ウールワースビル。その古風な外観の奥に、アメリカ魔法界の心臓部は静かに脈打っていた。
フクロウの石像に杖を振って現れたMACUSAへの入り口を通るとシェアトは立ち止まった。
── 魔法動物や職員たちが行き交う、巨大な吹き抜けが中央にあるホール。
壁や装飾はアールデコ調で、金色と暗い赤、深緑など重厚な色調が多い。
「何回も来てるけど、やっぱりここの空気には慣れないな」
シェアトはホールの中央に進む。
中央に着いたその時、不意に声をかけられた。
「こんにちはシェアト、待ってたよ」
「あ、こんにちは、あなたが案内するんですか?ステラさん」
「そうだよ。久しぶりにね」
ステラ•ロックウッド。五大家の一角、ロックウッド家の当主であり、23歳で闇祓い副局長に就任した「天才」
彼女が案内をするのは、シェアトが初めてMACUSAに来た時以来、今回で3回目。
「でも私、資料を見てから盟主に会おうと思っていましたから、案内はいりませんよ」
「あー、それなんだけど……今は無理かな」
「無理?なんでですか?」
「ダンブルドアがあなたに会いに来た」
シェアトの動きが止まった。
ステラは心配そうにシェアトの顔を覗き込む。
「大丈夫?多分ホグワーツの事なんだろうけど…会いたくないなら私が伝えておくよ?」
「……いえ、大丈夫です。私も話をしたいとは思っていましたから」
「わかった。無理そうだったら言ってね」
そう言い、ステラは歩き出し、シェアトもそれについて行く。
数分歩いて着いたのは、何やら重厚な扉の前。
「ここは?」
「一般職員はもちろん、私たち五大家の人間ですら入れない場所」
ステラは扉に向けて杖を振りながら言う。杖を振り終え、しまうと、扉が開く。
2人が乗ると白磁の扉が自動閉まり、数秒の浮遊感のあと、周囲が一変した。
まるで星空の中を泳いでいるかのような透明な筒が、静かに、だが確かに上昇していく。
「綺麗……」
「確かに綺麗だけど、今私たちが向かっている所は、別次元の威圧感がある場所だよ」
「そういえば、どこに向かっているんですか?」
「外交特別応接間、だよ」
ステラの顔に緊張の色が浮かぶ。
外交特別応接間とは合衆国魔法議長と他国の魔法大臣だけ、が話すために作られた部屋。
シェアトは訪れたことはなかったが、ステラの顔色を見て、尋常ならざる場であるとすぐに理解した。
そうしている間に目的地に着き扉が開く。
目の前には、深紅と黒を基調とした重厚な回廊が広がっていた。壁には歴代のMACUSA議長の肖像画が並び、床は星を象った黒大理石。無数の魔力がこの場に満ちており、ただ立っているだけで、魔法使いとしての芯を試されているような圧迫感があった。
「この奥の扉の先に、外交特別応接間がある。用のある人以外、ここから先に行けないから私はここで待ってる」
「わかりました。……行ってきます」
そう言ってシェアトは黒大理石の上を歩いてゆく。
それをステラは、心配そうに見ていた。
シェアトが扉を開けた瞬間、空気の質が変わった。
高い天井に吊るされた幾何学的な燭台が、部屋全体に柔らかな光を投げている。床は黒曜石の一枚板でできており、壁には星条旗とMACUSAの紋章、けれど、もっとも目を引いたのは──
そこにいた、ひとりの老人だった。
長く銀白色の髭、深く青いローブ、そして青い瞳。
その瞳はシェアトを見つめると、まるで旧知の友人でも見るように、やわらかく細められた。
「久しぶりじゃの、ミス•スペイシャル」
「貴方とは一生会いたくありませんでしたよ、ダンブルドア」
2人の目線が空中でぶつかった。
「それで、何の用です?ホグワーツへの入学説明ですか?」
「それも話したいが、今日は別のことを話そうと思ってきたのじゃ、ミス•スペイシャル」
「別のこと?なんですか?」
「君の父についてじゃ」
ダンブルドアの声が低くなる。
それに対してシェアトの声に怒りが滲み始める。
「今更ですか?今まで散々隠してきたのに?」
「それを隠していたこと、率直に謝罪しなければならん。あれは、私の過失じゃ」
「何が“過失”ですか。作戦の失敗?判断の誤り?それとも、“情報の共有が遅れた”とでも?」
シェアトは鋭い眼差しをダンブルドアにぶつける。
ダンブルドアはしばし沈黙し、口を開く。
「彼は、わしがMACUSAに援軍を求めた時、自ら部下達と共に志願して来てくれたのじゃ。当時のイギリスには、どうしても援軍が必要だった。そして、彼は……」
「もう十分です」
シェアトがぴしゃりと遮った。
「その話に意味はない。私が知りたかったのは、なぜそれをMACUSAにも、私にも伝えずにいたのかということだけです」
「それが……わしの一番の失敗だった。君に知られるには、まだ時期尚早だと考えてしまった。だが、君にとってそれは裏切りだった」
「そうですか。そう思ってるなら、それで構いません」
シェアトはゆっくり立ち上がる。
まだ話すことはあるのかもしれない。けれど、今はここまでで十分だった。
背を向けるシェアトに、ダンブルドアが再び声をかける。
「君は、彼と同じように──誰かのために力を振るおうとする日が来るかもしれない。そのとき、ホグワーツは……学び舎としての責任を果たすはずじゃ」
シェアトは一瞬、足を止めた。
「……私は、“誰かのため”に行くつもりはありません」
扉に手をかける。
けれどその一瞬、ダンブルドアの声がまた背中に届いた。
「それでも、君の力が誰かを救う日が来るかもしれんのう、ミス・スペイシャル」
シェアトは静かに扉を閉めた。
体が下に落ちていく感覚がする。
シェアトは壁に映る星々を見ていた。
「シェアト、大丈夫?怒ってる?」
「もちろんですよ」
「ダンブルドアに何言われたの?」
「話したくありません」
「ごめんね……ほら、着いたよ。気をつけて帰ってね」
扉が開いた瞬間、シェアトは足早に進んで行く。
「帰ってから何をしようか……」
先程の怒りなど忘れて中央にある巨大な時計の前まで歩く。
正面入り口に着いた時、ステラが急に呼び止めた。
「シェアト、待って!」
「……なんですか?」
そこでステラは、一息つくと
「五大家が招集された」
「え…五大家が招集された?」
「そうらしいから、行くよ」
五大家が最後に招集されたのは、去年の8月。
そこから半年近く、ルーカスとステラ以外の五大家のメンバーとは会っていない。
「多分、私のことについてかなぁ…」
急に招集された事については、自分に心当たりしかない。
それでも、スペイシャル家の当主としてやれる事は全てやろう。
そうシェアトは胸に誓った。
「ふぅ………さぁ、行こう」
彼女の影が夕日に照らされ、伸びてゆく。
シェアトの姿が、人混みの中に消えていった。
その背に、夕陽の色だけが、しばし残っていた。
読んでくださりありがとうございます。
◇ 登場設定解説
・MACUSAの内部構造
入り口は隠されており、フクロウの石像に向けて杖を振ると、現れる。
応接間に関しては、情報が皆無なので完全独自設定。
職員は空飛ぶ書類などを使っている。
感想など、よろしくお願いします。