静葉が街中を歩いてると急に声をかけられます。
「あ、いつかの秋神さまじゃなーい!」
「あら、誰かしら」
「私よ私! もしかして忘れちゃったー?」
「……ああ、あなたはたしか、はたてね」
「だいせいかーい!」
そう言って満面の笑みを見せるはたて。手提げカバンを持ってどこかにお出かけしていたようです。
「ねえねえ。どうしたの? こんなトコロで。もしかして観光とか?」
「ええ。……まあ、そんなところね」
「ここ、いいトコだもんねー。旅行したくなる気持ちわかるわー」
「ええ、そうね。ところで、そういえばあなたのこと探してたのよ」
「え!? そうなの?」
「ええ。そうなのよ。せっかくだから、立ち話もなんだし、どこかでゆっくり座って話しましょうか」
「あ、それなら私んち、来るー?」
「あら、いいの」
「いいよいいよー。もてなせるようなモノは何もないけどねー?」
「別にいいわ。じゃあ、せっかくだからお邪魔させてもらおうかしら」
「やったー! じゃ、ついてきてー!」
と、いうわけで静葉は、はたての家に案内されるのでした。……それにしても相変わらずノリの軽い子です。
彼女の家は、少し路地に入ったところにありました。
「それじゃ、お邪魔させてもらうわね……」
静葉が中に入ると、薄桃色の壁紙とファンシーな家具に囲まれた空間が待っていました。
いかにもイマドキの。と、いった感じです。部屋中キレイに掃除されています。秋ハウスの時といい、やはり彼女はキレイ好きなようですね。
静葉が部屋中を見渡しながら、白い流線型のかわいらしいイスに座ると、奥の部屋、おそらく台所でしょうか、そこからはたてが姿をあらわしました。
「あんまキレイじゃないけどゴメンねー?」
と、言いながら彼女は、湯飲みとお茶菓子をテーブルに置きます。クッキーと赤いお茶です。紅茶でしょうか。それにしては赤過ぎるので、もしかしたらシソ茶とかかな?
「あら、ありがとう。そんなおもてなしなんて」
「いやいや、神さまだし……。一応ね?」
「お気づかい感謝するわ」
「それで話って?」
「ええ、あなたのおかげで戦争を止めることができたから、お礼を言いたかったのよ」
「え!? ウソでしょ!?」
「本当よ。あなたのその念写ってのが凄く役に立ったの」
「そうなんだ!? それは嬉しいわー」
「ありがとう。はたて。あなたは、かくれた英雄よ」
「いやいやいや、そんなー。まさか神さまにそんなこと言われるなんてー」
彼女はよほど気恥ずかしかったのか、真っ赤になった顔を両手でパタパタとあおいでいます。
「あ、そうそう! 忘れてた! 私も神さまにお礼しなくちゃいけなかったんだっけ!」
「あら、何かしら」
「実はねー。アナタの妹さんにすごくお世話になってさー……」
はたては静葉にコトの経緯を説明しました。
「なんですって。あなた、今まで私たちの家にいたの」
「そーそー。助けてもらったのよ。妹さんに」
「へえ。穣子がそんなことをねぇ……」
思わず静葉は驚いたように、ため息をつき、ティーカップに口を付けます。
たちまち酸っぱいフレーバーが、口中に広がり、静葉は思わず顔をしかめてしまいました。
お茶の正体はローズヒップティーでした。
□
その後、静葉は思うコトもあって、ふと、秋ハウスへとやってきました。すると。
「あらまあ……」
なんということでしょう!
家は、以前の廃屋一歩手前のような状況とは、まるで見違えるようなたたずまいで、夕日に照らされていました。
静葉が家の戸を引きますと、大して力入れなくともスッと開きます。もう、以前の立て付けの悪さはまったく感じられません。
「……ふむ。中もだいぶ様変わりしてるようね」
家の中も、かび臭さや湿気はほとんど感じられず、窓から差し込んでくる夕日によって、ほんのりと幻想的に照らし出されています。
一部くさっていた廊下は、さすがに元のようにとまではいきませんが、板材を上手く使って補強されていました。まるで匠の技です。
「……ふむ。これ本当にあの子が全部一人でやったというの。すごいわね」
静葉が思わず感心して、ため息をもらしたそのときです。
「ふふふ……。ずいぶんとキレイになりましたねえ。これなら私も住んでみたいくらいですよ」
「その声は……」
「やあ、お久しぶりですね」
そう言って、気さくそうに、手をあげて静葉にあいさつしてきたのは……。
「……菅牧典。何しに来たのよ」
「あらあら、そんな邪険にしないでくださいよ。悲しいじゃないですか」
「……よく言うわよ」
「ふふふ……。しかし、あの状況を上手くまとめるなんて、さすがですねえ。アナタにまかせた甲斐がありましたよ」
「ほめられてもうれしくないわね」
「やれやれ、すっかり嫌われてしまったようで」
そう言って彼女は、ふっと息をついて床に腰を下ろします。
「ところで、あなたに聞きたいことが二つあるんだけど」
「おや、なんですか? 二つもとは」
「まず一つ。早苗から、あなたがあの子をかくまっていたって聞いたけど、それは本当なのかしら」
「……ああ、そういえば、そんなコトもありましたね。ま、あの神さまの命令でしたので不本意ながらもですが……」
「そう……」
「で、二つ目の質問とは?」
「……あなたの言う『壮大な
「ふふふ……」
「答えなさい」
「……ま、今のところ、すべては計画通りに動いてますよ。アナタたち同盟軍がこれから紅魔館を攻めようとしているコトも、そしてその後、この幻想郷がどうなるかというコトも……」
「……それはどういうことよ」
「ふふふ……。いずれわかりますよ。いずれね。じゃ、今日はこのへんで」
「ちょっと、待ちなさい」
しかし彼女は、こーんこーんと去って行ってしまい、その場には静葉だけが取り残されてしまうのでした。