遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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15. 静かなる洞察

 

ホグワーツの空気は、日に日に冷たさを増していた。

湖から吹き込む風が石造りの城の隙間を抜けるたび、どこか異国の匂いを運んでくる。

その中で、シェアトは大広間の端に腰を下ろしていた。

 

目の前では、グリフィンドールのハリー・ポッターが友人たちと楽しげに笑っている。

彼女の視線は食事を取りながらも、時折その少年に鋭く吸い寄せられた。

 

(うーん……ハリーって一人になることってあるのかなぁ……)

 

シェアトは昨日、ダンブルドアに言われたことを思い出す。

確かにハリーは何もかもが不器用で、危ういほど真っ直ぐで、それが周囲を自然と惹きつける。

おそらく一人で行動することも増えてくるだろう。

 

両親を失い、闇と戦ったことがあるシェアトにとって、その危うさは直感に近い形で感じ取れていた。

スリザリンの友人たちが軽口を叩きながらパンをちぎる横で、シェアトは小さくため息をついた。

 

「はぁ、なんでこんな仕事を受けちゃったんだろう………」

 

 

 

 

 

 

 

週末、クィディッチの試合が始まった。

ホグワーツの上空には冷たい風が吹き荒れており、観客席には生徒たちが色とりどりのマフラーを巻き、旗を振り、叫び声を上げている。

 

観客席の熱狂が渦巻く中で、シェアトだけは静かだった。

ハリーの初めての試合だというのに、彼女の目はグラウンド上よりも、観客席に陣取る教師たちに注がれている。

 

歓声が響き、試合が始まる。

 

箒が一斉に空へ舞い上がり、鮮やかな色のローブが飛び交う。

歓声、怒号、笑い声。試合は序盤から激しく展開していった。

ハリーがスニッチを探して箒を巧みに操っている。

スリザリンの選手が挑発的に突っ込んでくるたび、観客席は大きく沸いた。

 

観客席は興奮の渦だったがシェアトの顔に熱狂は無い。

彼女は試合そのものよりも、観客席に陣取る教師たちを見ていた。

 

(……クィレル教授、なんか落ち着きがなさすぎるんだよなぁ)

 

その後も時々試合に目を向けながらも、シェアトはクィレルを観察し続ける。

突如、クィレルが口を動かし、何かを唱え始めた時、彼女の背筋に冷たいものが走った。

 

「まさか……」

 

彼女の頭には、この前言われたダンブルドアの言葉がよみがえる。

 

――クィレル先生に注意するのじゃ。

 

(何かを狙っている……?)

 

次の瞬間、ハリーの箒が突如として暴れ始めた。

観客は悲鳴を上げ、空中で必死にしがみつくハリーの姿に目を奪われる。

シェアトも何が起こったかわからなく、唖然として見ていた。

 

「………あ、そっか!クィレルだ!」

「……シェアト?クィレル教授がどうかしたの?」

「あ、いや……なんでもない」

 

思わず声に出してしまい、ダフネに聞かれるがなんとか誤魔化す。

しかしわかったのは良いものの、クィレルを止める方法が思いつかない。

 

(直接止めに行くのは遠いし、ここから呪文を撃ったら観客にバレるし……)

 

そんなシェアトの前を一瞬、金色の何かが高速で通り過ぎた。

何かと思って見るとスニッチだった。その後をスリザリンのシーカーが追いかけている。

シェアトはニヤッと笑う。

 

「……良いものあるじゃん」

 

シェアトはじっとスニッチを見ると魔法を無言で詠唱した。

 

《オパグノ 襲え》

 

唱えた瞬間スニッチが勢いよく方向を変え、教師陣がいる観客席に向けて高速で突っ込む。

そしてそのスニッチの進む先にクィレルがいた。

 

「ゴンッ!――うごっ!」

 

クィレルの頭部にスニッチが鈍い音を立てて衝突した。

そのままクィレルは気絶する。

ぶつかったスニッチは何事もなかった様にシーカーに追われていった。

 

暴れていたハリーの箒がふっと安定を取り戻した。

 

「……よし」

 

小さく呟く。誰も気づかないでの介入に成功した。

スリザリン生の仲間たちはハリーが体制を戻したことを残念がっているが、シェアトはただ静かに観客席に身を沈めた。

 

 

その後、ハリーは黄金のスニッチを飲み込むと言う方法で捕え、グリフィンドールの勝利で試合は終わった。

大歓声がスタジアムを揺らす。

だがシェアトの視線はクィレルを見逃さなかった。

 

意識を戻し、観客の状態を見ると額に玉のような汗を浮かべ、慌ただしく立ち上がる。

取り繕うように笑い、何事もなかったかのように歩き去ろうとする。

 

(クィレル……何を隠してるの?)

 

内心で呟く。

だが口には出さず、ただその背を目で追った。

歓声に包まれるグラウンドとは対照的に、シェアトの胸には冷えた緊張が残っていた。

 

ダンブルドアの忠告が、確かに現実のものとして突きつけられたのだ。

 

(……これは、面倒な事になりそうだなぁ)

 

心の奥でダンブルドアから受けた事を後悔する。

そして、決意を新たにする。

 

——自分は駒じゃない。

 

シェアトはひとり、深い呼吸をして空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

試合が終わり、歓声がすっかり静まった後。

ホグワーツの校庭は夜の冷たい空気に包まれていた。浮かぶ月明かりが石畳を照らし、木々の影が長く伸びている。

シェアトは一人、スタンドの下に腰を下ろし、深く息を吐いた。

 

遠くの寮からはまだ笑い声がかすかに響いていたが、彼女の耳にはもう届いていない。頭の中を占めていたのはただ一人

――クィレルだった。

 

(あの時………スネイプも何か唱えていたんだよなぁ。私の中ではスネイプに注意した方がいい気がするけど……)

 

シェアトの指が無意識にローブの裾を握る。

ハリーを守るというダンブルドアの言葉を思い返すと同時に、「クィレルに注意せよ」という警告が脳裏に重なる。

 

(彼は怯えているように見えるけど、何に怯えている?今まで聞いてきた話も信ぴょう性がないし……。もしかして――何かと手を組んでいたりするのかな?)

 

月光の下、シェアトの白髪が風に揺れ、夜闇に淡く光を散らす。

その横顔は冷たく研ぎ澄まされ、誰も寄せつけない静かな強さを宿していた。

 

「明日ぐらいにダンブルドアに聞いてみよっと」

 

冷たい夜風が、彼女の白髪をさらっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤独な監視者としての決意が、闇に溶け込むように固められていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございます。



◇登場設定解説

・クィディッチ

イギリス発祥で、魔法界で世界的人気を有するスポーツ。
11世紀にイギリスのクィアディッチ湿原で始まったとされている。

2チームに分かれ、クアッフルをゴールに投入して得点を競う。
人気の度合いについては各国によって差がある。
アメリカでは派生スポーツのクォドポットが人気。
アジアでは主要な移動手段が空飛ぶカーペットのため人気がそれほどない(日本は例外)。

1398年に、ザカリアス・マンプスがしっかりとしたルールを定めたとされている。



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