さて、少し戻って、その日の昼下がりのころ。
穣子たちは、お燐の探し求めていた人物と会っていました。
その人物は、自分でこしらえた掘っ立て小屋の中で、こたつに入ってお茶をすすっています。その正体は……。
「……なるほど。それで私のところをたずねてきたというワケか。それはそれはご苦労だったね」
「いやいや参ったよ。こんな面倒ゴトになるなんてねえ。ナズーリン」
そう、その人物とはネズミ妖怪のナズーリンでした。どうやら彼女もレジスタンスと関係があるようです。
「……フフフ。私も正直、困惑しているよ。いったいこれから幻想郷はどうなってしまうんだろうね?」
ナズーリンは、湯飲みに口を付けると呆れた様子で息をつきます。
「……ところで。聖はどこだい?」
「ああ、聖かい。彼女なら地底に行ってるよ」
「なんと!? なんでまた地底なんかに?」
「今、レジスタンスは、地底と手を組もうとしているのさ」
「つまり、さとりさまと?」
「ああ。そういうコトだね」
「……ふむ。こりゃまた大きくコトが動きそうだね」
「かもしれないね」
「あのー……スイマセン。チョットイイデスカ……?」
穣子が話に混ざろうとすると、ナズーリンは初めて二人に気がついたように声をかけます。
「ん? ああ、キミたちもいたのか。豊穣神にツチグモ妖怪の……。ええと、なんだっけ?」
「ヤマメだよ! なんでみんな私の名前覚えてくれないの!?」
「……で、キミたちは何をしているんだい。もしかしてお燐の護衛かい?」
「そんなワケないだろ! お燐と一緒に行動してるんだよ! この世界を元に戻すために!」
「……へえー。そうなのかい」
ヤマメの言葉を聞いたナズーリンは、眼を細めて含み笑いを浮かべます。
「……何よ? その小バカにしたような目は? 言っとくけど私たちは本気よ!」
「ああ、これは失礼。……いやいや、別にバカにしているわけじゃないよ。ずいぶんと大変なコトをしようとしているね。と、思ったのさ」
「なんかいちいち引っかかるな。その言い方……」
「ふむ。しかし、聖がわざわざ地底にか……。そういや、勇儀のコトもさとりさまは呼び戻してたっけ。うーん。もしかして何か関係が……?」
と、お燐は何やら一人でブツブツ言ってましたが、やがて
「……よし。あたいもいったん地底に戻るコトにするか。どうも胸騒ぎがするよ」
「え、地底に? それじゃ私たちも?」
「いや! ここからは二手に分かれようと思う!」
「へ?」
「え……?」
「あたいはこのままいったん地底に戻る。オマエさんたちは、そのままレジスタンスのアジトに向かってくれ。なあに、あたいの名前を出せば大丈夫さ」
「そっか。わかったわ」
「というわけでナズーリン。すまないけどよろしく頼むよ」
「うむ。了承したよ。……しかしキミも何かと大変だねえ」
「ははは。仕方ないさ。こういう役まわりってコトだね」
彼女は苦笑いを浮かべながら、すっくと立ち上がります。
「……お燐。気をつけてね?」
「……ああ、大丈夫さ。それじゃ、二人とも、あとはよろしく頼むよ!」
と、言い残してお燐は、足早に去って行ってしまいました。
名残惜しいですが、彼女とはココでいったんおわかれです。
「……さて二人とも。レジスタンスのアジトに行きたいというコトらしいが?」
「ええ。そうよ!」
「ふむ。それならこれを持っていきたまえ」
ナズーリンは、何やら地図を取り出して二人に見せます。
「この地図の印が付けてある場所に行くといい」
「行くといいって……。アンタは一緒に行ってくれないの?」
「……ああ、すまないが、私はちょっと用事があるのでね」
「ちぇっ……。ケチね。付き合ってくれてもいいじゃない」
「まあまあ、穣子。別にいいじゃん。この地図んとこに向かえばいいだけの話だろ?」
「……まあ、そうなんだけどさ」
「それじゃ二人とも。道中気をつけるんだよ」
と、いうわけで二人はナズーリンに見送られながら、彼女の家を出ると、さっそく地図をたよりにレジスタンスのアジトへやってきました。ところが……。
「何よこれ。ただの森の中じゃないのよ!?」
穣子の言うとおり、二人がたどり着いたのは夕日に照らされた森の中の広場。とてもアジトがあるという雰囲気ではありません。
「ねえ、ヤマメ。本当にこの場所で合ってるの? 間違ってないの?」
「うん、ここで間違いないよ」
「ちょっと、地図見せてよ!」
と、穣子はヤマメから地図を奪い取って見てみますが、間違いありません。ここで合っています。
「ぬぬぬ……。もしかしてあのネズミ、私たちをダマしたんじゃないの!? なんか小バカにした態度してたし!」
「まあまあ、落ち着いて、穣子。もしかしたらそうかもしれないけど、アイツが私たちをだますメリットなんてなくないか? それにお燐がまかせた人物なんだから、きっと信用できる人だと思うよ?」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
ヤマメはもう一度地図をよく見てみます。すると。
……おや? よく見たら地図の右上に、なにやら絵がかいてあるのを見つけます。
山と思わしき曲線の上に、丸が描かれているようですが……?
「なんだこれ。絵?」
「ただの落書きじゃないの?」
「いや、そんなのわざわざ地図にかかないだろ?」
「山と……。月かしら? コレ」
「ああ、月か。……月……月……。あ、もしかして!?」
「え、なんかわかったの!?」
「穣子! このまま夜まで待ってみよう!」
「え、マジで!? ま、別にいいけど……」
二人は、そのまま待つことにしました。そしてやがて日が暮れ、あたりはすっかり暗くなります。すると……。
「はー。もうすっかり真っ暗になっちゃったけど?」
「……ねえ。穣子。まわり見てごらんよ」
ヤマメに言われるままに、穣子があたりを見渡すと……。おや、なにやら、動物の気配が。
「何かいるわね? ええと、タヌキかな?」
「みたいだね。なんかいっぱい集まってきたぞ……」
ヤマメの言うとおり、タヌキが二人のまわりにたくさん集まってきました。ぽんぽこぽーん。
と、そのときです。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ……。二人ともこんな時間に何しに来た?」
どこからともなく声が響いてきます。
「誰だ!? 姿見せろ!」
ヤマメが呼びかけると、二人の目の前にドロンと妖怪が姿を現しました。
「ふぉっふぉっふぉ……。なかなか威勢のいいやつじゃのう」
「あ、アンタは!?」
姿を現したのは、化けダヌキの親分こと、二ツ岩マミゾウです。これまた大妖怪の登場です。
「……もしかしてオマエがレジスタンスの……?」
「ほぉ。おまえさんたちは、レジスタンス志望かな?」
「いや、私たちは、お燐っていう猫の妖怪と一緒に行動してたのよ! いなくなっちゃったけど」
「あぁ……。なるほど。そういうことかい」
「私たちをレジスタンスのアジトに案内してもらいたいんだ」
「ふむ。いいじゃろう。あの地図の謎も解けたみたいだしのお」
「地図の謎?」
「おまえさんたち、ナズーリンから地図をもらったじゃろう?」
「……あ。もしかしてこの地図って!?」
「うむ。わしがこしらえたものじゃよ」
「なんでこんな回りくどいコトするのよ!?」
「それはもちろん、これくらいの謎が解けないようでは、レジスタンスの一員としてやっていけないからじゃよ。……ま、そう言う意味でもおまえさんたちは見込みがあるようじゃな! ふぉっふぉっふぉっふぉ!」
思わずキョトンとする二人にマミゾウは告げます。
「それでは案内しよう! 我がレジスタンスのアジトに!」
こうして穣子とヤマメの二人は、なんとか無事にレジスタンスと接触するコトに成功したのでした。