私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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31.無理矢理成就させられた。

 四月二十九日。ゴールデンウイーク五日目。

 今日はいのりちゃんとデートの日である。

 用意されていた服……上だけ青みがかった真っ白ワンピースという、いやまだゴールデンウイークってわかってる? これ夏だよね? みたいな服を着て、駅前へ。

 これで麦わら帽子があったら確定だったし、そうでなくとも四尺ちょっと様って呼ばれて然る格好になっていた気がする。

 

 ちなみになぜかいのりちゃんは先に出ている。一緒に出ていくところを見られたくない……にせよ、ちょっと遠回りするとかでいいのに。

 適温とはいえあんまり長く待たせるわけにもいかないので早足で駅まで歩いていくと……見覚えある高身長が。

 

「おお……」

「ついてそうそうの言葉が感嘆(それ)?」

「いや……あたしが選んどいてなんだけど、幼さが際立つなぁ、って」

 

 本当にね。

 鏡見て思ったよ。私自身ですら五歳くらい幼く見えるなぁこれ、って。

 

 対していのりちゃんは……物凄く大人コーデだ。大きめのシャツにタックのパンツ、おとなしい色のキャップ。

 あまりにも対照的。あまりにも……年上感。

 

「これ、誰かに見られても姉妹逆に思われそう」

「あるかも。あ、じゃあ今日はあたしをお姉ちゃんって呼んでくれたり」

「別にやってもいいけど。特にプライド無いし」

「恥じらいがないと減点だからいーや」

 

 減点とは?

 ……ちなみに恥じらいやプライドは無いけど、友達に見られたいとは思ってなかったり。……あとで絶対からかわれる。似合ってない……は言われないかもだけど、超絶子供扱いされそう。

 特に……ここのの姉妹には嫌だな……。

 あの二人はグループ内でも私を子供扱い……というか庇護目線で見てこない二人だから。

 

「さ、行こ」

「ん。で、結局どこ行くの?」

「電車~」

 

 いやそれはわかるんですけどね?

 

 

 電車に揺られる。

 後方へと走っていく外の景色。あまり用のない方面行きの電車だから、景色が新鮮だ。……山ばっかり、とも言える。

 ゴールデンウイーク中とはいえ朝早くで主要路線じゃないこともあってか車両はガラガラ。というかこの車両に関しては私達以外乗ってない。

 別段暑くも寒くもないその中で、過ぎ去る緑を眺める。

 

「そーやって口開けてぽけーっとしてると、ホントに子供みたいねお姉」

「そんな顔してましたか」

「してたしてた。……ね、お姉。手、繋いでいい?」

「いいけど……」

 

 掴まれる手。そして……う、そのつなぎ方は、恋人つなぎというのでは。

 指の間に指が入ってきて……にぎにぎされている。あのそれ、必要ありますかそれ。

 

「そ……それで、目的地はどこなの?」

「だから電車だって」

「どういう……?」

「電車デート。このまま終点まで行って、また帰ってくるだけ。……色々考えたんだけどさ、どこも混んでそうだし、お姉って工芸品とかアクセとか見ても感動しなそーだし」

「いやその辺の感性は普通にあるつもりだけど……」

「だから、身近だけど行ったことない場所行って、帰ってくるのがベストかな、って。電車の景色も楽しいし、人少ないからこーやって喋れるし」

 

 ふむ。

 ……たしかに初体験だ。終点駅に行くために電車に乗る……というか、行って帰ってくるために終点駅で一度降りる、が正しいのかな。

 

「切符はちゃんと買った?」

「もち」

「ならいいけど」

 

 電車だと駅員さん来ないからね。次の駅までの切符買っただけで終点まで乗れてしまう。

 それは……ちょっと悪い考えだ。

 

「あたしもこっち全然来ないから、駅名すらわかんなくてさー」

「確かに。次の……岡軒は、あ、でも小学校の時の給食が岡軒食品だった気がする」

「へー、よく覚えてるね」

 

 路線図を見る。

 ……小学校の時に『県の地名を覚えましょう』みたいなレクリエーションで覚えた諸々で「多少は覚えているけれど……?」みたいな地名がずらりと並んでいる。

 地元の人間でなければ知らない、多分商業施設が何も無いから行くことのない場所。勤め先とかになれば行くんだろうけど、ううむ。

 

 けど、……なるほど。

 面白いし、楽しい。知らない景色というのは……心に新たな彩りが入る。

 

「ね……あのさ、お姉」

「うん?」

「あ……そのさ。えと……お姉ってさ、あたしのこと……そのさ、その……」

「嫌ってないよー別に」

「!?」

 

 なんとなく。

 本当になんとなく……それを聞かれるんだろうな、って。

 いのりちゃんは……わかりやすくはないんだけど、わかる感情を発しているから、読み取れる。……テレパシー的な話じゃないよ。

 

「いのりちゃんはねー、行動力があり過ぎて、色々強引で、無理矢理なことが多いから……多少は怖いな、って思うけどさ。でも、結果として私にとって良いことになって、いのりちゃんにとっても意義のあることになって……そういうことができる子なんだってこの一ヶ月でわかったから。……前さ、いのりちゃん、私には感情の理由がないから怖い、って。そう言ってたじゃん」

「ぅあ、ぁ……う、うん」

「いのりちゃんはね、行動の理由が不透明だから怖い。感情より先に行動しちゃうのかな? とすると、私は行動より先に感情が出ちゃうだけなのかも。……普通の人はどっちもがどっちも伴って出るから怖くないんだけど、私達はその辺ちぐはぐなんだろうねー」

 

 怖いけど嫌いじゃない。

 聞かれた……まぁ聞かれてないんだけど、いのりちゃんの気になっていることの答えはこれ。これだし。

 

「なんてさ。好きになる理由がなくていいなら、嫌いになる理由もなくていいと思うから、今言った理由にカンケーなく嫌いって思う子もいるのかもしれないけど……少なくとも私は理由なくいのりちゃんのこと嫌いじゃないよ。ちゃんと好きの部類。……あ、恋愛感情じゃないからね」

 

 だから。

 

「何してくれてもいいとは言わないけどさ。意地悪とかわがままとか、受け止めてあげるって。お姉ちゃんだからねー」

「……じゃあ、お願いがあるんだけど」

「早速? いいよ」

 

 今確実にお姉さんしてる。姉妹の姉してる私は。

 そんな風に鼻を鳴らしていたら……なんだか神妙な空気が。

 

「あたしの恋、受け止めてよ。……はいはいとか、いつものこと、みたいに流さないで……あたしが今どう思ってるのか、ちゃんと見てよ」

「え……ああ、それについては」

「ちゃんと見てってば!」

 

 つないだ手ごと顔を両側から挟まれて、いのりちゃんの顔を直視させられる。

 目と目が合うなんて域じゃない。キスもたるや、というほどの距離。

 

 がたんごとんと揺れていたはずの電車が……静かになったような気がする。

 

 ちゃんと、という言葉に思い起こされるはお母さんの言葉。

 

 ──かわいい女の子になるための目標。姉になる、なんて意識しないでいい。家族になるなんて考えなくていい。だから……目の前にいる相手を、一人の人間だ、って。ちゃんと認めてみてね。

 

 ちゃんと、見る。

 

 決意の色。裏にあるのは泣きそうな臆病さと……懇願。

 欺瞞はどこにもない。

 

 ──由佳には思い込み癖があるから。一回こうだって決めちゃうと、それ以上のアップデートをしない悪いクセ。

 

 愛している。愛されたいから愛することで、愛され返す。

 それがいのりちゃん……だって、そう、思っていた。

 ……まさか?

 

「その……え、わかんない。……え、いのりちゃんって……ど、どういうこと? なんで? いつから……え、どういうこと?」

「浅野先輩とお姉の取り合いしてた相手があたし。いつから、はあたしでもわかんない。最初は確かにお姉の言う通りいつものことだったけど、途中からそうじゃなくなってて……この前の風邪の時、完全に自覚した。あたしはお姉のことが好き。姉妹とか愛されたいからとか全部抜きにして、一人の女の子として好き」

 

 伝わる。

 浅野と……同じ目だ。

 

 ああ、でも、だったら。……同じだ。

 

「ごめ──んむ!?」

 

 キスされる。唇を塞がれる。

 人乗ってないって言っても公共機関だよ、ここ外だよ一応……という抗議の言葉も上げられない。

 ただまぁ、すぐに口を離してくれた。ソフトキスだった。……いや別に長いのを考えてたわけじゃないけど。

 

「ごめん、お姉。……それ、嫌」

「ど、どういう……?」

「断らないで。むり。あたしお姉が好き。お姉のこと大好き。取られたくない。断られたくない。ごめんとかやめて。お願いだから……お願いだから、あたしの彼女になって」

 

 矢継ぎ早に。まくし立てるように。

 超至近距離で、絶対に逃がさないとばかりに手を強く握って……いのりちゃんは続ける。

 

「いいよ、まだ愛さなくたっていい。恋愛わかんないならそのままでいていい。ただあたしの彼女でいてほしい。必要とか理由とかあたしだって知らないしわかんないから、そんなの後で探せばいい。お願いお願いお願い!」

「い、いやだから、無いんだって。好きって感情がまだ……」

「いいって言ってんじゃん! お姉からの好き、今は無くたっていいから、あたしの好きを受け止めてよ」

 

 い……いのかなぁ。

 そんななし崩し的な了承って。お互い苦しくなって終わるだけじゃないの……?

 それに、浅野をそれで断ったのに……。

 

「あ……愛してほしいとか、自分だけを見てほしいとか……そういうこと言わない自信、ある?」

「ない。絶対言う」

「じゃあダメじゃん」

「それで未来のあたしが切なくなってもいいから、今付き合いたい」

「あー、うー……付き合ってさ、やっぱ無理ってなったら今後超気まずく……」

「デメリットなんかどうでもいいんだってば。ねー、先の不安とかどーでもいいから、今のあたしを見てよ。できないこととか今考えなくていいから、あたしの好きを受け止めてくれるか嫌か、どっちかだけ考えて」

 

 好きを受け止めること。

 それが嫌か、そうでないか。

 

 ……うぅ。

 

「嫌じゃない……けど」

「じゃあ付き合って。あ、もうこれOKってこと?」

「い……いいのかなぁ、こんななし崩しなの……」

「お姉の言ういいのかなぁってなに? 誰が認めてくれるのそれ。誰が咎めるの?」

 

 ぬぐ。

 それは……確かに。

 強いて言うなら私の中の倫理観先生だけど、私自身が正解を知らないからなぁ。

 

 ……そこまで言うなら、か。

 自分だけを見てほしいってわけじゃないんだもんね?

 

「私から……なにをするわけでもない、っていうのをわかってくれるなら……い……、いい、よ」

「大丈夫。したくなるようにあたしが可愛くなるから」

「徒労だと思うけどなぁ……」

 

 かなり無理矢理に。かなり強引に。

 私といのりちゃんは……恋人同士になりました、と。

 

 浅野になんて言えば良いんだ、これ……。

 

 

 終点。

 車庫の前にある小さな無人駅。

 帰りの電車が出るのは三十分後らしいので、駅のホームで二人座る。

 

 周りには本当に何も無い。車庫という大きな建物以外平地。いや民家はぽつぽつあるけど。

 駅名は「酌路道」。読みは「くみろみち」。……なーんにもピンとこない。

 道路にアスファルトも敷かれていないし、車も走ってない。軽トラが停まっているからないってことはないんだろうけど……田舎だ。

 

「えとさ、いのりちゃん」

「うん」

 

 そんな現実逃避もそこそこに。

 

「その……私の何がそんなに好きなの? あ、理由というか、どこを好いてくれたのかなーっていう」

「まず見た目が好み」

「ストレートだね」

 

 ……そんな可愛い自信ないけどな。

 

「常にジト目で口元がへの字に曲がってて、困ったり嫌がったりしてる顔があたしにドストライクだった」

「う、うん。逃げだしたくなるね」

「次に性格。優柔不断かと思えば大胆で、臆病かと思えば勇猛果敢で、一言では言い表せないマーブル感が……なんかあたしに刺さって、それでいて性格悪くて、でも優しくて、っていうのが……これまたなんでかあたしに刺さった。理由はよくわかんない」

「大分悪口だったよね今八割くらい」

「あとは……抱き心地かなー。お姉を抱っこして寝ると超安眠なんだよね」

「安眠グッズってこと?」

「概ね」

 

 な、なんか思ってた恋人と違う。

 やっぱり私の中の恋人像がおかしいのだろうか。

 浅野もそういうとこが好きとか言ってたけど……本当にそれが私の魅力……なの? 告白されるほどのこと、なの?

 

「あ、あと、潰した時に出る鳴き声も好き」

「補足することじゃないねそれはね」

「お姉が教えてっていうから喋ったのに、わがままだなー」

「公序良俗に反し過ぎているからね……」

「でもまぁ、一番好きなのは、一番ほしくない言葉を一番ほしくない時にくれるとこかなー」

「短所では?」

 

 そんなことしましたっけ私。

 

「……ここでいうほしくないっていうのはさ、耳を塞ぎたいって意味だよ」

「ああ」

「あたしが自分の殻に、自分の世界観に籠って三角座りしてるところを、お姉は全部ぶち破って一番鋭い言葉で刺してくるじゃん。……それが、好き」

 

 まぁ。

 それについてなら、自覚がある。そういうことを……たまにする。

 感じ取ったあとに口を衝いて出る言葉。強い強い言葉。

 

「別に嫌がってないよ。……とかのこと?」

「……うん、それ」

 

 こんなに無理矢理恋人にしちゃって、お姉ホントは嫌がってたりしないかな。

 

 いのりちゃんがそう思っている気がして、だから今、「別に嫌がってないよ」と返した。

 彼女が好きと言っているのは、ほしくない言葉と言っているのは、多分これのことだ。

 

 でもこれなー、半ば無意識だからなぁ。

 

「あたしさ、……多分、こうやって整えに整えた場と、かなりの勢いがないと……本心、言えないんだよね」

「そうだね。それはそうだと思う」

「お姉と話すと、それが……全部暴かれる感じがあって、怖いけど、新鮮で……好き」

「意地悪なこと聞いていい?」

「う、うん、なに?」

「佐十ちゃんは? あの子もいのりちゃんのこと全部暴いてくるでしょ?」

「……泉美とはそういう関係じゃないよ。暴いてくるのだって幼馴染だからだし」

 

 どうかなぁ。

 あの子、いのりちゃんに対して並々ならぬ想いがあるように感じられたけど。

 

 思い込み癖でいうなら、勿論私も重症だけどさ。

 いのりちゃんだって、って思うけどなぁ。佐十ちゃんとはそういう関係じゃないって思い込んでいるから……って。

 

「けど……じゃあ、これから私はいのりちゃんの聞きたくない言葉を話し続ければいいのかな。その私が好きなら……」

「そういうことじゃない。じゃないし、さっきお姉が言った通り、無理に恋人の役割をしようとしなくていいよ」

「ん……わかった」

 

 スタンダードを知らないから……奇を衒うのはやめたほうがいいか。

 

 まぁ、わかった。

 いのりちゃんがいいというのなら、明日からも私は平常運転で行かせてもらおう。

 どの道部活をしていない私とテニス部ないのりちゃんでは中々時間が合わないというのもあるし……。

 

 あと私は、もう一つの問題とも向き合わなければいけないから。

 

「あ、でも、一個だけお願いがあって」

「なに?」

「早起きするのさ、やめるんでしょ? 家族でご飯を食べるから」

「う……うん。そのつもり」

「じゃあさ、じゃあさ。夜の勉強終わったら、あたしと一緒に寝てほしい。それまであたしも起きてるから」

 

 あー。

 まー。

 

 いい、か。

 

「わかった。いいよ、そうする」

「やたっ!」

 

 今までもちょくちょくそうしてたし、断る理由もないからね。

 

 なんて。

 そんなこんなで、電車デートは終わりを告げるのだった。

 

 ……あれ、みんなに見せつけるという目的は結局……?

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