秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

13 / 85
その12

 さて、そのころ、地霊殿に案内された穣子たちはというと……。

 

「はぁー! ごくらく、ごくらーく! 美味い酒と美味い料理! これぞ、ご極楽トンボの桃源郷ってヤツだわー!」

 

 一行は、お空を連れてきてくれたお礼にと、さとりにご馳走を振る舞われてました。

 テーブルの上には豪華けんらんな料理が、所狭しと並べられ、それを穣子たちは片っ端から平らげていっています。

 

 ヤツらはグルメじゃありません。なんでもペロリです。飲めや歌えや騒げや踊れや。

 

「はぁー。もう、鬼に絡まれたときは、どうしようかと思ったわよぉー!」

「うん、まったくだよ。さすがに私も一貫の終わりだと思ったさ」

「ええ! ええっ! そうよね。そうよねぇーっ!」

 

 などと言いながら、ヤマメの言葉に、うんうんと大げさにうなずいている穣子は、どうやらすっかり出来上がってしまっている様子。

 一方のにとりは、居心地悪そうに、そっぽを向いて酒をちびりちびりとあおっています。

 

「あーら。どったの。にとりったら、チョコンとかしこまっちゃったりなんかしてー」

「……あ、いや。うん……」

「なによー。その態度は!」

「……あ、わかったぞ。オマエ、お空をあんなにしてしまった張本人が、こんな待遇を受けていいのか、とか思っているんだろ?」

「え、いや……。その」

「なーんだ。そんなの気にしてるのー? そんなのいいじゃん。アンタもこうやって一緒になって連れてきたんだしさー」

「いや、そうなんだけど……。なんていうか」

 

 と、そこへ料理を持ったさとりが現れ、にとりの方をジーッと見ながら、何やらニヤニヤと笑みを浮かべて一言。

 

「……『酒のつまみにきゅうりをよこせ。私は河童だぞ! こんなモノ食えるか!』……ですか。わかりました。今、もろきゅう用意しますね」

 

 そう言うと、彼女は、ニヤニヤしながら再び台所の方へ消えていきます。

 

「……おい! なんだよ! オマエ、きゅうりが欲しかっただけかよ!? 余計な心配して損したじゃないか!」

「そっちが勝手に思い込んでただけだろ!?」

「まーまーまー。二人とも落ち着いて落ち着いてー。それにしても面白いわねー、心が読めるってさー」

「何が面白いのさ?」

「えー。だって、こっちがしゃべんなくても相手に通じるってワケでしょ? 謎じゃーん? 不思議じゃーん? 便利じゃーん? 楽じゃーん?」

「うーん。私はそうは思わないけどねぇ」

「えーどうしてよー? ヤマメ」

「だって、ああいうのって、知りたくもないような、他人の心の中なんかも勝手に見えちゃうワケだろ……? 嫌だよそんなの」

「……あー。まー。うーん。そういうコトも、あるのかもしれないわねぇー?」

 

 酔っているためか、穣子はいちいちオーバーなアクションを交えながら会話をしています。ウザりこです。

 

「あ、そーそー。そういえばさぁー」

「何さ」

「あの時、あの鬼たちは、さとりを見た瞬間どうして逃げたんだろ?」

 

 その時、突然、何者かが会話に割り込んできます。

 

「……ああ、それはねえ。ヤツラは心をのぞかれるのが苦手だからさ」

「誰?」

 

 会話に割り込んできたのは、もろきゅうが盛られたお皿を片手に、二股の尻尾をフリフリさせて、黒っぽいワンピースをまとった赤髪おさげの猫妖怪。

 彼女を見るなりヤマメが、気さくに声をかけます。

 

「あ、お燐じゃないか!? 久しぶり!」

「やあ、ヤマメ。久しぶりだね。ふむ、その様子だと、どうやら地上侵攻は失敗したみたいだねえ?」

「……ま、察しのとおりさ」

「だから、あれほどやめとけって言ったのに」

「……しかたないだろ。あの時はイケると思ったんだよ」

「明らかにメンツが足りてなかっただろうに。そもそも彼女もいなかったし」

「あのースイマセン……。話の途中で悪いんだけど……。そこの猫妖怪さん。ちょっと聞きたいコトが……」

「ん? ああ、これはこれは秋神さま。申し遅れたね。あたいは火焔猫燐(かえんびょうりん)。この地霊殿に住む妖怪さ。気軽にお燐と呼んでおくれ。お空を連れてきてくれてありがとう! あの子はあたいの親友なんだよ!」

 

 そう言って、にとりにきゅうりを渡すと、ひらりとお辞儀をする彼女。どうやらなかなか礼儀正しい子のようです。

 

「あ。これはこれはご丁寧にどうも。……で、聞くけど、どうして鬼は心をのぞかれるのが苦手なワケ?」

「ああ、アイツらはウソがつけないんだよ」

「え、ウソ?」

「本当だよ。アイツらってああ見えて、実はピュアなんだ」

「……うーん。とてもそうは見えなかったけど……」

「そういやオマエさんたち、鬼に絡まれたって言ってたね。アイツらも普段はむやみやたらに絡んでくるコトはないんだ。きっと何かワケがあったんだよ。しかも、さとりさまにも知られたくないようなワケがね」

「ふーん……?」

「……なあ、おい。二人とも、もうアイツらなんかどうでもいいだろ。正直、思い出したくもないよ!」

 

 にとりは、不機嫌そうにもろきゅうをバリボリとかじります。そういや彼女は鬼が大の苦手でしたっけ。

 

「ま、にとりの言うとおりだな。それより、これからどうするか決めないと」

「そりゃーもちろん決まってるわよー!」

「と、言うと?」

「私の家に行って例の装置を見つけるのよー!」

 

 それを聞いたにとりは思わず、食べてたきゅうりをブーッと、吹き出してしまいます。

 ……ちょっと、ちゃんと掃除して下さいよ?

 

「……えぇー? 本気でさがす気なの?」

「当たり前でしょ。にとり! むしろそれが私たちの本題よ!? にとり! 私たちの当初の目的忘れたとは言わせないわよ!? にとり! アンタは私にしたがってればいいのよ! にとり!」

「ア、ハイ……」

 

 酔った穣子の迫力に気圧されたにとりは、思わずシュン……と、なってしまいます。

 

「ふーん。なるほど……?」

「ん……?」

 

 ふと、穣子が何かの視線に気がつくと、いつの間にか戻ってきていたさとりが、例のニヤニヤした表情で穣子をジーッと眺めていました。

 

「うぉわっちょっちょあーっ!? びっくりしたー!? アンタいつの間に来てたのよー!?」

「……ふむふむ。穣子さん。アナタは、なかなか面白いコトを企んでいるようですね……」

「へ……?」

 

 どうやら、彼女は穣子の心を読んだようです。

 穣子はキョトンとしたまま首をかしげるばかり。

 その様子を見てさとりはまた、にやっと笑みを浮かべます。

 

「……まあ、今はあえて多くは語らないでおきましょう。それに、そろそろ料理の方も打ち止めですので」

「お。そうかい。そんじゃ私たちも少し休んだら出発するとするか。いやー。馳走になったね。おかげで楽しいひとときを過ごせたよ。ほら、二人とも出かける準備しなよ?」

「ちょっと! ヤマメ! なんでアンタが仕切ってるのよ!?」

「え? だってこの中じゃ私が一番常識人枠だろ?」

「どこがよ!? 徒党組んで地上に殴り込み行くようなヤツのどこが常識人なのよ!?」

「あ、そこはまぁ……。魔が差したって言うか、野心がうずいたって言うかな……」

「常識人が野心とか口走らないでしょ。普通!」

「そうだ! 今、穣子、良いコト言った! それじゃ間を取ってここは私が……」

「にとり! アンタは黙って私にしたがってなさい! にとり!」

「いい加減、河童にも人権くれよー!?」

 

 と、不毛な主導権争いでギャーギャーピーピーやかましく騒いでいる一行を、さとりはニヤニヤ笑いながら横目で眺め、お燐は苦笑を浮かべてましたが、やがて一言。

 

「……あのーオマエさんたち。盛り上がってるところ悪いけど、地上へ戻るというなら秘密の近道を案内するよ。そこなら鬼にあわずに地上へ出られるさ」

 

 その言葉を聞いた三人は、ピタッと静かになります。

 

「ウソ!? ホント!? マジで!?」

「そいつは願ったり叶ったりだ!」

「ありがたい! いよっ! 神さま仏さまお燐大明神さま!」

「よせやい。そんな大げさなー」

 

 と、言いつつも、マンザラでもなさそうな様子のお燐。どうやら案外、ノリが良い子のようです。

 

 そんなこんなで三人が、なんやかんやと支度をして地霊殿を旅立とうとすると、ふと、さとりが穣子に告げます。

 

「……地上へ出るついでに、一つお願いがあるのですが」

「ん? 何よ?」

「私の妹、こいしをもし見かけたら戻ってくるように伝えてくれませんか。もうずっと帰ってきていないので」

「へえ、そうなんだ。わかったわ。まかせて!」

「あの子は、もともと風来坊気質ではあるのですけど、何にしろもう数年近く帰ってないので……」

「そんなに!? いくらなんでもそりゃ不安でしょうね。よし! 見つけたら帰るように伝えておくわ!」

「よろしくお願いしますね」

 

 こうして一行は、さとりに見送られながら、地霊殿をあとにして、お燐の案内で地上に向かうのでした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。