私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

17 / 40
17.姉妹がどんなものかを聞いてみた。

 四月二十日。

 ぼんやりとした不満感を覚えながら起床する。

 寝る前にもじっくりお姉についてを考えてみたけど、やっぱり色々納得いかない。

 不透明なのは相変わらずだし、結局なんにも解決しないまま流されたっていうか、あたしもいじけるだけに終わっちゃったっていうか。

 

 一階へ降りて顔を洗い、諸々をやってからリビングへいけば……相変わらず美味しそうな朝ご飯。でもお姉の姿は無い。

 お姉ちゃんやるんじゃなかったの、っていうツッコミをしたくなる。あれ、でもパパもいないや。

 

「おはよういのり」

「おはよ、ママ。パパは?」

「今日は昌仁さんだけ早い日でね。少しだけ早く出たの」

「そっか」

 

 席について、いただきます、と小さく呟いて、ご飯を食べる。

 ……って、あれ。そういえば。

 

「土曜日、ママが料理するんじゃなかったの?」

「由佳ちゃんと深く話す機会が以前にあって、料理はやらされているんじゃなくてやりたくてやっているから、って。……由佳ちゃんの負担を減らしてあげたくて意気込んでいたけど……それが却って由佳ちゃんを苦しめるのなら、ママは身を引くわ」

「……そっか」

 

 でもそれ……ママは大丈夫、なのかな。

 つらくないのかな。

 罪悪感って……解消できないと、どんどん引き摺るものだと思うけど。

 

「もう、そんな顔しないで? ……中々……中々、前に進まないのは、確かにつらいけど。でも、由佳ちゃんの大切な部分を私の罪悪感で踏み躙るのは、違うと思うの。……それに、仕事を言い訳に……まだこの家に来てからお母さんらしいことできていないし」

「……それを言うなら、あたしも妹らしいことしてないかも」

「母らしい、妹らしいって難しいわね」

「うん……」

 

 お姉は、姉になるために努力してみる、と言っていた。

 あたしも……妹になってみよう、かな?

 

 

 

 流石に入学式の気配は遠のいていて、ぐでーっとなっている子やぽけーっとしている子はいなくなってきた教室。

 朝練があるから人はまばらだけど、それでもわいわいがやがやはしているように感じられる。

 

「おはよ、いのりー」

「おはよ菊花ちゃん乃蒼ちゃん」

「やほやほ」

 

 既に来ていた二人に挨拶をして、席へ。

 席は五十音順で並んでいるから、的形(まとがた)いのり、持豊(もちとみ)乃蒼(のあ)本池(もといけ)菊花(きくか)で席が近いのだ。

 ……ちなみに佐十(さとお)泉美(いずみ)な泉美があたしの隣の席である理由は、彼女の後ろの席の子の背が軒並み低くて、どうしても、という理由で席替えが行われたから。

 

 って、あれ。

 

「泉美きてないんだ」

「やっぱり正妻のことは気になりますか……」

「あたしと泉美はそういうのじゃないってばー」

「泉美ちゃん、部活にも来てなかったみたいだし、心配だね」

 

 菊花ちゃんと泉美は同じ部活。あたしからしたら意外なんだけど、陸上部に入ったらしい。中学の時はあたしと同じテニス部だったのに、どうして離れたのかはわからない。

 ……そういうこと気にしてると、本当にあたしと泉美が親友みたいでヤだな。〝誰にでも愛されるいのりちゃん〟が考えるなら普通のこととはいえ。

 一応……メッセ入れて、風邪とかなら帰りにプリン買ってあげるとか……って、ああ、あたしあっちに帰るんじゃないんだった。

 

「あ、そうだ」

 

 ま、泉美がいないなら丁度いい。

 余計な勘繰りを入れられずにあれが聞ける。

 

「二人って兄妹いるの?」

「我は一人っ子なり……姉とか兄とか憧れるなりいいい!」

「私は弟がいるけど……なーに? 兄妹羨ましくなった?」

「そんなところ~。ちょっと……姉妹っていうのを見ちゃってさ。お姉ちゃんってどういうのなんだろ、妹ってどういうのなんだろってなってて」

「我も知りたいなり!!!」

「ノアはうちの弟に何度も会ってるでしょ……。ま、なんていうか、そこまで憧れるものじゃないと思うけど。ぎゃーぎゃーうるさいし生意気だし汗臭いし邪魔ばっかしてくるし。それでいてなーんかやらかすと私がちゃんと見てなかったせいになるし、お姉ちゃんらしくしなさいって怒られるし」

「でも弟くん可愛かったぞ!」

「そりゃーノアみたいなのでも年上のお姉さんだもん、あいつもいっちょ前に緊張してたのよ」

「それはつまり拙者にも色気が……!?」

「ナイナイ」

 

 ぐさ、ぐさぐさ。

 ぎゃーぎゃーうるさくて、生意気で、邪魔ばっかしてくる妹に心当たりが。

 汗は……平気、だよね? 大丈夫だよね?

 

「それって……仲悪いの?」

「そう言われると、まぁ、そんなことないんじゃない。仲良いかはともかく仲悪くはないと思う」

「いのりん、キクちゃんはこんなこと言ってるけど、弟クンをおんぶしてあげたり泣いてたら一緒に寝てあげたり中学一年の時まで一緒にお風呂入ってたり結構──ハ、殺気!?」

「え……何歳差?」

「四コ差。だから……別にふつーでしょ。お風呂は。小三よ小三」

「むふふふ。この前ケン君に会ったとき、吾輩煽られましたぞ。〝ノアねーちゃんって胸ちっちぇーんだな〟って。その時はまぁちゃんと叱ったけど、詳しく聞けば〝だって姉ちゃんのはこんなにでっかかったから〟って……!」

「ありがと乃蒼。帰ったらぶっ飛ばすわ」

 

 合掌する乃蒼。あたしもしておこう。

 

 でも、喧嘩してても仲は良いのか。

 あたしとお姉の関係性には当てはまらない……のかな。

 

「二人はさ、もしお姉ちゃんがいたら、何かしてほしいこととかあった?」

「えー? ……うーん、服譲ってもらうとか? お姉ちゃんがいる子に話聞くと全部おさがりで嫌っていうんだけど、センス良いお姉ちゃんなら全然いいと思うのよね」

「Meは全力で甘えてみたい! 正面から抱き着いてなでなでしてもらいたい!!」

「割と普段からいのりにされてるじゃない」

「姉~~!!」

 

 飛びついてくる乃蒼を受け止め、よしよしする。

 すりすりしてくる乃蒼。……うーむ。姉の感覚ならなんとなくわかる……ような?

 

 予鈴が鳴る。

 今日も一日が始まる。

 

 あれ、っていうか。

 

「泉美、結局来なかったな」

「ねー。大丈夫かな」

 

 メッセ、入れておこう。

 

 

 やっぱり風邪だったらしい。

 早めに部活切り上げて、帰りもちょっと遅くなるって連絡をして……一応お見舞いもっていくか。

 泉美には全くだけど、泉美の家族にはお世話になっていたわけだし。

 

 それはそれとして。

 

「のあーん後輩! なんだかシンパシーを感じるよ私は!」

「ののちゃん先輩! 我も鏡を見ている気分です!!」

「う、なんだか頭が痛くなってきた……」

「ここちゃん先輩、ごめんなさい乃蒼が共鳴を……」

 

 非常にやかましい。

 広報委員会。あたしが入ったその委員会に所属している先輩。

 双子らしいその先輩は、苗字で呼ばないでほしいと言って、それぞれここちゃん先輩ののちゃん先輩と呼ぶことになった……のだけど。

 その後、じゃんけんで負けたとかで放送委員会から零れてきた乃蒼ちゃん菊花ちゃんの二人がここへ合流。

 ──して、大共鳴が起きる。

 

「まずい……この二人止まらないしうるさい……」

「ここちゃん先輩、あの二人の対処法ってありますか?」

「ああなったののちゃんはもう誰にも止められない。そこに乃蒼ちゃんのシナジーで無限大」

 

 漫画だったら怪獣みたいにデフォルメされてノーアノアノアノアとノーノノノノノノって言い合っているのだろう二人。

 そりゃこんなうるさかったら放送委員なんてできなくて当たり前だよ……なんて思ってしまう。

 

 ──ダン! と。

 大きな音が響いた。

 

「……失礼。書類を落としました。お気になさらないでください」

 

 眼鏡をかけた女子。多分あたしたちと同じ学年。

 彼女はそのまま手に持った書類の束の確認を再開する。

 

 まずい、いたの知らなかった。

 嫌われるのは……怖いのに。

 

「甘いヌェ。直接言うと角が立って面倒臭いから遠回しな行動で反省させようという魂胆なんだろーけど、残念私は去年からこう! やることちゃんとやってれば特に何も言われないのが広報委員!」

「この学校、私語厳禁な場所ほぼ無いから、頭固いと大変だよ」

「……」

 

 う……マズい。本当にマズい。

 この二人ほわほわしてるかと思ったけど、ちゃんと性格がキツい。言っちゃ悪いけどちゃんと女子の先輩って感じだ。

 ……八方美人が一番嫌われるってことは知っている。だからあたしは……あたしは。

 

「ちなみにののちゃん先輩、あの子が持ってる資料はなんですかぞえ?」

「去年の新聞だぬーん。私達が発行したやつ。記事作りの参考にしたいらしいメェ」

「先輩たちと話しながら作ったものだから、普通の新聞みたいな固さはどこにもないよ。完全な身内記事」

「二人が一面を飾ったこともあるんですか?」

「ノン。広報委員はイベントの時は大体キャメラマァンヌになるから。写真部と合同でねー」

「ちなみに際どすぎる写真を撮ったとある先輩は広報委員を除名されているのだ……のあーん後輩も気を付けるように!!」

「な、なぜMeが際どすぎる写真を撮るとわかって……!?」

「日常的にこんな高身長ギャルと胸でか幼馴染と一緒にいたらそうなるに決まっているから、サ……サ……サ……!」

 

 何も言えない。

 公共の場で煩くしている方が悪い、という意見もわかるし、でもそれがこの学校のやり方といえば確かにそうだ。

 ここちゃん先輩が言ったように、広報委員だけじゃなく、どこの委員会も部活も雑談をしながら仕事や部活動をしている、という印象を受けた。

 そして、たとえそうであっても効率は落とさない。テニス部だって、あの時言われたように、目に着かないところでやれば何も問題ないと先輩方から教わった。それは裏道的な話じゃなくて、「目に入らなければ無いのと同じ」を地でいくから、だとか。

 

 郷に入っては郷に従え、というのも分かるという話だ。

 

「これ、新聞……どれくらいのスパンで出すんですか?」

「二週間に一回。だから入学式のことも記事になってるよん」

「え、あ、ごめんなさい。見てなくて……」

「みんなだいたいそんなもんだから気にしなくてだいじょびだいじょび。注目度低いからねー新聞」

 

 それは知っていた。というか、だから志願した。

 取材の必要はなくて、行事の際には運営の一部みたいな扱いになって……だから活躍したりしなかったりでヘイトを集めないポジションへ行けて。

 本当に写真を撮って、文字を書いて、それだけでいい、と聞いて。

 

 一番コスパがいいと判断した。

 

「……失礼します」

 

 最後、もう一度強めに書類を置いて……その子は出ていってしまった。

 うう……苦しい……。

 

「感じ悪いコ入ってきちゃったなー。でもま、先生になんか告げ口しても変わんないと思うけど。ずーっとこうっていうか、どこもこうだし」

「馴染めなかったらそれまででしょ。仲良くする気のない子にまで差し伸べられる手はないからね」

「話を戻すんですけどののちゃん先輩ここちゃん先輩! 記事ってみんなで話し合って書く、んですよね! つまり我らも話し合いに参加するのですか!」

「その通りだのあーん後輩。今週末にも記事会議がある! そして、土日に各自割り振られたコマを文章で埋めてきて、データをドッキングしてコンバイン!」

「ののちゃんそれ意味被ってるよ」

 

 あの子のことは気になる……けど、あたしも自分のことで手一杯だから……ごめんなさい。

 あたしには誰かを変えるとか、できないから。

 

 

 

 プリンとゼリーとスポーツ飲料を買って、泉美の家までやってきた。

 庭先。そこに泉美のお姉さんの姿が。

 

「真琴お姉さん」

「ん……おや、いのりちゃん。久しぶりだね、元気にしていたかい?」

 

 男装の麗人って言葉が似合う、とてもボーイッシュなお姉さん。

 庭先の花々に水を遣っている姿ですらサマになる。……昔、ちょっとだけ憧れていたことのあるヒト。

 

「泉美のお見舞いに来ました。泉美、大丈夫ですか?」

「ああ、成程。いつもありがとうございますね。ただ……今は眠っているはずだから、それは冷蔵庫に入れておこう」

「お願いします」

「顔、見ていくかい……と言おうと思ったけど、風邪が移ってもいけないか。泉美にはちゃんと伝えておくから、それでもいいかな?」

「はい。お願いします」

 

 まだ寝てる、って……もしかして、結構熱とか出てるのかな。

 大丈夫かな。

 

 ぴろりん、と……メッセの通知音。

 何かと思ってスマホを開くと、泉美から画像付きメッセージが。

 

 ──〝いのりが私を心から心配する顔、げっと〟

 

 そういう文言と共に、上の角度から撮ったあたしの顔が。

 そっちを見れば……かなり顔が赤いしぐったりとしてはいるものの、いつも通りな泉美がベランダの隙間から顔を覗かせピースをしていた。

 

 はぁ、まったく。

 

「泉美、ベッドから脱走してますよ。あそこ」

「……ほう。母さんと父さんが帰ってくるまでトイレ以外ではベッドから降りないと約束したはずなんだが……そんな簡単な約束も守れない程度には頭がおかしくなっているらしい」

 

 ──〝裏切り者〟

 ──〝姉さんの『可愛がり』の恐ろしさを知らないからそういうことができる〟

 ──〝どうにかして振原先輩にいのりのあくどいところ送ってみせてあげるから待ってて〟

 

 情報が古いよ泉美。

 今のお姉はそんなもの見たってなんにも思わないから。

 

 踵を返す。

 ま、あれだけ元気なら……大丈夫でしょ。

 

「泉美、わざと──」

「違──」

 

 なんて声を聞きながら、最早懐かしい見慣れた街を後にする。

 

 

 帰りのバス。

 そこで、少しばかりメッセのやり取り。

 

 いやその。

 そういえば泉美こそ完全なる妹だったなぁ、って。

 案の定勘付かれてはいるけれど、この際だから仕方がない。

 

「〝なんだかんだ言って頼ってほしがるのが姉。妹はなんの遠慮もせずに頼ってあげればいい〟かぁ。……的確だけどさ」

 

 そして、真面目に答えてくれた泉美のソレは、結構有用だった。

 頼る。充分もう頼っている気がするけれど……もっと、か。

 

 あと。

 

 ……こっちの好意が偽物だと思い込んだ相手をもう一度振り向かせる方法も……誰かに聞きたいなぁ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。