遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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4. 灯る声、重なる影

アメリカ魔法議会、最上階。

 

 

五重の防音結界に包まれた円形の議場には、古の魔力が満ちていた。円卓を囲む五つの椅子。

その背には、五大家それぞれの紋章が黒檀の木に彫られている。

 

「……では始めましょう」

 

先に声を発したのは茶髪で細身の中年の男。

セイファート家の当主、ダウナー•セイファート。物腰は柔らかいが、眼差しに誤魔化しはきかない。

 

「アルバス・ダンブルドアの推薦によるホグワーツへの入学が議題ですか?」

 

シェアトの声は静かだった。

場に集う者たちを睨むでもなく、見上げるでもなく、ただ視る。

 

「“スペイシャル”の血統がイギリスに渡る──それは、アメリカが主柱を一本失うということだ」

 

不意に低く、威圧感がある声が響き。その声の主を見たシェアトの顔が歪む。

 

「……お前は、本気でイギリスに渡るつもりか?」

 

重く、低い声で問うたのはラファエル家の当主・フォールド。彼の周囲の空気は一段と重い。

現五大家の中で最古参の老人の一言は、場を支配するに足る威厳を持っていた。

 

「私だってイギリスに行きたくありません。………ですが、父の死の真相がわかるなら、私は………どんなところでも行く覚悟です」

 

フォールドの目が細くなる。

 

そこ(イギリス)で真実が知れなくてもか?」

「その問いには既に答えたはずです」

 

シェアトは瞬き一つせずに言う。

 

「私はホグワーツに行きます。誰に何を言われても」

 

言葉には怒りも熱もない。ただ、それは“事実”としてそこにあるのだと告げる声だった。

 

「……我らが守ってきた“均衡”を、貴様が崩すのだぞ」

 

フォールドの言葉に、議場の空気が一瞬ピリつく。

 

「均衡?」

 

ステラ・ロックウッドが眉をひそめ、静かに言葉を返した。

 

「それは“束縛”とも言えるでしょう。私たちの誰もが、アメリカ魔法界に縛られてきた。ならばシェアトは──その先に行くべきです」

「それが“自立”だと言いたいのか?」

 

フォールドが低く笑う。

 

「その先とは、“英国魔法界に屈すること”ではないのかね?」

「私は屈するために行くのではありません」

 

シェアトが言った。

 

「イギリスに行き、あの地で起きた“父の死”の真相を知り、そして──私が、どうあるべきかを決めるために行くのです」

 

フォールドの目が細くなる。

 

「ならば答えてみろ、シェアト・スペイシャル。お前があちらで“利用”されることを、私は恐れている。杖なし魔法、古代魔法、そして“スペイシャルの血”。それをイギリスが放っておくとでも?」

「利用されれば、利用し返します」

 

少女は冷たく言った。

 

「魔法は手段です。与えられたものでも、奪われたものでもない。自分のものです」

「罠かもしれないぞ?」

 

ダウナー・セイファートが口を挟んだ。

彼の声にはフォールドのような重みはなかったが、それでも慎重さに満ちていた。

 

「ダンブルドアが“父の死の真実”を餌に、君を英国魔法界に引き入れたいとにしか見えない」

「けれども私は、“知る”ことを放棄するわけにはいきません」

 

議場に一瞬の沈黙が流れる。

 

「……ほう」

 

フォールドが低くうなる。

 

「見知った国を離れ、異国で“魔法”に身を置くという意味……本当に理解しているのか?」

「理解しています。私は純血で、アメリカの法の上に立つ存在。イギリスに行けば、それはむしろ足枷になります」

「加えて我々アメリカ魔法界は、“杖なし魔法”を使う魔法使いも少なくない。英国ではそれを忌避する者もいるだろう」

 

ダウナーが言った。

 

「向こうで“排斥”される危険すらある。そもそも──なぜ“ホグワーツ”なのだ? ヨーロッパには他にも学校がある。いや、いっそ君のために新たに教育環境を整えることも可能だ。そうしてきた家もあった」

 

それに対して、シェアトはほんの僅かに眉を動かしただけだった。

 

「イギリスは、父が死んだ場所の一つです。すべての始まりであり、終わりでもある。そこでなければ、意味がありません」

「意味、か……」

 

フォールドが呟いた。

 

「……その意味のために、貴様は“私”や“ダウナー”の助言を無視するのか?」

 

その問いには、ステラが反応した。

 

「それは違います、フォールド様。彼女は無視しているのではない。ただ、従わないだけです」

 

誰もが彼女を見た。

 

「彼女の意志は明確です。私たちは口を出すことはできても、束縛することはできない」

「お前は“自由”を過大評価しているな、ロックウッド」

 

フォールドは冷たく言った。

 

その言葉に、今度はルーカスが立ち上がった。

 

「じゃあ、僕からも言わせてもらうよ」

 

声はまだ少し高く、けれど決意は込められていた。

 

「シェアトが何をしようとしてるか、僕には分かる。怖いって思ってるのも、迷ってるのも。でも、あいつは逃げない。あいつが向こうでどう思われようと、僕は味方だから。だから、誰が何と言おうと

──止めるのは間違ってると思う」

 

シェアトは彼を見なかった。ただ、まっすぐに前を見据えたまま言った。

 

「私は、ホグワーツに行きます。それが五大家全員の賛成でなくても、構いません」

「構わぬだと?」

 

フォールドが目を細めた。

 

「この場は、“全員の合意”によって均衡を保ってきた。お前はそれを無視すると?」

「無視しません。ただ、“自分の人生を決める権利”まで委ねる気はない。それが、私の家の誇りです」

 

シェアトは即答した。

 

重く、鋭い沈黙。

 

その中で、ダウナーがゆっくりと椅子の背にもたれた。

 

「……君のその姿勢、父親によく似ている。戦い方は違うが、魔法に真っ直ぐであろうとする姿勢は、確かに受け継がれている」

「……ありがとう」

 

その一言に、ダウナーは目を伏せた。

 

「……だが私はフォールド様の懸念も無視できない。だから、こう提案しよう。ホグワーツで何かあった場合、我々五大家は即時協議の上で、強制的に君を連れ戻す。これは君自身を守るためでもある」

 

シェアトは少し考えたのち、ゆっくりと頷いた。

 

「それでいいです」

 

フォールドが沈黙のまま、椅子に深く座り直した。

 

「それなら良かろう。ただ、ダンブルドアや英国魔法界に少しでも付こうとしたらお前をすぐに引きずり戻す」

 

そう言い、フォールドは部屋から出て行く。

 

「じゃあ、俺も退室する」

 

ダウナーが扉を閉める音が響き渡る。

部屋にはシェアト、ルーカス、ステラの3人が残っていた。

 

「ふぅ…………。とりあえず終わったね。私も仕事に戻るよ」

「シェアトのホグワーツへの入学準備とかどうするの?僕も手伝った方がいい?」

「もうこんな時間だし、こっちで教科書とかは用意しておくからシェアトとルーカスは帰っていいよ」

 

ステラの姿が人混みの中に消える。

それを見送り、歩きながらシェアトは呟く。

 

「あんなこと言っちゃったけど大丈夫かなぁ……フォールドの言うことも正しいし、ダウナーさんの言う通りになるかもしれないし、それに……」

「大丈夫だってシェアト。ああ見えて2人とも君のことを助けたいと思ってるし、僕やステラだって君が呼べばいつでもイギリスに行くよ」

 

ルーカスの言葉を聞き、シェアトの顔に安堵の色が浮かぶ。

 

「ありがとう。少し安心したよ」

「そう?ならよかった」

 

そう言いながら、2人はMACUSAの建物の外に出る。

 

「そうだ、せっかくだしシェアトの家で晩ごはん食べようよ」

「えっ?……私、何も作れないけど?」

「大丈夫。料理得意なステラにも勝ったって言われたくらいだから」

「ほんとに?………じゃあ、文句言わないでよね」

 

シェアトは苦笑いをするが、どこか楽しそうであった。

 

「じゃあ付き添い姿あらわしでもして、シェアトの家に行くか」

「ノー・マジに見られない様にね」

「もちろん。安心して欲しい」

 

2人の姿が夜の街に溶けるように消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂のなか、ほんのわずかに残った魔法の余韻が、空気の中で優しく揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※今回、五大家の会合は完全独自設定です。



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