私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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23.もっと恋バナに興じてみた。

 四月二十四日。

 明日からゴールデンウイークということもあって、さらに例年より少し長めであることもあって、どこか騒がしい朝練の子たちを眺めて教室へ。

 ……ええ、はい、そうです。

 結局この一週間も……私は早起きをやめられませんでした、と。克己したんだけどねー……もう気まずくないはずなんだけど……こればっかりは。

 だからゴールデンウイークで矯正するつもり。少し遅起きに。

 

 ちなみに今日はいのりちゃん、委員会の仕事で遅くなるそうで、夕ご飯は友達と食べてくるらしい。それを受けてお父さんとしおりさんも外食にするのだとか。

 私もそれ用の臨時お小遣いをもらった……けど、どうしようかな、という気持ち。別に自分用に簡素な食べ物を作ってもいいわけだから。

 

 そんなことを考えながら教室の戸を潜ると──それはもう物凄く真剣な顔をした那奈と、それはもう凄まじくダルそうな顔をした浅野が。

 

「おはよー」

「ん、おはよーさん」

「ああ、由佳……おはよう。そうだ、一応由佳にも……」

「なにー?」

 

 あんまりそんな感じないとはいえ幼馴染である。

 相談、乗りますとも。

 

「──もうバレてるから言うけど、彼氏……いるって言ったでしょ。先輩」

「ああ、うん」

「ゴールデンウイーク中に誕生日があるらしくて。あ、みんなと遊びに行く日は関係ないから気にしないでいいんだけど……その日一日ね、先輩の家で過ごすことになって」

「ほう」

「今、霞にプレゼント選びを手伝わせてたのよ。ついでに着ていく服も」

「……振原。助けてくれ。こいつ、ウチが何言っても〝でも先輩は〟から始まって、惚気話が挟まって……苦痛だ」

「ふつーに那奈が可愛いと思う服で、先輩さんが貰って嬉しそうな顔するもので、……ってチョイスじゃダメなの? なんで浅野セレクション?」

 

 問えば、憮然とした顔になる二人。

 え、なに。

 

「はい答えそれが答え。井俣、話は終了だ」

「ちょっと待ってよ。それが……正解なのはわかってるけど、でも相談したいじゃない!」

「つか着ていく服に関しては振原の教育に悪いからやめとけ」

「浅野は私の保護者なの?」

「なに言って……は、はぁ!? なに言ってるのよ!? そんなこと起きな……馬鹿じゃないの!?」

「いや、男の家で一日過ごすんだろ? そういうことだろ」

「どーいうこと?」

 

 わなわなと唇を震わせている那奈。那奈のこんな顔珍し……くもないか。むしろ割と頻繁にしている気がする。

 男子の家って行っちゃいけないのかな。付き合ってるんだからいいんじゃない? 変な勘違いをされるでもないし。

 ああでも何するんだろう。やっぱりゲーム? 駄弁って終わり……にはならないよね、男の子って。どっか遊びにいくとか?

 

「と、とにかく! 由佳、これ見て! 予算で見繕ったプレゼントラインナップ!」

 

 話を逸らすようにスマホの画面を見せてくる那奈。それを受け取って……驚く。

 え、多すぎでしょ。スワイプすると1/36って出てくるんだけど。

 

 なになに……指輪、ネックレス、ブレスレット、ベルト、仮面……仮面? 光る剣、音の鳴る玩具、知恵の輪、ミルクパズル、望遠鏡……。

 

 ……?

 

「なにこの統一感のないラインナップは。女の子に贈る用、お父さんくらいの年代に贈る用、ちっちゃい子に贈る用、よくわからない用途……が、渾然一体と」

「は……初めての彼氏だもの。なにあげたら喜ぶか、なんてわからないし……だからまず自分が貰って嬉しいものをピックアップして、次に弟にどういうプレゼント貰ったら嬉しいかを聞いて、あとはネットで男性、貰ったら嬉しいもの、で調べて……」

「それでこーなったと。……うーん」

 

 私だって同年代の男の子にプレゼントをあげた経験なんてない。お父さんに毎年あげているプレゼントとは訳が違うだろうし。

 プレゼントってねー、難しいんだよね。重すぎず軽すぎず。「想いが伝わればなんでもいい」なんてよく聞くけど、「それをあげて十全に想いが伝わるか」って問題はちゃんとある。

 加えて元から親密な関係性……それこそお父さんとお母さんとかだったら、既に想いが浸っているから、なにあげても喜んでくれるんだけど、まだ関係値の浅い相手にあげるプレゼントはちゃんと選ばないと……上げる側が想定していない印象を与えてしまうことがある。

 なんでもいいのは、なんでもいい相手にだけ。そしてそれは決してネガティブな意味じゃなく、なんでもいいと思えるほどの相手、って意味。

 

「那奈はさ、誕生日にしかプレゼントあげないつもり?」

「そんなことないけど……」

「じゃあ最初は実用がいいんじゃない? 想いを込めるって難しいんだよ。最初は伝わんないことの方が多い。だから、想いを汲み取ってもらう想定でいくと失敗しちゃう。なら〝何を選んだらいいかわかんなかったけど、あなたを想像した時に、一番あってよかったって思ってもらえそうなものを〟……って風にするとさ、そっちの方がわかってもらえて……あれ」

 

 ……無言。

 え。そんな見当違いなこと言いましたか私。私が新しくできた友達にプレゼント贈る時の選び方なんだけど。

 ちなみに実用とは言ったけど、あんまり大きいものや一点ものはオススメしない。邪魔だったり勿体なくて使えなかったりと、道具としての本懐が果たせないことが多いからね。

 

「……」

「……」

「いや怖い怖い怖い。なにその目。珍獣でも見るみたいな目」

「由佳って……たまに人生何周目なの? って発言する時あるわよね」

「普段はクソガキなのにな」

「言い過ぎでは?」

 

 ガキまではまだ許すけどクソガキは言い過ぎだろ。

 

「それに、全部は聞けてないけどさ。最初の印象最悪だったのに、那奈が選んで付き合うことにしたんでしょ? その彼氏さんが良い人なら、次に那奈が選ぶプレゼントだって良いものだよ。っていうか那奈はもっと自分の審美眼を信じてあげなよ。ね、浅野」

「なんでウチに振るの」

「浅野を最初に〝いい子そう〟って言って私達の輪に引き入れたの那奈だから」

「……ふん」

 

 あ、拗ねた。

 

 さて改めて那奈を見る……と、そこには俯いてふるふる震える彼女の姿が。

 ……おや。何か私気に障ることでも。

 

 とか考えてたら、抱き上げられて抱きしめられた。

 

 why.

 

「ちょ、え、何事何事!」

「由佳ぁぁああ!! あなた本当に良い子ね、あなた本当に良い子!」

「ちゃんと苦しいちゃんと苦しいちゃんと苦しい」

 

 水泳部腕力凄い。潰れるというより潰し千切られる。

 

「ウチだって似たよーなこと言っただろ。振原だけ贔屓かよー」

「……霞? 霞が言ったのは、〝井俣が選んだモンならなんでも喜ぶだろ、ソイツ井俣のことソウイウ目で見て告ってきたんだろうし〟とかいう適当なものだったでしょ」

「同じだろ。振原は井俣の審美眼を信じろって言って、ウチはソイツの審美眼を信じろっつっただけの違いだよ」

「言い方よ言い方。由佳の柔らかい言い方じゃないと伝わるものも伝わらないわ」

「あの那奈さん、喜んでくれたのは嬉しいのですが、私を抱きしめたまま椅子に座られるとさらに潰れます」

「私、由佳のこともっと好きになっちゃったから、ゴールデンウイークの間ずっと膝に乗せてあげる」

「話聞いてる?」

 

 那奈は常識人なのに。アキと並んで良識なのに。

 あと膝に乗せるって対面で抱きしめながら座るのは違わないですか。

 

「……井俣、振原貸せ」

「いやよ。……あ、なに? 羨ましいの? そんなにオープンにするのなら、ゴールデンウイーク中にでも決めちゃえば? 案外時間って待ってくれないのよ」

「チ……余裕ぶりやがって」

 

 貸せって。私はぬいぐるみですか?

 あと別に那奈のものでもなーい!

 

「……お前らってさ、仲良いよな」

「なに、私に嫉妬?」

「ちげーよ。……振原って正直性格悪いじゃん。幼馴染ってのはあるにせよ、井俣がここまで付き合うのってなんかあんのかなって」

「今すっごいナチュラルに貶された」

 

 じ、自覚あるけどそこまで言う? 正直性格悪いって……悪いけどさぁ!!

 

「改めて聞かれると難しいわね。別になんか特別なことがあったわけじゃないと思うけど……由佳、私達って何かあったっけ?」

「んー。……んー? 別に家族ぐるみで付き合いがあるってわけでもなければ、ちっちゃい頃ずっと一緒にいたってわけでもない……よね。別に二人ともどっかへ行く可能性はあったけど、なんとなくずっと一緒でずっと友達で」

「ああ……だから、あれよね。小中高と今まできて、一度も別クラスになったことがない、ってのはあるかも」

「あーね」

 

 ずっと同じクラスだ。クラス替えの妙というか、そういうこともあるのだろう、というか。

 高校も別に「一番近かったから」で選んだ学校だし、引っ越しも転勤もなかったし。

 

「へー、すげー確率」

「流石にこの時間一緒にいれば友達にもなるし仲良しにもなるし、お互いの好き嫌いも把握するっていうか」

「ま、来年別クラスになったとしても友達はやめないけれどね。流石にもう普通に親友」

「中三までは那奈と同じでずっとクラス同じ、って男子いたなー。高校別のとこ行っちゃったけど」

「ああ……前私が片思いしてた子ね」

「へー。……へぁ!?」

「ウルト○マンか? それともヒト○マンか?」

 

 意味の分からないことを言っている浅野はおいといて。

 え。え! あの子好きだったの!?

 

「へぇ……え、え、どこが、っていうか、え! え!」

「前、初彼氏かどうかを聞かれた時に、結構動揺してたでしょ私。……あれ、由佳もよく知ってるあの子が片想い相手だったから、っていうのが大きいのよ。というか半ば気付かれてるんじゃないかとすら思ってたから……逆に動揺したというか」

「全然気付いてなかった……え~、言ってよ~! キューピッドやったのにー!」

「そーやって面倒臭くなるから言わなかったし、変な気を回して余計に仲が拗れることありそうだから由佳には絶対相談しないでおくことにしてたのよ」

「ひどい」

「ちなみにあの子も同意見だったわ。中一の時だったかしら? まだ私が彼を好いてなかった頃にそういう決議があって……同盟を組んだの。この先お互いどんな恋愛をしようと由佳にだけは絶対相談しない同盟を」

「本当に酷い」

 

 ただ……余計な気を回していた、は。

 えーっと、あの、そのぉー。

 

「頼んでもないのに勝手にその男子から好きなものとか欲しいモンとか聞いて、逆に振原がそいつに気ぃあるんじゃないか、みたいな勘違いが起きて、そのまま男子の淡い恋心も井俣の片想いも全部おじゃんになる……という並行世界が見えた」

「その場合私と那奈の友情も壊れそう……」

「英断だったでしょ?」

「はい……」

 

 真美にも那奈にも言われるってことは、これはもう筋金入り。

 他人の恋路に口を出すな、ということか。……じゃあプレゼント選びなんて相談しないでくださーい!

 

「ところで霞は今好きな人がいるらしいわね」

「ぶっ!?」

「え」

「は──はぁ!? 井俣!? オマエ、やっていいことと悪いことが……ちげぇよ振原、そんな目で見るな! ウチはそういうのキョーミねーって言っただろ!」

「いつもより大声で否定してる。怪しい」

「つか井俣、オマエそういうやつじゃないだろ! なんだ、ウチなんかしたか!? そこまで恨み買ってたか!?」

「さっきけしかけた時、良い反応じゃなかったから。霞って我が道を征くタイプのくせに、余程自分のしたいことじゃない限りは周りに道を譲りがちでしょ? これこそ余計なお世話だとは思ったけど、こうでもしないとあなた動かなそうだから」

 

 おお。それは私も同意。

 那奈は基本ずっと保護者というか、一歩引いたところで私達を見ている節がある。勿論楽しむ時は楽しむし、全力で乗っかってきてくれる子だけど、なんだろうな、「こいつらを差し置いてまで通す我じゃないな」みたいに思っているっぽいのが友達やってての若干の不満。

 私達のグループはそういう「我慢」がないグループだ。嫌なことは嫌と言うし、やりたいことはすぐに言う。嘘偽りがないとか隠し事がないわけじゃないけど、「自分を殺す」みたいなことはしない。

 ……けど浅野はそれをする。よくする。

 

「振原にその目を向けられる筋合いはない……という気持ちはある、が、まぁ……ウチがそういう性質なのはそうだよ。でも……それとこれとは話が違うだろ」

「違わないけど? ──当ててあげる。その〝好きな子〟に好意を向けているの、あなただけじゃないでしょ。もう一人いる」

「っ……」

「え……取り合いってこと? 三角関係みたいな?」

「別に三角じゃないんじゃない? ヘの字みたいな」

 

 ああ、底辺がないのか。

 ……ふーん?

 なんかオトナの恋してんじゃーん。しかも認めたっぽいし。

 

「キョーミないとか言いつつ……だったんだ?」

「だから……違うって。ウチは……」

「男に興味ないのは変わらない、でしょ」

「井俣、そろそろぶん殴るぞ」

 

 ……え。

 あー。

 あーね?

 

「女の子なんだ、相手の子。……え、取り合ってる子は男の子?」

「……。……──、……」

 

 浅野は、逡巡するように……恨みがましい目で私と那奈を見て、何度か言葉を呑み込んで。

 それで、ようやく口を開く。

 

「女だよ。……女同士で、女取り合ってんの」

「へー。いいじゃん。相手男の子だと〝普通さ〟で負けちゃうかもだったけど、土俵が同じならやりやすそう」

 

 どうしてもね、ジェンダーというかなんというか。

 昨今はそうでもない風潮……雰囲気が漂いつつあるけど、それでもやっぱりニュートラルの方が多いのは事実だ。その子が男の子を好く感性を持つ女子だったら、男の子の告白と女の子の告白どっちを受け取るか、って時に……容姿なんかの原点要素を省くと、どうしても男の子の方へ目が行きやすいって話ね。

 ま、そのあと本当に選ぶってなった時にどっちを選ぶかはその子次第だし、告白してきた相手次第だけど。

 人間は心が読めるわけじゃないから、相手をどれだけ見るか、相手に自分をどれだけ見てもらえるかが勝負になる。どれほど良いモノでも観測されなければ無いのと一緒、ってやつ。

 心も同じなんだ。中身を見てくれる云々の前に、中身を見る機会に恵まれるかどうか。視界って三百六十度じゃないからさ、魅力っていうのはそういう「相手の視界」を惹きつけるためのファクターで、男女はフィルターなんだよね。

 

「……はぁ」

「言ったでしょ、霞。押さないと取れない子もいるのよ」

「かもな……」

 

 浅野の好きな子は奥手なのかな? 確かにそういう子だと浅野は……負けちゃうかも。ただでさえ威圧的な容姿だし、言動もキツめだし。

 中身を見てもらえる機会をちゃんと作ることができたら一発だと思うんだけどねー。優しいし、案外可愛いし、尽くすタイプだと思うし。

 

 ……えー。

 どんな子なんだろ。っていうか、うーん。那奈と違って弄りづらいな。なんでだろ……失敗した時の落ち込み方がヤバそうだから? いや那奈だって落ち込ませたくはないけどさ。

 多分……照れるとか恥ずかしがるとかじゃなくて、真摯に受け止めちゃいそうだから……みたいな?

 

「それでも気になりはする。名前はいいからどんな子かおせーてください」

「……」

「そうねー。まず、由佳くらいちっちゃい子よ」

「え、那奈は知ってる子なの?」

「ええ」

 

 へー。……待て。

 

「いや私だから背そんなちっちゃくないんだって。みんなが大きいだけだって」

「まぁまぁ。……それで、そうねえ。子犬みたいっていうか、大型犬にキャンキャン吠えてて、でも大型犬が前足をちょっと上げただけでびっくりして飼い主の後ろに回っちゃうみたいな」

「あー……我が強くないここののみたいな」

「そんな感じ。ああでも我が強くないっていうか、単純に弱い? 我はむしろ強い方かも」

「実力が伴ってないのに吠えて吠えて自分を大きく見せようとする、ってこと? 良くそんな子好きになったね……は、ちょっと最低発言か、ごめん」

「……いいよ。ウチも似たようなこと思ってるし」

 

 普通に女子として最低なタイプに聞こえるけどなぁ。

 いえあの、自分のことは勿論棚に上げて見えなくしていますよええ。……う、うるせー! 私がまさにそうじゃんとかうるせー!!

 

「わかってんだよな……つかなんで好きになったかもわかんねーんだよ。……けど好きになるとさぁ、止まんねーっつか……隠しておこうと思ったんだけど、誰かに盗られるって思ったら……居ても立っても居られなかったっつか」

「きゃ、すっごい恋してるじゃない。霞かーわいー」

「あんまからかうなよ井俣……とんでもないことメッセに送るぞ……」

「え、なに。それはちゃんと怖いわ」

 

 怖いけど気になる。報復になるメッセってなに。那奈を怯えさせられるってなに。

 

「じゃあ、何が好きとか言えない感じ?」

「言え……るけど、それが好きで好きになったわけじゃないっつーか。……なんていうんだろうな、それはそいつに付随していることであって、そいつの本質じゃない……というか」

「へー。ちなみに顔はどうなの。おっぱいは」

「キモいオヤジかてめーは」

「ちびっこ且つペターンよ。顔は……私は好きかも。ほっぺた潰して嫌がられたい」

「よし私はその子の味方だ。隠れ巨乳とオープン巨乳め、貴様らは敵だムギュ」

「自分がいる場所忘れてたのねー由佳は。はい、ぬくもりでちゅよー」

 

 溺れる。オープン巨乳に溺れる。

 

 ……しかし。

 

「浅野ってもしかしてロリコぬぁぁ!?」

 

 く、首筋! っていうか制服の中になんか入れられた!?

 抱きしめられてるから取れない……なにこれ!

 

「安心しろ消しゴムだ。……んで別にチビが好きなわけじゃねーよ。そいつの背が高くても好きだっただろうし」

「消しゴムだと何が安心できるんだ……。……あとで出すけど。……えー、けど不思議。顔も体型も別に好きじゃなくて、性格もソリ合わなくて、でも好きなんだ」

「恋ってそういうものだから。自分じゃ止められないのよ」

「へー……いいな。そういうの味わったことないから、いつか体験してみたい」

 

 自分じゃ止められない感情。

 ……あ、罪悪感と気まずさも……なんてね。ハハ……。

 

「ちなみに会わせてくれたりは」

「絶対にしない」

「ダヨネ」

 

 まぁ会ってたら会ってたで根掘り葉掘り色々聞いちゃいそうだから、知らないままが吉。

 ……付き合ったら聞こう。浅野のどこが良くてOK返したのか、みたいな。

 

「あ、で、取り合ってる子っていうのは? その子も知り合い?」

「そっちは私も知らないのよね」

「……知り合いかどうかは知らんな。お前らの交友関係全部把握してるわけじゃないし」

「ま、それもそうね」

「ギャル仲間だよ。それで絞れば?」

「この学校にギャルが何人いると……」

 

 浅野とかいのりちゃんだけがギャルギャルしてるってわけじゃない。

 この学校制服の改造はダメだけどそれ以外割とフリーだから、結構な数のギャルがいる。ただしギャルはギャルと付き合うことがほとんどなので、今まで私の日常に関わってきたのが浅野だけ……あといのりちゃんも、ってくらいなだけ。

 

「仲間ってことは、仲良い子なの? ……つらくない、それ」

「んー、そこは別に。なんつーか、競争? 多分失恋したら相当落ち込むんだろうけどさ、相手に幸せになってほしい気持ちもあるっつーか」

「へえ、いい関係を築いているのね」

「まーな」

 

 恋。恋かぁ。

 私もする日が来るのかなぁ。……いのりちゃんも……いつかは?

 その時は全力で応援するけど……う、どうだろう。那奈に審美眼云々を言った手前言いづらいけど、いのりちゃんの恋人に関しては私が一度審査を……悪い奴じゃないかチェックを……。

 

「由佳は……どんな恋をするのかしらねぇ」

「まずどんな恋があるのかすら知らないしなぁ」

「千差万別十人十色。人の数だけ恋があるのよ」

「深そうで別に深くない言葉だ」

「抱きしめて窒息させるわよそろそろ」

「ごめんなひゃあ!?」

 

 また制服になんかが……今度は何ですか!

 消しゴムと違って冷たいし、大きいし、あと二個あるし!!

 

「なんかムカついた。だからスティック糊と水糊入れた」

「なにいれてんの!?」

「キャップしっかりしてあるから大丈夫だろ」

「那奈降ろして、流石に早めに出しとかないと事故が怖い!」

「はいはい。……不器用ねー」

「っせーよ」

 

 制服の背中の方をパタパタやって、溜まった文房具ズを排出する。

 朝で良かった。男子が教室にいたら流石にトイレいってた。

 

 ……というか、なんかムカついたって。

 もしかして私に嫉妬してるの? 

 私が……多種多様な恋をするかもしれないその姿を見て……!

 

「くだらねーこと考えてると次こそ糊の中身背中にぶちまけるぞ」

「それはワンチャン傷害事件だね……」

 

 ……いいじゃーん。

 みんななんか、進んでるんだなぁ、って。

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