私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹 作:的形みずき
五月一日。ゴールデンウィークも折り返しを経て、残り一週間とない頃合い。
今日はアキ、真美、あゆみというあんまりない面子でのカラオケと、……私には直接の関係性は無いんだけど、那奈が彼氏さんの家にいく日でもある。
というかカラオケに来たっていうのにみんなその話題で持ち切りというかそわそわしていて歌に集中できていない状況にある。
「あーん、なななん実況してくれてないー」
「いや彼氏といる時にケータイ見ないでしょ……」
「いまたん昨日ウッキウキだったから大丈夫だとおもーけど心配ではある」
私の演歌熱唱なんて聞いてやしない。まぁ聞かれたいと思うような出来じゃないんだけどさ。
……ふむ。
「真美……は前聞いたから良いとして、アキとあゆみは色恋なんか無いの?」
「色恋て。……うーん、ウチは……彼氏ちょーほしい。イケメンで身長十センチくらい高い男子がいい」
「あれ? あゆみんって前枦ノ木ケ谷君といい雰囲気になってなかったっけ」
「いい雰囲気……? ……っていうか枦ノ木ケ谷って誰ー?」
「確か……ユミは、のけのけ、ってあだ名付けてたと思うけど」
「ああ! のけのけはねー、確かにいい雰囲気になりかけたけど、その直後くらいに取られちゃったから。元々両想いのコがいたっぽ?」
「……あゆみんは過去の恋心全部忘れるタイプなんだね」
「だって持っててもつらいじゃん?」
真美と真逆、なのか。
へー。……っていうかやっぱみんな……本当にみんな恋してるんだな。ここのの、あと小池くらいじゃないか恋愛してなそうなの。
「アキは?」
「今は良いかな、ってなってる」
「え! ってことは前いたのあきぱち!?」
「一ヶ月だけね……」
「ひのすけ……いつの間に……!」
「同級生?」
「……。……年下。っていうか……現中学生」
「ひょわああああ!?」
へ、へぇ。
へぇ~~!
「どこで知り合うの、そういう子って」
「……去年あった陸上大会で……一目惚れ、って告られて、その……」
「えぇあきぱち!? 私も一目惚れで告ったよね!? 違いはなに!?」
「ああ言うんだそれ」
「ん、ふりはらんも知ってたの? ウチは前相談されたから知ってたけどー」
「この前聞いた」
「いやだから、マミの時は……女の子相手で、高校デビューでいっぱいいっぱいで、あと……なんていうか、恋愛の下地? あー、構え? が私の中に無かったから断ったの。……でも、それで……恋愛について考えるようになったのと、部活とか慣れてきて心に余裕がある状態での……かわいい系の男子からの告白で、ちょっと……いいかも、とか思って」
お。
お、おお……。
アキの恥ずかしそうな顔もなんかヘンな気分になるけど、何より恥ずかしそうな語り口と……内容が……こう……こう……!
あ、甘酸っぱい!
「でも一ヶ月で別れたんだ」
「……やたらスキンシップが多かったのと、話してる時全然目、合わなくて……下にばっか向いてて、冷めたっていうか」
「あー」
「ひのすけの胸、でっかくはないけど張りあるかんねー。流石陸上部」
「胸ばっか見ないで、とか言わなかったの?」
「言った。そしたら、〝実を言うと、僕が好きなのは日野先輩の胸ではなく腹筋なんです〟って言ってきて……なんか気持ち悪くなってその場で別れちゃった」
「それは確かにキモいねー」
「まぁわからんでもないけどねー」
「……それってさ、アキの顔に一目惚れした、ってより……」
「ああ、そうだと思う。陸上のウェアの……チラ見えする腹筋に惚れた、ってことだと思う」
「機能性重視なのはわかるけど、陸上とかテニスとかのウェア際どいよねー」
「個人的には弓道部の袴もそれなりにエロス。あれって下の服見えないよーになってんしょ? つまりシュレディンガーの下着……観測するまで無いかもしんない……!!」
「いや普通に色味の薄いTシャツ着てるけどね」
「夢を壊すなー!」
途中から黙ってしまった。
いのりちゃんや浅野がよく言ってくる困り顔や泣き顔の話。
よくよく考えたらきも……っていうか変態なのでは? そもそもあの告白してきた先輩と同類というか……ん、ん?
なんで私今まで疑問に思わなかった……っていうか思ってたし時折変態って言ってた気がするけど、なんだかんだ受け入れていたよう、な?
……受け入れる。
どうして? 先輩と……あの二人。何が違うのか。
「あ、あー。ちょっち生々しい話すぎた? ふりはらん黙っちゃった」
「わぁごめん由佳ち! 由佳ちにはちょっと早い話過ぎたね……」
「う……うん。いや、私も高二だし、そういう知識つけていかなきゃな、とは思ってるんだけど……」
「ダメ、ユカはノー知識のままでいて。その方がおもし……可愛いから」
「聞き逃さないよ?」
やっぱそう思ってたんだ。
無知は罪……今度なんかで勉強……うぅ、勉強……? ど、どうやって?
……いのりちゃんに聞くのが一番安全、かな?
「つかさ、そねそねはガチレズなわけじゃん? それでいてふりはらんに興味ないんだからさ、安全じゃん? ちょっち教えたげたら?」
「言い方もっとない……?」
「えー? ビアンなわけじゃん? の方が良い?」
「いや……まぁ同じだけどさ。……っていうかヤだよ。由佳ちのことは好きだけど、友達としてだもん。教えるって……好きな人としかやりたくないし」
「そんな本気じゃなくていいからさ、どーいうとこ触るとかくらいはよくない? そっちの方がふりはらん恥ずかしがって可愛くなりそーだし。せめてエむぐ」
「あゆみはさっきから何の話してるのこれ」
「ユカ、あっちで一緒に歌わない? 熱唱系」
「あ、うん」
張り手かと思う勢いであゆみの口に蓋をした真美。
彼女からのアイコンタクトを受け、アキが頷きを返す。なんだその連係プレイ。そして私を歌に誘う、と……。
聞きたさ半分、怖さ半分。
でもカラオケに来たので歌います。安いとはいえ部屋代かかってるわけだし。
それでは歌います。『白い手袋ささの舟』──。
三時間のカラオケが終わり、その後カフェで昼食兼お喋りをして……解散。
午後一時という……うーん? な時間。夕ご飯を作るので午後五時までには帰るけど、じゃああと四時間何しますかっていう。
今日いのりちゃんは午後も部活。当然浅野もそう。那奈は……彼氏さんといちゃいちゃしてるわけで。他の友達もなんだかんだ用事があるみたいで。
お母さんも今日一日検査だって言ってたしなぁ。……好埜さんのとこへ行ってお礼に洋菓子を作る、とか? いや、流石に四時間だとカツカツになっちゃう……。だし、予定聞かずに押しかけるべきではないというのもある。
よし。
散歩しよう。今日はちょっと遠いところまで。
「……そんなつもりで来たのが北瀬垣総合運動公園。我ながらわかりやすすぎる」
無意識がお母さんに会いたがっている。これは心配されるよそりゃ。
少し山の方を見上げれば、もう北瀬垣総合病院が目に入る。……ううむ。昨日の内にお饅頭を差し入れしていれば元気づけてあげられただろうか。……あ、でも検査前って余計なもの食べちゃダメだったりするよね……。じゃあどっちみちだったかな……。
──芝生交じりの砂利を踏む音が聞こえた。
「……気のせいかなー、自意識過剰かなー、って思ってた。夜道とかで方向一緒なだけの人をストーカーかと勘違いしちゃうみたいな、ちょっとイタめなやつかな、とかね」
「……」
「でも、やっぱついてきてたんだ。──で、何用?」
振り返る。
黒髪ロング。眼鏡。
それで……とっても、恨みがましい目。
「佐十泉美ちゃん」
「……」
いのりちゃんの……幼馴染? な少女が、そこにいた。
「……振原先輩」
「うん」
失礼だけど、幽霊みたいだなって思った。
くらーい目。時間が時間なら光ってるんじゃないかって思うほど。
「二つ、お願いがあります」
「とりあえず聞くよ。なに?」
「……。……私と付き合ってください」
「それはごめんね。いのりちゃんと私を引き剥がそうって目的のためだけの告白は、悩むまでもなく拒絶するよ」
「ッ……」
好き、が。
欠片も伝わってこない。逆に嫌いはこれでもかってくらい伝わってくるけど。
そう、嫌いだ。前会った時は苦手程度だったけど、今は確実にこっちを嫌っている。
「じゃあ、二つ目です。……いのりにくっつくの、やめてください」
「色々言いたいことはあるけど、どうして、って聞こうかな」
「いのりは純朴な子なんです。幼稚で無垢で……守ってあげないと、守られてる自覚すら持てない子。……先輩みたいな人の心の分からない人は、毒でしかない」
「い、言うね」
「……クラスのみんなが可愛がっていたウサギが病に罹り、衛生上の問題で処分しなければならなくなった時、先輩が言った言葉覚えてますか」
「へ? ……あ、去年の新聞見たの? あれ大分誇張されてたから真実とは言えないんだけど……まぁ一言一句違わずに言うと、〝あんま近付かない方が良いようつるかもしれないし。で、次なに飼うか決めようよ〟だね」
実際空気は凍った。小池には「感情が無いにも程が無いかお前」って言われて浅野には「振原お前……ウチも別にキョーミはないけど今結構なドン引きをしたぞ……」と言われ、那奈には「ちょーっと黙ってましょうね~由佳~?」と言われ。
いやでもこれ文脈があるのだ。
まず、病気の方をちゃんと調べていた。
そもそもクラスではこのウサギの病発覚前に流行り病らしきものが流行していて、しかし誰もインフルエンザやらノロウィルスやらと診断されない謎の状態があった。高熱と平熱を繰り返したり、頭痛や吐き気を訴えたり、と。
そこへ来てのウサギの病発覚。……まぁ高校生とはいえ子供な私がネットを使って調べて……『野兎病』というとんでもない病気に辿り着くのは時間の問題だった。
これ本当にマズい伝染病で、天然痘やらペストなんかにも並ぶと言われているほどのソレ。とはいえ学校のウサギがそういう検査を受けていないはずがないし、そもそも日本ではほとんど発生してないらしいから大丈夫だろう、とは思っていた……のだけど万一があるからなぁ、という思いの上での「あんま近付かない方が良いようつるかもしれないし」である。
まぁ結果として野兎病ではなかったし、流行り病は集団風邪だったんだけど……つまりこれは善意であったという話をだね。
次なに飼うか決めようよに関しては、その前に先生が「衛生管理不足で病気にかかった」みたいな話をしていたからだ。これみんながみんな悲しんでる風に去年の新聞では描かれていたけど、ぶっちゃけそんなことない。ウチのクラスのそのウサギを可愛がっていたのはクラスの飼育委員会だけで、他の子たちは他のクラスの飼うウサギと見分けがつかないくらいには興味がなかった。
死にそうだったから可哀想で、病気になったのを殺すのが可哀想、と言っているだけ。
だから、「次はもうちょっと愛せる動物飼えば?」の意味での発言。実際浅野もだけど、飼育に興味が無いって子たくさんいたからね。
私の失敗があるとすれば、その二つの言葉の間にあった「で、」だろう。これが……とんでもなく冷酷な、心無い発言をするやつ風に見せてしまった。
「というわけで、私は悪くないとは言わないけどさ、新聞見出しにあった〝女生徒Fさん、死の際のウサギに心無い言葉を放つ!〟みたいなのは誇張ってこと」
「いのりに近付かないでください」
あるぇー?
「……いのりちゃんの優しさは理解した上で言うけどさ。割とあの子もそういうタイプじゃない? まぁ口には出さないんだろうけど」
「色々知ってるんです。振原先輩は……他人を慮れない、思いやれない人だ、って。……そういう人にいのりを汚されたくない」
「さっきから酷くない……?」
「調べたんです。去年同じクラスだったって人からも話聞きました。球技大会のこと、体育祭のこと。……振原先輩には情熱というものがないし、感情の受け答えは全部機械的。他人から向けられるそれに疎くて、それでいて他人には鋭いことを言って傷つける。自分のこと全部棚に上げて……他人にだけ厳しくする。そういう人だって」
「んー。まぁ別に否定はしないけどさ。情報収集をする時、フィルタリングをするのはあんまり効果的じゃないよ。そのフィルタを通った意見しか目に入らなくなるから」
「……どうでもいいです。いのりと……家の事情で、物理的距離が近いのは仕方ないと思います。でも、不必要にあの子へ近付かないでください」
「どうして?」
「はぁ? 今までずっと言ってきたでしょう、理由は」
「ううん、私が聞いたのは、佐十ちゃんが嫌だから、ってことだけ。それ理由じゃなくて好みじゃん。これこれこういう理由があって、こういう影響が考えられるから、近づいてほしくない。っていうのをちゃんと言ってくれないと」
ギリ、と歯を噛みしめる音が聞こえた。
それ歯に良くないからやめなー?
「……よくわかりました。煽ってるんですね。私には何もできないと思って……子供みたいに」
「あ、うん。そうだよ。わかってるんでしょ? 近付いてるのは私じゃなくていのりちゃんの方からだ、って。というか相談とかされてそうだし。その上で私にこうやって言ってくるのは、佐十ちゃんじゃいのりちゃんを止められないから。昔はあなたの言うこと全部聞いてたのかな、いのりちゃんは。でも歳をとるにつれて段々言うことを聞いてくれないどころか、言葉が届かなくなって……苛々して、私へ八つ当たりに来た。そんな感じ?」
苦手、って感情なら優しくした。年下だし、いのりちゃんのことを想っての苦手意識だろうし。
でも。
嫌い、なら。
私は……ちゃんと言葉を強くする。
優しいとか、無頓着とか言われることがあるけど。
絶対違う。いや、そう感じるのは、その人達が優しい心で私に接してくれているからだ。
嫌いで来るなら。
嫌いで返す。性格が悪いとは、常日頃から言われている。
「死ねばいいのに……」
「ああ、すぐに死ねとか口走っちゃうタイプなんだ。案外自制利かないんだね。まだ中学生から上がったばっかって考えればわからなくもない……って、たかだか高二の分際で何をって話だけど。咄嗟の感情を抑える術は、いのりちゃんに教わったらいいよ。少なくともヤなこと言った相手にヤなこと言われて激情に駆られちゃうような幼さは無くなるだろうから」
「最悪。……最悪最悪最悪最悪。なんでこんなのをいのりは……」
「……成程。保護者気取りか姉気取りかと感じてたけど……嫉妬もあるんだね。出会った時からそうなのかなとは思ってたけど……ああ、佐十ちゃんの恋心に無自覚ないのりちゃんから、私に関する恋愛相談を受けて……それで、告白のことも聞いて、イライラが抑えられなくなっちゃった、ってことか」
つまり。
もらい事故にも程がある。……というかいのりちゃんちょっと浮かれすぎだよ。
なんにせよ。
「言いたいことそれだけなら、私もう帰るよ。この辺に住んでる……わけないか。ま、私の方からは佐十さんの視界に入らないよう努力はしてあげるからさ。そっちもそっちで自分の感情にくらいはケリをつけておきなよ」
「……死ね、クズ女」
「殴ろうとしてこないのはまだ偉いね。その調子で頑張れ~」
帰る。
ああ、ヤな気分になった。直前まで──心配ではあったけど──お母さんのこと考えてて気分良い寄りだったのに。
久しぶりに嫌いをぶつけられたけど……ふん、そういう感情向けられて凹むようなのを期待したんなら、的外れだったね。
その態度を止めない限り、私はもう優しくしないよ。
夜。いのりちゃんと一緒に寝る。
「お姉~……お姉の首筋の匂い……」
「それはちょっとキモくない?」
「恋人なら普通だもん」
当然だけど佐十ちゃんのことは聞かない。
聞かない、けど。
「いのりちゃんさぁ」
「ん~?」
「私に告白して……それが成功したこと、浅野と佐十泉美ちゃん以外に言ったりした?」
「え……言うわけなくない? あたしがお姉のこと好きなの知ってるのその二人だけだよ? ……まさか噂になってる? あたしとお姉のデート見られたのかな」
「見られたんなら見られたで良かったんじゃないっけ?」
「まぁそうなんだけど……。お姉がそう聞いてくるっていうことは、ヘンな広まり方してるのかなって」
「そういうわけじゃないから安心していいよ」
「ふーん?」
多少は疑問に思うのだろうけど、特に気にした様子もなくまた私のうなじへ顔をうずめるいのりちゃん。……いやほんと、首の匂い嗅いで良いにおい~って言ってるの変態じゃない? 大丈夫これ。
「お姉こそ、誰かに言ったりしないの? あたしの名前は出さないだろうけどさ、付き合ってるよ、みたいなこと」
「言う気はないかなー。絶対……誰なのか聞き出されるし、そうなったらいのりちゃんのこと隠し通せる自信ないし」
「あー。お姉口堅そうに見えて軽いっていうか、お友達相手には簡単に割りそうだもんねー」
「ソンナコトハ」
「くすぐりは?」
「効かない」
「キスは?」
「させない」
「おっぱいもみもみは?」
「させない……っていうか何そのラインナップ」
「前雑誌で読んだ、女の子が口を割っちゃうこと三選」
「有害図書だよそれ絶対」
……まー。
「私が言うとしたら、いのりちゃんが言うようになってからかな。いのりちゃんが隠したがってるうちは付き合うよ」
「ん。……お姉は優しいねえ本当に」
それは、あなたが優しいからだけどね。
なんて。
さ、そろそろ眠りましょう。……首筋や耳裏でスゥハァスゥハァされてるの落ち着かないけど。
一応、良い夢を?