遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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14. 響く咆哮

 

大広間は温かな光と笑い声に包まれていた。

天井を満たす無数の浮遊するかぼちゃの灯りが、長テーブルに並べられた料理や菓子を照らし出している。

初めて迎えるホグワーツのハロウィンの宴に、生徒たちは浮き立つばかりだった。

 

シェアトもダフネたちと並んで腰を下ろしていたが、その視線はどこか醒めていた。皿に積まれる菓子よりも、人々の表情や周囲のざわめきを無意識に観察してしまう自分に気づく。

――騒がしい場にいても、心は別の場所にあるような感覚。

そんな賑わいを裂くように、突然、扉が開かれた。

 

「トロール、トロールが地下室に! トロールが入り込みました!お知らせしなくては……」

 

蒼白な顔のクィレルが叫び、バタリと倒れ込む。

その瞬間、広間は大混乱に陥った。生徒たちの悲鳴が木霊し、椅子が倒れる音が重なる。

 

「どうしようシェアト!トロールって大人の魔法使いでもやられるほどよ!」

「トロール……アメリカにはいないね。どんな姿なのかな?」

「なんでそんな呑気なこと言えるのよ!」

 

アメリカにはトロールが生息してない為、興味津々でシェアトは言う。

その間にパニックはさらに大きくなっていた。

ついには大広間から逃げようとする生徒もいる。

 

しーずーまーれー!!

 

雷鳴の様に声が大広間に響き渡る。

顔を向けると椅子から立ち上がったダンブルドアがいた。

 

「みんな落ち着きなさい。監督生は生徒を自分の寮に誘導しなさい。教授陣は私の元へ――」

 

そこで彼は一呼吸置き、シェアトを真っ直ぐに見やった。

 

「……ミス・スペイシャル。君も来なさい」

 

一瞬、場の空気がざわめいた。

生徒たちが驚きの目を向ける。

なぜ一人だけ名指しされたのか。シェアト自身も息を呑んだ。

だが、ダンブルドアの視線は揺らがない。

シェアトはゆっくりと席を立ち、冷静を装ったままダンブルドアのもとに向かった。

 

 

 

 

生徒たちが慌ただしく大広間を去る中、シェアトは壇上へ歩み寄った。そこにはマクゴナガルら教師陣が集まっていた。

 

「トロールは危険です。生徒に近づけるわけにはいきません」

 

マクゴナガルの声は鋭く、空気を張り詰めさせる。

 

「校長」

 

マクゴナガルだけでなくスネイプも反対する。

 

「スペイシャルを巻き込むのは――」

 

しかしダンブルドアはその声を遮った。

 

「彼女には既に実戦の経験がある。アメリカでスカウラーを退けたときの話は聞いている。いざという時、助けになるじゃろう」

 

スネイプの眉間が深く寄る。だがそれ以上の反論は飲み込まれた。

シェアトは心中で苦笑する。

――信頼されているのか、それともただ利用されているのか。

 

「……わかりました、行きます」

 

そう告げると、スネイプの視線がさらに鋭く突き刺さったが、シェアトは無視した。

 

 

 

 

石造りの廊下を駆ける三人。トーチの火が揺れ、影が床に伸びる。

 

「無茶はするな」

 

スネイプが低く言い捨てる。

 

「心配してくれるなんて、意外ですね」

「違う。足手まといになるなと言っている」

 

シェアトは小さく息を吐き、杖を握り直す。

その時、どこかから何かが破壊され、瓦礫が散乱する音が聞こえる。

 

「向こうだ」

 

スネイプが廊下の奥を指す。

確かにその方向から何かが暴れている音がする。

 

「ミス・スペイシャル、あなたが私の前から消えた時の魔法は使えますか?」

「あの呪文は姿あらわしと同じで、移動先がわからないと使えません」

「なら、あの廊下の先に移動できませんか?」

 

マクゴナガルが廊下の奥を指す。

分かれ道になっているが、壁に絵画が飾られていた。

シェアトはその絵画を見ると、

 

「わかりました。私に捕まっていてください」

 

マクゴナガルとスネイプがシェアトの手を握る。

 

「《ペルムタティオ 入れ替え》」

 

その瞬間、シェアトたちが消え、絵画が床に落ちた。

そして絵画があった場所に姿が現れた。

 

「……すごい呪文ですね。教えてもらえますか?」

「時間があれば話しましょう」

「何を話している。奥にいたぞ」

 

目的が変わりそうなところでスネイプが不機嫌そうに言う。

シェアトはすぐにその方向を向くがトロールはいなかった。

 

代わりに2人のグリフィンドール生がいた。

 

「やった!トロールを閉じ込めたぞ!」

 

ハリーとロンはトロールを閉じ込めることに成功して喜んでいた。

 

「そこで何をしているのです!」

 

マクゴナガルが大声で問う。

駆けつけてきた教師たちを見た2人は嬉しそうに話す。

 

「マクゴナガル先生!僕たち、トロールを閉じ込めたんです!」

「本当ですか?それならあとは私たちに任せてください。2人は寮に――」

 

2人がトロールを閉じ込めたと言う女子トイレから悲鳴が響く。

 

「馬鹿者!中に誰かいるではないか!」

 

スネイプが怒鳴る。

その瞬間にシェアトは扉を蹴破り、室内に飛び込む。

 

ひどい状態だった。

瓦礫が散乱し、壊れた水道管から水が噴き出す。

大人の背丈より遥かに大きい巨体。

 

「これが、トロール………わっ!」

 

あまりの大きさにシェアトは動きが止まりそうになるが、棍棒が来たので慌てて避ける。

体勢を立て直した時、トロールの奥に栗色の髪の生徒

ーーハーマイオニーを見つけた。

 

(なんであいつがここにいるのよ!)

 

シェアトは心の中で愚痴を言う。

トロールはシェアトに気づかず、ハーマイオニーに向けて棍棒を振りかぶる。

 

助けるのは間に合わないと瞬時に判断したシェアトはトロールの頭に向けて右手を向ける。

 

《ペルフォラ・マキシマ 貫通》

 

光弾がトロールの肩口を撃ち抜き、血飛沫が飛ぶ。

巨体がよろめき、棍棒が手から滑り落ちる。

しかし完全には倒れず、怒り狂った咆哮を上げて暴れ出した。

 

「っ!……外した!」

「ミス・グレンジャー、伏せなさい!」

 

マクゴナガルが叫び、杖からロープを出してトロールの足を絡める。

ハーマイオニーはトロールがさらに凶暴化したことで恐怖で声が出ずに固まっていた。

 

「チッ……《アクシオ 来い》!」

 

シェアトがハーマイオニーを呼び寄せる。

トロールがものすごい勢いで突っ込んで来る。

 

「逃げなさい!ミス・スペイシャル!」

 

マクゴナガルが叫ぶ。

もう間に合わない、あの勢いならプロテゴも破壊するだろう。

そう思った。

 

《プロテゴ・ディアボリカ 悪魔の護り》

 

トロールとシェアトの間が1メートルを切った時、間に青い炎の壁が出来る。

炎の壁に激突したトロールは跡形も無く焼き尽くされる。

 

「マクゴナガル先生、トロール退治、終わりましたよ」

 

青い炎の壁が消えるとそこには笑みを浮かべた白い髪の少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「……ミス・スペイシャル、やりすぎです」

「はい……。すみません……」

 

マクゴナガルは多少引きながらも頷いた。

 

「……ですがトロールを1人で倒せる魔法使いはそういません。スリザリンに50点をあげましょう」

 

多少引きながらもしっかり評価するマクゴナガルに感心しているとスネイプが話しかけてきた。

 

「勝手な行動は減点ものだが……我輩が即応できなかった。今回は目をつぶる。それよりも校長が校長室に来いと言うことだ。すぐに向かえ」

 

シェアトは軽く肩をすくめただけだった。

その横で、ハーマイオニーがようやく声を絞り出した。

 

「あ、あの……ありがとう、シェアト」

 

シェアトは一瞬だけ目を合わせ、無言で頷いた。

スネイプはその様子を見るとどこかに行ってしまった。

 

「校長室、遠いなぁ……」

 

シェアトは面倒くさそうに校長室に向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん遅かったの、スペイシャル」

「すいませんね、校長室の場所と合言葉がわからなくて」

 

ダンブルドアの前に立ったシェアトは、疲労を隠すように淡々と答えた。

 

「それで、なぜ私を呼んだのですか?」

 

ダンブルドアの笑みが消え、代わりに真剣な光が宿る。

 

「君にある頼み事をお願いしたいのじゃ。――ハリー・ポッターを守ってほしい」

「………え?」

 

理解が追いつかず、シェアトは目を瞬かせた。

 

「もちろん四六時中ではない。だが、わしら教師の目が届かぬところで、彼が孤立せぬようにしてほしいのじゃ」

 

シェアトは深くため息をつき、じっくりと考えるとゆっくりと答えた。

 

「……わかりました。本当に私で良いのなら」

「ありがとう、シェアト。面倒をかけてすまない」

 

扉に向かって歩き出したその時、背後から声が飛んだ。

 

「それとシェアト、クィレル先生に注意するのじゃ」

 

扉を閉めた瞬間、シェアトは足を止める。

――トロールで気絶する先生に注意する?

 

疑問は尽きない。だが嘘でもなさそうなので、信じることにした。

そんなことを考えながら、シェアトは寮へと向かう。

 

廊下の奥で、一瞬マントの影が揺れたことに気づかぬまま――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不穏な気配が、確実に忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。


シェアトは心配性のステラによって攻撃魔法を教え込まれています。


◇登場設定解説


・トロール

生息地:イギリス、アイルランド、北ヨーロッパ
最大身長4m 体重1t。
たまに棍棒を持っている。
知能は恐ろしいほど低い。
稀に知能が高い個体もいる。


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