私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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27.ちょっと生々しい話聞いてみた。

 丁度、二人きりになるタイミングがあった。

 ……ウチと井俣が。

 

「なんで由佳じゃないんだ、って顔ね」

「別に四六時中あいつの事考えてるわけじゃねえよ」

「あらそう? ならいいけど」

 

 井俣。井俣那奈。

 あんまし幼馴染感ないけど、振原の幼馴染。水泳部。ウチと同じくらい背が高い。彼氏持ち。巨乳。母親属性。

 

 恋愛感情を抜きにしても、振原のことは親友だと思っている。けど、たかだか一年の付き合いと言われたらそれはそうだ。

 知識量、経験量ともに……こいつには敵わない。

 

「ここでクイズ!」

「いきなりテンション上げんなこえーよ」

「問題。由佳の好きな色は何色でしょう」

「黒」

「ぶぶー」

「あ? あいつと買い物行くといつも黒系買うぞ」

「それは由佳が自分には黒しか似合わないって思ってるから。実は藍色とか群青とか、濃いめの青が好きよあの子。あと薄めのオレンジ色も好き」

「……んだよマウントかよ」

 

 知らなかった。

 普通に悔しい。……つか、何が似合わないだ。んなもんもうちっと遊べば自ずと似合うっつの。

 

「マウントっていうか、霞がどれほど由佳のことわかってるのか、って思って。一応幼馴染ですから? どこの馬の骨とも知れない相手にあの子は任せられないでしょう」

「ウチら友達だろ一応」

「一応通り越して仲良しだと思っているけれど、前あの子に告白をしてきた先輩みたいに、あの子を泣かせたくて、困らせたくて、空回らせたくて……そういうサディスティックな心だけで好き、とか言ってて、あの子のことなんて欠片も見ていないような感情だったら──」

「だったら?」

「あの子が傷つくことも省みずに、あなたを友達の輪から排除する」

「リーダー気取りかよ」

「結果私が排斥されることになっても、よ」

「保護者気取りでもあるってか?」

「当然じゃない。あの子は自分で自分を守れないもの。言動とは裏腹にひどく幼いのが由佳。……そういうことを理解しているから、あなたもあの子の盾となるような動きをしているのでしょう」

「……」

 

 沈黙は肯定だ。

 確かにそうだった。的形に付き纏われていると聞いた時も、その前も。

 振原は純粋だ。純真無垢。ひねくれているし鋭すぎる時もあるけれど、基本無防備で……自分に無関心。いや、他人事、というべきか。

 自分の感情を優先しないわけじゃない。むしろ大事にする。それを無視するくらいなら動けなくなった方が良い、と言い切れるほど大事にする。

 同時にそれ以外は……感情の付随しない損得勘定は、自身を度外視し、勘定から外す。自らの労力を苦に考えない。

 危ない。危うい。危なっかしい。

 だから……守ってやらなければいけない。もう少し成長するまで、手の内で。

 

「……で、そのテストがクイズって?」

「なんなら筆記試験のシートでも作ってきてあげましょうか?」

「それは流石にダルい」

「ならクイズよ。暇なのだし、付き合いなさい」

 

 この時間。

 ここなBが昼飯食ったファミレスに忘れ物をしたとかで、何人かでそれを取りに行った……のの、居残り組。兼荷物監視番。

 確かに暇だ。移動もできねーし。

 

「問題。由佳の好きなスイーツは」

「洋菓子全般」

「洋菓子全般ですが、特に好きなものはなんでしょう」

「ショートケーキ」

「正解」

 

 いっちょまえにパラレルとかダルいからやめねーか。

 普通でいいだろ普通で。

 

「問題。中学三年生の時、由佳が人前で大泣きする事件がありました。その原因はなんでしょう」

「……いじめ?」

「だったら私がぶっ飛ばしてるわ」

「あー……んー」

 

 人前で大泣き。

 ……あいつほとんど泣かねえのに?

 

「悲しい系?」

「全然」

「嬉し泣きか?」

「とも違うわね」

「……。……んー……わからん」

「ぶぶー。正解は、初めてのフリーフォール系アトラクションのてっぺんで安全バーから警告音が鳴って、死ぬかと思ったから、でした」

「当たるかンなもん」

 

 そんでウチも怖いわンなもん。

 振原だけじゃなかっただろそれ泣いたの。

 

「ちなみに誤作動……というか、搭乗していた人の持っていたネオジウム磁石が原因らしいわ」

「なんでソイツはンなもん持って遊園地来てたんだよ……」

「さぁ? その後スタッフと軽く揉めてたから、結構な事件だったのかもね」

「だからンな特殊事例当たるかっつの」

 

 クイズなら考えて答えに辿り着けるモンにしろよ。知識系つったって限度があるだろ。

 

「じゃあ最終問題。由佳の好きな人は誰でしょう」

「は──……って、ああ、茜さんか」

「あら騙されなかった。ま、正解よ。……今あの家がどうなっているかとか、私は知らないことにしているけれど……もし告白が叶ったら、挨拶しにいきなさいよ?」

「叶わなくてもいくよ。ずっと友達でいるって約束したい」

「案外純情だし案外一途よねぇ霞って」

「うるせ。……で、ウチのこと聞いたんだ。お前のことも話せよ」

「……はぁ。まぁ、こっちが聞いてばかりじゃ悪いものね。いいわ、何が聞きたいの?」

 

 お。つっぱねられると思っていたから意外な収穫。

 

「どこまでヤったんだ」

「うわ最初の質問それ? ……まだ健全なお付き合いよ。というか、卒業するまでそういうことをするつもりはないわ」

「でも家行くんだろ?」

「あのね、男女のお付き合いってそういうことだけじゃないの。……まぁ、知ったかぶりばかりで本当のお付き合いを知らない霞にはわからないことかもだけど」

「兄貴のせいでそういう知識ばっかに染まってんのは認める」

「……ごめんなさい、私が悪かったわ」

「お前そこで謝ると兄貴にとんでもなく失礼だぞ。別にいいけど」

 

 とんでもないデバフだと思われんな兄貴。実際そうだけど。

 

「そいつが好きなのは井俣のへそだったよな。お前はどこが好きなんだ? 同じく腹筋か?」

「真摯なところと、素直なところと……んー。顔に関しては、元々の好みからは結構外れてるのよね。私が好きなのって彫りの深い笑顔と白い歯が眩しい系なんだけど……彼、ふわふわ系男子だし」

「陸上部じゃなかったかそいつ」

「そうだけど……なんというか、絵本に描かれるお日様、みたいな人なのよ」

「……もうその情報だけで日野に問い質せばだれかわかりそうなもんだが」

「秋葉はもう知ってるわ。随分前にバレてる。その上で口止めしてるの」

「ああ、まぁそうか。同じ部活ならどーしたってバレるか」

 

 ……チ。

 顔が好みじゃないのに好きっていうのが……なんか本物感あって嫌だな。

 

「ちなみに霞は、もし由佳がOK出したら何をしたいわけ?」

「……。……一般的なやつと、引かれそうなやつ。どっちがいい」

「うわ、その選択肢がある時点で、だけど……まずは一般的なやつから」

「……膝の上にのっけて、飯食わせたい」

「一般的?」

「抱き枕にしたい。でかめの抱き枕のカバーの中にあいつを入れて、抱きしめて寝たい」

「ん、ん。一般的、よね?」

「ていうかウチの上にのっけて縛り付けて寝たい」

「霞ちょっとストップストップ」

「どうにかして園児のスモック買って着せたい」

「ストップってば」

 

 いや……だって、無いだろ。

 ウチが「恋人繋ぎしてイルミネーションとか見に行きたい」とか言うとでも思ってんのか? いやシーズンになったらやりはするだろうけど、付き合ってすぐなにしたいかっつったらそういうことじゃん。

 ただの友達だからって自重していることをしたい。とても。

 

「既に引いてるのだけど……え、引かれそうなやつは?」

「歯磨きしてやりたい」

「……あら、そっちの方がまだ」

「風呂入ってる間に服とバスタオル隠してやりたい」

「ん、うん?」

「裸に引ん剥いて泥の中に投げ込んで嫌そうな顔してるアイツを洗ってやりたい」

「引くというか、普通に最低行為というか」

「これは前にも他のやつに言ったけど、手足縛って目隠しして体育館倉庫とかに一、二時間放置したい」

「誰に言ったのかも気になるけどやっぱり最低!!」

 

 総じて。

 

「困らせたいんだな、ウチ……」

「やっぱり霞は悪なんじゃないかしら。今の内に排除すべきな気がしてきたわ」

「お前は思わねーの? 振原に対してでもいいし、その彼氏に対してでもいいし」

「思わないでしょ……。……由佳の困り顔が可愛いのはわかるけど、本当に困らせたいとは思ってないわ」

「もし付き合えて、困り顔死ぬほど写真に撮った場合、それは要らないと」

「要るけど……」

 

 要るんじゃん。

 やっぱ需要あるよ振原の困り顔。

 

「ま、捕らぬ狸の皮算用だろ。あいつがOK出すかわかんねーんだし」

「なに言ってんのよ。こういう時間が恋愛の楽しいところじゃない」

「……まぁ、確かに」

 

 付き合ってみて初めてわかるギャップで苦しむやつもいるだろうしな。

 付き合ったらやってみたいことをリストアップしてきゃいきゃいしているうちが華か。

 

「それで……取り合っている、っていう子。一応心当たりはあるけど……どうなの、勝てそうなの?」

「ヤなこと聞いてくるなお前」

「だって気になるじゃない」

「……勝てそうか、っつーと……微妙。振原は多分ウチのこと友達だと思っててさ。恋愛対象には見てなかったんだよ。まぁあいつそもそもなとこはあるけど」

 

 恋愛してみたい、とは口で言っても、その感情を理解できないようなやつだからな。

 ウチ以外にもそうなのだろう。

 

「一緒にいた時間はウチの方が長いけど、これから一緒にいるだろう時間はあっちの方が上で……パーソナルな部分に踏み込んでいけるのもあっち。ただあっちはあっちで初手ミスったみたいでさ、どんなけアプローチしても本気だと思ってもらえないんだと」

「なるほど、五分五分ね」

「もし勝敗を分ける何かがあったとしたら、それは……」

 

 一度言葉を切って。

 継ぐ。

 

「如何にあいつに……あの恋愛無頓着無感情無防備女に……そういう恋愛感情を覚えさせるか、って勝負だと思う」

「きゅん、とさせたら勝ち。確かにそれはありそう」

「問題は振原がきゅんきゅんしてる姿を想像できないこと……」

「最終目標にして大問題ねぇ」

「一応ウチの方の返事期限はゴールデンウイーク中に設定してあんだけどさ。……最悪どっちも振られて終わりもあるよな。ごめん、そういうのやっぱまだわかんない、とか言われてよ」

「あるでしょうねぇ」

 

 同時に暴走しそうでもある。

 不義理だからとかなんとか言って、双方の好意に応えようとしてオーバーヒート……も。

 その時はもう的形と一緒にあいつを飼うしかないな。

 

「……仕方ない。じゃあ、由佳のとっておきの秘密を教えてあげる。多分幼馴染の私しか知らない秘密よ」

「──詳しく」

 

 え、プライド?

 無い無い。振原のことはどうしたってこいつが一番詳しいんだ。くれるもんは全部貰っておかないとな。

 

 ゴールデンウイーク中に振原を堕とす。そのために。

 ……字は別に間違えていない。

 

 

 たっぷりの肉を食って、夜。

 人数が人数なので、大浴場組とカラオケ組に分かれ、それを交互に行うことにした。

 

 その、大浴場組。

 

「人全然いないね」

「確かに。初週だからか?」

「関係あるのかな」

 

 服を脱ぐ。

 ……別になんてことはない。つい先日も日帰り温泉にいったばかり。

 何を気にする必要もない……はず、なんだが。

 

「……」

「……え、なに?」

「えー! なになにかすみん恥ずかしがって……あ、もしかして太った!?」

「中曽根。殴るぞちゃんと」

「きゃあ怖い」

 

 お前も部活やってりゃわかるだろ。

 太る暇なんざないっつの。

 

 ……脱ぎ切る。

 なんでもないはず……なのに。

 振原の視線は普通に顔を向いているのに。

 

 な……なにか、恥ずかしい。なんだこれ。

 

「体調悪いの?」

「そういうわけじゃない。……気にすんな、なんでもねーから」

「体重計乗る?」

「よーしいい度胸だ」

 

 振原の足を払ってその身を受け止める。「きゃ」なんて可愛らしい声を出した振原の……肌色が……つるつるの肌が手に……。

 

「ちょ、他のお客さんいないとはいえ、ホテルの脱衣所であんましこういうことは……」

「……いな」

「なんて?」

「あ……いや、なんでもない。反省したか、振原」

「お姫様抱っこされると余計にお腹近付くからぷにぷに感わかるよね」

「OK、このまま行こう」

 

 危ない。

 ここで「綺麗だな」とか「可愛いな」と思っていればまだ救いはあったのだろう。

 ……「舐めたいな」は、ウチ、ちょっとヤバすぎる。もう少しセーブしないと。

 

 

 流石に風呂場でふざけることはなく、そのぬくぬくにふやかされて、女子高生数人でマッサージチェアでおっさんみたいな声を出し、人生初めてのフルーツ牛乳をぷはぁとやっての──夜。

 

 恋バナ大会。

 それが始まる……のだと思っていたのだが。

 

「切り出したやつらが寝るのはどういう了見だよ……」

 

 ここねB、ののかB、中曽根、日野、金瀬。

 みんなで恋バナ大会しよーよ! と意気込んでいた五人が見事に眠っている。

 まぁ昼間散々遊んだしカラオケでもはしゃぎまくったからな……。

 

 というわけで、爆睡の五人と実はくたくただった数人が自分たちの部屋に戻って、残されたのはウチ、振原、井俣、大野の四人。

 ……海へ行かなかったはずの小池まで残らなかったのは……ちょいと考えるところあるが。

 

「……すごい。超圧迫感あるねこの三人」

「ん? ああ、確かに」

「私達のグループでトップ三人だものね」

「あたし172cmしかないんだけどなー」

 

 充分だろ。次いで高いのは中曽根と金瀬か。

 

「なら……由佳ばぶちゃん。誰のお膝に乗りたいでちゅか?」

「えー。……愛璃ママー!」

「はぁいいいこいいこでちゅね~!」

 

 大野の膝に飛びつく振原。

 ……ウチであれよそこは。

 

 オーシャンビューガラスの前にある謎スペースの椅子に座り、夜を楽しむ。全員浴衣だから一見夏だけどまだ五月の頭。色々バグる。

 

「ジュースとおつまみ、あとトランプとUNOがあるけど、やる?」

「このメンツじゃ盛り上がらんだろ」

「はしゃぐメンバーじゃないからねー。あ、ソーダちょーだい」

 

 カード引いて一喜一憂するやつらならまだしも、ここ四人はダウナーだ。暇つぶしにもならん。

 

「てゆかさー、なーちゃんまた胸おっきくなってるよね。背もだけど」

「さっき大浴場でも言われたわソレ……。普通に困るのよね、ブラ買い換えないとだし、泳ぐのに邪魔だし」

「半分くらい削って私につけてほしい」

「あらなに由佳。胸、欲しいの? 誰かにアピールするのかしら」

「その理論だと那奈は誰かにアピールするために胸をつけていることになるような」

「なーちゃんはもうアピールする必要ないのにねー?」

 

 おっと。

 井俣の方を見れば、ぴくぴくと頬をひくつかせる般若が。

 

「はいなーちゃん嘘吐けない~。やっぱ噂は本当だったんだ。おっぱい揉んできた男と付き合った、って」

「ちょ──」

「え。覗きの人の話だよねそれ。……那奈、本当に大丈夫?」

「むしろそういうシュミなんじゃないか、井俣が」

「か・す・み?」

「……はぁ。もう。……覗きは冤罪だし、揉まれたのは事故。噂は噂よ、愛璃」

「でも水泳部からのタレコミによるとなーちゃんはおっぱい揉まれた時にとんでもなくエロい声出してたってー」

「愛璃。──それ以上言うならアレ、バラすわよこの二人に」

 

 ぴしっと口を噤む大野。

 ……お? なんかあるのか弱みが。

 

 つか。

 

「井俣は……なるほど、人前で、無理矢理が好き、と」

「違うわよ!!」

「那奈、どうどう。ここホテルだし夜だからね?」

「っ……ごめんなさい。……本当に違うのよ。彼とは……ちゃんとお互いの内面を見てお付き合いをしていて」

「うんうんそうだねーおっぱいだねー」

 

 直後、スマホを取り出す井俣。

 何かに気付いたように大野が慌てて立ち上がろうとする……けど、膝に振原がいたので立ち上がれず。

 そしてウチと振原のスマホに通知のバイブレーションが届く。

 

 なになに。

 

 ──それは、写真だった。プリクラだ。

 ウチの兄貴とのツーショ。ハート盛り沢山で、どっちもめっちゃ笑顔で、ウチらでも見たことないような……完全にデート服って感じの服を着てる大野がそこに。

 

「わぁ……愛璃かわいいー」

「んだコリャ……中学ん時の写真か?」

「いいえ。これは二月に撮られたプリよ。今年の二月」

「──マジか」

 

 え、マジか。

 

「え……マジで? まだ繋がってたのか大野」

「……違くて。や、ほら、あたしバイトしてるし、そんな暇あるわけなくない? ゴーセーゴーセー。信也さんだって大学と家以外出歩かないって豪語してるし、ゲーセンなんか来るはずないじゃん。これはなーちゃんの悪質なゴーセー写真だって」

「あ……いや、思い出した。そういや二月の中旬に兄貴が帰ってきたことあったな。地元の友達と釣りにいくとかなんとかで。……その時か」

「浅野のお兄さん一人暮らししてるんだっけ?」

「半分な。普通に一、二週間くらいウチにいることもあれば、東京の方のアパートで暮らしてることもある。……おい待て、もしや……大野が今必死こいてバイトしてる理由って」

「それは本当に違うからねー!? 大学の資金貯めてるだけ! これは本当!」

 

 通知音。

 

「ご査収ください……」

「……わぁ」

 

 井俣から送られてきた新たな写真。

 それは……おそろいのマグカップやら箸、スリッパなんかの画像。そして、その上で大野が「プレゼントこれでいいと思う?」とか「重くないかな、大丈夫かな」とか「かわいいと思って買ったらこれLOVEって描いてあって流石にヤバいかな」とか……そんな言葉を吐いているメッセをスクショしたもの。

 これは。

 こーれーは。

 

「あ、じゃあ愛璃が今朝言ってた〝付き合ってるって勘違いされないために小学生みたいなあだ名で呼び合うことにした〟っていうの、本当は〝付き合ってるってバレないために〟だったんだ」

「えぇ……兄貴の何がいいんだ……あのクソオタクの……。目のでかい女の描かれた抱き枕カバーに唇尖らせて抱き着いてるようなキモいやつだぞ……」

「……そこを含めて、愛おしく感じちゃってー」

 

 とうとう観念した、というように話し始める大野。

 いやぁジュースが進む。酒が飲めるようになったら是非飲みたい。こういう話を肴にな。

 

「わ、わ……那奈ママー! なんか愛璃が生々しさあって怖いー! そっち行かせてー!」

「あらあら私でいいの? 私にも彼氏いるけれど」

「浅野はママ感ないから……」

「というか逃がさないよ由佳ちゃん。もう仕方ないから、あたしの膝の上って特等席で……ゆっくりじっとりねっぷり聞かせてあげる。友達のお兄さんと恋人になっちゃったあたしの恋愛模様を」

「ねっぷりはもうネットプリントだよ……!」

 

 というかなっちゃった、って。

 それウチの台詞だよ。友達が兄貴と付き合うのなんか……なんか。

 いや……いいんだけどさ。兄貴はクソオタクだけどなんだかんだいって面倒見良いし優しいし紳士だし。変態だしキショいけど。

 大野も……バイトが恋人みたいなやつだったから、幸せになるならそれでいいと思えるし。

 

 でもなんだかなぁ!

 つかウチ兄貴に先越されてたのかよ……。

 

「ちなみにあたし、もうキスしてるから」

「うげ、……なぁこの話やめね? 兄貴のそういう事情聞きたくねえわ」

「なら先に寝てなさいな霞。私は興味あるもの」

「私も浅野と先に寝てたいなって!」

「だめー。由佳ちゃんの顔が真っ赤になるまで生々しい話聞かせてあげるー」

 

 言葉の綾だけど、「浅野と寝てたいな」でちょっと嬉しくなったウチがいる。……ウチも大概キショくないか。

 

「限界になったら来い。……おやすみ」

「おやすみー」

 

 ……ええ、大野マジか。ええ……。兄貴マジかー……。





 夜。話し声も静まった真夜中のこと。

「……やべ」

 いつもと環境が違うからか、彼女……浅野霞はその目を覚ます。
 一瞬見たスマホ。時刻は三時。
 
 一度起きて、部屋付きのトイレでお花摘みを済ませて再度ベッドへ。
 ……山間部のホテルだ。虫の音や鳥の鳴き声は当然響く。
 それが、なんだか。

 先日のホラーゲームを、彷彿とさせて。

「やべぇ……」
 
 明日も楽しい楽しい様々が待っている。ここでしっかり眠っておかないと疲れ切ってしまう。
 でも、眠れない。
 暗闇が何かの貌に見える。
 鳥の声が近くに聞こえる。
 誰かに手を掴まれているような錯覚が──。

「寝れないの、浅野」
「っ……びびらせんな馬鹿」

 錯覚じゃなかった。
 実際に掴まれていたし、なんなら上に乗ってきた女の子がいた。
 振原由佳。浅野霞の想い人。

「ホラゲ、まだ瞼の裏にある感じ?」
「……お前ほんと、妙なところで察し良いよな」
「ちゃんと罪悪感あるからね。……そのさ。……まだ、告白の……返事はさ、できないんだけど」
「ん。……ああ」

 小声で。部屋にいる誰にも聞こえない声で。
 二人だけの時間で。

「その……私がさ、抱き着いて、温かくしたら……浅野は嬉しい?」
「……嬉しい」
「じゃあ、してあげる。……これで眠れるかな」
「……はぁ」

 本当に無防備で、無自覚で、無垢なことだけど。
 
 その後、彼女が中途覚醒することはなかったし、二人ともとても安らかな顔で眠ることができていた、とか。
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