遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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1章 賢者の石
7. 動く車窓、交わる視線


 

シェアト・スペイシャルは、背もたれに軽くもたれかかりながら、列車の窓の外に流れる景色をじっと見つめていた。アメリカの広々とした森や山とは違い、イギリスの田園はどこか穏やかで、窓の外に広がる緑は切り取られた絵画のようだ。

しかし、彼女の心は景色とは裏腹に、波のようにさざめいていた。

 

――ホグワーツ。

父の死の真相を知るために来ることになった場所。

そして、アメリカで過ごした日々と違う、未知の空気が流れる場所。

 

杖なし魔法を使い続けてきた自分でも、この国の魔法文化の中で通用するのかは分からない。

何より、イギリスの魔法使いたちが自分をどう受け止めるのか……。

そう思うと、胸の奥で冷たい感情と淡い好奇心が入り混じる。

 

車窓の向こうで、風を切って走る木々の隙間から、小さな村が一瞬見えた。

シェアトはふっと目を細め、ひとつ息をつく。

 

「――ま、なるようになるか」

 

静かにつぶやき、また視線を外に戻した。

 

その時、コンパートメントのドアが開く音がした。

 

 

 

 

そこに立っていたのは、やや乱れた黒髪に丸い眼鏡をかけた少年と、赤毛でそばかすの多い少年だった。二人とも、どこか所在なさげにこちらを見ている。

 

「ここ、空いてる?」

 

黒髪の少年が遠慮がちに尋ねた。

 

「……好きにどうぞ」

 

シェアトの淡々とした声に、2人は遠慮がちに中へ入った。

しばらくして、自己紹介が始まる。

 

赤髪の少年から始まる。

 

「君も新入生? 僕、ロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでよ」

「僕はハリー。ハリー・ポッター」

 

黒髪の少年も少し戸惑いながらも自己紹介した。

名を聞いた瞬間、シェアトはほんのわずか眉を動かした。

ルーカスとの会話の中で、名前が上がった人物とこんなに早く会うとは思っていなかったが、表情を変えない。

 

「……シェアト・スペイシャル」

 

簡潔に名乗る。

ハリーはシェアトの名前を聞くと、疑問に思っていた事を言う。

 

「ねぇ、君もロンみたいに魔法族なの?そうだったら僕、魔法界のことがよくわからないから色々教えてほしいんだけど……」

「確かに私は魔法族だけど、イギリスの魔法族じゃないよ」

 

その言葉にロンが首を傾げる。

 

「イギリスの魔法族じゃない?どうゆう事?」

「そのまんまの意味。私はアメリカから来た」

 

ロンが驚いて眉を上げ、ハリーは好奇心と戸惑いが入り混じった目を向けた。

 

「アメリカから?アメリカにも魔法学校はあるでしょ。なんでホグワーツに?」

「事情があってね」

 

シェアトは淡々と答え、それ以上は説明しなかった。

ハリーが話についていけなくなったので質問する。

 

「アメリカにも魔法界があるの?」

「そりゃそうだよ。僕たちがいるイギリス魔法界があるように他の国にも魔法族は住んでいるんだよ」

 

ハリーがロンの説明を聞いて納得していると、コンパートメントの扉がノックされる。

トロリーが来ていた。

 

「車内販売ですよ。何か買いますか?」

 

ハリーとロンが大量のお菓子を買い込んだ。

シェアトは少しだけ興味を持ち、バーティー・ボッツの百味ビーンズを手に取った。

 

「百味ビーンズ?」

「当たり外れが激しいから気をつけて」

 

とロン。

シェアトは百味ビーンズを口に放り込み、顔をしかめた。

 

「……石けんの味がする」

「それはハズレだね。でも石けん味はまだマシな方だよ」

 

もっと酷い味に当たったことのあるのだろうか。ロンはその時を思い出したのか、顔をしかめる。

それから蛙チョコレートなどを食べているとまた扉が開く。

 

茶色い髪の少女が顔を覗かせる。

 

「ごめんなさい、誰かカエルを見なかった? ネビルのなんだけど」

 

ロンは首を振った。

 

「いや、見てない」

 

ハリーも同じく答え、シェアトは淡々と、

 

「カエルなら、車掌室の近くにいたかも」

 

と適当な推測を口にした。少女は礼を言い、去って行く。

 

「誰だ、あの子?」

「しっかりしてそうだね」

 

ロンが首を傾げ、ハリーが言う。

シェアトはそんなことどうでも良いと思い、窓の外を眺めていた。

 

 

 

数分後、再びドアが開く。

 

今度は金髪の少年と、その後ろに二人の大柄な少年が立っている。

 

「やあ。君がハリー・ポッターだろう?」

 

少年は薄く笑い、ハリーの返事を待たずに続けた。

 

「僕はドラコ・マルフォイ。知っておいた方がいい名前だ」

 

彼の視線がシェアトに移る。

 

「君の名前は?」

「シェアト・スペイシャル」

「……スペイシャル? 聞いたことないが、まあいい。ホグワーツでは、正しい交友関係を持つことが大事だ。変な連中とつるむと——」

「変な連中って?」

 

ロンがむっとして口を挟む。

 

「ウィーズリー、君の家の噂は聞いてるよ。純血のくせに——」

 

その先を言う前に、シェアトが淡々と遮った。

 

「で? それが私に何の関係があるの?」

 

ドラコは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに笑みを取り戻した。

 

「……まあ、忠告だよ」

 

そう言って彼は取り巻きと共に立ち去った。

 

 

その後もうすぐホグワーツに着く、と連絡が来たのでシェアトはコートを脱ぎ、制服姿になる。

着替えてない2人のためにコンパートメントの外で待機していると、外の風景がゆっくりになっていく。

 

「お待たせ、入って良いよ」

 

と、ハリーが言うとシェアトはコンパートメントの中に戻り、片付けを始める。

やがて速度を落としていた列車が完全に止まる。

 

「あ、やっとついたよ」

 

そうロンが言い、3人は列車を降りる。

空はすでに群青色に沈みつつあった。

 

大柄な男に導かれ、一年生たちは湖のほとりへと集められた。

 

「一年生はこっちだ! ボートに乗るぞ!」

 

大柄の男の声が響く。

 

シェアトはハリー、ロンと同じボートに乗り込んだ。

水面は鏡のように静かで、オールもなく、魔法の力で滑るように進んでいく。

 

やがて——闇の向こうに巨大な城が姿を現した。

無数の窓から灯りが漏れ、湖面に黄金の光が揺れる。

 

「あれが、ホグワーツ……」

 

シェアトはその光景を見上げ、胸の奥に小さな緊張と期待を同時に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖の上で揺れる光が、これからの運命を静かに照らしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからはできる限り原作沿いに進めていきたいと思っています。



◇登場設定解説

・バーティー・ボッツの百味ビーンズ
味は全20種類。
バーティー・ボッツの失敗作。
シェアトは石けん味を引いた。

・蛙チョコレート

カードが何種類あるかは不明。
ホグワーツ・レガシーやウィザーディング・ワールドでは数十種類〜100種類以上あるとされている。


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