そのころ、穣子、ヤマメ、お燐の三人は、天狗の住処へと夜通しで向かっていました。
もちろん、これから一緒に殴り込みにいくためです。ヤーヤーヤー!
「はぁ……。結局、ロクな打ち合わせも出来ずに乗り込むコトになってしまうとはね。トホホ……」
お燐はイマイチ気が乗らない様子。しかし反対に二人はヤル気満々です!
「大丈夫よ。お燐! こういうのは勢いが大事なのよ!」
「そうそう! それに夜が明ける前に襲撃した方が、こっち側に有利だろ?」
「……もう、あとは神にでも祈るしかないね……」
「あら、それなら心配ないわよ?」
「どうしてだい」
「だって、私が神だもの……!」
「……ああ、そういえばそうだったねえ」
胸を張る穣子の様子を見て、余計うなだれるお燐。
そのときです。
「なんだオマエらは!?」
三人の前に下っ端白狼天狗が現れます。
どうやらグダグダやっているうちにいつの間にか、天狗の領地に侵入していたようです。
「よーし! 手始めにコイツで、肩慣らしと行くか!」
「よっしゃー! やるわよー!」
「……やれやれ、仕方ないね」
「な、なんだ? オマエらは……!?」
ヤル気満々な三人の様子に、下っ端白狼天狗は思わずたじろいでしまいます。
その後、三人の集中攻撃を受けて、彼女はのされてしまいました。あわれー。
「よし! 最初の勝利だな!」
「この調子でいくわよー!」
「まったく、先が思いやられるよ……」
と、三人の前に、騒ぎを聞きつけた下っ端白狼天狗達が次々と姿を現します。
「ほーら。団体さんのお出ましよ!」
「よーし! やってやるよ!」
その後も三人は、下っ端の白狼天狗達を次々と蹴散らしていきます。
「なんだなんだ。案外たわいもないもんだな!」
「そうよ! 私たちのコンビネーションの前に敵はいないのよ!」
「おいおい二人とも、そんな調子に乗っていると……」
そのとき、三人の目の前にいきなり弾幕が放たれました。
「うお!?」
「ひゃあっ!」
「……ほーら。おいでなすった!」
「……この先はぜったい通さん!!」
そう言って三人の目の前に立ちはだかったのは、またしても椛でした。
「出たな! よーしこの勢いで、こないだの借りを返してやる!」
「……ねえ、なんかアイツ、目元はれてない?」
「……そういや確かに。もしかして泣いてたのかねえ?」
「うるさい! うるさい! 今、私は非常にキゲンが悪いんだ!」
椛は剣と盾を構えると、いきなり斬撃をメチャクチャ放ってきます。
「うわっ! やべっコイツ、なんかしらんけど怒ってる!?」
「ちょっと!? アンタ、手加減しなさいよ!?」
「するわけないだろう……。あたいたちは敵なんだから」
三人は椛の
「フン! このまま我が刀のサビにしてくれる!」
椛は弾幕を放ちながら、剣を構えて素早く襲いかかってきました。
「ちょっ!? タンマ!? ギャーー!?」
穣子は弾幕を避けきれず吹っ飛んでしまいます。
「あっ! 穣子が!?」
「ヤマメ! ここはいったん退却した方が……」
「逃げられると思うなよ!」
「え……!?」
二人が気がつくと、あたりは白狼天狗たちに取り囲まれていました。
「……ゲゲッ。いつのまに!?」
「……これは、もはや、これまでかねぇ……」
「フン! この場で斬り捨ててやる! 覚悟しろ!」
と、椛が刀を構えて斬りかかったそのときです。
突然あたりにドドド-ンと爆音が鳴り響いたかと思うと、まわりの白狼天狗が一撃で吹き飛んでしまいました。これはいったい!?
「む!? な、何だ……!?」
「……ふー。やれやれ、ようやく追いつけたか……!」
そう言いながら、砂煙の中から姿を現した者の姿を見て、ヤマメは思わずギョッと目を丸くさせます。
それもそのはず、現れたのは、なんと……!
「……よぉ! 久しぶりだな! ツチグモ!」
「おっ……オマエは……!! ほ、星熊勇儀!?」
「……やれやれ、勇儀。遅かったじゃないかい。……まったく肝を冷やしたよ」
彼女の姿を見たお燐は、ホッとしたように息をつきます。
「どどどど、どういうことだよお燐!? なんでコイツがここに!?」
「ほら、言っただろ? 助っ人を手配したって……」
「えっ!? まさか助っ人って……」
「……ああ、そうさ! そのまさかだよ」
「はああぁー!? ウソだろー!?」
勇儀は「はっはっはっはっは!」と、豪快に笑うと、二人に告げます。
「遅くなってすまないな。古明地さとりの命を受けて、山の四天王一角、星熊童子こと、この星熊勇儀、助太刀に参った!」
勇儀は盃を構えたまま、悠然と構えています。まさに強者の風格です!
「なっ……!? なぜだっ!? な、なぜ鬼がコイツらの助っ人なんかに……!?」
さすがの椛も動揺を隠せず、思わず後ずさりしてしまいます。
「さあ。かかってこいよ?」
「ぐぬぬぬぬぬっ……!! ええいっ! ……覚えてろっ!」
捨てゼリフとともに、彼女は歯ぎしりをしながらその場を去って行ってしまいました。
「……なんだ。敵前逃亡とは、面白みのないヤツめ」
「ふー。やれやれ、なんとか助かったようだね……」
「ああ、本気で死ぬかと思ったよ」
「まったくだよ」
「……でだ。お燐」
「あい」
「事情。説明して」
「ああ、いいとも。実はね……」
「あ、ちょっと待って!」
「なにさ?」
「穣子起こしてくる」
「あ、はいはい」
ヤマメは、穣子をたたき起こすと皆のところへ連れてきます。ところが……。
「ぎゃあああああああ!? 鬼が出たぁーーー!?」
彼女は勇儀の姿を見て再び気絶してしまいました。
「ああっ! 穣子ー!?」
「……そりゃそーなるねえ。顔に水でもかけてやって起こしてやっとくれ」
「はっはっはっは! まったく賑やかでいいコトだ!」
その後、改めて復活した穣子を交えて、お燐の事情説明が始まりました。
「……どうして鬼の協力を得られたか知りたいんだろう? 簡単な理由だよ。勇儀はさとりさまに色んな負債があるんだ。それで今回、それをチャラにするってのを条件で、助っ人に借り出されたってワケさ。だろう?」
「……ああ。概ねそんな感じだな。まあ、故意ではないんだが、お恥ずかしながら、どうもうっかり家を壊してしまったり、地面に大穴開けてしまったりするコトが多くてな……。そのたびに、さとりのヤツに都合つけてもらってるんだ」
そう言って、目を閉じて、ふっと笑みを浮かべる勇儀。
……いくらカッコつけても、言ってる内容で台無しですが。
「……まあ、確かにアンタ、見るからに力強そうだもんねえ。でも、どうしてそれがさとりに関係あるワケ……?」
「……なんだ。そこまで説明する必要があるのか。実はな。あの旧地獄街道一帯は、さとりの所有地なんだよ。私たち鬼はアイツに土地を借りて、そこに家を建てて住んだり、店を開いて商売したりして生活しているのさ。当然、ショバ代はアイツに払っているよ」
「なるほど! そりゃ、さとりに頭上がらないわけね!」
「しかし、それにしても鬼が……。それも山の四天王の一人が味方につくなんて、こんなに心強いコトはないよ! 凄いや! お燐!」
「いやいやー。まさか上手くいくとは思わなかったので、正直あたいが一番驚いてるよ」
そう言いながら思わず、照れ笑いを浮かべるお燐。
そこへ勇儀が三人に告げます。
「……さて。お三方。間もなく夜明けとなるぞ。これからどうするつもりなんだ?」
「……ああ、そうだね。せっかく勇儀も加わったことだし、改めて作戦の計画を立て直そうじゃないか」
「そうだね! 鬼の力を得られたなら百人力だ!」
「よーし! 天狗どもにギャフンと言わせてやりましょう!」
こうして、強力な助っ人を味方に加えた穣子一行は、殴り込み作戦の練り直しにかかるのでした。