そのころ妖怪の山の上空では……。
ゆっくりと天狗の住処に近づきつつある黒雲。その強風が吹き荒れる、黒雲の中に、巨大な
そして、その物体の上には、二つの人かげが……。
「ふふふ……。間もなく、天狗の住処上空になります」
一人は典。そしてもう一人は……。
「……そうかい。久しぶりだね。外の空気は」
「ふふふ……。今ごろ、ヤツらは彼女と交渉しているころでしょうね」
「……ああ、そして恐らくアイツのコトだ。こちらの交渉は突っぱねるはず。……ならば、私が直々に行くしかないだろう」
「いやはや、今宵はなかなかに荒れそうですね。長官。いや……。神奈子さま」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる典。
……なんと河童の技術局長官の正体は、守矢神社もう一柱の祭神、八坂神奈子だったのです!
つまり両者のトップは守矢の二柱だったのです!
また守矢の仕業か!? と、言いたいトコロですが、いったいこれはどういうコトなんでしょうか。
「くくく……。どれ、久しぶりにアイツの顔でも拝んでやるとするかね」
そう言うと神奈子は、髪とスカートを風になびかせながら、フッと笑みを浮かべます。
黒雲は、徐々に徐々に天狗の住処一帯を覆い始めていきました。
□
そのころ、謁見の間では。
「……ちっ」
思わず舌打ちをする諏訪子は、
「……ねえ秋神。アンタさあ、いったい、いつから気づいてた?」
「……そうね。まず、ある人物から天狗の総大将が、あなたであるという話を聞いていたわ。正直、最初は眉唾物だったけど、色々情報を集めていくうちにだんだんに真実味を帯びていったわね。実際、守矢神社に行っても、あなたはいなかったし。でも、決定打になったのは、ここに乗り込んでからね」
「……あー。やっぱりそうだったか。やっぱりアレが悪手だったかー……」
すでに思い当たるフシがあるのか、彼女は大きくため息をつきます。ちなみにその声も威厳ありそうな低い声ではなく、いつもの彼女の声に戻っています。
どうやら意図的に変えていた様子。さすが神と言ったところでしょうか。
「ええ、そうね。あなたの能力は『
「ちっ……。ちょっとばかり総大将としての威厳を見せてやろうと思って、少しばかり力使ってやったんだけどなあ。アンタみたいなヤツの前で使っちゃいけなかったね」
「……ところで諏訪子」
「……ああ、分かってるよ。全部話すよ」
諏訪子は観念したように両手を広げると、ゆっくりと語り出しました。
「……全ての元凶は『あの日』だ。幻想郷のパワーバランスが突然崩れてしまった『あの日』を境に、天狗と河童の周辺が何やらキナ臭くなってきてね。このままだと両者間で戦争が起こりかねない。それで、私が裏から天狗の統率をはかろうとしたのさ」
「そういえば天魔様はどうしたのよ。諏訪子」
「ああ、いったん身を引いてもらったわ。コトが収まったらまた戻ってもらうって約束でね。しかし、予想に反して統率を図るのに難航してしまったのよ。と、いうのも河童と天狗、お互いの溝は私たちが思ったより深かったんだ。もはや片方だけを統率するだけじゃ、コトは収まらなかった」
諏訪子の言葉に、文が思わず頷きます。
「……ええ、確かに天狗と言う種族は組織力こそ強いですが、必ずしも一枚岩というわけではありませんからね。穏健派もいれば強硬派もいます。私もその両派の板挟みでしたので……」
「ふむ……。天狗側だけではなく、河童側も制御が必要になった。と、いうことは。……『彼女』の出番というわけね」
「その通り。アイツは河童と以前からつながりがあったからね。アイツが河童側のまとめ役になったのさ」
「えええええ!? 待って!? そ、それってまさか、……ウチの技術局長官のコト?」
「ああ、そうさ。にとり。お前さんとこのボスは、うちの神奈子だよ」
「えええええ!? マジで!?」
「あら、にとりったら、気づいてなかったの」
「ええええええっ!? 静葉さんは気づいてたの!?」
「ええ、まあ。なんとなくだけどね。いくつか思い当たるフシはあったわ。地獄鴉さんの力を利用しようとしているところとか。もともとあの子がヤタガラスの力持ったのも、彼女によるものだったし」
「うへえぇー……全然気づかなかったよぉ……」
思わずにとりは、腰が抜けたようにへたり込んでしまいました。まぁ、無理もありませんね。
構わず諏訪子は続けます。
「……当初の予定としては河童と天狗のお互いを制御して上手く講和を結ぼうと思っていたのさ。というのも、紅魔館近辺の動きが不穏だったからね。何かあったときのための万が一の保険として。……ところが、だ。予想に反して神奈子のヤツが、河童の統率にてこずってしまったんだ!」
諏訪子の言葉に、今度はにとりが頷きます。
「……あー。そりゃ、確かに我々河童は、天狗と違って個人個人で勝手気ままに動いてるからね。いくらあの神さまと言っても、一筋縄じゃいかないよ」
「そうじゃなくてもアイツは、以前、河童たちを使ってダムをつくろうとしてただろ? その時も上手くいかなかったというのに、同じ失敗をまた繰り返しやがってさあ! とにもかくにも、ここまで状況がこじれてしまったのは全部アイツのせい! 私なら出来るとも! なんて豪語しておいて、あの体たらく、まったく話にならないね!」
と、諏訪子が吐き捨てた、そのときです。
「……へえ? そりゃ聞き捨てならない言葉だねえ? ……諏訪子」
「え……?」
声に気づき、全員が窓の方を見ると、そこには、なんと、神奈子の姿が!
彼女は、円錐形の乗り物――オンバシラに乗って外から室内を眺めています。
どうやら今の話を全部聞いていたようで、怒り心頭の様子。あわわわ……。
「おい諏訪子! オマエが、天狗をまとめるのにグスグズしてるから、面倒なコトになったんじゃないか!?」
「なにぃ!? アンタこそ口先だけで行動が、ともなってないじゃないか! 何が、これを機に神の威厳を皆に知らしめてやろうだよ! この! ペテン神!」
まさに売り言葉に買い言葉。もはや一触即発状態の二柱。
「もうカンベンならないわ! そんなに言うなら実力で示してみやがれってのよ!」
諏訪子はタンカを切ると外に飛び出します。
「……ほう。上等じゃないか! なんなら今ここで、かつての決着をつけてやろうか?」
神奈子は背中からオンバシラを展開し、臨戦態勢となります。
「望むところよ! 諏訪大戦の続きと、いこうじゃないかい!」
諏訪子も、いつの間にかいつもの帽子をかぶり、鉄輪を構えて臨戦態勢に。
「積年の決着をつけてやるわ! 神奈子!」
「望むところよ! 覚悟しな! 諏訪子!」
とうとう、荒れ狂う上空で、二柱による派手な弾幕合戦がおっぱじまってしまいました!
その迫力と来たら、先ほどの龍と勇儀の比なんかじゃない!
こんなのに巻き込まれたら、ひとたまりもありません!
「……い、いったい何が起きてるっていうんです……?」
「も、もう、あたまがついていけないや……」
文とにとりは、状況についていけず、放心状態になってしまっています。
「ふむぅ……」
その中でも静葉は、なんとか場を納める方法を考えていました。
そのときです。
「ふふふ……っ! いやぁ、これはこれは、ユカイな状況。……こりゃあ、たまりませんなぁ」
その場に満面の笑みを浮かべた典が現れます。
「……出たわね」
静葉は、思わず彼女をにらみつけるのでした。