同じころ、静葉は里の近くへとやってきていました。
彼女が里に近づくに連れ、何やら不穏な空気が徐々に強くなっていきます。
とても里の入り口にいるとは思えない、物々しい雰囲気です。
「……ふむ。なるほどね」
彼女が意を決して里に入ると、中は閑散を通り越してもはや無。木々は枯れ果て、川は干上がり、草木一つ生えておらず、荒涼とした地面から砂埃が舞い上がります。何よりも、重苦しい瘴気が里全体を包み込んでおり、絵に描いたような殺風景が、静葉の眼下に広がっていました。
「……ある程度、覚悟はしていたけど、これほどとはね……」
すっかり変わり果ててしまった里の様子に、思わず息をのみながら彼女が歩いていたそのときです。
前方に誰かが倒れているのが見えます。
「……あれは」
静葉が近づいてみると……。倒れていたのは、なんと文です!
彼女は無残にも羽根をむしり取られてしまっています。一体誰がこんなムゴいコトを。
「文。しっかりして」
「あ……。し、静葉さん? ……来ちゃダメ……っ!」
「えっ……」
その時です! 突然空から何かが、飛びかかってきます。
静葉は、とっさに紅葉でバリアーをつくりますが、彼女は弾き飛ばされてしまいます。
「……あら、連れがいたのね」
そう言って、静葉に飛びかかった張本人は、その赤い目をらんらんと輝かせて、口元を緩ませます。
静葉は、立ち上がると、その襲撃者の名を呼びました。
「……アナタの仕業ね。レミリア・スカーレット」
そう、彼女や文を襲った者の正体
それは紅魔館の主にして里の支配者、レミリア・スカーレットだったのです!
「秋神無勢が何の用……?」
「なぜ、文に手を出したのよ」
「なぜって? そんなの決まってるじゃないの……」
彼女は目を見開くと、強い口調で静葉に言い放ちます。
「天狗の分際で! 我が縄張りに勝手に侵入したからでしょうが!!」
そう言いながら彼女は、イライラした様子で、何度も文を足で小突くように蹴ります。
どうやら相当キゲンが悪いようです。
「おやめなさい。レミリア」
「……キサマは誰に指図していると思ってるんだ……?」
レミリアは、物々しいオーラを放ちながら、静葉に近づいてきます。文が、静葉に呼びかけます。
「静葉さん……! 私に構わず逃げて下さい……!」
「そんなことできるわけないでしょ」
「彼女の強さは並半端なものでは……。このままでは全滅ですよ……!」
「……あいにくだけどね、私は今、凄く機嫌が悪いのよ……。何故なら、私のテリトリーに、ネズミが二匹も侵入してきやがったからね!」
レミリアが鋭く腕を振るうと、それだけで衝撃波が文に向かって放たれます。
「文。避けなさい!」
しかし、彼女が動けないとみるや静葉は、文の方へ飛び込んで紅葉バリアーを張ります。
「静葉さん!?」
なんとか、攻撃を相殺するコトは出来ました。しかし
「この程度じゃ、私の気は鎮まらないのよ!!」
続けざまに、彼女は大きな深紅の槍を二人に向かって放ちました。スピア・ザ・グングニル! これはシャレにならない!
「文、ふせなさい!」
静葉が強い口調で呼びかけると同時に攻撃は二人に命中し、あたりはもくもくと砂煙が舞い上がります。そして砂煙が収まり視界が晴れてくると……。
……ああ、そこには埃まみれになり、地べたに這いつくばった無残な二人の姿が。
「フン……。これに懲りたら、二度と里で勝手な真似はしないコトね……。わかったらとっとと今すぐ立ち去れ!」
彼女は、情緒不安定かと思えるような口調で二人に吐き捨てるように告げると、翼を広げてそのままどこかへ去って行きました。
「……行ったみたいね」
静葉は、彼女がいなくなったのを確認して、息を吐きながら、ゆっくり起き上がります。
(……やれやれ、とっさに紅葉の壁を何枚も重ねてつくったから、なんとか威力を削げたけど……。それがなかったらどうなっていたことか……。もう紅葉がなくなってしまったけど、致し方なしね。それにしてもなんて恐ろしい……。あれが吸血鬼の力……。神さまの体は頑丈とはいえあんなの食らったらただじゃすまないわね)
文の方を見ると、彼女は完全に気を失っています。しかも、よく見ると地面には血だまりが。
どうやら今の攻撃で、深手を負ってしまったようです。
「文。しっかりしなさい!」
静葉は何度も文に呼びかけますが、返事はありません。そう言ってるそばから地面の血だまりは徐々に広がっていきます。
「……まずいわね。誰か助けを呼ばないと……」
と、そのときです。
「アナタたち! そこで何をしてるの?」
突如、二人の目の前に、赤と青の特徴的な模様の服を着た、銀髪の女性が姿を現しました。