ところ変わって、妖怪の山の山腹にある風吹き荒れる岩山。
その上に佇んで長い髪をなびかせている天狗の姿が。
その正体は、
その彼女の元に、別な人かげが近づきます。
「……失礼します。飯縄丸さま!」
「……おや、誰かと思えば椛か。お前がここに来るとは珍しいな」
「はい……!」
「どうしたんだ。そんなに血相を変えて」
「大きな声では言えないのですが、実は……!」
「……何だと? それは本当か?」
「はい……。間違いなく」
「……そうか。よし、わかった。報告ご苦労」
「はっ……。ではこれにて!」
そう言うと、椛は、あっという間に立ち去ります。
「……
龍が呼びかけると、彼女のすぐそばにフサフサな狐の耳と尻尾の金髪の妖怪が現れます。
「……はい。ここに」
「射名丸文、それに秋神二柱、秋静葉、秋穣子をよく見張っておきなさい。こまめに報告するように」
「承知いたしました。龍さま」
典と呼ばれたキツネの妖怪はニヤリと笑みを浮かべると、こーんこーんとそのまま姿を消しました。
「……さて、こうしてはいられないな。さっそく、あのお方に報告しなければ」
そう言うと、龍もその場から姿を消すのでした。
……あのお方とはいったい誰なんでしょうか。
何やら物語が大きく動きそうな予感が、ひしひしと感じられます。
さて、一方、河童の住処をあとにした静葉は、里へ向かうがてら、とある場所に寄り道をしていました。その場所とは……。
「……よかった。どうやら無事だったみたいね」
そう、自分の家、つまり秋ハウスです。彼女は例の装置をさがすために、自分の家に立ち寄ったのです。
「さて『季節操作マシ~ン』はあるかしら」
彼女は引き戸を開けようとしますが、何やら戸の立て付けがやたら悪くなってしまっているようで、何度も押して引いてを繰り返し、やっとの思いで開いたかと思うと、なんとそのままスポーンと戸が外れてしまいました。
「……あらあら。なんてことかしら」
仕方なく彼女が家の戸をはめながら、あらためて家の外観をよく見てみると、何やらあちこち傷んでいるような……。
「ふむ。大分くたびれてしまってるわね……。これは一体どういうことなのかしら」
静葉がおそるおそる中に入り、三和土に足を踏み入れますが、中は日の光がほとんど入らず、じめじめとしていてカビ臭い。
まるで長い間使われていなかったようにすら感じます。と、その時です。
「……アナタが、秋静葉さんですね?」
暗闇の中から突然、声が。
「ええ、そうだけど、どなたかしら」
静葉がたずねると、突如あたりがぼんやりと明るくなり、彼女の目の前に、狐の耳と尻尾をたずさえた白い服姿の妖怪が浮かび上がりました。
「……どうも初めまして。私は
「ご丁寧にどうも。で、それで、あなたはここで何をしていたの」
「ふふふ……。きっとアナタがここに来ると思って待っていましたよ」
「ここでずっと待ってたの」
「ええ、アナタを探して」
そう言いながら彼女は、笑みを浮かべて尻尾をゆらゆらさせています。
「私に用事があるってことなのね」
「ええ。秋静葉さん。アナタに忠告をしに来ました」
「何よ。忠告って」
「アナタは天狗に目をつけられています。いえ、アナタだけでなく、射名丸文。それにアナタの妹である秋穣子も」
「まあ、穣子も」
「ええ。そりゃそうですよ。だって彼女は、アナタの妹であるのですからねぇ……。連座、すなわち身内同罪ってヤツです」
「……ふーん。なるほどね。では、文はどうしてかしら」
「あらあら、そんなの私に聞くまでもないでしょう? 彼女がアナタと通じているコトはお見通しですよ。なんせこちらにも目の良いヤツがいるので」
「……ああ、白狼天狗さんの千里眼ね」
「……ふふふ。察しが良い。うん、いいですね。……いいですよ!」
さっきから典はニコニコと何やら笑みを浮かべています。一体、何が楽しいというのか。
どうやらなかなか変わりモノのようです。
「……ふーん。そう。わざわざ忠告ありがとう。一応、気をつけることにするわ。で、用事はそれだけなのかしら。管狐さん」
「ええ。今日はこんなトコロです」
「……そう。それじゃ、私も一つ聞かせてもらうけどいいかしら」
「ええ、いいですよ。まあ、私が答えられる範囲であればですが」
「あなたの上司の名前を教えてちょうだい」
典は表情を変えずに答えます。
「……ふふふ。飯縄丸龍です。射名丸文の直属の上司でもあり、天狗をまとめる立場でもあるエライお方ですよ」
「……そう。あなたは、その龍って天狗の手下ってわけね」
「ま、そういうコトになりますかね」
「なるほど。わかったわ」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる静葉。典は思わず眉をひそめながら彼女に言います。
「……うーん。なんか探りを入れられているような気が……」
「あら、それはお互いさまよ。それに情報を仕入れておくに越したことはないでしょう。お互いに」
「ふふふ……。確かに。それじゃ一つ、私から良い情報を与えましょう」
「何かしら」
「実は、河童側の動きは、こちらに全部筒抜けです。アナタが河童の病気を治したってコトも。さあ、これが何を意味してるかわかりますか?」
「ふむ、両方に通じている内通者がいるってことね」
「ご明察!」
「……で、どうしてそれをわざわざ私に教えるのかしら」
「……ふふふ。アナタには期待してますよ。静葉さん」
そう言って典は、こーんこーんと姿を消してしまいます。彼女が姿を消すと、あたりはまた真っ暗になってしまいます。
「……ふむ。一体何だったのかしら。まったく、とんだ横槍が入ったものだわ……」
静葉は気を取り直して家の中を調べ始めます。
家の中に日の光を取り入れようと、納戸を開けようとしますが、どうやら戸が腐ってしまっているようで、全然動きません。
それこそ無理に動かしたら壊れてしまいそうです。
「ふむ、仕方ないわね」
静葉は、窓の一部を壊して日の光を家の中にとり入れました。すると床の一部が腐りかけているのがわかりました。
いやはや、うっかり歩いたら踏み抜いてしまうところでしたよ。危ない危ない。
静葉は家のあちこちを見て回ります。台所、納戸、自分の部屋に穣子の部屋……。しかしどこをさがしても例の装置は見つかりません。
「……まったく。にとりといい『季節操作マシ~ン』といい、今の私には失せ物見つからずの相でも出ているのかしら。誰かに占ってもらいたいところだわ」
静葉は床に腰を下ろしため息をつくと、ぼんやりと天井の方を眺めていました。
「……それにしても、傷みがひど過ぎるわね。まるで長い間使われてなかったようだわ……」
その時、ある考えが静葉の頭をよぎります。
「……ちょっと待って。家がこれだけ傷んでいる……。そもそも『季節操作マシ~ン』の誤作動で、妖怪たちの力が強くなったからとは言え、いくらなんでも一朝一夕で幻想郷の情勢がこんなめちゃくちゃになるものかしら。……もしかしてこの世界って、私たちがいた幻想郷の、更に未来の幻想郷という可能性もあるのでは。……もし、仮にここが未来の世界となれば、放置されている間に侵入した誰かが『季節操作マシ~ン』を持ち去ってしまっていても、おかしくないし、幻想郷の情勢がここまでおかしくなっているのも説明がつくわ」
彼女の
「……そうなると『季節操作マシ~ン』を探して、起動させてこの世界を元に戻すという手段は難しくなる。……直接的にこの状況を解決する手段を取った方が近道ですらありそう。しかし、この仮説を裏付けるには、まだ証拠が足りないわね。一応、文の新聞を一通り読んで新聞の発行した日付は確認したけど、肝心な今日の日付までは分からなかった。彼女に聞けるような状況でもなかったから仕方ないけど。ならば、それ以外の証拠。例えば……。そう。人間。人間は妖怪より成長が早い。もし、ここが未来の幻想郷だとすれば人間はその分、歳を重ねているはずだわ。知ってる人間にあえば、ここが未来かどうか分かる。一応、始めの森で博麗の巫女にあってはいるけど、私の記憶が確かならば、博麗の巫女は世襲制。だからあの巫女が、私たちの知っている博麗の巫女、つまり博麗霊夢か、あるいは次世代の博麗の巫女かどうかは、残念ながら判別つけられない」
まだ続くようです。
「博麗の巫女以外の別な人間。と、なると……。魔法の森の
次で終わりそうです。
「……とはいえ、もし、この世界が未来の幻想郷と判明したとして『季節操作マシ~ン』の力を借りずに、どうやってこの世界を元に戻すか。直接干渉するとしてもどこから手をつければいいのか。当然、文の力が必要なのはもちろんだけど、もっと協力者が必要ね。そう、河童側からも誰かを引き入れないと。幸いなことに、ちょうど河童側に恩を売ることができたので、きっと友好的に接してくれるでしょう。特に、にとりの姉という河城みとり。私が見るに、彼女はなかなかの実力者のようだし、仲間に引き込めたら心強いわね。……もちろん、ここが未来じゃない可能性だってある。その場合の身の振り方も考えておかないと。……まあ、何にせよ、色んな可能性を考えた上で行動しないといけないってことだわ。あの典という狐も何やらうさんくさいし。……あ、いけない忘れてた。一応、穣子のこともさがさないとね」
静葉は立ち上がると、ふうと息をつき、つぶやきます。
「まったく、やることが一杯だわ。ま、でもなんとかなるでしょう。……そう、何事も希望は持たないとね……」
静葉がそう自分に言い聞かせるように、つぶやいたそのとき。
「……あら」
ふと、彼女は背後に何かの気配を感じます。
「今、なにかいたような……」
しかし、振り返ってみても誰もいません。
「ふむ、気のせいかしら」
気を取り直して、静葉は家をあとにして一路、里へと向かうのでした。
果たして、里では一体何が待ち受けているのでしょうか……。