私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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11.妹の悩みを聞いた。

 学校や病院のように「広くて目の行き渡らない、人の使う道具がたくさんある場所」というのは、恐怖の対象になりやすい。

 人の使う道具がたくさんあるから、そこで物音がしたら人やそれに準じたものがいる……なんて風に考えやすく、広いから照明の当たらない箇所があって単純に暗闇という恐怖を呼び込み、自分にとっての死角にはなにかよからぬモノが潜んでいるのでは、という焦燥感を与える。それがパニックを呼ぶし、形のないストレスを自らの心に枷として嵌めてしまう。

 

 未知。そして未確認というのはただそれだけで怖いものなのだ、と。

 怖いものを、怖いと思った心を溜め込むと、それは心を傷つける刃になるのだ、と。

 

 その日の彼女を見て、なんとなく、そう思った。

 

 

 一年生の時から継続の自然委員の仕事……中庭先の土運びをしていたときのこと。

 みんなを付き合わせる話でもないから、まぁ、なんでもなく一人で重めな土を運んでいたのだけど……。

 

「ね、知ってる? 〝泣く彫刻〟の話」

「あ、聞いた聞いた~。ヤバいよね。このガッコ七不思議とかあるんだねー」

「そんなん信じてんの? ガキだねー」

「ウチだって信じてないけどさ、真相は気になるじゃん?」

 

 きゃぴきゃぴとうわさ話をする女子。スリッパの色的に一年生。

 中庭のベンチのあるところでお弁当を持ち合って、食べながら大口を開けて……まぁ誰も見ていないと思っているだろうからいいのだけど。

 

 七不思議。学校には付き物なそれは、でも中学校までは「創作物の中の学校のテンプレート」でしかなかった。

 この高校に上がってそれがあると知った時は、私も今の彼女たち同様面白がったものだ。

 ただ、七不思議というほど安定して七つあるわけじゃないし、結構頻繁に増減するし、結構簡単に真相が割れたりするので、夢は見なくなった、というか。

 それが面白いんじゃん! とは部員数が満たなくて同好会扱いになっているオカルト研究同好会所属の我が友人。文化部兼部。

 

 で、〝泣く彫刻〟……というのは、完全新規の七不思議だ。私がこういう系のうわさを聞いたのは二月の頭が最後で、その時は九不思議だった。で、その中にそんなものはなかった。

 噂の広まり方的に考えると、多分先週の間に生まれた出来立てほやほやな七不思議なんだろうことが伺える。

 

 ……これ、あの子たちが美術準備室に突撃するとかして、怒られて、全校放送でお叱りが来る、とかまでありそう。

 やだやだ。一部の行動責任を全体の行動責任として波及追求するのなら、その一部を全体に含める含めないの選択権利を全体側に渡してほしいものだ。……当然のように全体側になれると思っている愚か者の意見ではあるけれど。

 なんにせよ、「上級生が見ていたのになんで止めなかったんだ」みたいな面倒臭い方向に行っても面倒だ。なんと自然委員の担当先生が美術部顧問兼美術の先生なので、どこかから私が聞いていた云々がバレるととても面倒。

 聞かなかったことにしてとっとと運んでしまおう。昼休みだって無限じゃないからね。

 

 

 うん。

 

「なぜ、今日に限って……」

「どしたん由佳。なんか見たいテレビでもあった? 録画しときなよん」

 

 放課後。いつも通りそそくさ~っと帰ろうとしていたら、美術の先生から「レクリエーション用の種と添え木を運んでおいてくれ」の要請が。

 昼間のこともあって面倒臭くなりそーなんて思いながらもそんな理由で断るわけにもいかなくて、同じく自然委員な真美と二人、こうして運動場の農具入れから種と土を美術部へ運び入れている最中、と。

 

「なんでもない。……早く終わらせちゃお」

「慎重にね~。土も種も、こぼしたらとんでもないからさ~」

 

 それは本当にそう。

 焦らず行こう。ぶちまけた時の面倒臭さは運搬の比ではないから。

 

「真美って、」

「由佳ちさ。あ、いいよ先言って」

「ああ……いいよ。特に話題とかなく口が流れるままに話そうとしてただけだから」

「いつもの無意味会話?」

「それ」

 

 着地点とか一切考えず、口を衝いて出た言葉で話題をつくる無意味会話。女子の必須スキルだと思う。主に「誰誰って」「てかさー」「聞いてよー」から始まる。

 

「じゃ、改めて。由佳ちさ、好きなアニメとかアイドルとかっていたっけ」

「え、なにその質問。……今好きなものはなにもないけど……なに?」

「あー。えーと、じゃあ、これされると嬉しいなーってこととか、好感度高いなーみたいな仕草とか」

「……真美?」

「いやー、あはは」

 

 わかりやすいな相変わらず。

 誰だか知らないけど、この子にそういう役割は無理だぞ。嘘吐けないんだから。

 

「……実はね、一年の子が……由佳ちのこと好きらしくてさ。好きなものとか仕草とか知りませんか、って聞かれて……」

「聞き出してくださいって頼まれたの?」

「それ自体は断ったよ。仲介役になる気はないし。でも、よく考えたら由佳ちのそういう系の話何も知らないなーって思って、だから今のは私の個人的な質問」

「そうやって得た知識を、後々世間話としてその子に伝えるのなら、仲介役じゃないからオッケー、って?」

「由佳ちの中の私、どんだけ優しい子になってんの?」

「一から百で言ったら八十くらい」

「わお。高評価」

 

 そりゃね。

 浅野と真美は……本当に優しいから。那奈とかアキも勿論優しいけど、比じゃない。

 

「そういうことを直接聞きに来てくれる子の方が好感高いし、真摯な目って仕草が一番かな」

「わぁバッサリ」

「少なくとも外堀からどうこうしようって人とは仲良くなれない。そういう搦め手、私一番苦手だから」

「由佳ちは基本シンプル&ドストレートだもんね」

 

 ……自分自身が偏屈曲がりくねり人間だからね。

 せめて交友関係は……って。

 

 え?

 

「え、好きってなに。……恋愛として?」

「遅っ!? いや華麗にスルーしたからなんとも思ってないんだって思ってたら、理解してなかっただけか……」

「え、え。だ……男子?」

 

 今朝、色々……そういう色めきだった話があって。

 その日のうちに、まさかここで……私に春!?

 

「女子だよ。女の子」

「……」

 

 嫌な予感。

 

「……どういう子? ギャル?」

「ぜんぜん? むしろおとなしめの、THE☆図書委員長みたいな一年の子」

「どんなだそれ……」

「由佳ちにちょっと似てるかもね。染めてないきれーな長い黒髪で、眼鏡かけてて、すらっとした背で、ああでもずっと口元が緩めに笑ってたから、そこは由佳ちと違うかも」

「あの真美。私黒髪だけどショートだし、眼鏡かけてないし、すらっともしてないし、口はみんなに言われる通りいつもへの字で……あのあの、黒髪しか掠ってなくて」

 

 真美さん、もしや私の事黒髪だけで認識してます?

 まぁいのりちゃんじゃなかったからいいけど。……え、いのりちゃん以外の子が……私を好きに? しかも否定しなかったあたり、本当に恋愛的な好きを?

 

「ちなみに名前は」

「佐十って子。知り合い?」

「……まぁ」

 

 ああー。そーいうことですかー。

 いのりちゃん大事大事っ娘ねー。……大方、いのりちゃんを任せられる人物かどうかを見極めたくて、私のことを調べているんだろう。情報収集するには好きってことにするのが一番手っ取り早いからね。

 

「なにその反応。もしかして一回フった子だったりする?」

「その子の本当の好きな子も知ってる感じ」

「え。……うわ、そういう系?」

「真美は優しいからなぁ」

「うひゃー……まだ一年だからヘンなしがらみとか無いと思ってたのに、先輩巻き込んでまでやっちゃう子いるんだ……。怖いなー」

 

 いくら優しいとはいえ真美だって女子だ。

 そういう系で、充分話が通じる。

 

 しかし危ない橋を渡るものだ。真美はそういうことしないからいいけど、もう少し性格の苛烈な子だったら、そのままいじめなんかに繋がっていてもおかしくないことだろうに。

 

 佐十泉美ちゃん。語弊を恐れない言い方をするのなら、湿気の凄かった子。湿度百パーセントな感情をいのりちゃんに向けていて……あのいのりちゃんが嫌気を示していた特異な子。

 創作物を鵜呑みにするなら、いのりちゃんを好きになった男子なんかを裏で排除する、なんてことまでしてそうなほどいのりちゃんLOVEな感じがあったから……うわ、私もその排除対象に入ってるのかな。ヤだなー。

 

「なんかあったら言ってね、真美」

「私は大丈夫だよ。そっちこそなんかあったらいいなよ由佳ち」

「なんかあったら家に転がり込んでもいい?」

「また具体的な。……え、かすみんの家に行ったのって、まさかそういうこと?」

「それは繋げすぎ」

「実はあの子ご近所さんでストーカー被害に遭ってる、とかなのかと思った」

「そこまでだったらちゃんと先生に相談してるよ」

「だよね」

 

 中らずと雖も遠からず、だけど。

 ストーカーはいます。家の中に。……よくよく考えなくとも恐ろしい言葉だ。

 

「あの子とご近所さんなのは浅野らしいよ。そういう話もちょろっとした」

「へー。っと、着いた着いた。ふぃー、重かったー」

「よいしょ……と」

 

 一度種土を置いて、美術準備室のドアを開ける。こういうとこ丁寧にやらないとミスるからね。

 当然のようにちゃんと鍵がかかっていて、中に誰かがいるということもなくて。

 むしろ換気の為されていない湿っぽい空気がなんとも言えない……こう、粘土と絵具の匂いを一緒くたにした……ぅげーって鳴る感じの匂いを……。

 

「ここ置いておけばいいんだよね」

「うん。物とか倒しちゃわないように気を付けてね」

「わかってるわかってる……。……ん?」

 

 足裏にぬるっとした感触。幸い転ぶには至らなかったけど、なんか濡れてる。

 置くものをしっかり置いてから、足元に目を凝らす……と、やっぱり水が。

 

「どしたん? ……なにそれ、水?」

「っぽい。どっかから零れてるのかな」

 

 スマホを出してライトを当てて水の道を辿っていく。

 反射でキラキラ光るその道は、けれど美術準備室の狭さもあって、すぐ行き止まりに辿り着き……上を見ると。

 

「胸像……」

「偶然だろうけど、この彫刻が泣いたあと、みたいね」

「だとしたらすさまじい水分量」

「ツッコミ所そこ~?」

 

 これが……〝泣く彫刻〟か。確かにそう見えなくもない、けど。

 床の液体。それがついたスリッパを顔の前に近付けて、匂いを嗅ぐ。

 胸像にスマホのライトを向ける。

 ……うん。

 

「確かにこれは涙だと思う。涙か汗かどっちか。塩っぽい匂いするし。でもこの彫刻の涙じゃないね。彫刻の目とか頬は濡れてないもん」

「いや冗談だって。そんな本気にしなくても」

「本気にした、っていうか……。……さっきまで誰かがここで泣いてたんじゃないかな、って」

「あ。……あれ、鍵かかってたよね」

「かかってたし、ここに来るまでに誰ともすれ違ってない。ここは廊下の奥で、さらに奥には美術室しかないから……」

「どっちかにまだ隠れてる子がいる? 鍵は内側から閉められるし」

 

 拙い推理だけど、その可能性は高いと思う。

 もちろん私達が来るずっと前にいた、ということもあるだろうけど、六限が終わってからそう時間は経っていないし、液体の大本の水も乾き切っていなかった。

 

 幽霊の正体は枯れ尾花だ。もしくは人。

 あそこまで噂になっていたということは、少なくとも日常的にここで涙を零している誰かがいる。

 それは……流石に見過ごせない。

 

「でも……誰もいない、よね?」

「美術室と美術準備室のドアに鍵は無いから、美術室に逃げ込んだのかも。入れ違いにならないよう、真美は廊下で待ってて」

「え……危なくない?」

「この状況で何があったら危なくなるの。お化けでも出るって?」

「いや……あはは。漫画の読み過ぎか。でも声かけて出てこないってことは、由佳ちに見つかったら暴れる子、だったりするかもよ」

「いいよ。こんなところで泣いてて、敵意のない人間に見つかって暴れちゃうってことは、それだけ追い詰められてるってことでしょ。それで怪我するなら、別にいい」

 

 かわいい女の子になるための目標その五。世界がこんなにも由佳を愛してくれているんだから、由佳も周りを愛してあげて。ほんの少しでいいから、ね?

 

 これは、ほんの少し、だろう。

 

 慎重に……見落としがないかを留意しつつ、一歩一歩と進めていく。

 乱雑に物が置いてあるとはいえ狭い美術準備室。どれも小物ばかりで人が裏に隠れるには足らないそこには、やはり誰もいない。カーテン裏なんかにもいない。

 そのまま美術準備室のドアを開く。真美から死角になるその場所へは一抹の不安も見えるけれど、そっちの子の方が不安だろうから勇気をもって。

 

 口に手を当てられて、思い切り引き込まれた。

 

「!?」

「騒がないで、お姉」

「……!?」

 

 真美から見えない死角。つまり廊下から見えないそこの、カーテンの束の裏。

 そんな場所に……いのりちゃんは、いた。

 

「な……なに、して」

「……別になにもない。面倒事にしたくなかったら、何も無かったことにして出てって。お友達には適当な説明をして」

 

 いつもよりぶっきらぼうに吐き捨てるいのりちゃん。

 これは。

 

「泣いてたの?」

「……」

「まさか、いじめ? ……家でのことは一旦おいといて、相談とか乗るけど」

「いじめじゃない。お姉には関係ない。早く行って」

「流石に見過ごせないって。先週も泣いてたでしょ、ここで。しかも二回以上」

「なんで知っ……そんなことない」

「今言えないなら……まぁ、家で聞いてあげるから。なにも見なかったことにしてあげるし、友達にもそう説明してあげる。だから、あとで話して。ね?」

「……わかったから、早く」

「はいはい」

 

 解放される。

 スカートをはらって、折れ目なんかがないことを確認して、少し速足で美術室を抜けた。

 

 心配そうな顔の真美に合流……しようとして。

 

「あ」

「あ」

 

 美術室のドアが開かないことに気付いて、逆戻り。

 ……いや開くんだけど、鍵が無いから閉めれないじゃん、ってことに気付いたって話ね。

 

 それで、ちょっとだけ気まずい「前通りますよ」をして、準備室から出た。

 

「なにもなかった?」

「なんかあったらこうやって出てきてない」

「だよね。良かった~」

「やっぱり私は推理なんてできないんだな、って。あの水は……フツーに絵具洗う水とかなのかなー」

「あー、あるかもね? あと、水漏れって説も」

「雨漏りってこと? だとしたら先生に報告しなきゃだけど。……それ以前に最近雨降ってないから、そっちの方がホラーだよ」

「確かに~」

 

 なんて話をしながら美術準備室を離れる。

 ちゃんと鍵をかけて、だ。

 そういえば……いのりちゃんは、どうやって準備室に入ったんだろう。

 ピッキング……な、ワケないか。もう一つ鍵があるとかかなー。

 

 

 帰宅後。

 元お母さんの部屋……現いのりちゃんの部屋で、話を聞く。いのりちゃんの部屋になってから初めて入ったけど、すっごく女の子だ。

 なにげに薄っぺらい好きとか愛してるとかが絡まない、初めての会話、かもしれない。

 

「……単純にさ。……あたしは、ストレス……溜めがちな性格なだけ」

「ストレス? ……ああ、嘘吐くのが、ってこと?」

「お姉ってストレートだよね……。……ま、そう。お姉にはバレてるから言うけど、あたしはみんな大好きでいるために、多少ヤなこととか全部気にしないことにするし、性格的に無理な人でも好きってことにする。そういう生き方を自分で選んだ。……けど、それって、あたしが思ってるよりあたしの心に負担をかけててさ」

「だろうね。生きづらそうってずっと思ってるよ」

 

 要領良くするあまり要領悪く。

 社交的であるあまり閉鎖的な。

 

「だから……中学の時も、人のいないとこで泣いてた。悲しいわけじゃなくて、涙を流すとすっきりするし、ストレス発散になるから」

「……」

 

 それは、悲しんでいるし、つらいのでは?

 普通にストレス過多な人、って聞こえるけど。

 

「委員会、コンクール委員会ってのに入ってさ。美術部コンとか合唱コンとかの管理をやるんだけど……その過程で、美術室の鍵を受け取れて。美術部は今月いっぱい外で写生やってるから、ああやって自由に出入りできてたってわけ」

「いつか怒られて大変なことになるからやめたほうがいいと思うけど」

「うん。やり過ぎは……ダメだね。お姉が……あたしが先週も泣いてたの知ってたのって、なんか噂になってたからでしょ。お姉の推理聞いてたけど、あれは予め答えに予測がついてたから辿り着けたこと、って感じだったし」

「一年生が話してたよ。結構噂になってる」

「じゃ、もう美術室は使えないね」

 

 それはそう、なんだけど。

 それ以前に。

 

「その生き方をやめる、っていうのは……多分難しいよね。いのりちゃんはそうやって生きてきたんだし」

「なに。一番の被害者なお姉が同情するの?」

「別に被害者だなんて思ってないよ。……泣くの、ウチでしない? お父さんにもしおりさんにもバレたくないんでしょ。バレそうになったら私が庇ってあげるから」

「なにそれ。……なんで優しくするの? 今お姉、めちゃくちゃあたしのこときら……苦手でしょ。色々してくるし、勉強とか日常とか生活とか……邪魔してくるし」

「んー」

 

 苦手、と言われると。

 いや。

 別に……?

 

「土曜日みたいな丸一日の拘束は確かに勉強できないからやめてほしいけど、他は……まぁ経験ない私が言うのも変な話だけど、〝妹が姉に甘える〟の範疇なんじゃない? お互いずっと一人っ子で距離感なんかわからなくて、いのりちゃんは……そうやって生きてきたってことは、ずっと寂しかったんだろうし」

「……はぁ?」

 

 酷く。

 酷く、理解のできないものを見る目で……私を見つめるいのりちゃん。

 

「なに……それ。お姉……それおかしいよ。あたしのこと好きにならせてみせる、とか思ってたけど……なんで苦手になってないのかわかんない。それは、ちょっと……引く、かも」

「えー。難しいな。引かれちゃうんだ。……おかしいかなぁ。でもだって、今のところ私がいのりちゃんを嫌う要素ってなくない?」

「あるでしょ。さっきも言った通り、勉強を邪魔してきて日常を壊して生活サイクルまで変えさせて、感謝なんて少ししかしなくて恩を仇で返してて……きら……嫌われる、要素しか、ないじゃん」

「その程度じゃ嫌わないよ。もっと酷いことされたら話は別だけどさ。それに、日常と生活に関してはいのりちゃんのせいじゃないし」

 

 不可抗力に抗えなかったことを責め立てるほどおかしな人間になったつもりはない。

 どうしても主導権を握りたいから、という名目でやってきている一日の拘束は咎めるけど、別にそれで嫌いにはならない。

 

 人を嫌う、って。

 中々ないよ。疲れちゃうし。

 

「……」

「だから、まぁ。いいよ甘えて。学校なんて誰かに見られちゃうかもしれない場所じゃなくて、絶対に私以外には見られない……安全な場所で泣きなよ。その間はたぶん、私より弱いいのりちゃんになっているだろうから……守ってあげる」

「……」

「じゃあ早速泣く? 私の胸の中でー……なんちゃって」

「……。……」

「あ、あのいのりちゃん? 無言は……やめよっか。怖いから」

「……」

 

 ど、どうしよう。

 何か地雷を踏みました私。それとも頼りなすぎてなにいってんだこいつって思われてますか。

 

 ふらり、と立ち上がるいのりちゃん。

 そのまま私の方へ寄ってきて……持ち上げられた。

 

 へ。

 

「あの、あのあのあの」

「お姉。ご飯作るの何時?」

「え。えーっと、今日はそこまで時間かからないから、十九時とかかな」

 

 今、十八時二十分。

 いのりちゃんは……スマホを操作して、アラームをかけたらしかった。そしてそれを放り投げて。

 

 ぼふ、と。

 私ごと、ベッドに倒れる。

 

「いのりちゃ……」

「ちょっと……お姉のこと、意味わかんなくなったけど」

 

 声の上擦り。

 

「なんか……泣けてきたから、泣く。メイク落としてないから、ついちゃったらごめん」

「いいよ。そんなこと気にしないから」

 

 私のお腹に顔をうずめるいのりちゃん。その頭をぽんぽん、と撫でれば……そこからは。

 

 さめざめと泣く妹を、大丈夫、大丈夫とあやし続ける姉の……初めての姉妹な一コマになりましたとさ。

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