さて所変わって、天狗の住処の奥屋敷では……。
静葉と諏訪子が、応接の間で茶をシバいてました。おかかえ料理人特製のこだわり高級緑茶です。たぶん玉露あたりです。
「……あのムカデさんは、いったい何が目的だったのかしらね」
「それを今、龍が尋問しに行ってるトコさ」
そう言いながら、諏訪子はまんじゅうを口に放り込みます。おかかえ料理人特製の栗まんじゅうです。
そのとき、龍が姿を現します。
「……やれやれ。困ったモノだな。私にでさえ口を割らないとは……」
「あら、お疲れさま。まんじゅうはいかが?」
「……ああ、いただこう」
龍は疲れた様子で、座り込むと、静葉からもらったまんじゅうを口に入れます。
「ああ、疲れたときは甘いものが身にしみるね……」
「それで、何も言わないって?」
「……ええ。本来、アイツは私と仲がいいんですけど、どうも誰かに何かを吹き込まれたようで……」
「ふーん。そうか。じゃあ……。ええと、百々世と言ったっけ。アイツから情報を得るのは難しいってことかー」
「ええ、そうなりますかねえ……」
「……ふむ。ちょっと私、その妖怪さんの様子見てきていいかしら」
「ええ、構いませんけど、気をつけてくださいね? なんせ大妖怪ですから」
「わかったわ。じゃあ、ちょっとここで休んでなさいな。お疲れでしょうし」
「ああ……。お気づかい感謝します……」
静葉は地下に降りて牢屋の前に立ちます。
オリの中には、ぶぜんとした表情の百々世の姿が。武器はすべて没収されています。
「あん……? なんだ?」
「ふむ……」
「なんだオメー。なんの用だ?」
「ちょっとあなたと話がしたくてね。大ムカデさん」
「オレはオメーと話すコトなんてねーぞ?」
「でしょうね」
「言っておくけどオレは何もしゃべらないからな?」
「ええ。いいわよ。私が一方的に話しましょう」
「……は?」
目が点になっている彼女を尻目に、静葉は語り始めます。
「百々世だっけ。あなたは、龍と仲がいいらしいわね」
「ああ。まーな。あいつとは旧知の仲なんだよ。……ってしゃべっちまった。もうしゃべらないからな!?」
そう言って百々世は手で口を塞ぎます。
「その龍にも言えない事情ってコトは、あなたは同盟軍に敵対する存在から何かを言われたのでしょう」
「……お、オレは、何も言わねーぞ!」
「ええ、別にいいわよ。私の独り言だから」
「ちっ……。メンドクセーヤツだな。オメー」
「現在、私が知ってる同盟軍に敵対する存在は一つ。それはレミリア・スカーレット率いる紅魔館組。でも、彼女らの仕業である可能性は薄いでしょうね」
「そもそもオレ、ソイツら知らねーしな。あ、またしゃべっちまったじゃねーか!」
「つまり、あなたは私の知らない敵対存在に、何かを言われたということになるわ。……でも、あなたのような大妖怪が、素直に話を聞く妖怪なんて、きっとそうはいないはず。それこそ龍クラスの妖怪か……。あるいは、よほど口の上手いやつか……。口の上手いやつなら、私、一人心当たりあるのよ。龍の部下だった管狐。たしか名前は……。
彼女の名を聞いた瞬間、百々世は一瞬だけ静葉の顔を見ます。
構わず、静葉は話を続けます。
「……彼女は天狗と河童の親分を裏で操っていた張本人。あなたに何か言ったのが、もし彼女だとしたら……きっとまた何か企んでいるんでしょうね」
「……それはどうだろうな? アイツはアイツで色々考えあるよーだけどな。……知らねーが」
「……まあ、なんにしろ、彼女がいまだに裏で動いてるということは、また何か起きる可能性があるということ。それはもしかしたら紅魔館組に関することか、あるいは、全く別の方向から来るか……」
百々世はキョトンとした様子で話を聞いています。
「……いずれにせよ。もし、あなたに言葉を吹き込んだのが彼女だったとしたら、それは恐らくあなたを利用するために、ウソを吹き込んだと思うから、忘れなさいな」
「……へっ。オレは何も言わねーからな?」
「ええ。私もそろそろ帰ることにするわ。独り言に付き合わせちゃってごめんなさいね。ムカデさん」
そう言うと静葉は、オリから離れます。
(……ふむ。どうやら彼女に変なことを吹き込んだのは、典でほぼ間違いないようね。でも、いったい何のために……。ただ場をかきまわしたいだけか。それとも何か他に思惑があるのかしら……)
ふと、静葉は典の言葉を思い出します。
――今のところ、すべては計画通りに動いてます。アナタたち同盟軍がこれから紅魔館を攻めようとしているコトも、そしてその後、この幻想郷がどうなるかというコトも……。
(ふむ、本当にレミリアを討伐するだけで、この世界は平和になるのかしらね……)
思わず一抹の不安に駆られる静葉なのでした。