お燐の案内で、穣子たちが森の中に入ると、何やらボンヤリと灯りが。近づいてみると、そこでは夜雀が屋台を開いてました。
屋台のそばには机と椅子も広げられており、屋台というよりちょっとした居酒屋のような雰囲気です。
甘いタレのようなイイにおいがあたりに漂います。うう、おもわずヨダレが……。
「やっ! 来たよ!」
「あら、久しぶりじゃない。お燐」
お燐があいさつすると店主の
「今日はツレもいるんだ。何かテキトーにみつくろっておくれ!」
「わかったわ!」
ほどなくして三人の前に、お通しのおひたしと、アツカンが出され、さっそく酒盛りの始まりです。
「今、フナの煮付けも出るからまっててね」
「お、いいねえ。あたいの好物じゃないか! さすがわかってるね!」
「はぁー。お酒って本当、美味しいなぁー。生き返るや……」
「おっほー! この、おひたしうまー!!」
「そうだろう? 穣子。このほんのり甘塩っぱいのが、また酒に合うんだよねえ」
ふと、穣子が屋台を見回すと、既に先客がいたようで、どうやらヨッパラって机に突っ伏して寝てしまっています。
まわりにトックリが、たくさん転がっているので、相当飲んでいるようです。
「……ねえ。あっちの人だいじょうぶ? なんか泥酔してるみたいだけど」
穣子の言葉に夜雀は苦笑しながら、そのヨッパライに話しかけます。
「……ちょっとリグル。もう起きてよ」
夜雀が名を呼ぶと、ようやくそのヨッパライは顔を上げます。
「うん……?」
「……深酒は体に毒よ。何があったか知らないけどさあ……。そろそろヤメといたらどうなの?」
「うーん。……これは夢だよね。夢ならさめないでくれ……」
「……もう。何、寝ぼけてんのよ!」
すると、トックリ片手にヤマメが、ヨッパライに近づきます。
「……あれ? なーんだ。誰かと思ったらリグルじゃん。何してんのオマエ」
「……え? その声……」
ヤマメの声に気づいたヨッパライは、ヤマメの顔をまじまじと見ると……。
「ヤマメー! あいたかったよー!」
などと言いながら、突然彼女に抱きつきます。
……あー、ヨッパライって、こういう行動しますよねー。困るんですよ。本当……。
「ちょっ!? こら! やめろっての!?」
「ヤマメぇーーーーー!!」
「分かったから落ち着けっての!?」
「おー! ひゅーひゅー!」
「お、こりゃスキャンダルだね! 誰かカメラもってないかい?」
「やめろっての!? 皆、チャカしてないで助けてよー!?」
その後、穣子たちが二人を無理矢理引きはがすと、リグルは、ようやく我に返った様子であたりを見回します。
「あれ……? 私なにを……」
「……おい、バカヤロウ。目覚めたか?」
「……あれ? ヤマメ? なぜここにオマエが……!?」
「オマエこそ、地底に戻らないで何してんだよ!」
「え。あ……。それはその……」
ビミョウな空気になる二人に、すかさずお燐が割り込みます。空気の読める子です。
「なあなあちょっと聞かせてくれよ。お二人は、知り合いなのかい……?」
「……ああ。そうだよ。こいつはリグルって言って、地底に住んでる虫の妖怪さ」
するとリグルが、すかさず告げます。
「……いや。ヤマメ。実は違うんだよ。私はもともと、地底の妖怪じゃないんだ。ずっと地上で過ごしていたんだけど、『あの日』以降、地底に潜ったんだよ。地上が住みにくくなってさ……」
「ちょっと、それ、初耳なんだけど?」
「そりゃそうだよ。誰にも言ってないし……」
「……コイツは私と一緒に、地上侵攻に繰り出したんだけど、途中で行方不明になっちゃったんだよ」
「……うん。怖くなっちゃってさ。地上のヤツらの強さ知ってるから……」
「まったく弱虫め。……オマエが、もっとしっかりしてたら、また結果は違ってたかもしれなかったんだぞ!? このフヌケヤローの弱虫王が!」
「はいはい。その辺にしときなって」
酔いも手伝って、思わず声を荒げそうになるヤマメを、すかさずお燐がなだめると、しょんぼりしているリグルに言います。
「ふーん。そうなのかい。お前さんなかなか賢いじゃないか?」
「え……?」
「結局、コイツの侵攻は失敗に終わったんだよ」
「……ああ、そうなんだ……。ゴメン。私が……。逃げたりしなければ」
「……いや、あたいは失敗して良かったと思うよ? 下手に侵攻が成功していたら、今ごろこの世界はもっとグチャグチャになっていただろうよ。……今のオマエさんならわかるだろ? ヤマメ」
「……悔しいけど、お燐の言うとおりさ。地上は私が思っていたより、はるかにややこしい状況になっていた……。正直、私の見通しが甘かったよ」
「……そういうワケさ。なあ、虫妖怪さんや。臆病ってのは勇気なんだよ。
「……うう。ありがとう。お燐さん!」
そう言うとリグルは、涙を流しながらお燐に頭を下げました。
「まあ、いいじゃないか。今夜は二人仲直りってことで、飲み直そう。それでいいだろう? ヤマメ」
「……ま、それでいいけど」
その後、すっかり意気投合した三人は、朝まで飲み明かすのでした。
ちなみに、話にまったく入れなかった穣子は……。
「あー! このおひたしうまー! 魚の煮付けもさいこー! ……もう、私一人でこれ全部食べちゃうんだからねー!」
と、一人ふてくされて、ミスティアの料理を食べまくっていましたとさ。