秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その25

 一方、穣子たちは……。

 

「……そうだったのね。早苗。アンタ大変だったのねぇ」

「……うう。これはお涙頂戴モノだなぁ」

 

 そう言ってヤマメは、思わずハンカチを取り出して顔をふきます。って、目じゃないんですか。

 

「……なるほどねえ。そういうコトだったのかい。話してくれてありがとう早苗。おかげで、これで全部繋がったよ。……あとはあたいらにまかせておくれ」

「はい……」

 

 お燐の言葉に、早苗は、目をうるませながらうなずきます。

 

「……さて。で、これからどうするかだが……」

「そんなの決まってるでしょう! カチコミよ! カチコミ!」

「……穣子。カチコミってのはヤクザとかが使う言葉だから、この場合は殴り込みって言った方が正しいかと……」

「そんなのどっちも一緒よヤマメ! とにかくやってやろうじゃないの! 早苗を泣かせるなんて許さないわ!」

 

 一人で盛り上がる穣子を、しずませるようにお燐が告げます。

 

「……気持ちは分かるけど、少し冷静になろうか。殴り込みに行くとして、天狗側と河童側どっちに行くつもりだい?」

「うーん。勝ち目がある方がいいから、河童かなー?」

「相変わらずテキトーだなぁ……。穣子は」

「じゃあ、そういうアンタはどっち選ぶのよ!?」

「私なら天狗だね。ここから近いし」

「近い? そんな理由で!?」

「何言ってるんだ! 距離は大事だろ!? ローマの道も一歩からって言うじゃないか!?」

「あー……。お二人さん。あたいの意見も聞いてもらってもいいかねえ?」

「いいわよ! 許す!」

 

 お燐は、コホンと咳払いをして二人に告げます。

 

「……いいかい。そもそもの話。どちらを攻めに行くにしても、まず、戦力が致命的に足りないよ。このまま三人で乗り込んでも、どっちにしろ蹴散らされて終わりだ。まずは戦力を確保することが先決じゃないかい?」

「まあ、それはそうなんだけど……」

「戦力ったって誰を助っ人に呼ぶんだよ?」

「あ、そうだ! 昨日酒場にいたあのリグルって虫妖怪はどう?」

「あーだめだめ。アイツ、虫は虫でも弱虫だから」

「……そっか。でも、じゃあ他に誰がいるのよ?」

「うーん。お空のヤツは、呼べそうもないしなぁ……」

「……んー。まぁ、心当たりが一つだけあるから、あたいがダメ元で手配してみるとするよ」

 

 そう言ってお燐は、さっそくゾンビフェアリーを呼び出すと、何かを告げます。

 どうやら何かお使いゴトを頼んだようです。妖精はそのまま姿を消しました。

 お燐は更に話を続けます。

 

「……さて。次は天狗と河童どっちを攻めるかだけどね。フェアリーの情報によると、どうやら静葉さんとにとりは、河童の住処に向かったようだよ」

「と、なると! 私たちは天狗の方で決まりだな!」

「よし! じゃあ、さっそく乗り込むわよ!」

「待った待った! まだ話は終わってないよ!?」

「何よ。もう決まりでしょ!?」

「いやいやいや。攻めると言っても、せめて策くらいは立てようじゃないか……?」

 

 と、いうお燐の提案に対して、二人は平然と言い放ちます。

 

「策? 策なんか立てたって、どうせその通りになんかならないわよ!」

「そうそう! いざというときに頼れるのは己の底力! 策なんて立てても無意味無意味!」

 

(……あ、ダメだ! この二人。致命的に戦に向いてない……っ!)

 

 お燐は、思わず頭を抱えてしまいます。

 

「……あのねぇ? お二人さんさぁ。策立てても確かにその通りにならないかもしれないけど、ある程度の道筋としてあらかじめ立てておくと後々、なにかと有利なものなんだよ……?」

「でも、具体的にどうやって立てればいいのよ?」

「そうだねえ。まず、助っ人を頼んだと言っても、それでも戦力差は歴然だろう。ならば正面突破は、まず難しいだろうね。そもそもの話、天狗の住処にたどり着くまで白狼天狗に見つかったら、そこでやられてしまうだろうし」

「じゃあ……。お手上げじゃないのよ!?」

「どうしろってんだ!」

「だからさ。それを何とかしてくれるのが策という……」

「よし! やっぱり難しいコト考えずに勢いで乗り込みましょう!」

「そうだそうだ! 力こそ正義だ!」

「……あのさ。話を最後まで聞いとくれ。頼むから」

 

 口より先に手が出る脳筋タイプの二人に、お燐は、思わず大きくため息をついてしまうのでした。

 

 穣子たちのやりとりを見ていた早苗は、思わず一言。

 

「……ねえ、こいし。この三人にまかせて本当に大丈夫なのかしら?」

 

 こいしは、笑顔で首を揺らしながら答えました。

 

「うーん。たぶん大丈夫だとおもうよー?」

 

 □

 

 

 ところ変わって天狗の住処。

 風が吹きすさぶ岩山の上に龍はたたずんで、夜空を見上げていました。

 

 そこへ典が、こーんこーんと現れます。

 

「どうですか龍さま。今宵の星の様子は……」

「ああ、典か……」

「ふむ。なにやら浮かない様子ですね……?」

「……典よ。私がしようとしているのは、果たして正しいコトなのだろうか」

「……急にどうしたんですか。……もしかして凶星でも見ましたか?」

「……いや、ちょっと色々思うところがあってな」

 

 そのとき、二人の間に、一陣の風が吹き抜けます。

 

「……ま、私は龍さまが望むままに動けばいいと思いますけどねえ?」

「……望むままにか」

「……なんにせよ、私はあくまで従者。龍さまがどうなっても、私はついて行くだけですから」

「そうか……。ところで、オマエは文の写真を見たか」

「いえ……?」

「……私の机の上に置いてある。ぜひ見ておいてくれ」

「わかりました。後ほど確認しておきますね」

 

 それっきり龍は黙ってしまいます。

 典はやれやれといった様子で苦笑を浮かべると、無言でその場を立ち去ります。

 

 そして彼女は、少し離れたところで、おもむろに懐から小さな宝珠を取り出すと誰かと連絡を取り始めました。

 

「……私です。……はい。……ええ。どうやら大きくことが進展しそうな気配です。……ええ。わかりました。……もちろんです。では、また……」

 

 彼女は宝珠をしまうと、ニヤッと笑みを浮かべます。

 

「ふふふ……。面白くなってきたわ……」

 

 彼女がそう呟き、ふと空を見上げると、空には満天の星空が瞬いていました。

 

 □

 

 そのころ、静葉とにとりはというと……。

 

「そんなこんなで夜が来ちゃったわね」

 

 二人はあの後も、みとりを探し続けましたが、とうとう彼女は見つかりませんでした。

 

 トボトボと夜の街並みを歩く二人。

 

「はぁ……。姉貴にあいたかったなぁ」

 

 落ち込むにとりに、静葉は言います。

 

「仕方ないわ。今回は見つからなかったけど、きっとそのうちあえるわよ」

「うん、そうだね。……きっとそうだよね」

 

 ふと、二人の目の前に、やたら中が明るい店が。どうやら酒場のようです。

 

「よし、にとり。景気づけに一杯やりましょうか」

「うんっ! そうしよう!」

 

 二人が酒場の中に入ると、中は仕事を終えた河童たちでしょうか。なかなか賑わっているようです。

 さっそく二人は、隅のカウンターに座ると注文を頼みます。

 

「ええと。キュウリビールひとつ!」

「私は大吟醸辛口で」

 

 ほどなくして二人の前に注文したモノが、つまみのもろきゅうとともに置かれます。

 

「よし、それじゃかんぱーい!」

「かんぱい」

 

 グラスを交わし、二人のささやかな晩酌がはじまりました。

 

「はー……。仕事の後の一杯は格別だねえ!」

「そうね。あのあと、仕事らしい仕事は何もしてないけどね」

 

 ふと、静葉はあたりを見回します。

 すると、のんべえ客に紛れて、窓側席の奥の方に何やら見覚えのある人物の姿が……。あ、あれはまさか……?

 

「……にとり、あれ見なさい」

「ん……何?」

「ほら、あそこの窓側の席」

「窓際……? あっ……!?」

 

 思わず言葉を失うにとり。

 さっそく二人は、その人物の元へ近づきます。

 その人物は二人には気づかず、一人で窓の外を見ながら、赤い酒をたしなんでいました。おそらくレッドアイでしょうか。

 静葉は、彼女にそっと声をかけます。

 

「……またあったわね」

 

 声に気づいた彼女――みとりは、驚いた様子でこちらを向きます。

 

「アナタは……! 静葉さま!」

「さんでいいわよ」

「いやいや、あの時はお世話になりました! アナタがいなかったらどうなっていたか……」

「変わらず元気そうね。ところで、今日はあなたに会わせたい人物がいるのよ」

「会わせたい人物……?」

「この子よ」

 

 と、言って静葉は、そわそわしている様子のにとりを、彼女の前に立たせます。

 

「あ、姉貴。……その、久しぶり……?」

「にとり! ……オマエ!」

「二人で、ずっと探してたんだけど見つからなかったのよ」

「……ああ、そうだったのか。それは申し訳なかった。ちょっとヤボ用でここを出ていたんだよ」

「そうだったのね。それは見つからないわけだわ」

「ね、ねえ、姉貴……。実は相談があるんだけど」

「なんだ? 先に言っておくが、カネなら貸さないぞ?」

「いや、違うんだよ。ええと……」

 

 にとりは、これまでの経緯をみとりに話しました。

 

「……なんと! オマエはそんなコトになっていたのか……」

「そうなんだよ。もう……。私、どうしたらいいのか……」

 

 みとりは、弱気になっているにとりの肩をつかんで告げました。

 

「……大丈夫だ。オマエならきっと出来るさ!」

「……姉貴」

「にとり、どんなときでも自分を信じるんだ。そうすれば自然に道は開けていくさ。……私がそうだったように」

「……うん」

 

 静葉は、言葉を交わす姉妹の様子を、複雑そうな表情で見守っています。

 

「……すいません。静葉さま。あ、いえ、静葉さん」

「何かしら」

「……この子のコトを頼みます!」

「……ええ。もちろんよ」

「……私もいずれ、アナタの力になれるときがあると思うので……」

「ええ。その時はよろしく頼むわね。みとり」

 

 そう言って静葉は、ふっと笑みを浮かべました。そして三人は、そのまま朝まで酒を酌み交わすのでした。

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