さて、朝になり、一晩、神社で夜を明かした静葉たちは、さっそく行動を開始しました。
それで色々と考えた結果、手分けして、それぞれのボスを説得しようというコトに。……って、それ大丈夫なんでしょうか?
「……確かに無謀な行動かもしれないわ。でも、何事もやらないコトには始まらないのも事実よ」
「ええ、静葉さんの言うとおりです。……私はこれを使って上司に訴えてみます」
そう言って文は写真を取り出します。今の里の状況をとった写真です。
確かにコレを見せれば、もしかしたら龍の心も動くかもしれません。
「……わ、私は、正直、長官にはあったコトないんだけど……。まあ、話すだけ話してみようと思うよ」
一方のにとりは、特に交渉の材料もないためか、緊張した様子です。まあ、無理もありません。
「……ところで、静葉さんは、どうするのさ?」
「ふむ……。どちらかについて行こうとは思ってるけど……」
「……それなら、是非にとりと一緒に行動してやって下さい。……私は自分のケジメをつけなければなりませんので」
そう言った彼女の目には、
「……文。死ぬんじゃないわよ。必ず生きてまた会いましょう」
「……ええ、もちろんよ! それじゃ……!」
文は二人に笑顔を向けると、深々と一礼して、山の方へ飛び去っていきます。
朝日に照らされ、徐々に姿が見えなくなっていく彼女を、静葉とにとりは何も言わずに見送ります。
そして、二人もケツイを胸に、河童の住処へと向かって歩き始めるのでした。
□
一方、穣子たちは、夜雀の居酒屋で夜を明かした後、リグルと別れ、永遠亭を訪ねていました。
預けていたにとりを、迎えに来たのですが、当然、彼女がいるわけもなく……。
「ちょっと!? いないってどういうコトなのよ!?」
「本当、ごめんなさい! お師匠さまが、勝手にあなたのお姉さんに預けちゃったのよ。私も事情がよく分からなくて、困惑してるんだけど……」
「え!? 姉さんが!?」
「……ほほう。静葉さん無事だったのか。さすがだ!」
「ヤマメ! 感心してる場合じゃないでしょ!? で、姉さんはどこに向かったのよ!?」
「ごめんなさい! それもわからないの。なんせ、みんなお師匠さまが……」
「ゴメンなさいですむか! アンタ自分で責任持って預かるって言ったじゃない! このヤブ医者!!」
思わず食ってかかろうとする穣子を、お燐がすかさず制止します。
「まあまあまあまあ……。さすがにそれはちょっと言い過ぎだよ。彼女は何も悪くないだろ?」
「そうだけど、これじゃ、この後、どうしていいかわからないじゃない!」
「……大丈夫。きっと静葉さんは、山に向かったと思うよ」
「なんでそう言い切れるのよ?」
「……実はね。あたいには情報網があるんだ」
「え……?」
「まあ、見ててくれ」
そう言って、お燐が指をパチンとはじくと、目の前に何やら幽霊の格好した何かが、ドロンと現れます。
よく見ると、背中に羽が生えているので、どうやら妖精のようです。
「なにこれ。……幽霊?」
「ゾンビフェアリーさ。コイツらを使って、あたいは情報収集したり連絡を取ったりしているんだ。ちなみに、あたいたちの今までの行動はこのフェアリーを通じて全部、さとりさまに伝わっているよ」
「へー。優秀なのねー」
「それでこの子たちが、にとりと一緒に山に向かう静葉さんを見たっていうんだ」
「ふーん! そういうコトなのね! よし! じゃあ、急いで姉さんたちを追いかけるわよ!」
言うや否や、穣子は外へ飛び出していきます。全く鉄砲玉のような神さまです。
「うぉーい、ちょっと待ってよー!?」
それを追いかけてヤマメも外へ。
お燐も二人にすぐついていこうとしましたが、ふと立ち止まり、ボーゼンとしているうどんげの方を見てウインクを一つ。
「あっ……」
それに気づいた彼女も、お返しにペコリと頭を下げるのでした。
さて、急ぎ足で山へ向かう一行でしたが。
「おやおや、皆さん……。そんなに急いで今度は一体どこへ?」
「あっ! アンタは……!?」
三人の前に、典が再び姿を現します。
相変わらず、人を見下したような態度です。
「何よ! アンタ、またジャマしに来たの!?」
「……いえいえ。今日はアナタたちに忠告しに来たんですよ」
「忠告……? 何よ。忠告って!」
「悪いコトは言いません。これ以上、山の事情に手出ししないで下さい。……そのうち痛い目見ますよ?」
穣子が、すかさず言い返します。
「何言ってんの! この狂った世界を元に戻すのよ! ここでひき下がるわけにはいかないわ!」
その言葉を聞いた典が、あざ笑うように告げます。
「……ふふふ。アナタは何言ってるんですか? 穣子さん。この世界は狂ってなんかいませんよ? 強い者が弱い者をくじく、これがこの世界の
「えっ……!?」
「……穣子さん。どうもアナタは、他の人と違って何かがおかしい。そう、まるでアナタは……」
そのときヤマメが割り込みます。
「穣子! こんなヤツの言うコトなんか聞かなくていいからな!」
「ヤマメ……!」
「……ちょうど私も、この世界にうんざりしていたところなんだ。穣子がこの世界を元に戻すというなら、私は喜んで彼女に力を貸すよ!」
「……へえー?、私には自分がテッペンに立てないから駄々こねてるようにしか聞こえませんけどねえ? 黒谷ヤマメ。徒党を組んでも白狼天狗にすら勝てない
「なにぃ!? キサマ! やっぱり私をバカにしてるな!? コノヤロウ! ぶっ飛ばしてやる!」
「いいわよー! ヤマメ! やっちゃえやっちゃえー! あんなヤツぶっ飛ばしちゃえ! 私が許す!」
すかさずお燐が間に入ります。こういう役まわりの多い子です。
「……あのさあ。二人とも。コイツの安い挑発に乗っちゃダメだよ。それこそ思うツボさ」
「……火焔猫燐。アナタは、どうしてこの二人と一緒に?」
「……あたいは、さとりさまの命令に従ってる。……それだけさ」
「古明地さとり。いったい彼女は何を企んでるんですか……?」
「それはあたいにもわからないよ。言っただろ。あたいは命令で動いているだけだって。……ただ一つ言えるのは、あのお方は、あたいたちなんかよりも、はるかに先を見据えているってコトだね……」
「……はるかに先。……ふふふ。なるほど。……なるほどね! ……ふふふ!」
お燐の話を聞いた彼女は、急に笑い出します。
「……何がおかしいんだい」
「……いえいえ。面白い話を聞かせてもらったお礼に、良いコトを一つ教えてあげましょう」
「何さ」
「守矢神社に行ってみなさい。そこにあなたの探している者がいますよ」
「……えっ? おい、それってもしかして……」
そのまま典はこーんこーんと、姿を消してしまいました。
「おい、お燐。あんなヤツの言うコトなんか信じるなよ。どうせ、ワナに決まってるよ」
「……うーん。確かにそうかもしれないけど、あたいはこいしさまを探してっても頼まれているんだよ。もしかしたらいるかもしれない。それに直接会って聞きたいコトもあるし……」
「おいおい、アイツの言うこと信じるつもりかよ……?」
「ねえ。穣子。すまないが、守矢神社に行ってもらってもいいかい……?」
「うん、いいよー! そっちの方が、優先順位高そうだし!」
お燐の頼みを、穣子は二つ返事で引き受けます。
「ありがとう! 助かるよ! ……ゴメンよ? ヤマメ」
「……まぁ、別にいいよ。ワナだったら逃げればいいだけの話だしね?」
こうして穣子一行は、予定変更して守矢神社へと向かうコトになったのでした。