「キュ~オ…。」
タマゴから孵った雛の翼が鎖で閉ざされているのを見て、パイモン以外は一気に衝撃を受けた顔になる。
黒く変色している翼は鎖により動く気配が無く、広げることも羽ばたく事も出来ないが、本人は翼を縛られていることを気にしていないかのようにのび~~っと伸びた後、身体を大きく震わす。
そんな雛を蛍が見ていると、周りを見ていた雛が蛍の方に顔を向けてカシャカシャと足音を立てながら近付き、こちらを呼んでいるかのような声を上げる。
「へへっ初めまして、だな!」
パイモンは皆の表情を気にせず産まれた雛に初めましての挨拶をすると、雛は両脚を少し広げて姿勢を低くしながら、両腕を限界まで上げた瞬間に、蛍に向かって飛ぶように跳躍した。
そしてそのまま大きく羽ばたこうとするが、鎖で閉ざされた翼では飛ぶどころか風を掴むことが出来ず、蛍の一歩手前で落ちてしまう。
「キュ!?」
「っ!」
蛍は咄嗟に前に出て、床に落下する直前の雛を両手で迎え入れるようにして落下を止めると、雛は床に両脚をつけ、翼をパタパタ動かしながら鳴く。
「この子…翼が小さい……。」
「あぁ、そんでこの鎖……なるほど、タマゴのあの模様は、これを指していたのかもな。」
蛍にすり寄る雛を見ながら、四つん這いで近付いたアンバーは翼が小さいことを言い、ガイアはタマゴにあった模様が翼を縛っている鎖を意味していたことに納得がいっていた。
模様の意味が分かったアンバーは先程の激突でまだ少し痛むらしく、座った姿勢になって額を手で少し擦っていると、蛍に擦り寄っていた雛がそれに気付いて心配をしているような顔でアンバーを見る。
「キュウゥル?」
「うん?あぁ、大丈夫だよ。ぶつけたところがまだ痛いだけだから。」
「キュウゥ…?」
「…でだ、リサ、コイツが一体何の生き物なのか分かるか?」
平気だと言っているアンバーに対し、まだ少し心配が残っていそうな顔をしながら首を傾げる雛を蛍が抱いて持ち上げる中、ガイアがリサにそう聞いてみると、皆の中で一番驚いていたリサがハッとなり、咳払いをして口を開く。
「え、えぇ…でもまさか、こんな形で〝ワイバーン〟に会うことができるなんて普通思わないわよ。」
「えっ、ワイバーンって確か、絵本や御伽話にしか出てこない生き物……ですよね?」
ワイバーンという名前を聞いた途端にアンバーが反応し
「ワイ……バーン?」
「なんだソイツ?」
聞いたことが無い名前に蛍とパイモンは『?』を浮かべると、リサは蛍に抱かれている雛を見ながら答えた。
「大昔にこの世界の空を支配していたという竜の名称よ。両腕の翼で空を飛び、大きな火球を放つことができると言われていていたけど、今はもう絶滅していて、アンバーの言ったとおり、絵本や御伽話にしか居ないわ。ゴーレムとはいえ、わたくしが生きている内にこの目で見ることができるなんて…。」
「へぇ~、君ってそんな凄い存在なんだ?」
「キュウ?…キュイ!」
ワイバーンの大まかな姿を聞いた蛍は、仔竜にそう聞くと、仔竜は元気よく頷く。
「ただこの子、機械仕掛けじゃない?それなのに自然的な生物の動きが出来るなんて、フォンテーヌの技術を以てしても到底出来ないわよ。」
「あぁ…しかもこの仔竜は、我々の言葉もしっかり理解しているようだ。偶然かもしれないが…。」
「え?そうなのかオマエ?」
「キュル。」
パイモンに言葉を理解しているのかと仔竜は聞かれると、本当に理解しているかのように返事をする。
2人の話を聞き、凄い存在を孵化したことに蛍は驚いていると、仔竜はまだ構って欲しいらしく、蛍の腕に擦り寄ってきたので頭を撫でると、小さく唸って目を細める。
「それにしてもこの子、本当にあなたに懐いているわね。」
「確かに、この子からは私達への敵意も無くって…むしろ凄く人懐っこいみたいだし……」
蛍に撫でられる仔竜を見て、さっきまでの警戒が段々と解けて興味を持ち始めたアンバーに「撫でてもいいかな?」と聞かれた蛍は頷いてOKを出すと、アンバーは仔竜に手を慎重に近付かせる。
すると、仔竜はアンバーの手に鼻を近付けて匂いを嗅ぎ、ペロペロと舐め始めた。
「ちょ、くすぐったっ、アハハッ」
「キュ~」
「ふふ、どうやらこの子も、わたくしたちとも仲良くなりたいみたいね。」
アンバーの手を舐めているのを見てリサはそう言い、先程から仔竜を見ていたガイアもこの光景を見て警戒をしていた自分が馬鹿らしいと思ったのか、警戒を解いて蛍の近くに寄る。
仔竜は何回かアンバーの手を舐めた後、今度はその手に擦り寄りはじめてきたのでアンバーが仔竜の小さな頭を撫でると、先程蛍に撫でられたのと同じように目を細めて更に擦り寄ってくる。
「ん~~……」
っと、アンバーが何か引っ掛かるのか、仔竜を撫でながら何かを考え込み始める。
「どうかしたの?」
「………な~んか物足りないような気が…。」
アンバーが仔竜を撫でながら、何か物足りないと言い、仔竜を撫でていた手を一旦離して考えはじめると、「あっ」と言ってその何かを思い出す。
「そういえばこの子の名前、何にしよっか?」
アンバーのその一言に皆はそういえばと再度仔竜をみると、こっちに視線が集まっているのを感じた仔竜はキョロキョロと周囲をみて蛍に視線を戻すと「どうしたの?」と言っているかのように首を傾げる。
「そうねぇ…、名前…」
「名前かぁ…そういえば、決めていなかったよな。どんな名前にするんだ?」
「名前……名前…う~ん…オイラこういうの苦手だなぁ…。」
「じゃあ、皆でこの子の名前を考えましょうか。」
この仔竜の名前を決めていなかったため、皆は蛍の腕から降りた仔竜を見ながら名前を考え始める。
単純に仔竜が気に入りそうな名前をつければ良いのだが…思った以上に名前が思いつかない。どんな名前にしようかと全員が真剣に考え始めてから暫く経ち…
ジン団長の呟きに仔竜が直ぐ反応したことによってその沈黙が終わった。
「……………〝カイト〟………」
「!」
「あら?」
「お、もしや一発か?」
「カイト…うんっ、凄く良いかも!」
「そ、そうか…?本当にこの名前で良いのか…?」
「キュウ!」
呟きに仔竜が反応したため、ジン団長は一応、確認で仔竜にそう聞くが、仔竜は依然とその名前がいいと言わんばかりに翼を大きく上げてアピールする。
「そうか、それは良かった。」
「よろしく、カイト!」
「よろしくな。」
名前を貰った仔竜…カイトは自身の名前を気に入り、喜んでいる様子でピョンピョンと跳ねていると、
きゅぅぅぅうぅう…
突然甲高い音が部屋中に響き、全員が何の音かと一瞬固まる。
「え?何の音?」
「今の音、お腹が鳴った音なのかしら…?パイモンちゃん、お腹が空いているの?」
「い、いや、オイラはそんなに腹減ってないぞ…?蛍か?」
「ううん、私じゃない……もしかして…」
パイモンに聞かれた蛍は首を横に振って違うことを表し、もしやと思いカイトに顔を向けると、何やら元気が少しない様子で俯いている。どうやら先程の音はカイトの空腹の音のようだった。
カイトはその場にぺたんと座り込み、尻尾の先端をお腹にそえて円を描くように擦り始めるのを見て、蛍はカイトに威圧感を与えないようになるべくしゃがんで聞いてみる。
「キュウ…………。」
「カイト、お腹空いているの?」
「キュッ……キュウ…。」
蛍に聞かれたカイトは小さく頷き、直ぐに立ち上がるが、さっきとは違い動きが少し遅く、口が半開きになっているのが分かるのだが…機械でできているカイトに、一体何を与えれば良いのだろうと蛍は思った。
「腹が減っているのか……でも…何を持ってくりゃあ良いんだ…?」
お腹を空かせているカイトを見て、パイモンが腕を組みながら自分が思っていた事と同じことを言う。
お腹を空かせているのであれば何かをあげてやりたいのだが、通常の生物とは勝手が違うと思い、どんな物が良いのか考える
。
「う~ん、ひとまず生肉を与えてみるのはどうかな?それがダメだったら木の実とか持ってきてみようよ。」
「……うん、分かった。」
「はい、どうぞ。」
「!キュオ~~…!」
カイトが何を食べるのか分からないが、ひとまずアンバーに言われた通りに、食糧庫にある生肉を持ってくることにしてみた。
カイトの大きさに合わせて切った5枚ぐらいの生肉が乗った皿をカイトの目の前に置くと、宝石を見るかのような目でじっくり見ながら尻尾をゆっくり振り、1枚の生肉を咥えて後ろ足で器用に掴み、千切った肉を口の中に入れる。
「モキュモキュ…モキュモキュ…コキュッ…………キュ~♪」
「どう?美味しい?」
「キュ~! カジッ…プチッ………モグモグ」
蛍に美味しいことを伝えると、再び食事に入り、1枚の生肉を食べ終えると二枚目にかぶりつく。
尻尾を振りながら生肉を頬張るカイトを見て、食べることに問題はないと分かった。
「どうやら大丈夫なようだな。」
「えぇ、でも不思議ね…機械の身体をしているのに、生肉を食べることが出来るなんて。」
生肉を頬張るカイトを暫く見ていると、カイトは皿にある生肉を全て食べ終えたのだが、何やらこれでは足りないらしく、皿の端を咥えて蛍に差し出してくる。
「もっと食べたいの?」
「キュ!」
「オッケー、ちょっと待ってて。」
蛍はカイトが咥えている皿を持ち、追加の生肉を今度は10枚乗せて置くと、さっきよりも少し速いペースで食べ始める。どうやら生肉の味が気に入ったようだ。
「モグ…モグ…モグ…ゴキュ………キュ~~♪」
そして追加の10枚を平らげたカイトはその場に座り、お腹を満たしたことに満足した顔になる。
「どうだ、美味かったか?」
「キュ!」
パイモンに美味かったか聞かれてカイトは大きく頷いて答えると直ぐ立ち上がり、後ろ脚のお手入れをし始めた。
ある程度お手入れをし終えた後、再び蛍に近寄ってパタパタと翼を上下に動かす。
さっきみたいな事をして貰いたいのだろうと思い、蛍はカイトを持ち上げてさっきのように抱くと、頬擦りをし始める。
「きっと、蛍のことを親だと思ってるんだよ。」
「へぇ~、だからさっきから、オマエにだけそんなに甘えているのか。」
「………クァ~……キュ……」
「ん?カイト?」
すると、蛍に抱かれているカイトが大きな欠伸をして、瞼がゆっくり閉じて眠り始めた。
「キュウ………キュウ………」
「あ、眠っちゃった。」
「安心できると思ったのかな?」
「こんなに気持ちよさそうな寝顔をしちゃってるから、きっとそうだよ。」
抱かれたまま寝ているカイトを見て、アンバーと蛍は癒された気分になる。
「でも…こんなに可愛らしいのに、大事な翼を縛られているなんて…。」
リサがカイトの翼を縛っている鎖を見てそう言ったことに、パイモンは疑問の声を上げ、皆もそれについて考える。
「あ…そうだよな…この鎖、どうにか出来ないのか…?」
「どうにかって言われても…そもそも何のために鎖はあるのかな…?う~ん……何かを食い止めるため…とか?」
「確かにそれも考えられるが、タマゴに入っていた時からとなると、孵化した後に何かしらの障害が残っているはず。それに…もし人が分かっている上で意図的にこれをやっていたとなると、それはまるで……。」
「あ……確かに……。」
アンバーは何かを食い止めるためだと考えるが、ジン団長のその後に続く言葉を察してジン団長と同じ表情を浮かべる中、ガイアが口を開く。
「だったら、鎖を解いてやるってのはどうだ?」
「うぇ?鎖をか!?だ、大丈夫なのか?」
「まぁ、100%大丈夫って訳じゃあ無い。ただ、分からないままじゃあなんとも言えないのは確かだろ?問題は…この鎖をどうやって解くかだが……」
述べた案に大丈夫かとパイモンが聞くと、顎に手を当てつつガイアはそう言い、カイトを縛っている鎖を見る。
「コイツは結んであるんじゃなく、翼と融合しているみたいだ。これを予想するに、何らかの方法か破壊してやることで解ける仕組みのようだな。」
「何らかの方法で…?う~~~ん?…何で解けるんだ………?」
「その方法とやらを試したいところだが、とりあえず今は、この子を眠らせてあげよう。それで様子を見ながら、解除方法を探るのはどうだろうか?」
ジン団長の意見に蛍はそれが良いと思い、ジン団長の意見を蛍とアンバーは同意した。
「そうだね、わたしもそれが良いと思う。」
「うん、私も!」
「決まったみたいだな。さてと…」
一方ガイアは、机の上に散乱したタマゴの殻に視線を向ける。カイトが孵化した後も尚、タマゴの殻は圧迫感を含めた異様な存在感を放ち続けており、ガイアはリサに殻をどうするか聞く。
「リサ、この殻はどうする?カイトが孵化した以上、必要ない気がするんだが?」
「そうねぇ……わたくしもそう思っていたのだけれど…」
リサもガイアと同じことを考えていたのだが…カイトと同じように、このタマゴの殻にも、いくつか謎が残っている。
それに、このタマゴの殻とカイトには、普段の生物には無い何らかの力があると見ていた。
「この殻はこっちの方でもう少し調べてみるわ。出来れば、アルベドにも協力して貰おうかしらね。」
「ほぉ…そいつは良いな。んじゃあ、アルベドにもこの事を伝えた方が良いか?」
「ええ、そうして貰えると有り難いわ。」
そんな二人の会話を尻目に、アンバーは蛍の腕の中で寝ているカイトをまじまじと見つめ、パイモンはカイトの横顔を突っつくのであった。
★★★★★★
蛍の腕で眠っているカイトは、暗い暗闇の中、夢の中で今さっきの出来事を振り返っていた。
陽光の匂い、いくつもの分厚い物が置いてある棚、そして孵化した自分を迎え入れてくれた自分よりも背が高い……人達(あの白い髪の人…パイモンは自分と同じ身長で宙を浮いているが、人と呼べるのだろうか……?)と、窮屈だったタマゴから出て初めて見たものはとても暖かったのだが、
名前を決めようと皆が考えて、髪を後ろに結んだ女性が呟いた名前…確か……
『……………〝カイト〟………』
この名前は確かに初めてである…はずなのに、初めて聞いたはずなのに…
どういう訳かその名前を覚えている。
いつ?どうやって…?事前に用意されたかのような名前を何度も何度も繰り返し、この2つの問いを自分で問うが、それでも何故これだけ覚えていたか分からない。
しかし確実なのは、この日この瞬間、カイトという名前を授かるまで、決して忘れてはならないものだったということ。
では、この名前が仮に、事前に用意されていたとすれば…髪を後ろに結んだ女性…ではないとすれば…
一体、誰が自分の名前を与え、誰がこの名前を忘れさせないようにしたのだろうか…………?
結局それが分からないまま、更に深い夢の中へと沈んでいった。
続く。
いかがだったでしょうか?次回は、アンバーの伝説任務を書く予定です。