私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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25.告白された。

 暗く、埃の舞うような廃屋。

 窓に映る白い手。そちらへ気を取られたら、今度は反対側から自身の視界を覆うようにして手が這わせられる。

 割れる陶器の音。悲鳴。断末魔。虫の蠢き。鼠の走り。

 現実感を損なわない程度にかかる静かで不気味な音楽は一層恐怖心を掻き立て──。

 

「……?」

「ぜんっぜん怖がんないじゃん!!」

「うわ、その声が一番びっくりしたけど」

 

 不肖、振原由佳。

 初めてのVRホラーゲームにて判明──ゲームのホラー、全然怖くない。

 

 

 in那奈ズハウス。

 私の素直な言葉の罰として設けられたらしい今回の罰ゲーム大会。大会という割に私しか参加しないコレで、つけられたのはなんだか仰々しいヘルメットみたいなもの。歯医者さんの眼鏡っぽいやつと言って伝わるか。あるいはクイズ時間衝撃のマシン。

 ホラーゲーム。ぶいあーるのほらーげーむ。……らしい。いやVRが何かくらいは知ってるけど、実現してたんだ……という気持ち。

 で、実際に被ってみたら。

 

「う、うーん。視覚だけだと……聴覚もまぁいい出来だとは思うけど……」

「あれぇー!? 由佳ち前お化け屋敷行った時めちゃくちゃ怖がってたじゃん!」

「だからアレは五感全部怖いじゃん。そこにいる感じがするし」

「そういえば……由佳は前から心霊写真とか恐怖映像とかでは怖がらなかったわね」

「だって害がないじゃん」

「まるでお化け屋敷には害があるみたいな言い方するな」

 

 真美、アキ、浅野と私で井俣家に来ている。

 この機械は弟君のものだそうなので、できるだけ丁重に扱わないと。

 

「じゃあ……次から、びっくりシーンの時由佳ちの身体触るとか」

「流石にそれは変態的過ぎないか中曽根」

「あと真美、あなたさっきからびっくりシーンで身体揺らしていたのだから、由佳を驚かせるどころじゃないんじゃない?」

「べ、別にびっくりしてないけど!?」

 

 お化け屋敷の時、私以上に怖がってたもんね真美。

 曰く「手を出せない相手は怖い」らしい。あなた剣道部じゃなくて弓道部ですよね。弓で殴るんですか。

 

 なお、那奈のホラー耐性は激高。曰く「弟に格好つけるために入る場所」だとか。彼氏さんにもそれやるのだろうか。

 アキと浅野は知らない。一緒に行ったことないかも。文化祭のお化け屋敷は行ったけど、私ですら怖くない代物だったからなぁ。

 

 ……。

 ふぅむ。

 

「浅野」

「なんだよ」

「ちょっとやってみて。VRホラー」

「は? なんでウチが。お前の罰ゲームだろこれ」

「今思うとさ、あの話題が出た時に浅野がいきなりキレたのって、怖かったからなんじゃないかなって」

 

 言えば、皆の目が輝く。

 フフーフ。舐めるでないぞ浅野大明神。こうなったみんなはもう罰ゲームとか関係ない。

 

「椅子どーぞ」

「はーい霞、座って~」

「ちょ、やめ……くそ無駄に力つええな井俣!!」

「あきぱち、かすみんの手押さえて。私足押さえる。……かすみん? 暴れないでね~。足バタバタさせたら私蹴られちゃう」

「蹴ってやるよ全然!」

「顔はさすがに、ねぇ?」

 

 いや私が誘導しておいてなんだけど、なんだこの集団。

 他人を椅子へ拘束する手際が良すぎる。あまりに手慣れている。もしや学生は世を忍ぶ仮の姿で、実は人攫い組織のエージェントなんじゃ。

 

 人攫い組織にエージェントの概念あるのかな。

 

「ほら由佳、ゲーム機被せて」

「あ、うん」

「振原、お前それやったら後でどうなるかわかってんだろうな」

「大丈夫大丈夫。そんな怖くなかったし。……ちなみにどうなるの? 殴られるの?」

「……覚えてろよ」

 

 怖いので被せる。

 よーし。なお操作は私。浅野は映像だけ見る。テレビ画面にも映像は出力されているからプレイに影響なし。

 

 では、ゲームスタート!!

 

 

 泣いた。

 

「ご……ごめんね浅野。そ、そこまでとは思ってなくて」

「うるせ……うるさい……」

「わ、わ~……なんだろこの気持ち……」

「そうね……罪悪感も多分にあるけれど、色んなお化け屋敷連れまわしたいこの感じ……」

 

 浅野が泣いた。

 いや本当にごめん。そこまで嫌いとは思ってなくて。いやだってめちゃくちゃ強がってたから苦手程度なんだろうなぁとか思ってて。

 

「つかお前操作下手すぎ……余計な怖さが追加されてた……」

「それは実際そう」

「……」

 

 え、えーと。

 ど……どうすれば償えますかねこれ。

 

 とりあえず頭でも撫でてみる……みたいな。

 

「なに……ふざけてんの?」

「よしよーし……みたいな」

「……」

 

 なぜか大人しく撫でられ続ける浅野。 

 まー……あれよね、この歳になると頭撫でられる機会とか無いから感覚として物珍しくて……みたいな……みたいな……。

 

「かすみんごめんね~」

「けどまさかスミがここまでホラーに弱いとは……」

「ね、霞。今──あら?」

「井俣。……今送ったメッセ見ろ」

 

 えーとえーと。あと心を落ち着かせる行為は……ハグとか?

 いやいやいや。ぶん殴られるに終わるでしょそれこそ。

 

「なんでメッセ?」

「直接言えないこと?」

「夕ご飯、みんなでファミレス行く予定だったじゃない。でも由佳に作らせたいからお前ら三人で食材買ってこい、だって」

「どひゃあ、パシリだぁ!」

「あ、でも久しぶりにユカの本気料理食べられるなら別にいいかも」

「お前らには食わせん」

「おーぼーだー!!」

 

 料理。確かに私の償いでできることはそれか。

 でもいいのかな。ここ那奈の家だけど。

 

「ママに許可は取っておくから気にしないで。──じゃ、霞。存分にね?」

「うるせ。はやくいけ」

 

 何の話?

 ……かを説明することなく、三人は出ていった。

 友達の家で、その家主ではない二人が二人きり。

 

「振原」

「あ、う、うん」

「……まだ怖いから……はぐ、しろ」

 

 ──おや。

 え、あれ。

 ん?

 

「はやくしろ」

「わ、わかった。えっと……前からでいい?」

「……おう」

 

 え、え。

 あれ……今私、浅野のことかわいいって思った?

 

 前から抱き着く。

 身長差からハグっていうか本当に抱き着いただけになっちゃうけど、身体の芯まで暖めるつもりで密着する。

 震えは……無い。

 

「ちょっと頭こっちやって」

「ん……のわ」

 

 言われた通りにしたら、後頭部を押さえられて……そのまま前へと、私からしてみれば背中側へと倒れ込む。

 ぬぐ……浅野の身長はいのりちゃんと同じくらいなので、彼女にされているのと同じ──違うのは裏面──抱き潰しが発生する。

 

「浅野……流石に苦しいかもです……」

「うるせ。……あったかいなぁ、振原は。ガキかよ」

「どういう関連性……」

「あ? 知らねえの? 赤ちゃんって体温高いだろ」

「ガキってそこまでのガキじゃぬぇぇ」

 

 そのままぐりぐりされる。え、もしかして挽き潰そうとしてる? ミンチ? そこまで嫌だったのホラー。

 ……っていうか。いや知ってたけど……やっぱ隠れ巨乳だよね浅野って。

 

「はむ」

「ひゃああああ!?」

「うるひゃい……みひもほへさへふな……」

「耳の中で喋るな!!」

 

 なにをされているのか。

 左耳をはむはむされている。どういうことですかなんですかこの状況は。

 

 ハッ。

 

「ホラー怖すぎて幼児退行しちゃったとかそういうこと? だとしても耳食べるのは理解できないけど……!」

「っぷは……もう、暴れんなよ。うまくくえねーだろ」

「いやだから食べるなって……ひゃ」

 

 耳に舌が這わせられる。それこそホラーゲームの効果音みたいな水音が脳裏に響く。

 これ幼児退行じゃなくて……もしかして感化されたのかな。あのゲーム、猟奇的なシーンが含まれますって注意書きあって、実際にお腹の中身出ちゃうみたいな描写あって……それで浅野が猟奇的殺人犯に……!

 耳を食べる猟奇的殺人犯はもう耳なし芳一の怨霊だよ。全身に悪霊払い書いてないからまさか全身食べられるのかコレ。じゃあもう一寸法師じゃん。

 とか。

 パニくり過ぎて、意味の分からない連想ゲームが脳内を流れていく。

 

 いや違う、そうだ。

 とりあえず目を覚まさせなければ。

 

「ぬぐぐぐぐ」

「……んだよ。慰めてくれるんだろ? じゃあ好きにさせろよ」

「目を覚ませ浅野……!」

 

 ハグに回していた腕を前へと持ってきて、耳を食んでいる浅野を引き剥がす。

 ぬる、と。

 

「ひ!?」

「……はむ」

 

 浅野の顔に当てていた左手。その指……人差し指、中指、薬指が呑み込まれた。

 み、見境が無い! やっぱりおかしい!!

 

「浅野、浅野! どうしちゃったの! そんなにホラーやばかったの!?」

「ん……。……ん、そーだよ。だから罪滅ぼしに為すがままにされとけよ」

「流石に食べられかけたら抵抗するけど!?」

「あ? ……あー。……ま、それもいいかもな」

「何が!?」

「食べるって話」

「いやダメだけど!?」

 

 呑まれていた左手。その手首が掴まれて、バッと持ち上げられる。

 そしてそのまま──かぷ、と。

 

 首筋に、噛みつかれた。

 

「!?」

「……」

「きゅ……吸血鬼さんであらせられましたか……?」

「……あんま上だと、見えちまうからな」

 

 なにが!?

 

「……なぁ振原。このままちょっと話聞いてくんない?」

「え、この恰好で!? 鼻息首筋にあたってめっちゃこそばゆいんだけど!?」

「いいからさ」

「私が良くないんだけど!」

 

 ざらり、と……首筋を撫でる湿っぽいもの。

 

「落ち着いて、いいよ、って言え。さもなきゃホントに歯を立てる」

「い……イイヨ」

「よし」

 

 あの。こわいです。あの。

 

「……ウチさ。多分入り口が違えば……振原のこと嫌いになってたと思うんだよな」

「あ、うん、それは多分そうだと思う……性格合わないし」

「我慢するやつ嫌いだし、周りに合わせるやつ嫌いだし、ぎゃあぎゃあ言うクセに実力伴ってないやつ嫌いだしさ」

「ぐさ、ぐさぐさぐさ」

「それでもこーして友達できてんのはさ。……多分お前が、サボんねーやつだったから、なんだろうなって」

 

 サボらない。

 ああ……まぁ、それは、確かに。

 私が唯一誇れること、かもしれない。

 

「何をやるにもさ。空回りしてたって悪辣になったって、お前やめねーじゃん。勉強も家事も……一度やるって決めたら最後までやり通す。しかもどんどんクオリティ上げてく。普通下がってくのにな。……すげーよ、そういうとこ」

「う、うん。褒めてくれてありがとう」

「……ウチがさ。我慢するやつ、周りに合わせるやつ、ぎゃあぎゃあ言うクセに実力伴ってないやつが嫌いなのってさ。……中学の途中までのウチが、まさにそんな感じだったから、なんだよな」

「え、浅野が?」

「そ」

 

 中学の途中……というのはもしや、お兄さんがオタクへドロップアウトするまでの間、だろうか。オタクのことドロップアウト先って言うのやめようよ。

 

「あの頃のウチは……なんつーか、虎の威を借りる狐の現代版でさー。イケメン兄貴のだったり、金持ちの友達のだったり、テニスうめー先輩のだったり……ま、多分かなりヤなやつだったよ。我慢して自分押し殺して、強大な存在の影になってそいつに合わせて言動変えて、得意気に言って指図するくせに自分はなんにもできない。……そんなやつだった」

 

 信じられない。

 浅野はそれの正反対なのに。

 

「けど、ウチと振原はちょっと違った」

「え、今の最低な過去浅野と現在由佳ちゃんは同じことをしていると」

「うるせえ。黙って聞け」

「はい……」

 

 こわい。このひとこわい。今歯当たったよ首筋に。

 

「続けらんなかったんだ。何をするにも中途半端。継続は力なりが実践できなかった。中一の頭の頃は本当に酷かったな。勉強も部活も人間関係も……構築のために走り回った挙句、燃え尽きて飽きちまって放り出す。昔いた女子グループもさ、まぁソリが合わなかったのは勿論あるんだろうけど、あいつらからしてもウチはお払い箱だっただろうな。うるせーから」

 

 ごろんと寝返りを打つ浅野。前にいのりちゃんにやられたのと同じだ。そうなると、私が上になる。仰向けの浅野に飛び乗っている形になる。

 

 ……そのまま、手と手が合わせられて、私の指と指の間に……浅野の指が通された。

 引き倒される。また左首筋に噛みついてくる浅野。

 

「勿論全然違うよ。振原はそんなやつじゃない。ただ性格悪い同士ってだけ」

「その注釈いるかなぁ」

「けど……お前はサボんない。飽きない。……だから、ウチが持ってる振原への嫌いは……多分、憧れなんだろうなぁ」

 

 どういう意味、だろうか。

 今まで懇切丁寧に説明されていたように思うけど、理解は及んでいない。

  

 憧れ? 浅野が私に?

 

「どういう──」

 

「好きだ、振原」

 

 突然顔を上げた浅野が。

 私の唇を……奪う。

 

 ……?

 ……!?

 

「んんんぅ!?」

「……」

 

 唇を割って舌が入ってくる。

 知らないキスだ。え、いや、本当にキスだこれ。

 ど……え? どういう……え、わかんない。なに?

 

 今浅野なんて言った?

 

 好きだ、って。

 

「ぷは……はぁ……」

「ぁぅ……」

 

 これ……え、からかわれ……てる? そういうこと……?

 

「明日から旅行だろ。そん時……もやもや抱えたままにするのは勿体なかったし、ウチが嫌だったから、今言った。ホントは温泉とか朝日見ながらとか、そういうロマンチックさがあった方がいいのかもしれないけど……ウチらそういうのじゃないしな」

「え、あ、え」

「返事は……まぁ、ゴールデンウイーク中にしてくれたらいい。それまでは今まで通り友達で良い。ああいや、別にフラれても友達なのは変わらんから気にするな。……ウチはただ、振原のことが好きだって感情を自覚して……それを伝えたかっただけ」

 

 なにも入ってこない。

 頭がぼーっとする。

 

 その顔を……両頬を掴まれた。

 

「ぎゅむ」

「しっかし、ふざけやがって的形のやつ。昨日の写真とか……何がしたいんだよホント」

「ほ、ほーいえふぁ、いのりひゃんあしゃののしゅきなひほひっへふっへ」

「あ? だからお前だよ。昨日ガッコで話してたのもお前。正直言って性格悪い子ってお前が言ってただろ。その通りだよ」

 

 だから私と共通点が多かったんだ。

 いや気付きなよ私。……いやいや、浅野の好きな子が私だなんて……思い至るワケないって。

 

 頬から手が離されて、再度抱きしめられる。ただし今度は首筋になにもない状態で。

 

「暖かい。……やばいなー。三人が帰ってくるまでに離さなきゃいけないのはわかってるけど……やばい、告白してから……すげー離したくない」

「あ……浅野、私何言えばいいか……わかんないんだけど」

「いいよ。そりゃそうだろ。普通に友達だったやつから告白受けたらそりゃそーなる。……だからゴールデンウイーク中悩みに悩んでくれ。めいっぱい悩んでほしかったから初日に言ったようなもんだし」

「うぅ……」

 

 酷い。楽しむに楽しみ切れなくなっちゃうじゃないか。

 ……。

 ……え、ホントに言ってる?

 

「も……もしさ。私がOKしたら……浅野は私となにしたいの? 手を……繋ぐとか?」

「んー? んー……。……目隠しして、回転する椅子に乗せて回して、方向感覚失ったところをバンで運んでどっかの倉庫に閉じ込めて、その様子をみんなでウォチパ……」

「それ本当にカップルのやること!?」

「冗談だよ。……まぁ、添い寝するとか。……あと……お腹舐めるとか」

「前者は旅行でいつもやってることだけど後者はなに!?」

「うるせーな。お前別にカップルのスタンダード知らねえだろ」

「知らないけどおかしいのはわかるよ!!」

「おかしかねーよ世のカップルはみんなこれやってる」

 

 そ……そうなの? 那奈に聞く……うわ絶対答えてくれないじゃん。

 

「待って、もっかい確認させて。……浅野は、私のことが……好き」

「おう」

「それは、親愛じゃなくて、恋愛で」

「ま、そうだな」

「さっきのキスは」

「お前が無防備で、且つウチの中の好きが溢れ出して思わず。……なんなら脱がしたいとも思ってる」

 

 逃げる。

 逃げられない!?

 

「えっちなこと……だよねそれって。そ、そ、そそ、そんな知識あるの浅野」

「ま、知識だけだけどな。ネット見てりゃ自ずと転がってくるし、フツーに保健体育でもやるだろ」

「ほけ……」

「あとは……さっきみたいにお前の首筋を噛むっていうのもちょっとやってみたい。首筋だけじゃない、いろんな所を噛んでみたい気持ちはある。……から、吸血鬼の線は捨てきれないな」

 

 改めて考えると、私を抱きしめる浅野の手つきはどこかいやらしい気がしてきた。

 背中をさらさら撫でる手。時折おしりに触れる手。脇腹あたりをさすさすする手。

 ……いや気付きなよ私。充分いやらしいよ!?

 

「浅野が……いのりちゃんに恋愛相談したのは、いのりちゃんが私のことよく知ってるから……?」

「は? 恋愛相談? ……ウチが? 的形に?」

「き……昨日、そうやって」

「するワケねーだろ。……アイツほんとどういうつもりなんだよ」

 

 嘘だったってこと?

 だとしたら、なんのためにそんな嘘を。

 

「……かわいいな振原」

「いきなりなに!?」

「いや、いつも思ってはいたんだよ。けど口に出さなかった。でも……二人の時はもういいだろ」

「ちょっと待って、やっぱ今の浅野おかしいって。その……好きとか、そういうのはわかったけど、性格まで変わってるって。ホラゲのせいならもう絶対勧めないから安心して、戻って」

「ホラゲのせい……っていうか、誰もいない、誰にも見られない場所で二人っきりが初めてだからだよ。温泉は誰か来る可能性あったし、教室なんて言わずもがな。ここは……井俣ん家だけど、あいつの家族今誰もいないらしーしさ。……ここでなら本性出しても構わないから」

「本性とは」

「ウチがバリタ──」

 

 ドアに鍵が刺さる音がした。

 それが回される音も。

 

「たっだいま~!」

 

 真美の元気な声。……流石は運動部三人。私みたいにヨタヨタすることなくスムーズな行程で帰ってきたらしい。

 

「で、バリタってな、ぬあ」

「あいつらにはウチが告白したこと言うなよ。……井俣は知ってるが」

「あ、さっきのメッセってそういう」

「会話内容他言無用口外厳禁。……いいな」

「はぁい」

 

 して。

 キッチンに──というか冷蔵庫に──食材を入れたらしい三人がリビングにまで戻ってくる。

 

「ただいまかすみん。涙引っ込んだ?」

「うるせ」

「ただいまスミ、ユカ。いいこにしてた?」

「アキは私達のお母さんなの? それ那奈ポジションじゃない?」

「あらどういうことかしら由佳」

「ほんとは嬉しいくせに」

 

 浅野は……本当に何も無かったかのように、いつも通りのふるまいをする。

 まるでさっきの告白が泡沫の夢であったかのように。

 

「さて……夕ご飯まで時間あるし、ホラー効かない由佳ちとホラーダメダメかすみんが露呈したところで──普通にゲームして時間潰そっか!」

「ん? なに言ってんだ中曽根」

「え」

「そうそう。いるじゃんもう一人良い反応する子がさ。ね、マミ」

「え?」

「はーい暴れないでね~」

 

 スムーズだった。今回は浅野と私も手伝う。

 

「え、えーと。あはは……私も泣いちゃうカモ、なんて……」

「中曽根は泣いてるくらいがちょうどいい」

「ユカに思う泣かせたさって、時々マミにも思うんだよね」

「どっちもクソガキだからだろ。中曽根は身長がガキっぽくないけど性格クソガキだから」

「私を巻き込む必要ありましたか」

「こら! 暴れないの!」

 

 あれよあれよの間にゲーム機が装着されて──。

 

 そこから一時間くらいの間、井俣家に、事件性のある悲鳴が響き渡り続けるのだった。

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