穣子とお燐は、ヤマメたちのもとへ帰って来ました。
すると何やら激しい弾幕の応酬が繰り広げられています。
「うわ!? なんだい!? この弾幕の嵐は!?」
その様子を遠目で眺めていたヤマメが、二人に気づきます。
「……あれ? 二人とも? どうしたのさ」
「まぁ、いろいろなんやかんやがあってね! とりあえず撤退してきたよ!」
「そうそう! もうあとは、あの三人にまかせることにしたのよ! 私たちはおしまい!」
「あの三人……? うーん。何かよく分からないけど、わかったよ!」
「で、ヤマメ。こっちの状況は……?」
「見てのとおりだよ」
「……いや、見てのとおりって、見ても分からないんだけど。あの鬼はどこなのよ!?」
「だからアレだって」
「……へ? まさかとは思うけど、さっきから飛び交ってるこの弾幕って……」
「うん、そのまさかだよ」
そう、この弾幕の応酬は勇儀と龍によるのものだったのです。
「はっはっは! いいね! いいねぇ! その反応! さすが大天狗サマだ!」
「オマエこそ山の四天王だけあるな。星熊童子! 私をここまで本気にさせるとはな!」
彼女らは完全に二人だけの世界に入ってしまっています。
大天狗と山の四天王の戦いの迫力と凄みに、敵の天狗たちも思わずクギヅケ状態です。
「……ね、ねえ、あたいらも、ちょっと観戦しようかねえ……?」
「……えぇ!? お燐! マジで言ってんの? 私は興味ないわよ」
「おいでよおいでよ。滅多に見られない迫力だよ! まさに実力者同士の戦いだよ!」
お燐もヤマメたちと一緒になって、二人の戦いの観戦を始めてしまいました。
「……ちょっとー。二人ともー……? まったくもう……」
戦いに興味がない穣子は、呆れ気味に様子を眺めてましたが、ふと、遠くを見ると、真っ黒い雲がこちらにゆっくり近づいてきているのが見えました。
……何やら嵐の予感。
□
静葉たちは山の上の屋敷へとやってきました。
「この屋敷の奥に総大将はいらっしゃるはずです」
「入り口は。……開けっぱなしだね」
「それじゃ、遠慮なく入らせてもらいましょう」
三人は屋敷の中へ入りました。中は静まりかえっています。どうやら部下は一人もいないようです。
「ふむ、驚くほど静かね……。文、いつもこんなに静かなものなの?」
「いやいや、そんなコトないですよ? どうやら皆、出払っているようですね」
「ずいぶん不用心だな……。警備とか大丈夫なのかコレ?」
「……ま、総大将さん一人で、十分ってことなのかしらね」
ピカピカに磨かれた木目調の廊下をまっすぐ進むと、やがて正面に仰々しい両開きの大きな赤い扉が見えてきました。
文が二人に告げます。
「あそこが謁見の間です。あの部屋に総大将がいらっしゃるはずです」
「……いよいよね」
「あ、そうだ! 静葉さん、アレある?」
「ああ、アレね。はい、よろしく」
静葉は、懐から例の書簡を取り出すと、にとりに渡しました。
「……ところで一つ聞くけど、文は総大将の顔は見たことあるのかしら」
「……いえ、ないです。ただ、お話をしたコトはありますよ。とても威厳のありそうなお方でした」
「へ? 話したのに、姿を見たコトない? どういうコトそれ?」
「総大将と我々の間には、大きな御簾がかかってまして、はっきりとした姿は、我々からは見えなくなってるんですよ」
「へ? それってなんか、うちの長官みたいな……」
「あやや、そうなんですか?」
「……さて、それでは総大将さんとご対面しましょうか」
静葉はそう言って笑みを浮かべると、扉を開けて中に入ります。
三人が部屋に入ると、目の前に仰々しい御簾が垂れ下がっており、その奥からは、凄まじいオーラが……!
「……何用だ」
文とにとりは、思わず気圧されそうになりますが、静葉は平然と告げます。
「あなたが総大将さんね」
「いかにも。私が天狗族の総大将だ」
「私は秋静葉。秋を司る神よ。今日はあなたに話があって来たわ」
そこまで言うと、静葉はにとりに目配せをします。それに気づいたにとりは、緊張した面持ちでたどたどしく伝言を伝え始めます。
「わ、私は、沢河童の河城にとり! ……ほ、本日は、技術局長官からの言葉を伝えに参った!」
「……ほう。申してみろ」
「……我々、河童は天狗との話し合いの場を設ける意志がある。ついては、ぜひともこの申し出を受け入れてもらいたいと、思い……。思いまして……。今回はせ参じたうえ。……その、ええとまぁ、そういうワケでありまして……あ、そうだ。これ長官からの伝言です! どうぞっ!」
にとりは、書簡を御簾の前に置きます。
「……話し合いだと? ふざけたマネを」
「あら、向こう側は本気みたいよ」
「くだらんな」
その時、文が割り込みます。
「……総大将! 今は河童といがみ合ってる場合じゃありません! 私は里の様子を……」
「だまれ」
総大将の一声で場の空気が、一瞬で凍り付きます。
「……射名丸文。オマエは処刑されたはずじゃないのか。なぜ生きている」
「そ、それは……」
「……ああ、そうか。龍のヤツめ。さては情にほだされたな」
「いや、龍さまは関係ないですよ! 偶然、流れ弾が……」
「まぁ、そんなのはどうでもいい。おい、にとり……と、やら!」
「ひ、ひゅい!?」
「ヤツに伝えろ。受け入れは拒否すると」
「そ、そんな!?」
「私からは以上だ。では、とっとと立ち去るがいい」
「ひぃ……」
思わず文とにとりは、たじろいでしまいますが、静葉は笑みを浮かべ彼女に言い放ちます。
「……まったく、あなたずいぶんと偉くなったものね」
「……し、静葉さん!?」
「ちょ、ちょっと、静葉さん! 総大将になんてコトを……!?」
動揺する二人に構わず、静葉は続けます。
「……さっきから黙って聞いていれば、あなたの言い分は、ただのわがままにしか聞こえないわよ。総大将を名乗るのなら、もっと視野を広く持ってほしいところね。このままじゃ、皆が不幸になるだけよ」
「……キサマ! 私を侮辱する気か!? 私を誰だと……!」
「おだまりなさい!!」
静葉の一喝で、再び空気が凍り付きます。
彼女もやはり神さまなのです。
「……ひ、ひえー!? 滅多に怒らない静葉さんが怒った……!?」
「あやや……!」
静葉は、強い口調で総大将に言い放ちます。
「言っておくけどね。あんたの正体は、私にはとっくにばれてるのよ。その分厚い仕切り、さっさと取っ払って私たちに姿見せたらどうかしら。……ねえ、総大将さん、……いえ、守矢神社祭神、洩矢諏訪子!」
「え゛っ?」
「はあ……?」
そのとき、御簾が静かに上げられます。そして中から姿を現したその人物は!
カエルをあしらった衣服に短い金髪に金色の眼。いつもの特徴的な帽子こそかぶっていませんが、間違いありません! 土着神の頂点、洩矢諏訪子です!
なんと、天狗の総大将の正体は彼女だったのです!
二人があぜんとしてる中、静葉はニヤリと笑みを浮かべて呟きました。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね」