秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

19 / 85
その18

 

 ところ変わってここは妖怪の山にある天狗の住処。

 その奥にある一際大きなお屋敷です。

 

 ここには天狗のエライ人が住んでおり、そのお屋敷の中にある謁見(えっけん)の間に龍はいました。

 

「……ご苦労。龍」

 

 龍とそのエッケン相手との間には、御簾(みす)が下げられており、中の人物の姿をはっきり見ることは出来ません。

 

 その声の雰囲気から、中の人物は女性であるコトだけが、かろうじて分かります。低く、いかにも威厳のありそうな声です。

 

「……では、はじめくれ」

「はっ……! まず、我々の現在の戦力ですが……」

 

 龍はその御簾の中の人物に向かって、現状の報告を始めます。

 

 ……そう、この方こそが実は……。

 

「……報告は以上になります。総大将」

「……そういえば射名丸文の行方はどうなった」

「はっ! 秋神姉妹の姉との接触が確認されて以降、行方不明のままです」

「早めに見つけ出せ」

「はっ!」

「……それと例の姉妹は」

「姉妹いずれとも、典が常に見張っています。何か動きがあれば、すぐこちらに報告が来るようになってます」

「……そうか。下がれ」

「はっ! では、失礼いたします!」

 

 龍は、謁見の間を出ると、思わず息をつきました。

 

「……やはりあのお方の前となると、緊張するものだな……。なぁ、そう思うだろう? ……典」

 

 彼女が呼びかけると、柱のかげから典が現れます。

 

「あらあら……。バレてましたか。上手く気配を隠してたのに」

「お前の気配はすぐ分かるさ。特徴的だからな。で、何か報告があるのか?」

「ええ……。では、ちょっと場所を移しましょうか」

 

 二人は屋敷の中にある庭園に腰を下ろします。枯山水(かれさんすい)の見事な庭園です。

 

「……ふむ。そうか。秋神の姉と文は、里のレジスタンスと接触した可能性があるということか」

「はい。はっきりとは確認できていませんがね」

「そうなると……。少し厄介だな」

「ええ、万が一、二人がレジスタンスに加入するようなコトになると、また話が変わってきますからねえ」

「……それで妹の方は……?」

「それがどういうわけか、地底の妖怪二名を引き連れています。黒谷ヤマメ、それに火焔猫燐。どこでどう繋がったのかは分からないですけどね」

「……特に火焔猫燐には気をつけろ。恐らく彼女のバックには、古明地さとりがいる。彼女ら地底の勢力が、本格的に介入するようなコトになると、いよいよ収拾がつかなくなってしまうだろう」

「うーん。それはカンベン願いたいものですねえ。ただでさえ地上は暴発寸前の火薬庫状態だというのに……」

「……それじゃ引き続き、見張りを頼むぞ」

「ふふふ……。お任せくださいませ!」

 

 そう言い残して、典はこーんこーんと、姿を消します。

 

 龍は物憂げそうに、思わず空を見上げます。

 

 あたりはもうすぐ、日が暮れようとしていました。

 

 □

 

 そのころ。とある天狗の領地……。

 

「状況はどうなってるんだ!? 報告しろ!」

「詳しくは分からないが、相手は上空から集中砲火を浴びせてきている! 地上を狙い撃ちだ!」

 

 上司と部下が報告しているそばから爆発音が鳴り響き、それに叫び声も混じっています。

 どうやら何者かが襲撃しているようで、あたりはアビキョウカンのジゴクエズです!

 

「……よし! 私が行く!」

「隊長! どうかお気を付けて!」

 

 その更に上の上司こと犬走椛が、素早く上空へ駆け上ると、そこにいたのは……!

 

「……おや、誰かと思えば。イヌっころかい。アンタごときに、私の相手がつとまるかしら……?」

「レミリア・スカーレット……!? なぜこんなとこに! ……ええい! 今すぐ立ち去れ!」

 

 椛は、弾幕を放ちながら刀を振りかざして突進しますが、レミリアは、その攻撃をいとも容易くかわし、そのまま彼女の背後に回ると、首に手刀を浴びせます。

 

「うわぁーーー!!」

 

 あっけなく椛はそのまま地上へおちてしまいました。

 

「……ほら、やっぱり相手にならなかったじゃないか」

 

 呆れた様子で笑みを浮かべるレミリア。そこに、何者かの弾幕が彼女に向かって襲いかかります。

 

「ん……?」

 

 レミリアはそれをかわしますが、その弾幕は、方向を変えて彼女を追いかけます。

 

「……ふん! 誘導弾か。こざかしい! ()ね!」

 

 彼女が腕を振りかざすと、その弾幕は、煙状になってかき消えました。

 

「……ったく、どこのどいつだ! こんなくだらない攻撃するヤツは!」

「……いやーお強いお強い。さすがは紅魔の君」

 

 彼女の目に前に、呆れた表情の典が姿を現します。

 

「……まったく困りますよ。まだ、アナタの出る幕ではないはずでは……?」

「……お前らの仲間で、ちょっかいかけてきたヤツがいたんでねぇ……。ちょっとした報復よ」

「……ああ、もしかして射名丸文のコトですか? 彼女だったら、謀反を起こしまして、今は天狗側とは一切関係が……」

「うるさい!!」

 

 レミリアは一喝すると、典の首根っこをつかみます。

 

「……オマエらの事情なんざ、どうでもいいのよ! 天狗が勝手にテリトリーに入ってきた! だから私はその報復にきた!! それだけのコトよ!」

 

 典は思わず両手を掲げて、彼女に告げます。

 

「……ぼ、暴力反対ー……! わ、わかりました。……それでお望みは何ですか。天狗の領地ですか?……それとも彼女の首ですか?」

 

 レミリアは典を放り投げると、吐き捨てるように言います。

 

「そんなものには興味ないわ! 私はただ……」

 

 と、その時、突然、彼女の体がよろけます。

 

「……なんだ? 急に体の力が抜けて……」

 

 すると、典がニヤリと笑みを浮かべます。

 

「……ああ、やっと効いてきたようですね」

「……オマエ、何をした……!?」

「ふふふ……。さっきの弾幕に、ちょっとした細工を施させてもらいました。まぁ、タダの麻酔薬ですけどね。ゾウも眠る強力な」

 

 そう言って典は、試験管を取り出して見せます。

 

「……ちっ。こざかしいマネを……!」

「……レミリア・スカーレット。今日のところはお引き取り願います。……わかるでしょう。今は、まだそのときじゃありません」

「……フン。まあ、いい。……いずれ天狗どもも、私たちが支配してやるからな! 覚えとけ……!」

 

 そう言い残すとレミリアは、ふらつきながら飛び去って行きます。典は、ほっとため息をつくと、苦笑を浮かべて誰にともなく呟きました。

 

「……ほら、だから言ったじゃないですかぁ。……この世界は暴発寸前の火薬庫状態だってねぇ……」

 

 あたりはもうすっかり日が暮れ、山の稜線(りょうせん)が徐々に見えなくなってきていました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。