遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

3 / 17







3. 火の始まり

ウールワースビル。その古風な外観の奥に、アメリカ魔法界の心臓部は静かに脈打っていた。

 

 

 

フクロウの石像に杖を振って現れたMACUSAへの入り口を通るとシェアトは立ち止まった。

 

── 魔法動物や職員たちが行き交う、巨大な吹き抜けが中央にあるホール。

壁や装飾はアールデコ調で、金色と暗い赤、深緑など重厚な色調が多い。

 

「何回も来てるけど、やっぱりここの空気には慣れないな」

 

シェアトはホールの中央に進む。

中央に着いたその時、不意に声をかけられた。

 

「こんにちはシェアト、待ってたよ」

「あ、こんにちは、あなたが案内するんですか?ステラさん」

「そうだよ。久しぶりにね」

 

ステラ•ロックウッド。五大家の一角、ロックウッド家の当主であり、23歳で闇祓い副局長に就任した「天才」

彼女が案内をするのは、シェアトが初めてMACUSAに来た時以来、今回で3回目。

 

「でも私、資料を見てから盟主に会おうと思っていましたから、案内はいりませんよ」

「あー、それなんだけど……今は無理かな」

「無理?なんでですか?」

「ダンブルドアがあなたに会いに来た」

 

シェアトの動きが止まった。

ステラは心配そうにシェアトの顔を覗き込む。

 

「大丈夫?多分ホグワーツの事なんだろうけど…会いたくないなら私が伝えておくよ?」

「……いえ、大丈夫です。私も話をしたいとは思っていましたから」

「わかった。無理そうだったら言ってね」

 

そう言い、ステラは歩き出し、シェアトもそれについて行く。

数分歩いて着いたのは、何やら重厚な扉の前。

 

「ここは?」

「一般職員はもちろん、私たち五大家の人間ですら入れない場所」

 

ステラは扉に向けて杖を振りながら言う。杖を振り終え、しまうと、扉が開く。

2人が乗ると白磁の扉が自動閉まり、数秒の浮遊感のあと、周囲が一変した。

 

まるで星空の中を泳いでいるかのような透明な筒が、静かに、だが確かに上昇していく。

 

「綺麗……」

「確かに綺麗だけど、今私たちが向かっている所は、別次元の威圧感がある場所だよ」

「そういえば、どこに向かっているんですか?」

「外交特別応接間、だよ」

 

ステラの顔に緊張の色が浮かぶ。

外交特別応接間とは合衆国魔法議長と他国の魔法大臣だけ、が話すために作られた部屋。

シェアトは訪れたことはなかったが、ステラの顔色を見て、尋常ならざる場であるとすぐに理解した。

 

そうしている間に目的地に着き扉が開く。

 

目の前には、深紅と黒を基調とした重厚な回廊が広がっていた。壁には歴代のMACUSA議長の肖像画が並び、床は星を象った黒大理石。無数の魔力がこの場に満ちており、ただ立っているだけで、魔法使いとしての芯を試されているような圧迫感があった。

 

「この奥の扉の先に、外交特別応接間がある。用のある人以外、ここから先に行けないから私はここで待ってる」

「わかりました。……行ってきます」

 

そう言ってシェアトは黒大理石の上を歩いてゆく。

それをステラは、心配そうに見ていた。

 

 

 

 

シェアトが扉を開けた瞬間、空気の質が変わった。

高い天井に吊るされた幾何学的な燭台が、部屋全体に柔らかな光を投げている。床は黒曜石の一枚板でできており、壁には星条旗とMACUSAの紋章、けれど、もっとも目を引いたのは──

 

そこにいた、ひとりの老人だった。

 

長く銀白色の髭、深く青いローブ、そして青い瞳。

その瞳はシェアトを見つめると、まるで旧知の友人でも見るように、やわらかく細められた。

 

「久しぶりじゃの、ミス•スペイシャル」

「貴方とは一生会いたくありませんでしたよ、ダンブルドア」

 

2人の目線が空中でぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何の用です?ホグワーツへの入学説明ですか?」

「それも話したいが、今日は別のことを話そうと思ってきたのじゃ、ミス•スペイシャル」

「別のこと?なんですか?」

「君の父についてじゃ」

 

ダンブルドアの声が低くなる。

それに対してシェアトの声に怒りが滲み始める。

 

「今更ですか?今まで散々隠してきたのに?」

「それを隠していたこと、率直に謝罪しなければならん。あれは、私の過失じゃ」

「何が“過失”ですか。作戦の失敗?判断の誤り?それとも、“情報の共有が遅れた”とでも?」

 

シェアトは鋭い眼差しをダンブルドアにぶつける。

ダンブルドアはしばし沈黙し、口を開く。

 

「彼は、わしがMACUSAに援軍を求めた時、自ら部下達と共に志願して来てくれたのじゃ。当時のイギリスには、どうしても援軍が必要だった。そして、彼は……」

「もう十分です」

 

シェアトがぴしゃりと遮った。

 

「その話に意味はない。私が知りたかったのは、なぜそれをMACUSAにも、私にも伝えずにいたのかということだけです」

「それが……わしの一番の失敗だった。君に知られるには、まだ時期尚早だと考えてしまった。だが、君にとってそれは裏切りだった」

「そうですか。そう思ってるなら、それで構いません」

 

シェアトはゆっくり立ち上がる。

まだ話すことはあるのかもしれない。けれど、今はここまでで十分だった。

 

背を向けるシェアトに、ダンブルドアが再び声をかける。

 

「君は、彼と同じように──誰かのために力を振るおうとする日が来るかもしれない。そのとき、ホグワーツは……学び舎としての責任を果たすはずじゃ」

 

シェアトは一瞬、足を止めた。

 

「……私は、“誰かのため”に行くつもりはありません」

 

扉に手をかける。

けれどその一瞬、ダンブルドアの声がまた背中に届いた。

 

「それでも、君の力が誰かを救う日が来るかもしれんのう、ミス・スペイシャル」

 

シェアトは静かに扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

体が下に落ちていく感覚がする。

シェアトは壁に映る星々を見ていた。

 

「シェアト、大丈夫?怒ってる?」

「もちろんですよ」

「ダンブルドアに何言われたの?」

「話したくありません」

「ごめんね……ほら、着いたよ。気をつけて帰ってね」

 

扉が開いた瞬間、シェアトは足早に進んで行く。

 

「帰ってから何をしようか……」

 

先程の怒りなど忘れて中央にある巨大な時計の前まで歩く。

正面入り口に着いた時、ステラが急に呼び止めた。

 

「シェアト、待って!」

「……なんですか?」

 

そこでステラは、一息つくと

 

「五大家が招集された」

「え…五大家が招集された?」

「そうらしいから、行くよ」

 

五大家が最後に招集されたのは、去年の8月。

そこから半年近く、ルーカスとステラ以外の五大家のメンバーとは会っていない。

 

「多分、私のことについてかなぁ…」

 

急に招集された事については、自分に心当たりしかない。

それでも、スペイシャル家の当主としてやれる事は全てやろう。

そうシェアトは胸に誓った。

 

「ふぅ………さぁ、行こう」

 

彼女の影が夕日に照らされ、伸びてゆく。

 

シェアトの姿が、人混みの中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その背に、夕陽の色だけが、しばし残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。


◇ 登場設定解説

・MACUSAの内部構造
入り口は隠されており、フクロウの石像に向けて杖を振ると、現れる。
応接間に関しては、情報が皆無なので完全独自設定。
職員は空飛ぶ書類などを使っている。


感想など、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。