秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その16

「あなたは……」

「話は後!」

 

 そう言ってその女性は、倒れている文の様子を見ます。

 

「……これはいけない……! 私につかまって!」

 

 言われるままに静葉はその女性の腕につかまります。すると、次の瞬間、三人は別な場所に移動していました。

 どうやら、どこかの建物の中のようですが……。

 

「……ここはどこかしら」

「安心して。永遠亭よ」

 

 そう言って涼しい笑みを浮かべる彼女……。

 

 そう。彼女はヤゴコロ先生こと、うどんげの師匠である八意永琳(やごころえいりん)先生だったのです。

 

「……うどんげは……。いないみたいね。……まったくもう。こういう時に限って……。本当、使えない子だわ」

 

 などと、ぶつぶつ言いながら彼女は、ガーゼやら包帯やらを用意します。

 

「……ふむ。さすが月の民ね。まさか瞬間移動できるなんて……」

「滅多にやらないわよ。それだけ彼女が重傷だったってコト。多少の怪我くらいならアジトでも治せるんだけど……。これはさすがにね」

 

 そう言いながらも彼女は、文の怪我の処置を、テキパキとした手さばきで行っています。

 

「文は大丈夫かしら。結構な出血だったけど……」

「ええ。大丈夫よ。天狗という種族は元々体が強いから、きちんと処置して止血さえすれば、あとは持ち前の生命力でなんとかなるわ。もぎ取られた羽根も、すぐに生えてくるでしょう」

「そう。ならよかったわ」

「……それにしても、アナタたち、あそこで一体何をやっていたの? 一体あの爆発は何だったの?」

 

 静葉は、コトのいきさつを彼女に説明しました。

 

「……そうだったの。それは……。災難だったわね」

「……ええ、正直、彼女の力を侮っていたわね。まさかあそこまでとは」

「……知ってると思うけど、『あの日』を境に幻想郷は変わってしまった。妖怪たちに力がみなぎり、世界のパワーバランスが崩れてしまったのよ。その中でも特に、彼女は他の妖怪より強い力を得てしまったようなの。恐らく、彼女の元々持っていた潜在能力が更に増幅されてしまったのでしょう。今の地上において、サシで彼女に勝てる妖怪は多分、いないでしょうね」

「……ええ、そうでしょうね。そう言われても納得いく強さだったわ」

「……彼女ら一派には逆らわない方が身のためよ。例え神であるアナタと言えど、無事じゃすまないわ」

 

 そう言いながら彼女は、静葉に水を差し出します。静葉はその水を受け取って飲む干すと、ふうっと息をつきました。

 

 そういえば、口にものを入れたのは、いつぶりでしょうか。

 冷たい水を取り込んだせいか、彼女はなんとなく思考がサエてきたように感じました。

 さっそく静葉は、永琳に質問します。

 

「……そういえば、あなたはレジスタンスにいるって言ってたわね」

「ええ。そうよ」

「レジスタンス。……そういえば、寺の者たちもいるらしいけど、メンバー構成はどうなってるのかしら」

「……かいつまんで言えば、主に里周辺で活動している人間がメインね。それと魔法の森の住人や命蓮寺(みょうれんじ)の一派、あと一部には、妖怪や妖精も一応いるわ」

 

 どうやら、思ったよりなかなか大規模な組織の模様です。

 

「更に最近は別な勢力とも協力して、里の開放に向けて動いているところよ」

「別な勢力……。つまり今の状況を打破したいという者が他にもいるって事ね」

「その通り。まぁ、色々な思惑があるみたいだけどね。……ところで私からも質問していいかしら?」

「ええ、いいわよ」

「つきなみだけど、アナタは今のこの世界についてどう思う……?」

 

 永琳の質問に、静葉はすぐさま答えます。

 

「一言で言えば、居心地が悪いわね」

「アナタならそう言うでしょうね」

「ええ。あちこち見てきたけど、この世界は弱肉強食。強かな者だけが生き残れる世界よ」

 

 永琳は、相づちを打ちながら静葉の言葉聞いています。

 

「妖怪がはびこる世界としては、それはあるべき姿の一つなのかもしれない。けれど、少なくとも以前の幻想郷は、こんなに殺伐とはしていなかったわ。奇跡的なバランスでもって危うくも保たれていた。しかし今は、妖怪の力が極端に強くなったことで、弾幕ごっこというルールが意味を成さなくなってしまったのでしょうね」

「……その通りよ。よく見通せているわ。さすがの洞察力ね。そこでなんだけど……」

 

 永琳はコホンと咳払いをすると、改まって静葉に尋ねました。

 

「……ねえ。紅葉神さん。アナタ、私たちの仲間に入らない? アナタのその洞察力と思考は、きっと私たちにとって大きな戦力になるわ。ぜひ、その力を貸してくれないかしら」

 

 静葉が思わず永琳の顔を見ると、その目は真剣そのもの。どうやら彼女は、本気で静葉をレジスタンスに引き入れたいと、思っているようです。

 

「ふむ……」

 

 と、そのときです。

 

「……あれ? 永琳さんと静葉……さん?」

 

 二人の後ろから聞き覚えのある声が。静葉が振り返ると、そこにいたのは。

 

「にとり。こんなところでどうしたのよ」

「いやーそれが、私もなんかわかんないんだけど、体調崩しちゃってさ。気がついたら、ここで寝ていたんだよ。薬飲んだら、だいぶ良くなったけど」

 

 すると永琳が、思い出したように手をパンと叩いて言います。

 

「……ああ、そういえば、うどんげのヤツがたずねてきてたわね。河童に効く薬の調合教えてって……。そう。アナタが患者だったのね。心配いらないわよ。あの薬を飲んで体を休めさえすればすぐ治るわ」

「……にとり。ちょっと話があるんだけど、いいかしら」

「え? うん? 別にいいけど……」

「そうね。ちょっと外へ出ましょう」

「え? 外? わかったよ」

「と、いうわけで、ごめんなさいね、竹藪の医者さん。さっきの返事は、ひとまず保留でいいかしら。先にこの子と話がしたくて……」

「ええ。いいわよ。いってらっしゃい」

 

 永琳に見送られ、静葉とにとりは永遠亭の外へ出ると、お互いの今までのいきさつを話しました。

 

「……そう。そんなことがあったの。それはなかなかの冒険だったわね」

「いやいや、静葉さんこそ、一人でよくそこまで動けたもんだね。さすがだよ……」

「ま、これであの子が無事だってことはわかったわ。とりあえずは一安心ね」

「あっちもあっちで結構大変そうだけどね?」

「……それで。もう一度確認するけど『季節操作マシ~ン』は見つからなかったのね」

「……うん。穣子にも何度も聞かれたけど私もできる限りさがしたんだよ。でも……。見つからなかったんだ。しかも、なんか家スゴイ荒れてたし」

「……そう。なら致し方ない。この際、装置のことは、いったん忘れるとしましょう」

「それで、これからどうするのさ……?」

「そうね。……にとり。アナタに一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「え、何……?」

 

 思わず怪訝そうな表情を浮かべるにとりに、静葉は不敵な笑みを浮かべます。

 

 そのころ、院内では早くも意識を戻した文が、永琳と話をしていました。

 

「……あやや。そうだったんですか。……私としたコトが、まったく不覚をとりました。静葉さんに謝らないと……」

「ま、いずれにしても、まだ無理はしないようにね。……それで、お目当ての里の写真は撮れたの?」

「はい。襲撃受けた時カメラは壊れてしまいましたが、なんとか……」

 

 彼女はフトコロから写真を何枚か取り出すと、それを永琳に見せます。

 写真を見た彼女は、思わずフクザツそうな表情を浮かべました。

 

「……いい写真ね。今の里の現状がよく伝わってくるわ」

「はい。……この写真を上司である龍様に見せてこようと思います」

「……そう。ぜひお願いするわ。一人でも多くの者に、この状況が伝わって欲しいものね」

「永琳さん……」

 

 文は写真を見て切なそうな表情の彼女に何か話そうとしますが、その時、静葉とにとりが外から帰ってきます。

 

「文。もう起きて平気なの」

「あ! 静葉さん! いや……! 本当に本当に申し訳ありませんでした!」

 

 思わず平謝りする文に、静葉は笑みを浮かべて告げます。

 

「……気にしなくていいわよ。正直、私も油断してたもの。無事で何よりよ」

「あやや……。すいません」

「さて。それで、竹藪の医者さん。さっきの返事なんだけど……」

「……答えは出た?」

 

 静葉ははっきりとした口調で永琳に告げます。

 

「……申し訳ないけど、今回は見送らせてもらうわ。確かに、私とあなたたちレジスタンスは、目的が同じかもしれない。でも、組織に属するということは、少なからず束縛が生じる可能性をはらんでいる。私は、あくまでも、どこにも属さず自由気ままに動き回りたい性分なのよ」

 

 永琳は苦笑しながら答えます。

 

「……そう。残念ね。でも。……そうね。今の幻想郷において、アナタのような自由な存在は、確かに必要かもしれない。どこにも属していない強みが生かされる時が、きっとこの先あるでしょう」

「……せっかくのお誘いだけど、ごめんなさいね」

「……それで、アナタはこれからどうする気なの?」

 

 微笑みを浮かべる永琳の問いに対し静葉は、よどみない口調ではっきりと答えました。

 

「この戦争を止めに行くわ」

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