秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その14

 そのころ、穣子たちはお燐に教えてもらった近道を使って無事に地上へと出るコトが出来ました。

 

「わーい! 久々の太陽ね!」

「……うーん。やっぱり地上はまぶしいなぁ……」

「うう。……ずっと地下にいたせいか、なんか体だるいや……」

 

 三人はそんなコトを呟きながらあたりを見回します。

 

 ……はて、ここは地上の一体ドコなんでしょうか?

 

「……」

 

 三人は顔を見合わせながら首をかしげます。どうやら誰も分かってない様子。

 

「うん! とりあえず歩くしかないわね! 山の方に向かって進めばいいと思うわ!」

「ま、そうするしかないね!」

 

 と、二人が何も考えず歩き出そうとすると。

 

「なあなあ。二人とも待ってくれよ。……少し休まないか? くたびれちゃったよ」

「もう、にとりったら、だらしないわねー!」

「まぁ、ずっと歩きっぱなしだったもんね。そこの木のとこで休もうか」

 

 仕方なく三人は、木かげで休むことにしましたが……。

 

「うーん……。なんだろう。やたら体だるいなぁ……」

「おいおい、オマエ大丈夫か……?」

「うーん……。なんだろ。ゴメン。少し横にさせて……」

 

 そう言ってにとりは、そのままぐったりと寝込んでしまいました。

 

「なによ。にとりったらノンキに寝ちゃって! こんなとこでグズグズしてる場合じゃないんだけど……!」

 

 イライラしている穣子に、ヤマメがいさめるように言います。

 

「まあまあ。一休みも大事だよ。急がば回れって言うだろ?」

「そうは言うけどさ! 善は急げっても言うでしょ!? それに、地底にいたときもそうだったでしょ! アイツなにかと疲れた疲れたって……」

 

 二人は、ふと、にとりの方を見ると、彼女は荒い息をしています。

 なんか見るからに何やら具合が悪そうですけど……?

 

「……なんか様子、おかしくない?」

「うーん。もしかして地下で、何か変な病気でも拾って…………。あ」

「ん? どうしたのよヤマメ。急に固まっちゃったりして……」

「……いや、あのさ。もしかしてだけどさ……。私がばらまいた病気、今ごろ効いてきた……?」

「アンタが、ばらまいた病気……? そんなのあったっけ……。って、あぁーーーーっ!? そういや、アンタそんなコトしてたわね!?」

 

 そう! どうやら、あの時河童の住処でヤマメがばらまいたウィルスが今ごろ、にとりに発症してしまったようです。オーノーなんてこったい!

 

「アンタ何してくれてんのよ!?」

「いや、だってさぁ……」

「だってもロッテもロッチも三井コスモスもないわよ! どーすんのよ!?」

「どーすんのったって……」

「無理に連れて行くわけにもいかないし、だからって置いていくわけにもいかないでしょーよ?」

「……うん、そうだね。病人を引きずり回しても悪化させるだけだし、ここに置いていっても、病気はよくならないだろうし、それに運が悪かったら妖怪に襲われて、タダじゃすまないだろうし」

「そんな理屈こねてる場合じゃないでしょ!」

「いや、そんなコト言われても……」

「あ、そうだわ! なんかワクチンみたいなのないの? ほら、こういうのって自分がかかったときのために、ワクチンとか用意しておくモノでしょ?」

「いや、あいにくだけど、そんな都合いいのはないよ。このウィルスは河童にだけ効くヤツだったから、私や穣子にかかる可能性はなかったし。それにワクチンってのは病気を予防するためのモノだから、この場合は血清って言う方が正し……」

「そんなウンチク垂れてる場合じゃないっつーの! なんとかしなさいよ!?」

「……なんとかって言われても……。うぇーん。どうしよぉ……」

 

 穣子に責め立てられて困り果ててしまったヤマメは、とうとう涙目になってしまいます。

 

 ……ああ、果たしてこの状況を打開してくれるような救世主は誰かいないものか。

 二人が、そう思っていたそのとき!

 

「……やあ。お二人さん。なにやらお困りのようだね……?」

 

 声に気づいた二人が振り向くとそこにいたのは……。

 

 その二股尻尾をフリフリさせながら、黒っぽいワンピースをまとった赤髪お下げの猫妖怪……。そう!

 

「お燐じゃないか!? どうしてこんなところに!?」

「……いやあー。実はねえ。あの後、さとりさまにオマエさんたちの力になってくるようにって命令を受けてね。ほら、お空のお礼の件とかもあるし……。それで追いかけてきたってワケさ」

「おお、そうだったのね!」

「いや、そりゃ実にありがたい! 実はさぁ……」

 

 こいつぁ渡りに船! と、ばかりに、二人がお燐に事情を話すと、彼女はウンウンと頷いて、二人に告げます。

 

「へえ、なるほど。そういうコトだったのかい。それならちょうどこの先に永遠亭があるから、そこに連れて行けば、きっと診てもらえるさ」

「おお! 医者が近くにあるのね! 良かった!」

「あたいが案内してあげるからついといで!」

 

 一行はお燐の案内で、竹藪を迷わずになんとかにとりを永遠亭まで連れて行くことが出来ました。が……。

 

「で、来たはいいけど……」

「なんか人の気配が……」

「まったくないねぇ……?」

 

 あたりは人っ子一人どころか、ウサギ一匹すらおらず、文字通り閑散としています。

 

「もしもーし!! 急患がいるんだけどー!?」

 

 入り口に向かって穣子が呼びかけますが、返事はありません。あららら、留守でしょうか?

 

「何か返事がないんだけど……?」

「……うーん。こりゃ巡回にでも行ってるのかもしれないねぇ」

「と、なると、ここで待っていれば帰ってくるかもしれないってコトか」

 

 仕方なく四人は、ここで住人の帰りを待ってみるコトにしました。ところが、待てど暮らせど、誰も来る気配がありません。

 

「あーもう。まちぼうけだわー……。にとりのヤツはすっかり眠り込んでるし」

「ま、苦しそうではないだけマシってとこかね。それにしても頑丈さが取り柄の河童が病気で寝込むなんて、ある意味レアな場面じゃないか」

 

 などと言いながらお燐は、寝込んでいるにとりをノンキにのぞき込んでいます。そんな彼女にヤマメが神妙そうに話しかけます。

 

「……ねえ、そういえばお燐」

「ん? なんだい」

「……お空の具合はどうだい?」

「ああ、あの子なら元気だよ。ここに来る前に顔見せてきたけど、まぁ、いつもと変わらずってトコだね」

「……ごめんよ、お燐。私がアイツを誘ったのがいけなかったんだ。私が地上侵攻なんかに誘わなければ、アイツを怖い目にあわせることも。……本当、ごめん」

「まぁまぁまぁ、済んだコトはもういいさ。なっちまったもんは仕方ないし、それに地霊殿にいれば、あの子もきっと心の傷がいえて元に戻るよ。今はそれよりも、あたいたちが出来るコトを一緒にやっていこうじゃないか」

「……そうか。そうだね。ありがとう。お燐」

 

 と、その時です。

 

「アナタたち、そろいもそろってどうしたの……?」

 

 一行の目の前に永遠亭の住人の一人、うどんげが現れました。

 リュックを背負っているところ見ると、やはりどこかに出かけていたようです。

 

「あ! アンタは確かここの医者ね! 急患がいるのよ。ちょっと診てもらえる?」

「え、急患? わかったわ!」

 

 うどんげは、穣子に促されるままに、にとりの様子を見ると、慌てた様子で告げます。

 

「今すぐ診察の用意するから、布団まで運んで!」

「ほい来た! まかせろ!」

 

 そう言うとお燐は、どこからともなく手押し車を取り出すとそこに、にとりをよいしょっと乗せました。

 それを見たヤマメが、すかさずツッコミを入れます。

 

「なあ、お燐……。その手押し車って本来は死体をのせるモノじゃ……」

「ああ、そうさ。まあいいじゃないか。死体も病人も似たようなもんだよ。どっちも動けないのは一緒だし……」

「ちょっとやめてよ!? 一応、ここは病院なのよ!? 死体が云々とか縁起でもないこと言わないで!」

「……あ、ごめんなさい」

「……ああ、ごめんよ。これはウカツだったねえ……」

 

 うどんげに叱られた二人は、バツが悪そうに思わず苦笑を浮かべます。

 

「もう、なんでもいいけど、この際、その台車でもいいから、とにかく彼女を早く布団まで運んであげて!」

「ほい来た! まかせろ!」

 

 三人は言われるままに、にとりを運ぶと、そのまま布団に寝かせます。

 手早く診察の準備を整えたうどんげが、三人に言います。

 

「それじゃ、今から診るけど……。誰か状況や病状の説明できる人はいる?」

「あ、私が説明するよ。元はと言えば私のせいだし……」

「わかったわ。じゃあ、悪いけど残りの二人は向こうの部屋行っててね」

 

 と、いうわけでお燐と穣子は、待合室へ追い出されてしまいました。仕方なく二人は長椅子に腰を下ろします。

 

「……はぁ、まったく。何も追い出さなくてもいいじゃないのよ。別にジャマするわけでもないのに!」

「まあまあ、仕方ないさ。診察の時にあまり人がごちゃごちゃいるのは良くないからね」

「ま、それもそうね………。あ、そういえば」

「ん、なんだい?」

「ここってもう一人医者いなかったっけ?」

「ああ、あの子の師匠だね」

「そうそう! 確か、ヤゴコロなんとか先生っていう、なんか色々凄そうな人! あの人はどこ行っちゃったのかしら」

「ああ、彼女なら、きっと人間の里にいると思うよ」

「人間の里に……? なんでまた」

「いやほら、里は今大変なコトになってるからね……。知ってるだろう?」

「……ああ、そういえばそんな話どこかで聞いたような……。たしか、吸血鬼たちに支配されてるんだっけ……?」

「そうそう。紅魔館のヤツらが里の人間を捕まえてしまったのさ」

「まったく酷いわよね! 豊穣神として絶対に許せないわ!」

「いや、まったく同感だよ。まぁ、ここだけの話、あたいもそのために裏で色々動いているんだけど」

「へえ、そうなんだ? 色々って?」

「実は里にはレジスタンスってのがいてね。そこのメンバーとやりとりしてるのさ」

「レジスタンス……。っていうと、確か反抗勢力ってヤツよね?」

「そうそう。よく知ってるじゃないか」

「じゃあ、もしかしてさっき言ったヤゴコロなんとか先生も?」

「そのとおり! 彼女もレジスタンスの一員なのさ」

「なるほどね。どおりでここにいないわけだわ。……あの人いなくて大丈夫なの? ここ」

「ま、大丈夫だよ。あのお弟子さんも腕は確かだから」

「ふーん。そうなの? そんならいいんだけど……」

 

 と、その時、診察室の扉が開いて、うどんげとヤマメが出てきました。

 

「あ、どうやら終わったみたいだ。それじゃ説明を聞くとしますか」

 

 うどんげは、聴診器を外しながら二人に話し始めます。

 

「診断の結果、この子のばらまいたウィルスによる体調不良で間違いないわ」

「やっぱりそうなのね! もう! ヤマメったら!」

「いや、本当ゴメン……」

「それで……。一応、治せるは治せるんだけど、残念ながらすぐは治せないの」

「え。なんでよ?」

「薬が特殊なヤツで、今すぐ用意できなくて……」

「え、それじゃ……」

「ええ。彼女には、少しの間入院してもらうわ」

「えっ!? 入院!? マジで……!?」

「あ、お代は一切取らないから安心していいわよ」

「いや、それはハナから心配してないんだけど……。入院って、どれくらいかかるのよ?」

「そうね。こちらの準備の出来次第だけど、早くて一日ってとこかしら」

「早くて一日……!?」

「ま、皆でよく相談してみて」

 

 困惑している穣子に、ヤマメが話しかけます。

 

「……どうするんだ? 穣子」

「どうするったって……。そりゃあ、まかせるしかないわよ。どうせ動けないんだし」

「そりゃそうか……。でも、一日経ったらまた来なくちゃいけないってコトだよね?」

「そうなるわね……。うーん、正直手間よね」

「正直手間だよなぁ……。どうしようか」

 

 と、迷ってる二人にお燐が告げます。

 

「……なあ、お二人さんや。ここは素直に医者の言うことを聞いた方がいいと思うよ? あたいたちじゃ、どうしようもできないコトだろ。少しくらい面倒でも、また明日、迎えに来てあげればいい話じゃないか」

「……そうね。お燐の言うとおりだわ!」

「よし、じゃ決まりだ!」

「……話はついたようね」

「ええ! アンタににとりのコトまかせるわ! また明日迎えに来るからよろしく!」

「そう、わかったわ。それじゃこっちも責任持って診るから、その代わりちゃんと迎えに来てあげてよ? 放置じゃ困るからね?」

「オーケー! オーケー! まかせてちょだーい! よし、そんじゃ二人とも行くわよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」

「あ、おい、待ってくれよ!?」

 

 用は終わったとばかりに、さっさと外に出て行ってしまった穣子を追いかけて、ヤマメも外へ出て行きます。

 

「……やれやれ。賑やかなコトだねえ」

 

 お燐はその様子を見て苦笑していましたが、ふと、真顔になってうどんげに尋ねます。

 

「ああ、そうだ。ちょうどいい。お前さんに一つ聞きたいコトがあったんだよ」

「何よ……?」

「……お前さんの師匠以外の住人はどこへ行ったんだい?」

 

 うどんげは、思わず表情を曇らせて告げます。

 

「それは……。話せないわ」

 

 すかさずお燐は、耳打ちをするように彼女に何かを告げます。

 すると、うどんげの表情が一変します。

 

「えっ……!? それじゃお師匠さまが、言ってたのって……!?」

「ああ、オマエさんのお師匠さんから大まかな話は聞いているよ。だからどこにいるかだけ教えてもらいたいのさ」

「……わかったわ。……カイアンって言えば伝わる?」

「ああ、十分さ。それを聞いて安心したよ! ありがとう。それと、もう一つ……」

 

 お燐は、うどんげに近づくと小声でヒソヒソと、何かを告げます。それを聞いたうどんげは一つコクンと頷いて答えました。

 

「……そう。わかったわ。その時はそうする」

「それじゃ、頼んだよ!」

 

 そう言って笑顔を浮かべるとお燐は「おーい! 待ってくれー!」と、穣子たちを追いかけて永遠亭から出て行きました。

 

「はぁ……」

 

 一気に静かになった院内で、うどんげは、思わずため息を一つつくと、棚の上の写真立てに目をやります。

 

 そこには彼女の師匠やその他の住人たちが写った写真が飾ってありました。

 彼女はその写真を物憂げそうな様子で、しばらくの間、眺め続けていました。

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