私より背が高くて、私より要領が良くて、私より社交的で、私のことを愛してくる義妹   作:的形みずき

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4.恋バナに興じてみた。

 四月九日。

 昨晩はお父さんもしおりさんも会議が長引いたとかで中々帰ってこなくて、好き嫌いを見る、というのは成功しなかった。……私が先に寝てしまったから。

 けど、カレーにしたのは英断だった。遅くなっても美味しいから。

 

 それで今日。時刻はなんと午前四時。まだまだ仄かな暗さの残る外にぼんやりとした想いを投げつつ、少しだけ気合を入れる。

 お弁当。浅野に勇気づけてもらったのだ、少しは頑張ろう。

 

 とはいえそう凝ったものを作る気はない。あんまり重くてもまだ本格的な授業の始まっていないだろう一年じゃ胃もたれしちゃうだろうし、気合の入った料理は好みにも大きく左右される。

 さらにいつも基軸にしているお父さんの好みを除外。どちらかというと私がお昼に食べて嬉しいもの、食べたいと思うものを入れていく。

 ダイエットにも気を遣っていると言っていたし、その辺を考慮して……と。

 

 並行作業で朝ごはんも作りつつ、何があったら喜ぶだろうとか、重すぎないかな、逆に足りなすぎないかなとか色々考えて一品一品作っていくこと二十分。

 初めての全品手料理なお弁当が完成した。

 ペペロンチーノ風パスタとカレーの残りの豚肉を使った大葉巻き、それを仕切る彩り野菜とチーズ玉子。流石に足りないかなと思って付け足したシュウマイ三個が全体の彩りバランスを欠いた気がするけど、まぁ、どこかの展覧会に作品として提出するわけでもないので良しとしてほしい。

 しかし。

 ……案外時間が余った。びっくりだ。もっと悩むと思っていたけど、私が食べたいもので、いのりちゃんが喜んでくれそうなものを考えて作ったらあっという間だった。

 ここまで来たら、時間も食材も余っているんだ、お父さんのもしおりさんのも手料理にしてしまおう。私のは冷食で。……自分のために手間暇をかけるのが面倒臭いとかまさかまさかそんなそんな。

 

 流れ作業になった調理を思考の端で進めつつ、夕飯の料理、明日の朝ごはん、お弁当の内容、夕ご飯の内容……と、献立を立てていく。

  

 お母さんも。

 お母さん、も……こんな気持ちだった、のかな。

 私とお父さんに出す料理を考えている間、ずっと……。

 

「はぁ。やめやめ」

 

 暗い気持ちで料理を作ると、それが料理に乗っかっちゃう。

 かわいい女の子になるための目標その三。由佳は落ち込みやすいしすぐ悪い方向に考えるけど、今日が晴れかどうかくらいは確認してみて。

 窓の外を見れば、春日和と表現すべき快晴。

 うん。顔を上げよう。

 

 ちなみに朝ごはんは余ったカレーでカレートーストにした。昨日のシチュートーストと被ったけど、味は全然違うから良しとさせてください。

 

 

 またぞろ早めの登校。木曜日の早朝も早朝の登校は、勿論誰もいない……どころか。

 

「まだ開いてないとは……」

 

 校門を塞ぐ鉄柵。時刻が時刻だから当然だけど、結構明るいから行けると思い込んでいた。

 暑さ……は大丈夫だけど、逆にちょっと肌寒い。三月の木枯らしが春に切り替わる頃合いの風は骨身にこたえる。

 けど、カフェとかファストフードとか、食べる気もないのに入るのはちょっとなぁ、って思うし、そもそもほとんど開いてないし。

 

 一旦家に帰る……はナシにしても。

 風をしのげる場所で勉強等をしていたいなぁ、という所存。

 

 ……そんな場所はない。大通りでもないからバス停に屋根なんかないし、公園で屋根のついている場所はトイレくらい。駅……は遠すぎる。

 うぇぇ。校門前で待ち惚けですか……。

 

 と。

 そんな、おろおろしていた私の近くで、ブルーのパール光沢が入った車が停車した。

 ウィーンと開く窓。

 

「どうした振原。こんな朝早くに」

「増田先生? あ、おはようございます」

「おはよう」

 

 増田先生。数学の先生で、弓道部の顧問……だったはず。真美がよく話題に出している。

 ああそうか、先生だから早く来るのか。朝練のために道場を開ける、とかかな。

 

「ちょっと早く来過ぎちゃって、でも思ったより寒くて……」

「一年の時から思っていたが、振原は真面目なんだか阿呆なんだかわからないな」

「ひ、ひどい」

「ああいや褒め言葉……でもないが。まぁわかった。裏門まで回ってこい。教員用出入口から入れてやる。ああただ校舎が開くのはあと三十分くらい後だから、その間道場横の運動部会議室で風をしのいでなさい」

「真美がよくダーマスちゃんはめちゃくちゃ優しいんだよって言ってたけどその意味がわかりました」

「その呼び名は禁止しているが、成程中曽根か。覚えておこう」

 

 しまった恩を仇で返したかもしれない。

 

 発車する車。特に急ぐことはせずに裏門まで回ると、自動車のキーを持った増田先生が待っていてくれた。

 急げばよかった。そっか、開けっ放しにはしないよね。ごめんなさい。

 

 運動部会議室……運動部の先生たちが書類仕事などをする場所で、体育館や弓道場、道場、運動場のそれぞれに隣接する絶好の位置に建っている建造物。

 ただその性質上、入学してからただの一度も入ったことのない場所だった。

 

 中は……普通の職員室とそう変わらない。

 無風になってほっと一息。

 

「振原は……部活には入っていないんだったか」

「はい。みんなで何かをする、っていうのが苦手で」

「運動自体が苦手とかではないんだな」

「むしろ好きですね。弓道……はやったことないですけど、授業でやった剣道とか柔道とか、走るのも球技も体操も、全部好きですよ」

「ほー。それなら勿体ない……と思ってしまうのは、教職目線かな」

 

 まぁ何度も言われ続けてきたことではある。

 それだけ動けるなら勿体ない、と。まぁまぁ。

 

「さて、私は道場の準備をしてくるから、好きに過ごしていなさい」

「はーい。……あ、手伝えることとかあったら手伝いますよ?」

「内申点はそう多くやれんぞ」

「弓道場、一回中見てみたいな、っていう下心があったり」

「はぁ。真面目ちゃんめ。若いうちは買ってでも苦労せよとは言うが、貴重な高二の自由時間だろうに」

「自由もなにも、空き時間にやることは勉強だけですし」

「……質実剛健を謳う弓道部の生徒でも暇さえあればスマホを触るやつも多いぞ」

「スマホって勿体なくないですか? あれ触ってる時間、体感速度三倍くらいで過ぎてっちゃう感じがあって……だったら勉強したりお料理したり、何かのちの益になることしてた方が罪悪感が薄れるっていうか」

 

 言えば、呆れたように、そして頭の痛い何かを見るような目で、実際に額を押さえる増田先生。

 一応言っておくと、それらを否定しているわけではないというか、中学の時は結構スマホっ子だったというか。……ただそれで周囲から学力をぐんと離された経験があるので、スマホで何かを見ているだけで罪悪感と強迫観念のようなものが身を襲うのだ。

 ああでも、勉強アプリならそれなりにあるから、そういう意味での使用時間は実はそこそこあるんだけど。

 

「友人と遊びに行くことはないのか? 土日祝……」

「えっと、勉強しかしない堅物人間だと思ってます? 普通に行きますよ。カラオケで女子会もよくしますし」

「ああ……なるほど、外に意識が向いているのなら全く構わない。今の話はすべて杞憂だった。忘れてくれ」

「真美が慕う理由がわかりました」

「勝手に言っていろ」

 

 根っから優しいんだな、というのが伝わってくる。

 そもそもこの学校、まだ「この先生ヤだな」って人に出会っていないから、審査基準が厳しいとかなのかなぁ。

 

 

 弓道場の換気や道具運びを手伝うこと四十分ほど。

 ようやくすべてを終えて、一息入れる。

 

「これ毎日おひとりでやっているんですか?」

「まぁ、それが顧問の仕事だよ」

「ひえぇ……」

 

 教師の業務の中で、部活動はほとんどサービス残業のようなものだ、ってよく聞くけど……これで通常のお給料と変わらないのは、嫌々やっている先生ならすぐにガタが来ちゃうだろうなぁ。

 増田先生は好きでやっているみたいだから耐えられるんだろうけど……。

 

「それより、全部付き合ってもらって悪かった。校舎の方はとっくに開いているから、もう行きなさい。とても助かったよ」

「はい。じゃあ今日手伝った分で、真美の失言はチャラってことでお願いします」

「一回分は、だな。他で言っているのを聞いたらしっかり怒る」

「それはもう存分に~」

 

 私が漏らしたことが帳消しになったのなら良いことだ。

 良い運動にもなった。どうせ朝早く出るなら、これからはジョギングなんかを組み込むのも良いかも知れない。

 

 弓道場を後にして校舎へ向かう。

 昇降口に入れば……別段増えてはいない人影。ただ無人ではないのが伝わってくる。

 そのまま教室へ向かえば、先客が。

 

「あ、那奈。おはよー」

「おはよう。……なによ」

「今日も先輩とラブラちょ、スリッパ投げるな!」

 

 ウチの学校は上履きじゃなくてスリッパだ。だから脱ぎやすいし投げやすい……じゃなくて。

 まぁ、図星らしい。ヒュウ~。

 

「私さっきまで弓道場にいてさ。弓道部員はまだ来てなかったから、サッカー部か野球部か、吹奏楽部の男子の先輩か、あと卓球部だよね、昨日出なかったの」

「……」

「無視を決め込もうたってそうはいかないよお代官様。……ね、教えてよ。浅野には内緒にするからさ」

「ぜーったい嫌。口の堅さは……信じてるけど、由佳は押しに弱いから、くすぐりとかで簡単に吐きそうだし」

「いやそんなくすぐりとかしてくる連中……いる、か」

「心当たりしかないでしょ。あの双子とか特に」

 

 う、うん。面白いことを見つけたらきゃーきゃー騒いでなんとしてでも情報引っ張り出してさらにスピーカーになるトンデモ双子姉妹がいる。

 そして私は確かによく被害に遭っている。聞くのは断念しよう。

 

「……まぁ、じゃあさ、誰か、っていうのはいいから……どういうところに惚れたのかとか、かっこいいとことか、教えてよ」

「邪推しないって約束できる?」

「もちろん。那奈が嫌がることはしないよ」

「……。……はぁ。……ま、一番は……声と、大きい手、かしらね」

 

 お、おお。

 自分で振っておいてなんだけど、ちょー恥ずかしそうにそういうこと言われると……お、おお……ってなるね。

 

「ちょ、ちょっと、リアクションしなさいよ。恥ずかしいんだから……」

「声……っていうのは、良い声ってこと?」

「……優しく包み込んでくれる声っていうか。ほら、私って……ちょっと身長高いじゃない」

「ちょっとどこじゃないけどね」

 

 かなりですよ。

 

「だから、子ども扱いっていうか、女の子扱いしてくる人にほとんど会わなくて……でもその先輩は、私をちゃんと……守ってあげなきゃいけない女の子、みたいに接してくるから、もう……」

 

 おお。おおおお。

 恋バナだー!! じょ、上質な恋バナだぁぁああ!!

 浅野、真美、アキー! みんなー! おいでおいでおいでおいでおいでー!!

 

「て、手とか繋いだりした?」

「興奮し過ぎ。……キスは、した」

「ひょわああああ!」

「馬鹿声大きい!」

 

 はたかれた。痛い。

 

 いやぁ。いいですな。恋バナは潤いますなぁ。

 

「……それで? あなたの方はどうなのよ」

「ヱ? 昨日何も言わなかった時点でお察しだけど」

「嘘吐きなさい。何も言わなかったけど、心当たりあるって感じだったじゃない。いるんでしょ、それっぽい行動とか、思わせぶりな行動とってくる人。由佳は優しくされただけじゃ靡かないけど、過度に優しくされるとコロっと転がっちゃいそうだから怖いのよ」

 

 う。よく見ている。

 でも。

 

「昨日、そういうことあったんだけどさ」

「あらあらあらあら」

「どーにも、浅野と那奈が昨日言ってきたみたいな……空回ってる姿が可愛い、みたいな感じっぽかった」

「あー」

 

 わざとらしく自らの額をぺちんと叩く那奈。

 うん。まー。うん。

 

「相手は同級生?」

「年下」

「あー。……真面目なお姉さんを揶揄い可愛がりたい年頃の後輩男子……まぁ脈の有無でいったらアリかもしれないけど、付き合うと苦労しそうね」

「やっぱり私も……ちゃんと、本当の意味で愛してくれる人がいいなぁ、とか。……高望みかな」

「いやいや。少なくとも揶揄うことでしか愛情表現できないような思春期抜けてない男なんかやめた方が良いでしょ。……まぁサイアク、大人になってもいい男見つからなかったら、由佳は私達で飼ってあげるから安心しなさい」

「今の発言のどこに安心要素があったのか」

「小動物枠。且つ料理人担当」

「それは最早奴隷では?」

 

 でも、恋愛経験豊富……? な那奈からの確認も取れて、ようやくスッキリ。

 抱きしめられたらね。ちょっとくらい、そうなんじゃないの、って思っちゃうよ。

 

「ちなみにその子、誰? 知ってる子だったら、女の子をからかっちゃダメって言ってあげるけど」

「いやいーよ。もしかしたら本当に淡い恋心かもしれないわけだし。あの子の心が落ち着いて、大人になって、大学出ても社会人になっても独り身な私を救いにきてくれるかもしれないし」

「淡い幻想ね」

「……大人ぶっちゃってさ。まだ初恋でしょー」

「え? ……あ、ああ。そうね」

「……今までにもいたの!?」

 

 今の反応はそうだよね。え、ちょっとちょっと、知らないんだけど。

 

「あ、いや。……初恋じゃないってだけ。恋人は……その、先輩が初めてだけど、片思いはあったから」

「ああ、そういう。えー、でも青春してるんだなぁ。もしかして私が知らないだけで、みんなそうなのかなぁ」

「霞だけは一切そういう浮ついた話聞かないけど、他の子はちらほら。真美ですら高一の時あったし」

「え……え、本当に知らないけど」

「一週間足らずで失恋したとか言ってたから、話す機会がなかっただけじゃない?」

「もしくは私がそういう話からハブられているか」

「被害妄想ね」

 

 えー。みんな進んでるんだなぁ。

 ……もしかして、いのりちゃんも……いたりするのだろうか。あれだけかわいいし、放っておかれない……だろうなぁ。

 そういえば抱きしめるのも随分と手慣れていたような。

 いやいや、偏見は良くない。

 

「参考までに聞きたいのだけど、由佳って好きなタイプとかあるの? 理想像でもいいけど」

「白馬の王子様的な話?」

「まぁ、有体に言えば」

「んー。……まぁ那奈の話聞いてて思ったのは、私も包容力ある人は憧れるなぁ、っていうのがあるなって。包み込んでくれるのは……きゅんきゅんするかも」

「由佳の身長なら割と誰でも……」

「あと、力持ち。だっことかされたい」

「今のところ私と真美と浅野が該当するわね」

「昨日の朝真美にお姫様抱っこされたよ。めっちゃ恥ずかしかった」

「大丈夫私も前されたから」

 

 なんだあいつ。

 誰でもいいのかよー。

 

「まぁ、今言ったのは……そうだったらいいな、くらいの話で、……なんていうか、自分のためにも私のためにも、ちゃんと愛情をくれる人なら、なんだっていいかも」

「……由佳のクセに大人な理想像ね」

「私のことなんだと思ってるの?」

「卑屈ガキンチョ」

「ちゃんと喧嘩する? する?」

 

 顔とかお金とかはいいよ。私だって顔自信ないし、お金は多分自分で稼ぎたくなるし。

 ただ、ちゃんと愛してくれて、自分のことも大事にできる人なら……うん。それが理想だよね。

 

「ま、わかるけどね。私も……先輩に一回抱きしめられてからは、それが忘れられないっていうか。この歳になると抱きしめられること自体が少なくなって、それが特別になるっていうか」

「おお、上質な惚気」

「うっさい。……今ハグしてあげてもいいけど。愛、飢えているでしょ」

「那奈のハグにどんな価値が」

「はーいギュー」

「ぬぁあああ」

 

 本当にハグを……しかもちょっと力強い力強い! あと……これ見よがしに! これ見よがしに!!

 ああでもちょっと寒かったから温かくはある。人肌ぁ……。

 

「ふにゃあってなって……ホントに小動物感あるのね。こりゃ男子も揶揄いたくなるわ」

「うるへー……」

「はいはーいよちよちばぶちゃんいいこでちゅねー。じゃあ高い高いしてあげまちょーねー」

 

 持ち上げられる。身長もあって全く不安定じゃないそれ。

 やばい、良いかも知れない。力強い支えが……その、すごく。

 

「何本気で嬉しそうな顔してるのよ……」

「ハッ」

「……まさかその顔、件の後輩男子に見せたとかじゃないでしょうね。勘違いしてって言ってるようなものよそれ」

「や、こんなの友達にしか見せないって」

「そう? ならいいけど」

 

 降ろされる。かと思いきやまた持ち上げられる。

 わーいたかいたかいすきー。

 ……実際こんなの友達以外の前でやったら羞恥心と自己嫌悪で爆発四散すると思う。

 

「っていうか大丈夫? 腕痺れるでしょ流石に」

「何言ってんの。軽すぎ軽すぎ。ちゃんと食べなさい。心配になるでしょ」

「えー。……あ、じゃあ一回降ろしてよ」

 

 降ろされる。

 そして……ぺしっと那奈の足を払った。

 

「きゃ!?」

「よっこいせ」

 

 昨日やられたことの見様見真似。

 身長の大きな那奈を、お姫様抱っこする。かなり重いけど……腰を入れれば大丈夫。

 

「ちょ、降ろして降ろして、怖い怖い!」

「ほーらゆっさゆさゆっさゆさ。ねんねーころーりーよー」

「頭打って永遠の眠りに就きそうだからおーろーしーなーさーいー」

「このまま廊下に出てみるか」

「あんまりふざけると次の女子会で高い高いでキャッキャしてたことみんなにバラすけど」

「降ろします」

 

 やめろ。面白がる連中がどれだけいると思っている。

 

「はぁ、まったく。……で、さっきのことだけど」

「んぇ?」

「由佳が放置したいっていうなら止めないけど……勘違いさせたままにするのはやめなさいよ。取り返しのつかないことになりかねないし」

「取り返しのつかないこと? ……ああ、その子の青春を奪っちゃう的な?」

「そんなの勘違いした側が悪いからどうでもいいけど、由佳もその子を好きだと思ってる、みたいな思い込みから……襲われたりしたら、大変でしょ」

「襲う?」

「……え。嘘、由佳ってそういう知識ないの?」

「あー……えっと、ソウイウ話?」

「そう。ソウイウ話」

「……それは大丈夫だと思うけど」

「由佳は思春期男子舐めすぎ」

 

 いや、まずもって思春期男子じゃないから。

 いのりちゃんは……そういう、無理矢理とかしないと思うし。

 

「うわー……絶対大丈夫とか思ってる。危なっかしいったらもう……」

「心配し過ぎだって」

「次二人きりになる時はメッセ送って。時間あったら守りに行ってあげる」

「いや大丈夫だってば」

 

 っていうか毎日なるし。

 

「いい? 何かおかしいって思ったら、すぐ逃げるのよ」

「はいはい」

「……」

 

 無いってば。

 

 

 その夜。

 夕ご飯等々の支度を終えた私に、その言葉が降りかかった。

 

「あの……お姉。その……」

 

 もじもじしたいのりちゃんの口から出たのは。

 

「一緒にお風呂入らない……? なんて……」

 

 え、あの、これ、逃げた方が良いやつですか?

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