私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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26.友達の過去を聞いてみた。

 すぐ近くに砂浜がある山間部に建てられた六階建てのホテル、『星ふるお宿』。

 屋根が階段状になっているのが特徴で、全階層にあるラウンジのどこからでも星天が見えるデザインが素晴らしい。

 大浴場、カラオケ、卓球、ビリヤードなんかの「欲しい各種」も揃っているし、人数が増えるほど割引されていくプランが私達には魅力的。あ、ちゃんと同意書はあるよ。

 ご飯は朝食だけついていて、昼・夕食は外で食べてきてねスタイル。歩いてそう遠くないところにファミレスが幾つかあるし、映画館複合の総合施設もあるのでその辺困ることはない。

 

 みんなで出し合って取った、はじめての〝結構いい部屋〟へ荷物を下ろせば、ぐわんと広がる一面のオーシャンビュー。

 部屋付きのお風呂までオーシャンビューらしいのはちょっと恥ずかしいけど、下からも上からも見えない構造になっているので問題はないだろう。

 

 記念に一枚。……その後、一瞬の逡巡のあと……家族メッセに写真を送る。

 すぐにつく既読と。

 

 ──〝楽しんできてね由佳ちゃん〟

 ──〝こっちのことは気にしなくていいからな〟

 ──〝お土産期待 ( ᗜ ω ᗜ)〟

 

 の早い返信。

 メッセだとほんと印象変わるよねいのりちゃん、なんて思いながらケータイを閉じる──閉じようとしたら、新規メッセージが。

 

 ──〝お母さんには送ってくれないの?〟

 

 ……外へ出歩くことができない人にこういうの見せるのは……親愛を通り越してしまうんじゃないか、って杞憂があったから送らなかったんだけど。

 というかなんで今みんなに写真送ったのわかったの。相変わらずエスパーなのお母さんは。

 

 写真を送る。私と、数人の友達が映り込んだ写真を。

 

「自撮り? ユカがやるのは珍しいね」

「うつる~」

「いえーい……ってなんで私のお腹に手を当ててるのよののか」

「ウェストの太さの記録を……」

「太さっていうなせめて細さって言え」

 

 そんな、騒がしい写真を。

 

 

 

 海だー!!

 

「って、なってるんだろうなぁ」

「想像に難くないな」

 

 別に海開きが為されているわけでもなし、でも日差しは暑い。……ので、私と小池は海へ行かなかった。

 いや付き合い悪いとかじゃなくてね。まぁ遊びに来た勢と休みに来た勢の違いといいますか。私達以外にも海へ行かなかった──別のことをしている子たちはいるわけだし。

 

 オーシャンビューな部屋で、ラタンの椅子に座って……ゆったりまったり。

 

「……正直浅野が行ったことに驚きを覚えているよ」

「それホントにね。どっちかというと休む組だと思ってた」

「私もだ」

 

 ま、浅野は案外ノリ良いからね。

 ……いやそれだとまるで行ってない組がノリ悪いみたいになるけども。

 

「……なにか心変わりでもあったのか。振原、心当たりなどは……ん」

「イ、イヤー? ナイヨココロアタリナンテ……」

「あるんだな」

 

 いや……いやぁ?

 実際心当たりと言えるのかは定かではないというか。

 その、えっと……私に……告白してきた、こと……が。

 浅野をどう変えたか、というのは。

 

「別にどちらを責めているというわけではないし、心当たりがあるからといって詰めはしないから落ち着け」

「あ、うん。焦ってるフリだけど」

「……」

「ごめんって」

「こっちも怒ったフリだ」

「……」

「お互い嘘が下手というか、伝わりづらいな」

「ね」

 

 小池。小池小池。

 私と同じくらいスレンダーだけど、背は普通にあって、メガネ。浅野と同じ中学で、口調も浅野と似ている……けど別にギャルじゃないし暴力的でもない。いや別に浅野も暴力的じゃないんだけど。

 ちなみに趣味はサーフィン。ネットサーフィン? って聞いたら波に乗る方らしい。泳げないのにどうやって得意になったのって聞いたら「親に面白半分で乗せられて泳げないから必死で落ちまいとしていたら乗れるようになった」とのこと。ただし泳げない──バタ足もできない──ので沖までは誰かに連れていってもらわないと無理らしい。

 なおネットサーフィンも趣味ではあるらしい。

 

「浅野の中学の頃ってどんなだったの?」

「また唐突な……。……まぁ、ほとんど今と変わらん。本人曰く中一の頃は違ったらしいが、少なくとも私と知りあった時はもうああだった」

「我が道系?」

「そうなる」

 

 自己認識は問題なしなのか。

 じゃあホントに……なのかな。

 

「ああ……今と違うところがあるとすれば、スーパーブラコンだったことくらいか」

「え。浅野のお兄さんが高校上がってから全然になったんじゃなかったっけ」

「いや? 中三まではべったりだったし、学校ではキモいキショいと言うくせに……一緒に買い物へ行っていたり遊園地デートに行っていたり……」

「浅野が?」

「浅野が」

 

 へ……へー!

 いやホント、何度か会ったことあるけど私には普通の爽やかイケメンに見えてるからなぁ浅野のお兄さん。

 やっぱ大好きなんだ、浅野。

 

「なんで高校からやめちゃったんだろ」

「浅野兄が大学へ行ったから、というのが有力な説だが、普通に恥ずかしかった説もある」

「オタクなのが?」

「振原の認識しているオタクというものからさらに離れたオタクだからな浅野兄は」

「というと?」

「ダッ……んー。ドー……。いや……抱き……いや? マウ……うん。同……まぁ、振原にはわからん世界の話だ」

「えー」

 

 気になるじゃん。

 ガチガチの恋愛なら気を遣うけど、そういうブラコンエピソードはどれだけあってもいいんだからさー。

 

「じゃあさ、中学時代の浅野の写真とか持ってないの?」

「なにがどうじゃあなのかわからんが……あー、どうだろうな。スマホ変えたからなー……。……あ、あった。ほれ」

 

 ほれ、とスマホを見せてくれる小池。

 そこには──竜宮城みたいなデコで、バッチバチにキメている浅野と……桃色と紫色のグラデーションな髪色をした小池っぽいギャルが。

 

「え……小池って元ギャ?」

「違う。私はその下の方にいるカメ」

「カメ? ……あ、ほんとだいた」

 

 気付かなかった。

 すんごく不満たらたらな顔で亀にされている小池が下の方にいる。顔を緑色にされて、甲羅背負わされて。

 

「え、じゃあこっちのギャルは誰」

「私の母親」

「え゛」

「ま引くだろうな。それが正しい反応だ」

「いや引くっていうか……ああでもメイク除去して考えれば小池に似てる……かも」

「ノーメイクのウチの母親はバチバチ私だぞ」

 

 へー。

 確かに小池の家行ったことなかったな、そういえば。

 いいじゃん、ファンキーなお母さんでさ。

 

「つかこの母親が浅野をバチバチギャルの道に引き摺り込んだというかだな」

「あ、じゃあ中一の時はそこまでバチバチじゃなかったんだ」

「いやギャルではあったらしいんだが、なんだ、垢ぬけない感じだったとか。それが今みたいなバチバチになったのがウチの母親に会ってから、と」

「へー」

 

 じゃあ憧れの人だったりするのかな。

 

「お母さんって不思議だよね。うちのお母さんも初見だとミステリアスな人って言われがちなんだけど、それなりに会うとお転婆お茶目に印象変わるし」

「久しぶりに聞いたな茜さんの話。まだお転婆お茶目なのか」

「まだ、って……あの歳になってもそうなんだから、一生そうなんじゃない?」

「確かに。いやでもウチの母はもうギャルやめたぞ。……正確に言うと年二になった、が正しいが」

「記念日とかだけやりに行く感じ?」

「結婚記念日と父親の誕生日だけな」

「……えそれってお父さんがギャル好き……とか?」

「まぁそういうことだ」

 

 う、うん。イイトオモウヨ。そういう小池ママさんを好きになって結婚したんだろうし。

 お父さんも……実はそういう趣味があったりするのだろうか。しおりさんとお母さんの共通点は……あー、初見おっとり系? 二人とも中身バチバチだから全然おっとりしてないけど。

 

「振原にギャルメイクは……似合わんだろうな」

「絶対無理」

「ちなみに私も無理だ」

「えー? かわいくなると思うけど」

 

 私達以外の声。首だけ振り返ると、そこにはカップに入ったパフェを三つ抱えた愛璃の姿が。

 愛璃はそれを私達の間にあるテーブルへ置いて、自分も椅子を引っ張ってきて座った。

 

「大野、そういう言葉はせめて金瀬程度でもギャルになってから言え」

「ギャルだと雇ってくれるバ先少ないからね」

「ああ……」

 

 最近は寛容になってきているとはいえ、それでも、だもんね。

 しかし多少の罪悪感。このパフェのお金、まさか。

 

「バイト代じゃないから安心してよ。ママが珍しくお小遣いくれてさ。……あ、くれるのが珍しいんじゃなくて、あたしが全額貯金にって言ってるからなんだけど……この旅行くらいは、って」

「どちらにせよな気がするし、パフェ代程度なら出すから後でレシート寄越せ」

「貰ってきてないから要らなーい」

「嘘だな。大野はどんな小さな買い物でもレシートを貰う」

「……まぁ旅行終わったらね」

 

 忘れると思ってるみたいだけど忘れないからね。

 

 そんな話は一旦措いて擱いて。

 パフェに刺さっているプラスチックのスプーンストローを引き抜きながら、「いただきます」を言って口をつける。

 あまし。うまし。

 

「いつかじゅんちゃんと由佳ちゃんの魔改造計画やりたいけどね。ギャルメでもなんでもいいからバチバチにしてさ」

「その時は大野も実験台になれ」

「いいけどあたし、バイト禁止だった中学時代はふつーにバチバチだったよー」

「え、そんな印象ないけど。そうだっけ?」

「ギャルじゃなかったってだけー。由佳ちゃんはギャルメじゃないとメイクしてない判定だもんね」

 

 まぁそう思ってる節はある。ギャルメイク以外はナチュラルメイクの域を出ないと……!

 ただ無知なだけって言われたらそれはそう。

 

「そっち二人は同じ中学なんだったか」

「そそ。由佳ちゃんとは中学からの付き合いだけど、お泊り会をしたこともある仲なのだー」

「懐かしいね。あれもゴールデンウイークだっけ?」

「その前の土日だったようなー?」

 

 流石に記憶が曖昧だ。昔だから。

 愛璃。時々愛璃ちゃんと呼んでしまうのは、まだお互いに由佳ちゃん愛璃ちゃんと呼び合っていた頃の名残。今は愛璃からの呼び方だけが残った。

 

「そうだ、そういえば大野」

「んー?」

「一時期浅野兄とお前が付き合っているという噂が」

「ブフッ」

 

 パフェを喉に詰まらせたのか、激しく咳き込む愛璃。

 そんな噂が立っていたのか。

 そういえば、件の浅野のお兄さんは彼女を「アドラー」と呼ぶ。反対に愛璃は彼を「シンヤー」と呼ぶ。なんか仲良いらしい。

 

「噂は噂だって……けほ、根も葉もない噂ー」

「しかしだな、火のない所に煙は立たぬというし」

「どーせその噂の出どころここののでしょー? で、なんでそういう風に捉えられたかっていうと……中学の時、駅の階段で足挫いちゃったことあってさ。丁度信也さんが通りかかって、助けてくれたの。それだけー」

 

 それだけ、とか言いながら。

 ちょっとだけ顔を赤らめて……おいおいおいおい。

 

「信也さん、ですってよ小池奥さん」

「あらあらまぁまぁ聞きましたか振原さん。助けて……くれたの……っ! ですって!」

「そんな言い方してないしー。……まぁお姫様抱っこだったから正直キュンとは来たんだけどさ」

「あらあらまぁまぁあらあらまぁまぁまぁまぁまぁまぁ!!」

「お互いあだ名で呼び合ってるのは?」

「え、なんで知って……」

「前ガッコの帰りでそうしてたじゃん。シンヤー、アドラー、ってさ」

「……それこそ二人で付き合ってる疑惑出てるからどうやって解消しようね、って話し合って……お互いを小学生みたいなあだ名で呼び合えばいいんじゃないか、ってなって出たのがそれなんだよねー」

 

 いやいや、友達の年の離れたお兄さんをあだ名呼びは普通に親密に見えるって。

 下策も下策、悪手中の悪手でしょそれ。

 

「ていうか小学生がアドラーは無理あるでしょ。推理小説読むの小学生って」

「それは小学生を馬鹿にし過ぎだが、アドラーと言われてぱっと大野の名前が思いつくかというと微妙だろうな」

「あたしも最初はわかんなかった」

 

 それで。

 

「これは事実無根なんですかい愛璃さんや」

「根も葉もない噂って言ったでしょー?」

「だがキュンとはしたんだろう。実は内に秘める恋心が」

「……あったけど無くなった、が正しいかも」

「ほう」

「おお」

「食い付きいいなー。……確かにあったよ。認める。かっこ良すぎたし。……でもさー、霞ちゃんに対して〝いいか霞、女の子はへそで決まるんだ〟とか〝タイツが薄い……それはタイツじゃない!〟とか〝ハイソはいい……露出度は低いのに、際際まで布地があるという事実が何よりもいい……〟とか……まぁそういうこと平然と言ってる信也さんを見て、百年の恋も冷めたというか」

「うわぁ」

「ノーコメント」

 

 おへそに、タイツに、ハイソックス。

 ……何が良いんだか。あでも、那奈の彼氏さんも那奈のおへそに釣られたんだっけ?

 

「振原。たとえば腋なんかがいい例だが、ここは基本見られると恥ずかしい場所だろ? まじまじと見られると、というか」

「え何急に。そう思うけど」

「他にも首、股関節……と、まぁ、柔らかな可動部は他人に見せるものではない。そうだな」

「う、うん。股関節はそりゃそうだとしか言えないけど」

「同じなんだよ。前にお前が一番の弱点と言っていた膝窩も、臍も……まぁ臍は可動部じゃないが、とにかく柔らかくて動く場所は人間にとっての弱点であり羞恥ポイント」

「えーっと、う、うん」

「浅野兄が〝良さ〟を感じているのはそういうことだろうな。人体の弱点。柔らかい場所。見られると本来恥ずかしいはずの場所。……ふ、あの人もほとほとレベルが高い」

「ごめん一切わかんなかった」

「由佳ちゃんはわかんなくていいよー。妄言だから」

 

 真美、アキ、小池は時々こういう意味の分からない境地に辿り着く。

 私の知らない言語で話すというか。

 

「振原は……本当にネット文化を知らんよな」

「見ないからね……」

「大学行ったら多少はパソコンを触るんだぞ。パソコン一切わからない大学生は就職先で煙たがられるからな」

「表計算ソフトは使えるよ? 資料作りとかするし」

「なにっ!? ……スマホでネットサーフィンをしないだけか」

 

 中学の時もゲームをするくらいにしか使ってなかったからね。

 ネットで検索することも別にないし、する必要がないんだよねネットサーフィン。

 

「由佳ちゃん」

「ん?」

「はいあーん」

「あー。……うまし。はいあーん」

「わー」

 

 愛璃が買ってきたパフェは全部味が違うから、こういう食べさせ合いっこは有益である。

 なお小池は軽い潔癖……というか他人の唾液が無理なタイプなのでこれはやらない。そこまで潔癖潔癖はしてない。

 

「それでさ、由佳ちゃんと霞ちゃんはどうなの? 結局付き合ってないんだっけ?」

「結局ってなに。いつそんな話が」

「一年の文化祭のカップル写真で公になっただろう」

「いやだからあれは嵌められたんだって」

 

 スムーズな受け答え。

 ま、こんなところで察されるヘマは犯しませんよええ。

 

「キスくらいはしたんじゃないのか」

「してないしてない」

「手は繋いだ?」

「手は……別に繋ぐくない? 愛璃とも繋ぐじゃん」

「あはー」

「進展なし、と」

「進展もなにも、だってば」

 

 しかしそんなにポピュラーなのか私と浅野のカップリングって。

 普通に親友なんだけどなぁ。

 

「……ああそうか、去年浅野がお前の尻を揉んでいたこと、当人は知らないのか」

「ナニソレ」

「霞ちゃんが由佳ちゃんの鼠径部さすさすしてた話は?」

「ナニソレ!?」

「馬乗りになって何度も好きだ好きだと言っていた話……」

「首筋をぺろぺろ舐めてた話~……!」

「指を一本一本舐めしゃぶって」

「足を絡めて寝てて……!」

「で、この話何割嘘?」

「十」

 

 風説の流布だよもはや。浅野のイメージにないよ。

 ……首筋に噛みつかれはした、耳はむはむはされたから一概には言えなくなっちゃったけどさ。

 

「あははっ、霞ちゃんがそんなことするわけないじゃーん。相変わらず由佳ちゃんは素直で騙されやすくて可愛いなぁ」

「性格はひねくれているくせに性質は純粋だからな。手に負えん」

「前半要らなかったでしょ」

「……由佳ちゃんはどんな人と結婚するんだろうねー。常に全人類に対して行われる無防備な誘いを許容できる人じゃないと厳しそうだけどー」

「男側が嫉妬で狂って終わりだろうな」

 

 出た無防備。これでも護身のための痴漢撃退スポットとかは知ってるんだからね。

 大丈夫だって。みんな心配し過ぎなんだよ。

 

「ん、メッセ……ああ、そろそろ昼飯だとさ」

「ああじゃあ支度しよっか。パフェ冷蔵庫で大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うけど、付箋で名前書いとかないと絶対ここののに食べられるよー」

「確かに」

 

 あいつら目に付いたもの全部食べるから。

 ……よし。

 

「じゃ、行こっか」

「おー」

「夜はがっつり肉の予定だからな、あんまり腹いっぱい食べるなよ」

 

 私達は大丈夫だろうけど……砂浜遊び組にその我慢はできないんじゃないかなぁ。

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