想、評価などお待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。