レミリアを追い払った龍とみとりは、勇儀とともに地霊殿へと向かいました。
なんでも勇儀曰く、レミリア襲撃での負傷者が手当を受けているとのコト。
「……しかし、相変わらずムチャしやがって。オマエは……」
「うう、すまん。勇儀。つい……」
その道中、勇儀にたしなめられて、ばつが悪そうにしているみとり。思わず龍が彼女にたずねます。
「……すまないが、みとりどのは、あの鬼とどういう関係で?」
「……あ、ああ、実は勇儀には、地底ですごくお世話になっててね」
「鬼にお世話に……?」
「ああ、そうさ」
「ははは。なんせ、地底に来たばかりのころのコイツは、手が付けられない暴れモンでなあ……」
「なんと……。みとりどのが?」
「……なあ、二人とも。話はあとにしようか。もうすぐ地霊殿に着くし」
「……ふむ。それもそうだな。その話については、今度酒のつまみにたーっぷり聞かせてもらうとするか」
「ははは! そりゃいい!」
「……かんべんしてくれ」
などと言いながら三人は、地霊殿にたどり着きます。
どうやらレミリアの襲撃からはうまく逃れられたらしく、建物自体は無傷のようです。
中に入ると、三人を迎えてくれたのは、レジスタンスのリーダーである聖でした。
二人が、自分たちは同盟軍からの使者であるコトを彼女に伝えますと、彼女は、僧侶らしく合掌して二人に深々と礼をします。
「……ああ、なんとありがたいことでしょう。遠路はるばるご足労おかけして、誠に申し訳ございません」
「……いえいえ。そんな、恐れいります。ところでここに負傷者がいると聞きましたが」
「ええ。今、永琳が治療に当たっています。幸いにも勇儀さんがいたので、地霊殿にはそこまでの大きな損害はありません。お燐さんとお空さんが迎え撃った際に軽い傷を負ったくらいです」
「……となると問題は街の方か」
「ええ。致し方ないとはいえ……。ひどい有様に」
そう言って視線を落とす聖。その様子を見た勇儀が言います。
「まあ、そんなに心配しなさんな。私たち鬼にかかれば街の復興などあっという間ですから。それに負傷した鬼たちも、どうせすぐに元気になる。なんせ鬼の体は頑丈ですからね」
そのとき、さとりが姿を現します。
「あ! さとり……」
「ああ、アナタが……。地霊殿の」
「ええ。私が地霊殿の主、古明地さとりです。龍さん。そしてみとり、わざわざ来て頂き感謝いたします」
「すまん、さとり。私がもう少し……」
「ふむ。私がもう少し早く来ていたらこんなコトにはならずにすんだかもしれなかったのに……。ですか。いえ。みとりが気に病む必要はありません」
「いやでも……」
「レミリア襲撃の予兆は察知していたので、あらかじめ勇儀を地上から呼び戻しておいたのです。しかし、彼女がいてもこの結果になった。それだけ彼女の力が強かったというコト。もっとも勇儀も街の中では、思うように力を出せなかったいうのもありますが……」
「いやあ。面目ない……」
さとりの言葉に苦笑いを浮かべる勇儀。そこへ龍が割り込みます。
「さとりどの。お初お目にかかる。私は……」
「大天狗、飯縄丸龍ですね。ウワサにはうかがっています。なんでも勇儀と互角の力を持つとか」
「いやいやそんな大した者では……。それはそうと……」
「ふむ。紅魔の君は、いったい何をしに地底に来たのか? ですね」
「……おお。ウワサにはうかがっていたが、見事な読心術で!」
「……残念ながらそれはわかりません。ただ、気になったコトが一つあります」
「ふむ。それは?」
「……彼女の心の中は、非常に暴力的で幼稚だったというコトです」
「おい、さとり。……つまり、それはどういうことだ?」
「……彼女は、おそらくヒマつぶし程度に、地底を襲撃したと……」
「なんだと!? ふざけるな! ヒマつぶし程度で、アイツは私たちの街を壊滅させたというのか!?」
急に声を荒げさせるみとりの様子に、龍は思わずギョっとした様子で声をかけます。
「……みとりどの? どうされた……?」
一方の勇儀は呆れた様子でみとりを見つめます。
「……おーおー。始まったか」
さとりは話を続けます。
「ええ、そういうコト。今の彼女は、おそらく彼女自身も力を制御出来ずにいるようです。その衝動のはけ口として地底を襲撃したのでしょう」
「ぬうっ! なんてヤツだ!! この街は私の故郷同然なんだぞ! それをそんなふざけた理由で壊され、黙っていられるか!! おのれ!! 絶対許さん! 今すぐヤツの息の根を止めてやる!!」
そう吐き捨てるとみとりは、飛び立ってしまいます。
「みとりどの!?」
「みとりさん!」
慌てて龍と聖が追いかけようとしますが、すかさずさとりはそれを制止すると、勇儀にアイコンタクトを送ります。
「……やれやれ。まったく、しかたないヤツめ」
さとりの合図に気づいた勇儀は、ため息をつき、勢いよく飛び上がると、空中でみとりをつかまえます。
「おい! 離せ!! 勇儀! キサマ!!」
「……おい、オマエちょっと頭冷やせよ」
そう言って勇儀が、もがく彼女を地面にぶん投げると、みとりはそのまま勢いよく地面にたたきつけられてしまいます。
しかし、それでも彼女は、すぐに立ち上がると、再び勇儀に襲いかかります。
「このヤロウ! よくもやりやがったな! 勇儀! キサマが私の攻撃を……」
「おっと。言わせないぞ!」
能力を使おうとしたみとりの脇腹に、すかさず勇儀の鉄拳がたたき込まれます。
「ぐあぁっっ……!?」
そのままみとりは、もんどりうちながら再び地面に激突し、そのまま気を失ってしまいました。
「みとりさん!」
「みとりどの!」
龍と聖が、慌ててみとりの方へ向かおうとすると、さとりが止めます。
「お二人とも、心配なく。いつものコトですから」
「いつものコトって……。いや、しかし!」
「……あの子は、いったん頭に血が上ると自分でも歯止めがきかなくなってしまいます。ああでもしないと止められませんので」
「なんと……!?」
「そんな……!」
「はぁー……。相変わらず世話のやけるヤツだな。ったく」
そう言いながら、地面に降りてきた勇儀は、呆れた様子で盃に口をつけます。
「うう……」
すぐに意識が戻ったみとりはヨロヨロと起き上がります。
その額からは血が流れており、足元もおぼつかない様子。
「なんと!? あれだけ鬼の強力な一発をもらっておきながらもう立ち上がれるというのか。……やはり彼女はただ者ではないな!」
「でもひどいケガです。はやく手当をしなければ……!」
みとりは二人に向かって頭を下げます。
「……申し訳ない! ついカッとなってしまった」
「……いやいや、気になさるな。みとりどのの気持ちも察するに余りある。私だって、故郷をあんな目にされたら、果たして正気でいられるかどうか……。しかし、それはそれとしてアナタは貴重な戦力。もしこのまま単身で紅魔館に乗り込み、アナタにもしものコトがあったら、それは大きな損失になってしまいますので」
「龍……。すまない」
「……みとりさん。アナタのその憎悪の心は、決して悪いものではありません。憎悪を抱く自分もまたアナタそのものに変わりないんです。だから負の感情を持つ自分を決して責めないでください。そして、そんな自分を優しく受け止めてあげてくださいね」
「……ああ。二人に見苦しいところを見せてしまったようだ。本当に申し訳ない……」
二人の言葉で、ようやく冷静さを取り戻したみとりに、さとりが告げます。
「……みとり。今はまだ待ちなさい。必ず好機はおとずれる。そのときが来るまで、今は力をたくわえておきなさい」
そう言ってさとりは歯がゆそうな様子のみとりに向けてニヤリと、意味深な笑みを浮かべるのでした。