秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その30

 穣子とお燐は、ヤマメたちのもとへ帰って来ました。

 すると何やら激しい弾幕の応酬が繰り広げられています。

 

「うわ!? なんだい!? この弾幕の嵐は!?」

 

 その様子を遠目で眺めていたヤマメが、二人に気づきます。

 

「……あれ? 二人とも? どうしたのさ」

「まぁ、いろいろなんやかんやがあってね! とりあえず撤退してきたよ!」

「そうそう! もうあとは、あの三人にまかせることにしたのよ! 私たちはおしまい!」

「あの三人……? うーん。何かよく分からないけど、わかったよ!」

「で、ヤマメ。こっちの状況は……?」

「見てのとおりだよ」

「……いや、見てのとおりって、見ても分からないんだけど。あの鬼はどこなのよ!?」

「だからアレだって」

「……へ? まさかとは思うけど、さっきから飛び交ってるこの弾幕って……」

「うん、そのまさかだよ」

 

 そう、この弾幕の応酬は勇儀と龍によるのものだったのです。

 

「はっはっは! いいね! いいねぇ! その反応! さすが大天狗サマだ!」

「オマエこそ山の四天王だけあるな。星熊童子! 私をここまで本気にさせるとはな!」

 

 彼女らは完全に二人だけの世界に入ってしまっています。

 大天狗と山の四天王の戦いの迫力と凄みに、敵の天狗たちも思わずクギヅケ状態です。

 

「……ね、ねえ、あたいらも、ちょっと観戦しようかねえ……?」

「……えぇ!? お燐! マジで言ってんの? 私は興味ないわよ」

「おいでよおいでよ。滅多に見られない迫力だよ! まさに実力者同士の戦いだよ!」

 

 お燐もヤマメたちと一緒になって、二人の戦いの観戦を始めてしまいました。

 

「……ちょっとー。二人ともー……? まったくもう……」

 

 戦いに興味がない穣子は、呆れ気味に様子を眺めてましたが、ふと、遠くを見ると、真っ黒い雲がこちらにゆっくり近づいてきているのが見えました。

 

 ……何やら嵐の予感。

 

 □

 

 静葉たちは山の上の屋敷へとやってきました。

 

「この屋敷の奥に総大将はいらっしゃるはずです」

「入り口は。……開けっぱなしだね」

「それじゃ、遠慮なく入らせてもらいましょう」

 

 三人は屋敷の中へ入りました。中は静まりかえっています。どうやら部下は一人もいないようです。

 

「ふむ、驚くほど静かね……。文、いつもこんなに静かなものなの?」

「いやいや、そんなコトないですよ? どうやら皆、出払っているようですね」

「ずいぶん不用心だな……。警備とか大丈夫なのかコレ?」

「……ま、総大将さん一人で、十分ってことなのかしらね」

 

 ピカピカに磨かれた木目調の廊下をまっすぐ進むと、やがて正面に仰々しい両開きの大きな赤い扉が見えてきました。

 文が二人に告げます。

 

「あそこが謁見の間です。あの部屋に総大将がいらっしゃるはずです」

「……いよいよね」

「あ、そうだ! 静葉さん、アレある?」

「ああ、アレね。はい、よろしく」

 

 静葉は、懐から例の書簡を取り出すと、にとりに渡しました。

「……ところで一つ聞くけど、文は総大将の顔は見たことあるのかしら」

「……いえ、ないです。ただ、お話をしたコトはありますよ。とても威厳のありそうなお方でした」

「へ? 話したのに、姿を見たコトない? どういうコトそれ?」

「総大将と我々の間には、大きな御簾がかかってまして、はっきりとした姿は、我々からは見えなくなってるんですよ」

「へ? それってなんか、うちの長官みたいな……」

「あやや、そうなんですか?」

「……さて、それでは総大将さんとご対面しましょうか」

 

 静葉はそう言って笑みを浮かべると、扉を開けて中に入ります。

 三人が部屋に入ると、目の前に仰々しい御簾が垂れ下がっており、その奥からは、凄まじいオーラが……!

 

「……何用だ」

 

 文とにとりは、思わず気圧されそうになりますが、静葉は平然と告げます。

 

「あなたが総大将さんね」

「いかにも。私が天狗族の総大将だ」

「私は秋静葉。秋を司る神よ。今日はあなたに話があって来たわ」

 

 そこまで言うと、静葉はにとりに目配せをします。それに気づいたにとりは、緊張した面持ちでたどたどしく伝言を伝え始めます。

 

「わ、私は、沢河童の河城にとり! ……ほ、本日は、技術局長官からの言葉を伝えに参った!」

「……ほう。申してみろ」

「……我々、河童は天狗との話し合いの場を設ける意志がある。ついては、ぜひともこの申し出を受け入れてもらいたいと、思い……。思いまして……。今回はせ参じたうえ。……その、ええとまぁ、そういうワケでありまして……あ、そうだ。これ長官からの伝言です! どうぞっ!」

 

 にとりは、書簡を御簾の前に置きます。

 

「……話し合いだと? ふざけたマネを」

「あら、向こう側は本気みたいよ」

「くだらんな」

 

 その時、文が割り込みます。

 

「……総大将! 今は河童といがみ合ってる場合じゃありません! 私は里の様子を……」

「だまれ」

 

 総大将の一声で場の空気が、一瞬で凍り付きます。

 

「……射名丸文。オマエは処刑されたはずじゃないのか。なぜ生きている」

「そ、それは……」

「……ああ、そうか。龍のヤツめ。さては情にほだされたな」

「いや、龍さまは関係ないですよ! 偶然、流れ弾が……」

「まぁ、そんなのはどうでもいい。おい、にとり……と、やら!」

「ひ、ひゅい!?」

「ヤツに伝えろ。受け入れは拒否すると」

「そ、そんな!?」

「私からは以上だ。では、とっとと立ち去るがいい」

「ひぃ……」

 

 思わず文とにとりは、たじろいでしまいますが、静葉は笑みを浮かべ彼女に言い放ちます。

 

「……まったく、あなたずいぶんと偉くなったものね」

「……し、静葉さん!?」

「ちょ、ちょっと、静葉さん! 総大将になんてコトを……!?」

 

 動揺する二人に構わず、静葉は続けます。

 

「……さっきから黙って聞いていれば、あなたの言い分は、ただのわがままにしか聞こえないわよ。総大将を名乗るのなら、もっと視野を広く持ってほしいところね。このままじゃ、皆が不幸になるだけよ」

「……キサマ! 私を侮辱する気か!? 私を誰だと……!」

「おだまりなさい!!」

 

 静葉の一喝で、再び空気が凍り付きます。

 彼女もやはり神さまなのです。

 

「……ひ、ひえー!? 滅多に怒らない静葉さんが怒った……!?」

「あやや……!」

 

 静葉は、強い口調で総大将に言い放ちます。

 

「言っておくけどね。あんたの正体は、私にはとっくにばれてるのよ。その分厚い仕切り、さっさと取っ払って私たちに姿見せたらどうかしら。……ねえ、総大将さん、……いえ、守矢神社祭神、洩矢諏訪子!」

「え゛っ?」

「はあ……?」

 

 そのとき、御簾が静かに上げられます。そして中から姿を現したその人物は!

 

 カエルをあしらった衣服に短い金髪に金色の眼。いつもの特徴的な帽子こそかぶっていませんが、間違いありません! 土着神の頂点、洩矢諏訪子です!

 

 なんと、天狗の総大将の正体は彼女だったのです!

 二人があぜんとしてる中、静葉はニヤリと笑みを浮かべて呟きました。

 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね」

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