夜のホグワーツは、宴の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
石造りの廊下をトーチが照らし、シェアトの白い髪がその光を受けて淡く輝く。
「なんかホグワーツに来たばっかりの時、ここに来たことあるような……」
大広間で生徒たちと話していたかったが、ダンブルドアに言うことがあるのをシェアトは思い出した。
クィディッチの試合の事についてだが、スネイプは何をしていたのか。
ちなみに試合後、クィレルを観察してみようかと思ったが、嫌な予感がしたので諦めた。
「………ダンブルドアってどこまで知っているんだろう」
談話室の窓辺に腰を下ろし、吐き出すように呟く。
やがて寮の外から楽しそうな声が聞こえてきた。
「………そろそろ行こっかな」
シェアトは談話室を後にした。
重厚な石の階段を昇り、レモンキャンディーという軽薄な合言葉を口にすると、扉は静かに開く。
シェアトが校長室に入ると、暖炉の炎が赤く揺れていた。
ダンブルドアは机に向かっていたが、彼女の姿を認めると顔を上げ、柔らかな微笑を浮かべた。
「こんばんは、シェアト。………君から来ると言うことは、何かあったのかな?」
促され、彼女はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
表情を変えぬまま、シェアトは静かに切り出した。
「クィレル教授何者ですか?クィディッチの試合中に彼は何かを唱えていたようでしたが……」
ダンブルドアは微笑を保ったまま、指先で眼鏡を押し上げた。
「さすがじゃ。やはり君に頼んで正解だったようだのぅ」
彼の声は穏やかだったが、その中に確かな重みが潜んでいた。
「君も感じているだろう。この城には“何か”が隠されている。そして、クィレル先生はそれを狙っているとわしは思うのじゃ」
シェアトは冷ややかな眼差しで返す。
「思う、ですか……。まだ確証は持てていないんですか?」
「今まではそうじゃったが、今、君の報告で確証が持てた。それに君に教えておくべきことがある」
「教えておくべきこと、ですか?」
ダンブルドアはゆっくり頷き、低く言葉を続けた。
「ここにあるのは、秘宝——賢者の石だ」
室内の空気が張り詰めた。
続けてダンブルドアはその石がどこにあるのか、どうやって守られているのか、を伝える。
聞き終わるとシェアトは表情を変えず、白髪を肩に流した。
「……なるほど。石を守るために、先生たちが配置されている。クィレルの奇妙な行動も、それに絡むわけですね」
「君の観察は鋭い」
ダンブルドアの声には賞賛が混じっていた。
だが、シェアトはその言葉を皮肉に受け止め、かすかに笑う。
「私を呼んだ理由は、“守り手”として利用するためですか?英国魔法省にも闇祓いとか何かを守るためにピッタリな方々がいるんじゃないですか?」
ダンブルドアの表情は曖昧に揺れた。
否定も肯定もしない沈黙が返ってくる。
その態度が、彼女には何よりも雄弁だった。
「専門の人間よりも私が適材と思ったんですね」
ダンブルドアの目が、微かに光った。
「君には、自分の力をどう使うかを学んでほしいのじゃ。守るためにこそ」
シェアトは視線を落とし、少しの間考え込んだ。
そして、ふっと頬を緩める。
「………父のことを聞くためにイギリスに来たはずなんですが、……まぁ、それだけじゃ7年間暇ですもんね」
ダンブルドアもシェアトの言葉に微笑んだ。
「それなら、君が暇にならないようにいろいろ考えて置かなけれないけないのう」
暖炉の炎が揺らぎ、長い沈黙が二人の間に流れる。
やがて、シェアトは立ち上がり、無言のまま扉へと歩いた。
背後から、ダンブルドアの声が追いかける。
「——君は、君の父にそっくりだ」
シェアトは振り返らなかった。
ただ、その顔は柔らかく微笑んでいた。
闇の魔術に対する防衛術から二人の男の声が聞こえる。
「どうやら、邪魔者が入ったらしいな」
「も、申し訳ありません、ご主人様!すぐにあの小娘を殺して………」
「いや、その必要はない」
ターバンを外した男はどこからか聞こえてくる声に怯えながら答えていた。
「どうやらその小娘はアメリカの純血で、ダンブルドアのことを良く思っていないようではないか」
「……それを利用するんですか?」
「いや、何かに使えると思っただけだ。それよりも………石はどうなっている?」
どこからか聞こえた声が極端に低くなる。
男の顔が真っ青になり、体の震えが大きくなる。
「さらに邪魔が入らないうちに見つけ出せ。……いいな?」
「……お、仰せのままに」
月の明かりが弱まったように、部屋が暗くなった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
◇登場設定解説
・賢者の石
ニコラス・フラメルとアルバス・ダンブルドアが協同開発し発明した、あらゆる金属を黄金に変える石。
飲めば不老不死になる『命の水』の源だが実際は寿命を延ばすだけ。
評価、感想などお待ちしています。