私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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37.結実してみた。

 五月四日。

 大事な話があるんだ、と。

 お父さんは言った。

 

「二人とも気付いていた通り、僕としおりさんはまだ籍を入れていない。……けれどそれはネガティブな理由じゃなくて、ただ、二人が……由佳といのりが上手くやっていけるのかを見極めるために、一か月間過ごしてみよう、ということだったんだ」

「もし……最初の頃くらいの感じがずっと続いてしまうようなら、どちらのためにもならないから、別れましょう、って。そう言っていたの」

「……」

「うん」

 

 言うなれば試用期間か。

 まぁ、そんなことだろうとも思っていた。だってお父さんとしおりさんはずっと仲良しだったから。そして……時折こちらを探るような目で見ていたことがあったから。

 

 でも。

 

「一ヶ月。ゴールデンウイーク明けで、丁度だね」

「ああ。けど、先月の二十九日。由佳といのりが仲良さそうに帰ってきたことがあっただろう? お父さんたちはそれを見て、これ以上待つ必要はないな、と判断した。……役所にな、婚姻届を出してきたんだ。僕たちの事情もあってか即日受理にならず、今日まで時間がかかってしまったけれど……先ほど連絡があって、手続きは完了した」

「だから、いのり。私達は正式に振原になるの。……心の準備は、大丈夫?」

「うん。実はそれがなくても……ゴールデンウイーク明けたら、先生に相談する予定だったんだ。そういう事情があって、苗字が変わる、って」

 

 なんだかしっとりした空気だけど……おめでたいこと、だよね。

 だったらさ。

 

「じゃ、初日は完全に拒絶モードだった私から言うね」

 

 オホン、とわざとらしい咳払いをして。

 

「しおりさん、いのりちゃん。──振原家にようこそ」

 

 ごめんね、お母さん、とは……多分一生呼べないけれど。

 それでも私は、あなたたちを、家族だって。

 そう思うことにするから。

 

 許してください。そして、ようこそ!

 

 

 ……そんなココロアタタマリエピソードの二時間後のことである。

 

「お姉……お姉はあたしを選ぶよね? 当然だよね?」

「振原。今は友情でもいいからウチを選べよ。友達だろ?」

 

 私は今、修羅場にいます。

 

 ことの発端はメッセでのやり取り。

 

 ──〝浅野。いのりちゃん、正式に家族になったから〟

 ──〝お母さんのこととか、相談乗ってくれたのホント助かった〟

 ──〝ありがとね〟

 

 私としては家庭事情のどうあっても解決できない部分まで相談し、親身になって聞いてくれた大親友への贈る言葉。そのつもりだった。

 返事は多分「おう」とか「よかった」とかの簡素なもので、でも心から思ってくれているんだなぁって感じられるそれ……だと、そう考えていたのだけど。

 

 ──〝的形とは法律上でも姉妹になったってことか〟

 ──〝じゃあ恋人じゃないよな〟

 ──〝ウチに譲れって言っておく〟

 

 やはり浅野は壊れてしまったらしい。私がフっている以上、そういう言葉を吐くのがとんでもなく失礼であることは勿論承知の上で、でもこんな家族事情の一大ニュースにまでそれを返してくるのはもう浅野じゃない。うん。

 

 ──〝つか今から振原んち行っていい?〟

 ──〝ちょい確認したいことあんだよね〟

 

 私のミスはここだろう。

 確認したいこと、と言われて、何も考えずに「いいけど、なに?」と返してしまった。「じゃ、行くわ」という短いメッセ。「いやだから、何用で来るの?」と返す……も。

 そのメッセに返信はなく……待つこと一時間。

 

 ピンポーン、とチャイムが鳴って、玄関に浅野がいた。

 表の通りに止まっている車は確か浅野のお兄さんのもの。車のウィンドウがういーんと下がると、目を焼くイケメンが現れる。

 

「霞、帰りはどうする?」

「電車かバスか、なんかで帰るからいい。あんがとな、兄貴」

「可愛い妹の頼みだ、いくらでも足に使ってくれて構わないさ。……由佳ちゃん、久しぶりだな。今の霞は少々暴走気味だから、上手く御してやってくれ」

「うっさい! 早く行けバカ兄貴!!」

「あ、はい。浅野はしっかり冷却して送り返しますね」

「じゃ」

 

 うぃーんとウィンドウが閉まり、車は去っていった。

 ……相変わらず、浅野のよく言うキショ兄貴と重ならない爽やかさである。

 

「とりあえず上がって」

「おう」

 

 上げる。部屋へ向かう途中、ふつーにいたしおりさん、お父さんと浅野が出会うこともあったけど、浅野は会釈をするにとどめた。二人の方も話していることを察してくれたらしい。お父さんとも面識あるし、中学のことを考えたら部活繋がりでしおりさんとも面識ありそうだ。

 で、部屋に戻ると……毛を逆立てた猫、みたいな状態になっているいのりちゃんが。

 なにやってんの? って聞こうとしたら、後ろから浅野に持ち上げられて、ベッドへ座らされて。しかも勝手にカギかけられて。

 

「──倫理的にさ、妹を恋人にするのはさ、色々エグいわけじゃん? ウチ、どうよ振原」

「お姉、まさかとは思うけど今更浅野先輩に、とかないよね。てか妹は妹でも義理だし、愛に法律とか関係ないし」

「選べよ振原、今ここで──どっちの恋人になるか」

「お姉、馬鹿なこと考えないでよ? 一昨日あんなに愛し合ったでしょ?」

 

 という冒頭の修羅場に戻るのである。

 

 しかし。

 

「いのりちゃんはさ。一昨日愛し合ったとか言ってるけど……自分の人間関係を盾に私へえっちなことしようとしてただけだよね」

「はぁ!? 人間関係盾にしてたのはお姉の方でしょ!? 信じらんない、お姉ってそういうとこあるよね、なんか自分に都合良いっていうか!」

「そんで浅野は、もう何回も断ってるじゃん。浅野に向けるのは友情。愛情じゃないってば」

「でも的形……じゃないんだったか。じゃあいのりでいいか。いのりに向ける感情も愛情とは言えないんだろ? いのりが一方的に告っただけだから」

「違っ……お姉の方からキスしてくれたもん! あたしは愛されてますー」

「今の話を聞くに、何かをする代わりに、って迫ったんだろ? 卑怯なやつだな相変わらず」

「一回こっぴどくフられて浅ましく追い縋ってくる先輩の方が卑怯でしょ!?」

「いいじゃんか浅ましくて。浅野の苗字に恥じないしな」

 

 売り言葉に買い言葉……というほどヒートアップしていない様子だけど、どうしようこれ。

 というかあんまり叫ばないでよいのりちゃん。お父さんたちに聞こえちゃうって。

 

「ま、最終決定は振原だ。どっち選ぶんだよ振原。妹か友達か」

「どっちもなにも、浅野先輩はそもそも付き合ってなんか──」

「面倒だし、一旦どっちもフラットな関係性に戻るっていうのはど、」

 

 が、と肩を掴まれ、押し倒される。凄まじい形相のいのりちゃんに。

 

「うわちゃー……これ本気で言ってんだろうな振原は」

「お姉さ。……なんでそんなこと言うの?」

「いやだって、いのりちゃんの告白受けた時私言ったじゃん。恋人らしいことしない、って。それでいいならいいよ、って。……この状況でいのりちゃんを恋人にもう一回選ぶのって、恋人らしいことだよ。別に私にとって浅野は親友で、いのりちゃんは妹なだけでも全然問題ないもん」

 

 言えば、一瞬で泣きそうな顔になるいのりちゃん。

 う、うーん。私そういう条件ってちゃんと言ったよね? で、いのりちゃんはそれでもいいから、って言ったよね。

 なんでそんな裏切られたみたいな顔するかなぁ。

 

「やだ……」

「え、わ、泣かないでよ」

「やだぁぁああ! やめてよ、折角色々……お姉のことも、家族のことも、友達のことも……うまくいって、心機一転、みたいな気持ちだったのに……なんでそんなこというの……」

 

 ギャン泣きし始めるその顔に、なんだかバツが悪くなって顔を逸らす。

 逸らした先にいるのは、これまたバツの悪そうな顔をしている浅野。元はと言えば浅野のせいだよねこの状況。

 

「やだ、やだ……取らないでよ……浅野先輩やだ……」

「……あー。……うー、だが、ここで諦めるのはなんか……泣き落としくらったみたいで……」

「泣き落としも何も、私は浅野の告白断ってるからね? 現状浅野にはワンチャンも無いからね?」

「んだよそれ。いのりにはワンチャンあるってのかよ」

「いやあるでしょ。……自分でワンチャンとかいうの自意識過剰っぽくて嫌だけど、究極言えばいのりちゃんは妹か恋人かで、友達じゃないもん」

 

 いのりちゃんに友情を感じることはない。少なくとも今はまだ。

 この子は家族で、まぁ、一応恋人で。

 そこに発生するのは友情ではない親愛だ。

 

「あ……? 待て振原お前……。……あ、そうか。そういうことか」

「なに?」

「お前の中でさ、愛情と友情だったら、どっちの方がデカいの?」

 

 そりゃ。

 

「友情だけど。……当然じゃん。ついこの間まで愛とか恋とかわかんなくて、今もほとんどわかってないんだから」

「……成程な。で、お前ん中でウチが一番の親友なんだっけ?」

「そうだけど。え、浅野は違うの?」

「いや、親友だと思ってる。……デカすぎんだな、お前の中で。ウチへの……なんだ、友情が。だから愛情に変わらないって、そういうことか」

 

 何を一人で納得しているのか。

 今更過ぎるそんなことを噛みしめる暇があったら、いのりちゃんをどうにかしてほしい。私の胸でそれはもうボロボロ泣いている。

 泣かれる、というのは……あまり慣れていない。突き放してきた経験しかない。

 泣かれることになれていないっていうか、慰めることになれていないっていうか。

 

「きっぱり断り続けてんのはそういうことね……。……んじゃ、諦めるわ。振原の恋人。友情を……消すってのは、まぁ、無理そうだしな。ウチの中でもさ」

「また唐突な」

「ウチの中で勘違いがあったっつか、振原の感情表現が独特過ぎたっつか。ま、つーわけで悪かったよいのり。恋人はお前に譲るから、泣き止めって」

「……嘘吐きだから、信じられない」

「あー? ウチがお前にどんな嘘をついたんだよ」

「浅野先輩の恋が失恋に終わったら、応援してくれるって言ってたのに」

「……確かに言った覚えはあるな」

「うわ、じゃあホントに嘘吐きじゃん」

「仕方ねえだろ……。……ウチだってすっぱり諦められるってそん時は思ってたんだから。つーか、ウチの恋心自覚させたのはいのりの方だろうが。それまでウチは気付かないでいたのに。勝手にライバル増やしておいて、いざそいつが台頭してきたら泣きじゃくるとか、何がしたいんだよお前は」

「だって……だって、恋人になったあとから……浅野先輩に盗られるかも、って考えたら……あそこで焚きつけない選択肢なかったし……」

 

 ……もうこの二人が付き合えばいいのでは?

 相思相愛じゃん。

 

「お姉は……あたしと恋人、解消しない?」

「今後こういう面倒事が無ければね」

「うぅ……」

「お前、そこは嘘でも頷いてやんだよ」

「やめて……嘘吐きがお姉にうつるから、変なこと教えないで……」

「おお、調子に乗るとやっぱ結構言うじゃんか」

 

 えっと。

 まぁ、修羅場は収束……でいいのかな?

 

「お姉」

「ん?」

「見せつけのちゅーするから、目、瞑って」

「お前ほんと……」

「うるさい背景。黙ってて」

 

 ふむ。

 

 いわゆるキス顔、というやつになったいのりちゃん。 

 その頬をぶちゅ、と潰す。

 

「ふぇふぉ!?」

「私の恋人になるなら、浅野のことは大事にして。私の親友なんだから」

「お。そうだぜいのり。なんたってウチは一番の大親友だからな」

「……。……うわ、なんかあたし……今自分が死ぬほど嫉妬深いんだな、って思った……」

「なんで?」

「……親友の座もほしくなった」

「それは無理だね」

 

 嫉妬深いっていうか強欲っていうか。

 ま、どっちも根底は同じものか。

 

「落ち着いた?」

「ん。……落ち着いた」

「じゃあ……浅野。確認したいことってなに? まさかこのことじゃないよね」

「ああ。……んー、言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ」

 

 なぜかまだ私の上から退いてくれないいのりちゃんを乗せながら、話を聞く。

 

「お前、佐十になんかされた?」

 

 そんな話を。

 

 

 だからまぁ、正直に話す。隠すことでもないし。

 

「……言ってよお姉。それ……あたしから注意したのに」

「いのりちゃんの注意で止まるとは思えなかったし、別に実害ないしねー」

「佐十は……まぁ言動は過激だけど、傷害事件とか起こすタイプじゃないから大丈夫……だとは思うんだが」

 

 浅野がこれを聞いてきたのは、なんと私と佐十ちゃんのあのシーンを見ていた人がいて、そしてそれが浅野の知り合いだったのだとか。

 どういう交友関係してんの? って思ったんだけど、単純に女テニのOG。なんでそんな人があそこに、というツッコミをしようとして、そういえばあそこ総合運動公園だったな、ってことを思い出して今に至る。

 曰く私とも面識はあるらしい。全然覚えてない。名前言われてもわかんなかった。

 とにかくただならぬ雰囲気を感じたそのOGさんが、浅野との何気ない世間話でそれを話題に出して、この確認、と。

 

「振原はこう言っちゃいるが、既に実害レベルだとウチは思ってる。……だから、はっきり言う。いのり、お前あいつに好かれてるって自覚しろ」

「へ……あ、あたしが?」

「そうだよ。お前本気にしてないけどさ、佐十がお前に向けるのは母親っぽい視線と姉っぽい視線だけじゃなくて、確実に恋愛感情も交ざってる。はっきりわかる」

「まぁ、そうだね。そんな感じしたよ」

「で……振原並みに無自覚ないのりは、どーせ佐十に恋愛相談とかして、無意識に煽りまくったんだろ」

「や、そんなことは……」

「自分の恋愛感情一切届いてないっぽい無自覚な行動する振原にさ、お前半ば暴力的手段でわからせようとしてただろ? 佐十の場合はそれがお前じゃなく他者に向く。ここまで言えば心当たりあるだろ。つかウチの前でもよくそういうことしてたし」

 

 あー、と口元に手を当てて……明らかに蒼褪め始めるいのりちゃん。どうやら心当たりありまくりらしい。

 

「いやでも……あたしは泉美のこと、よくて友達くらいにしか思ってないし……」

「今の振原といのりの関係性とほぼ同じだろ」

「う……。……なんなら泉美にもそれ言われました」

 

 ふーむ。

 しかし。

 

「私と浅野が口出せることじゃないよね、これ」

「まぁな。お前に関してはストーキングっていう嫌がらせ受けてるから口を挟むくらいはできるだろーけど、本質的にはいのりと佐十の問題だ」

「……です、ね。……お姉に……そういうことしてるなら、もう……」

「ダメだよいのりちゃん。どっちかの縁が大事だから、どっちかを切り捨てよう、っていうのは違うよ」

「……」

「まずは話し合ってからにしよ。最初から縁切るつもりで臨んだら、相手の行動が全部ヤなことに見えるから」

 

 友達はさ。

 大事なものだから。

 

「わか……った。……明日か明後日、話してみる。……うん」

「困ったら頼ってこい。いのりも佐十も、どっちも可愛い後輩なことに変わりはねーからな」

「こういう時の浅野はヤンキー感すごいよね」

「今お前そこは頼りがいあるよねの流れだっただろうが」

「お姉、浅野先輩はね、中学の女テニ時代、一個でもミスあると同級生だろうと後輩だろうと先輩だろうと関係なく部活倉庫に呼び出して、ラケットで殴ったりサーブ当ててきたり……」

「してねーよ」

「そして逆に気に入った女生徒は倉庫の中で脱がせて強引に迫ったり……」

「してねーし中学までは普通に男の方が好きだったし」

「そういえば聞きたかったんだけどさ、浅野って今まで何人に告られてるの?」

「……。……えーと。……男女合わせると……十六……か?」

 

 うわ。

 

「モテモテにも程がない?」

「十六人の男女を食い散らかしてきたんですか……!?」

「してねーっつの。全部断った。んで告ったのは振原が初めて」

「お兄さんには?」

「……。……中一までは、大好きとか愛してるとか……お嫁さんにしてとか、言いまくってたな」

「きゃあかわいい」

「え、浅野先輩ってもしかしてちっちゃい頃の将来の夢お嫁さんな人だったりしますか」

「……そろそろ怒るぞいのりてめェ」

「お兄のお嫁さん! でしょ、ロリ浅野は」

「あーキレた今キレた。おいいのり、振原離せ。ウチが羽交い絞めしておいてやるからどんなことでもやっていいぞ」

「え」

 

 こっちを見るいのりちゃん。浅野を見るいのりちゃん。

 それを何度か繰り返して……その口元が、にへら、と歪む。

 

「いのりちゃん。別に浅野と協力しなくたって、いつもやってくるじゃん」

「いのり。いつもは過激すぎて自重してることもやっていいぞ。ウチが許す」

「え、えっとぉ……」

「いのりちゃん。今さっき私との恋人の云々を選んだよね。裏切るのかな」

「うわコイツ都合良い時だけ恋人面しやがる。おいいのり、言ってやれよ。大事な場面では一回関係フラットにするとか言ったくせによ、って」

「……確かに。先に裏切ってきたのはお姉」

「いのりちゃんいのりちゃん。よく考えて。これやって得するの、誰だと思う? 一見していのりちゃんに見えるかもだけど、一番得するの浅野だよ」

「そんなことはない。ウチはもう諦めたしな」

「じゃあ友達として私の一番好きな顔が何か言ってみてよ」

「泣き顔と困り顔」

「変わんないじゃん」

「うるせーな。今はいのりが選ぶターンだろ。今自分が俎板の上にいるって自覚しろよ鯉」

「初めて聞くよその慣用句のその使い方」

 

 今なお私に覆いかぶさっているいのりちゃん。

 彼女は……にへら、という顔を崩さないままに。

 

「お姉。……浅野先輩のとこ行きたくなかったら、あたしにちゅーして」

「うわ」

「うっわ」

「な、なにお姉。浅野先輩もなんですか! 今さっきまでほとんど似たような言動してたじゃないですか!」

「なんていうか……その人質取って好きなことやらせるの、陰湿だよな。佐十にも感じることだけど、お前ら二人とも湿気すげーよな」

「うるさいでーす。……さ、お姉? ドン引きしててもいいから、ほら、ちゅー。ね?」

 

 前門の虎後門の狼だ。

 が……まぁ、ちゅーでいいなら、いいけどさ。

 

「んー」

「どけいのり」

「きゃ!?」

 

 ちゅ。

 

 ……ん?

 

「な、な……。……諦めたんでしょ!?」

「んー? んー」

「ちょ、離れて! お姉それ相手浅野先輩! 顔離して!!」

「いひゃあの、がっちり固定されへへ」

「お、舌出してくれんの? あり~」

 

 れ、で出した舌が絡め取られる。

 う……? 舌が舌でからめとられて……う、な……なんだこれ。ヘンな感じ……。

 

「なななな……なにとろっとしたした目してるのお姉!?」

「ふぇぇ……?」

「浅野先輩ちょっとどいて、それあたしがやること!! お姉目を覚まして、この金髪ゴリラに騙されないで!」

「──へえ。お前、心の中ではウチのことそー呼んでたんだ」

「部活練のとき、たまにですけどね! はいどいて! あたしがやるから!!」

「嫌だね。そら振原、きもちーだろ? これが恋人のするキスだぜ」

 

 普段生きていて感じることのない感触。舌を舌が舐めるというその感覚に、周囲の音が遠のいていく。

 ふわふわする……。

 

「は・な・れ・て」

「んひー」

 

 舌を甘噛みされる。なんだこれ……。

 

「……っぷはぁ」

「ふぁぁ……」

 

 ようやく離された……けど、なんかお風呂に入ったんじゃないかってくらいぽわぽわする。

 

「お姉、お姉!? あたしともやろ! このゴリラの味忘れさせてあげるから!」

「うわ……振原お前、その顔流石にえっろいな」

「何の話……」

「見るな! この顔見ていいのもあたしだけなんだから……早くどっかいって! もう用事は済んだんでしょ!」

「まぁ待て。写真くらい撮らせろ」

「ダメだってば!」

 

 どたどた、どたばた。

 あー、いのりちゃん? あんまり騒ぐと……。

 

「由佳ちゃん、いのり? もうちょっとだけ静かにできるかしらー?」

「あ。あ……あはは、ごめんママ」

「浅野さんが来て嬉しいのはわかるけど、お外にも聞こえちゃうから、ね?」

「はぁーい」

 

 ドア越しではあったけど、明らかに困った色の声だった。

 ……どこまで聞こえてたんだろ。

 

「二人ともさー」

「ん、なんだ。続きか?」

「続きやるとしたらあたしだからね」

「一緒に寝ようよ。クールダウン兼ねて」

「……」

「……。おまえ……」

 

 朝から修羅場疲れるよー。

 仲直りで川の字でいいじゃん?

 

「じゃ、お姉はあたしの上ね」

「えぅ」

「だったらウチはその上か」

「流石に重いです金髪ゴリラぱいせん」

「逆でも良いぞ。ウチは別にお前ら二人程度どーってことない」

「じゃあ、二人仲良くここで寝て。私自分の部屋で寝るから」

「よし、川の字でいくか」

「そうですねちょっと狭いけど」

 

 ……喧嘩しないの。もー。

 みんな仲良しが、一番……いいんだから。

 

 かわいい女の子になるための目標。

 由佳はみんなの──で──……らね……。

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