秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その27

 夜明け前の天狗の住処にある大広場。

 

 多くの天狗達で集まる(いこ)いの場所です。そこの中央で文ははりつけにされていました。

 見物人に囲まれながら、うつむいている彼女の前に典が現れます。

 

「……まったく。アナタは本当に愚かですね。何が自分のケジメをつけるですか。こうなるコトは分かっていたでしょうに……」

 

 典の言葉に、文はうつむいたまま答えます。

 

「ええ。わかっていました。……でもそれでも、望みを捨てきれなかった。龍さまにきっと通じると……」

「……で、その結果がこのザマというわけですか……? まったくブザマ以外の何モノでもない」

 

 呆れた様子の典に文は呟くように言います。

 

「……私は龍さまを信じる」

「……やれやれ。この期に及んでまだそんなコトを言えるとは、大したものですねえ。呆れを通り越して、むしろ尊敬に値しますよ」

 

 鼻で笑う典に、文は真面目な表情で告げます。

 

「……私は里の現状を見てきたんです。今は天狗や河童がいがみ合っているときじゃない。それは龍さまにもきっとわかってもらえるはず」

「……ふーん。それじゃ、なんですか。アナタはまさか、天狗と河童で手を組めとでも……?」

「ええ、できるなら、それが一番、理想的ですね」

「……そんな夢物語を語っている場合ではないでしょうに……。アナタはこれから処刑される身なんですよ? ……まったく」

 

 典はふうと息をつくと、急に真顔になって文にたずねます。

 

「……あなた怖くないんですか? 死ぬのが」

 

 典の質問に文は、はっきりと答えました。

 

「ええ。不思議なコトに本当に何も恐怖を感じないんです。無の境地というか。これが、これから処刑を受ける者の心境というものなのでしょうかね」

 

 そう言って、ふっと笑みすら浮かべる文に、典は不敵に笑って言い放ちます。

 

「……ふむ、そうですか。……ならば、己の運命を変えてみなさい。射名丸文。……出来るものならね」

「え……?」

 

 思わず文は典の方を見ますが、彼女はそのまま、こーんこーんと去って行ってしまいました。

 

 □

 

 同じころ、龍は椛から鬼が襲撃に来たコトを聞き、総大将に報告に来ていました。

 

 総大将は珍しく焦りの色を見せる彼女に告げます。

 

「……龍。何一つ焦る必要はない。例え、多少の犠牲が出ようとも我々は成すべきコトがある。それが種族の宿願ではなかったのか」

「はっ! ……ですが、しかし」

「……どうした」

「……我々は本当に正しいコトをしているのでしょうか。今、河童と争うコトが果たして正解なのか……」

「……龍。お前の部下の射名丸文の処刑が、もうすぐだったな」

「……はい」

「一つ聞くが、わざわざ公開処刑を選んだ理由は」

「……はっ! 見せしめのためです。裏切り者の末路はこうなるというものを種族に伝え、種族の団結力を高めるための」

「後悔はないか」

「……はい。それが、我が種族のためとなるのならば……」

「そうか……。ならば、お前にある使命を与える。ちこう寄れ」

「はっ……」

 

 龍が言われるままに、御簾(みす)のそばまで近づくと、総大将は彼女に言い放ちます。

 

「……飯縄丸龍。おまえが射名丸文の処刑を執行しろ」

「な……っ!?」

 

 総大将の思いがけない言葉に、龍は思わず言葉を失ってしまいました。

 

 □

 

 さて、そのころ、穣子、ヤマメ、お燐、勇儀の四人は、天狗の住処の近くの森で車座を組み、作戦の立て直しを図っている最中でした。

 

「……作戦の練り直しったってどうするのさ?」

「大丈夫。あたいにいい考えがある!」

 

 そう言ってお燐は、ウインクをします。

 

「……それ大丈夫なのか? 何かフラグのような……」

「……ま、話を聞くだけ聞いてから判断しても遅くはないだろう。あまり悠長にやってると夜が明けてしまうが」

 

 勇儀は落ち着いた様子で、盃に口をつけます。酒クサいです。

 

「そーそー。お燐はウチの姉さんみたいに、頭回るみたいだから信用できるわよ」

 

 穣子はそう言いながら、寝そべって干しイモをかじっています。

 ……ってアナタそれどっから取り出したんですか。

 

「おいおい……。なんなんだよ? 酒飲んだり、芋食ったり、この緊張感のなさは……。とてもこれから敵地に乗り込むって感じじゃないぞ!?」

 

 まわりの様子に思わずため息をつくヤマメ。……その気持ちよくわかります。

 

「はっはっは…! 何事にも余裕ってのは大事なのさ。クロマメさんよ」

「ヤマメだよ!?」

「……さて、それじゃあ、さっそくだけど、その前に確認したいコトがある」

「っていうと……?」

「まず、そもそもあたいたちの殴り込みの目的はなんだい? ヤマメ」

「ええと……。天狗に一泡吹かせるだっけ?」

「もちろん、それはそうなんだけど、具体的に何をすれば目標達成になるかって話さ」

「目標達成……。ああ、そういえば、きちんと決めてなかったような……」

「そう。まず、そこからなんだよ!」

 

 お燐が二人にそう言い放つと、それまで酒を飲んでいた勇儀が口を開きます。

 

「……おいおい。マジかよ? そんなコトも決まってなかったとは呆れたもんだな。殴り込みって言うくらいだから、てっきり敵のカシラを叩きにいくんだとばかり思っていたが」

「いや、本来それが一番ラクなんだけどねえ。……でも、その、なんていうか、後々のコトを考えるとそうもいかなくて……」

「……ふーん。なかなかフクザツな事情があるようだな」

「……ああ、実はあたいらとしては、最終的に天狗と河童で同盟を組ませようと思っているんだ」

「ほう、それはまた難儀な……」

「え……っ!?」

「んぐっ……!?」

 

 驚きのあまりに穣子は、干しイモをのどに詰まらせました。

 

「んぐぐぐぐーっ!?」

「おいおい。神さま、大丈夫か……?」

 

 心配した勇儀が背中を叩いてあげますが、どうやら力が強かったようで、その一撃で彼女は今度は気を失ってしまいました。

 まったく世話の焼けるイモ神です。

 三人は、もう穣子のコトはほっといて話を進めるコトにしました。

 

「……ねえ。それ、私、聞いてないんだけど!?」

「……ああ、そういえば。おまえさんたちに言うの忘れてたね!」

 

 そう言ってペロッと舌を出すお燐。

 

「いや、言ってくれよー! 大事なコトじゃん!? 根本的なコトじゃん!? 私たち仲間じゃん!?」

「いやー。スマンスマン。ともかく、そういうわけなんだ。だから出来れば天狗の総大将にあって、可能ならば話が出来ればと思っている」

「……ふむ。そうなると、この中で一番、弁が立ちそうなオマエさんが行くのがいいだろう」

 

 勇儀の言葉にお燐は頷いて返します。

 

「ああ、そのつもりだよ。でも、さすがに心細いんで、出来ればもう一人欲しいところだけどねえ……」

「それなら……。そこで伸びてる神さまがいいんじゃないか? 彼女は、天狗でも河童でも鬼でもないだろ」

「おお! 名案だよ。勇儀! 戦力的にはちょっと心細いけど、立場的にはうってつけだ!」

 

 その時、ちょうど穣子が起きます。

 

「……ん? あれ? 私、何を……」

「よし! 穣子。頼んだぞ!」

「え……?」

「穣子! お願いするよ!」

「は……?」

「責任重大だぞ。秋神さん」

「ふぇ……?」

 

 ワケが分からない様子で、生返事を繰り返す穣子ですが、もうすぐ夜明けを迎えます。もうノンビリはしていられません。

 

「……よし! これであらかた作戦も決まったね! そろそろ行くよ!」

「よーし! 殴り込みだ!」

「な、なんかわかんないけど、やってやるわよー!」

「天狗とやり合うのは久々だな。腕が鳴るねぇ!」

 

 四人はエイエイエイオ-と声を上げると、朝日が昇りつつある天狗の住処へと向かっていくのでした。

 

 さあ、いよいよ戦いの幕開けです!

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