私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹 作:的形みずき
気になる。
うーむ。
気になる。
気に……なる。
「お姉、さっきからどうしたの? ゴールデンウイーク楽しみ過ぎ?」
「いやそんなことはないけど……あれ、なんでいのりちゃん私の部屋に」
「鍵開いてたから」
「何も理由になっていないような」
まぁ、最近のいのりちゃんは過度なスキンシップをしてくることもなくなったので、いてもいいだろう。
……一応、もうお母さんには話してある。いのりちゃんからの愛情表現……というか、愛されるための行動についてを。正確に言うと見抜かれた、になるんだけど。
はじめに「姉妹でどんなことをしているの?」から始まって、少しでも私が言い淀んだら「もしかして……」で始まる的確な言葉の数々。お母さんは笑顔で「うーん、いのりちゃんは少しだけ……結構過激な子かもしれない」との判を押しました。
が!
それは今までにあったことを伝えたからで……どうですかこのいのりちゃんは!
勉強中だというのに「気になる」ことを考えて上の空だった私の背後に立って、なにもしてこない! ……まぁ何もせずに背後に立っているだけ、が怖いというのはそれはそうなんだけど。
で、まぁ、気になること。
それは。
「……いのりちゃんさ、浅野と先輩後輩関係だったんだよね」
「あ、うん。そだよ」
「浅野と……仲の良かった女子って……ついでにギャルな子で……他にウチの学校来てる子、思い当たる?」
「え。……うーん? うーん。……高校からギャルになった人はわかんないけど、思い当たる先輩は何人かいる、かも?」
「ざっと苗字言える?」
「ニイクチ、アラヤマ、モモタ、イトダ、キノシタ……かな」
「全員聞いたことない……」
まぁ……当然か。
浅野が突然変異なだけで、私達が基本ギャルに関わらない。いや他の子がどうかは知らないけど、少なくとも私が関わったギャルは浅野といのりちゃんだけで、他の子は他の子でまとまってるから知り合いですらないというか。
学校って閉鎖社会だけど実は村社会じゃないからコロニー化するんだよね、とかどうでもいい話が頭をよぎった。
「浅野先輩とその人たちがなんかあったの?」
「いや……なんか仲良いらしくてさ。……いや別に浅野が誰と仲良くしててもいいんだけど」
好きな子ができたらしい、なんて口の軽いことは言わない。
ただ……気になる。とても気になる。いや聞いちゃったら聞いちゃったでマズいかもしれないとは朝の教室で散々説かれて納得もしたこと……なんだけど。
うう……心の弱い私を許してくれ浅野。
「……なにお姉。その人に嫉妬してる、ってこと?」
「わぁいきなり抱き着いてくるじゃん」
抱き着いてくるのまではまだいいけど腕で目を覆うのはやめようよ勉強できないよ。
あと。
「嫉妬ってなに。……もしかしていのりちゃん、私と浅野が……えっと、そういう関係にある……みたいなこと思ってたりする?」
「違うの? お姉と浅野先輩いつも一緒にいるし、一緒にいるとお姉めっちゃ笑うじゃん。あたしには見せない笑顔で」
「いやまぁ友達だからね……? 前も言われたなぁそれ。付き合ってんの? みたいなの」
「言われたんだ」
「まぁね。浅野は蹴ってたし私も……うーんって考えて、恋人はないかなーってなったし」
「へー!」
なんか嬉しそうな声を出すいのりちゃん。ちょっと力が緩んだ。
「浅野先輩は恋人じゃないんだぁ~」
「たまにいるよね……ずっと一緒にいることと付き合ってることを結び付ける人……」
「あのお姉、今それ言われるとあたしがまさに、みたいになるんだけど」
「……いのりちゃんは割合ピンク脳っぽいなとは思ってるよ」
「そんなこと無いと思うけどなー」
そうじゃない人は大好きとか愛してるとかそう簡単に言いません。
ちなみにここのの姉妹にも似たようなことを言われたことがある。あいつら広報委員だから、「熱愛報道ってのをやってみたいんだけど由佳っちかすみん犠牲になってくれない!?」、「由佳ちゃん、霞ちゃん、キスしてる風の写真撮らせてくれたりは……」とか言ってきたので容赦なく蹴った。その時は私も浅野も蹴った。
なんだ熱愛報道やってみたいって。やってみたいでやるもんじゃないだろ。
さらにさらに因むと、去年の文化祭で『カップル写真』という……まぁ、脳内ピンクと写真部の知恵と友情のア・ラ・モードみたいなイベントがあって、そこへ私と浅野が……みたいなハプニングもあったりしたけど割愛。なぜって私達が揉めている横でほんまもんのカッポゥが発生したから。そのイベントを考え出した男子と部員の女の子が……みたいなやつ。
あの時は流石の私達も蚊帳の外だった。「何見せられてるんだろうねこれ」「な」ってなって若干以上の食傷気味気分を抱えながら口直しに食べ歩きした。
割愛できてなくない?
「……ね、お姉って恋愛……興味ないの?」
「なんか最近みんなその話題だなー。……興味はあるけど縁がないっていうか。容姿も性格も自信なくて、直す気もサラサラないやつを誰が好くんだって話でさ」
「あたしがいるじゃん。お姉の……どんなとこも愛してあげるのに」
「はいはい」
この子のこれは本当いつになったら治るんだ。
もっと純粋な感じで「お姉だいすきー」みたいな妹ムーブはできないのか。なんで毎回毎回しっとり「お姉、愛してるよ……」なんだ。
「ていうか、そだ。昨日の一緒にご飯食べる約束反故にした補填の話なんだけどさ」
「げ」
「酷い反応~。……ゴールデンウイーク中のどっかでさ、あたしとデートしてよお姉」
「……? デート……っていうのは、一緒にどっか行くことであってる?」
「あってるけど、より恋人風みたいな? カップルっぽいことしたい」
「いや私といのりちゃんはカップルではないんだけど」
「姉妹じゃん」
「そうだよ。……え、姉妹はイコールでカップルなの?」
「そうだよ」
……そうなの!?
え。え!? これ私騙されてる!? 那奈……に聞いてみるこれ!?
──〝ねえ那奈。弟とデートいくことってある?〟
──〝いきなりすぎない?〟
──〝まぁ、あるけど〟
──〝最近は特に部活が忙しくて構ってあげられてないから〟
──〝遊園地とか水族館とか博物館とか〟
──〝連れてって、エスコートするのよ〟
……本当らしい。
私が世間知らずなだけか……。
「これ相手だれ?」
「ああ、井俣那奈っていう……幼馴染の子」
「……知らない人だ」
「だろうね。あんまり下級生の子に関わらないって言ってたし。水泳部だから接点もないだろうしなー」
「でも……お姉の幼馴染なら、挨拶しておかないと。……あたしがここに住んでるって、いずれはバレるだろうし」
「それねー。……いつみんなに明かすか微妙だよね」
「確実に目立つし確実に変な距離取られるから言いたくないんだけど、隠してたのがバレた、って方が面倒臭い……」
「いのりちゃんはそっか、リスクヘッジの方を先に考えるのか」
私が考えるのは別の事。
……私とお母さんに関する話が明るい方へ向かったとて、お父さんとしおりさんがまだ籍を入れていない事実は変わらない。
二人が何を基準にしているのかはわからないままだ。私がみんなで食事を摂るようになったら、って可能性もあるし、どちらかが定めた期日までになにかが起きたら、みたいな条件設定の可能性もある。
それがある以上、「親が再婚した」っていうのはあんまり言いたくない。「離婚してたんだ」だけでも気を遣わせるのに、その辺の話はどーしても……うん。
「っていうか、じゃあデートは危なくない? なんで一緒にいるのって言われるでしょ」
「付き合ってるから、で誤魔化せばいいじゃん」
「普通に嘘じゃん。……あと女の先輩と付き合ってる、はいのりちゃんの愛されシステム的に微妙なんじゃないの?」
「愛されシステムって……。……確かにあたしの人生設計上にそういうのは発生しないつもりだったけど、再婚と恋人だったらまだ後者の方がコントロールしやすいよ。特に相手が男子じゃないってなれば、なんだろ、媚びてないっていうかさ。同性愛NGな子には〝そういうつもりであって結婚とかは考えてないから〟で通せるし」
「あーね?」
遊びだから……は違うけど、ある種の〝恋人ごっこ〟に映るのか。
再婚離婚云々はごっこ遊びの域じゃないから……と。ちゃんと考えてるんだなぁ。
でも、そうだよね。
いのりちゃんは……とっくに受け入れて、どうするかを決めていたんだ。
再婚に関しては自分じゃどうにもならないことだから、受け入れるしかない時の暗礁と見定めて……とっくの昔から。
私は座礁の確定から目を背けて、ずっとずっとうじうじうじうじ……。
「だから見つかるのが目的みたいなとこあるかも。デート行った後も街でショッピングしよ、お姉」
「……それは、わかった。補填でもあるし、一緒にいる理由付けもできるし……受け入れるよ」
「やた!」
しかしとなると、どこへ行くか。
那奈が言ってた遊園地、水族館、博物館は……ゴールデンウイーク中は混むだろうなぁ……。とんでもなく混むだろうなぁ……!
「遊園地とか水族館みたいなとこはやめよーね。目撃云々の前に混むし」
「よかったそっち側で」
「なにがいいかなー。おしゃれなカフェか、映画館か、おうちデートか……」
「映画館もおうちデートも目的に沿ってないような」
「ゲームセンターとかどう? お姉、行ったことないでしょ」
「いやだから私別にがり勉ちゃんじゃないってば。中学の頃は結構そういうの行ってたよ」
「ほんとにぃ? ……クレーンゲームとかできる? お姉」
「得意だった覚えがある。高校入ってからは一切やってないからアレだけど」
ゲームセンターは……正直高いからなぁ。ワンプレイ百円の時代はもう過ぎ去ったというか。百円でも高かったわけだし。
あとうるさいから話をする場所じゃない、っていうので友達と遊びにいく候補からも消えた。スポーツ施設はまた別。
「ふつーに海とかだめなの? 泳ぎはせずに眺めるとかさ」
「……それはロマンチックに夕陽を眺めてみたいな?」
「いや、帰りにショッピングするんでしょ? だったらそんなに遅くはならないんじゃ」
「昼間の海を眺めるだけ、ってこと?」
「まぁサンダルで砂浜歩いたりさ。波打ち際でカップルがデートは定番じゃない?」
「お姉それ……もしかしてカラオケの映像知識だったりしない?」
ギク。
……ええそうですよ。真美とも話した通り、少女漫画なんか読まないし、恋愛小説も読まないもん。
デートのイメージ映像っていうとカラオケで流れるよくわからん砂浜とかよくわからんパルテノン神殿みたいな柱の映像とか人混みとか……そういうのばっかですよ。
「よし。……仕方ないからあたしがデートプラン立ててきてあげる」
「それは〝お姉に任せたらとんでもないことになりそう〟というリスクヘッジだったりしますか」
「うん」
言い切りおった。言い切りおったぞこの子。たたりじゃ! たたりじゃ!!
まぁ実際考えてくれるならありがたい。無理だし。
「明日は私一日中いなくて、二十六、二十七、二十八は前伝えた通り泊まりいくから」
「二十九か三、四はどう? テニス部休みなんだよね」
「どっちも大丈夫かな?」
「じゃあ予定立てたらメッセするねー」
ゴールデンウイーク。今年は例年より長い十二日間の休み。軽く春休みだよな、って言ってる男子がいたけど、本当にそう思う。
それでも予定は詰まる詰まる。嬉しいことだ。
「明日お姉いないなら、デート用の服買ってこよっかなー」
「……いや姉妹デートにそこまで気合入れなくても」
「もし誰かに見つかったら恋人のふりするんだし、本気っぽさは必要じゃない?」
「それは……確かに?」
え、でも私気合入れた服とか持ってないぞ。
私も買いにいくべき……かも。でも前半予定詰め詰めだから……どっか……。
「……そういえばいのりちゃんの気合入れた服って、もしかしてフリフリのドレスみたいなへぶ」
両腕の上腕二頭筋で頬を圧迫される。ついでにお腹も揉まれる。腕長いねいのりちゃん……。
「そういうのは家の中で着るだけだし。……かっこいい系着てくから、覚悟しといてねお姉」
「にゃんのかくほ……?」
「かっこよすぎて惚れちゃうかもだから」
いのりちゃんに?
うーん。
「かわいくて、はあるかもしれないけど、かっこよくてはないかなー」
「……。……お姉あたしのことかわいいって思ってんの?」
「え、かわいーじゃん。見た目も顔も、言動も」
「ふ……ふーん? ……ならまぁ……可愛い系でもいーけど」
解放された。なるほど褒めれば解放されるのか。
私はどーすっかなぁ。
……私なぁ。地味子で背が低いから、かっこいい系もかわいい系も似合わないんだよなぁ。
浅野とかアキにもよく「お前はブレザーが一番似合う」とか「ユカは夏服似合わないけど冬服はがっちり似合うよね」とか言われてるし。なんなんだあいつら。
「あそーだ。お姉のデート服もあたしがコーデしたげよっか」
「際どいのとかはNGで」
「え、それフリ?」
「違いますー」
「……ま、わかった。全力でかわいいの選んできたげる」
「領収書もらってきてね。後で出すからさ」
「はーい」
しかし。
まだ……距離感を掴みあぐねている部分はあるにせよ、今の私達って結構良い姉妹感出てるんじゃないか?
このまま……これが続いていくだけでも、本当の姉妹になれそうな気がする。なにか……ヘンな出来事さえなければ。
「あ、でさ。さっき浅野先輩の話したのって」
「うん?」
「浅野先輩に好きな人ができた、みたいな話であってる?」
「……」
「沈黙は肯定だよお姉」
う、ぐ。
……え、私ってそんなにわかりやすいですか。
「なんてね。何を隠そう、あたしが真っ先に相談されてたんだよ。浅野先輩に好きな人できて、何が好きかわかんない、みたいな話」
「え……そうだったの?」
「うん。ほら、浅野先輩ってギャルやってるけど感性は大分……なんていうのかな、キャピキャピしてないじゃん? でもあたしはさ、こういう性格って浅野先輩にもバレてるし、だからこそリサーチ上手だって思われてるみたいで」
「あー。なるほどね」
流行に敏感じゃないとダメだもんね、いのりちゃんは。
しかし……成程。そういう繋がりが。
え。
「え、じゃあ、浅野が誰を好きなのかも」
「うん、知ってるよ」
「おお……」
いや聞かないけどね。
いや聞かないけども。
「どんな子か気になる?」
「う」
「まずねー、お姉くらいちっちゃい人で、お姉くらい性格ねじ曲がってる人で、お姉くらい──」
「ストップいのりちゃん。その子にかこつけて実はいのりちゃんが思っていた私への不満を列挙しようとしてない、それ」
「ソンナコトハナイヨ」
「せ、性格ねじ曲がってる度合いで言えばいのりちゃんだってどっこいどっこいでしょ!」
「あたしは隠してるもーん」
だからなんだ。
……性格悪いとか性格ねじ曲がってるとかさぁ! 好きでこうなったわけじゃないってば!
いや直そうとはしてないんだけども!
「お姉、ちょっとこっち見て」
「んぇ?」
こっち。
だから後ろで、上。
首をぐりゅんとしてそっちを向けば……ぱしゃりとシャッターが閉じる。
あの。盗撮やめてください。
「堂々としてるからいいでしょ」
「そういう問題じゃ……」
「お姉、はいあーん」
「へ?」
突き出された指先。
え。……え、なに。吸い付けって言われてる?
なにいきなり。本当に。
「……」
「……」
「……」
「……いやどれだけ待ってもしなムゴゥ!?」
口を開いたその瞬間、指が入ってきた。
えとえと、あのあの。
そのまま舌の根がぐいぐい押される。咳き込む咳き込む。
「やめへ」
「うひゃあ、お姉の舌が指舐めておもしろい」
「いおぃひゃむ」
「もー。堪え性ないなぁお姉は。──はいチーズ」
ぱしゃ。
珍しく悪戯が短く終わったかと思えば、また盗撮。
肖像権をそろそろ主張しますよ。……っていうか。
「え、今どっかに送った?」
「違う違う。クラウドストレージに保存しただけ」
「なんだそっかぁ……じゃないけどね?」
どんなデジタルタトゥーだよ。
「ま、これだけ焚きつけて動かなかったら……もう貰っていいってことだよね」
「……なんの話?」
「こっちの話ー」
さいで。
まぁ、なんにせよ。
「そろそろ自分の部屋に戻りなさい」
「はぁーい」
その聞きわけの良さを「妙だな」って感じてしまうのは……まだ私が疑っているってことなのかなぁ、とか。
そんなことを思った、ゴールデンウイーク前日の夜でした。