本来なら空を飛べばすぐなのですが、目立ってしまうので、しかたなく二人がトボトボ歩いて進んでいると、目の前に大きな建物が、たくさん並んでいるのが見えてきました。さながら工業地帯といった様相。とってもインダストリアルです。
「……河童の住処ってあんなんだったっけ? なんか物々しすぎない?」
「私も知らなかったけど、いつの間にかあんなになってたんだ」
「へぇー……」
二人は住処の入り口前までやってきますが、意外な事に入り口に見張りらしき者は一人もいません。
なんか拍子抜けです。もっと厳戒態勢のようなものを、想像していたんですが……?
「あれ、おかしいなぁ。いつもはもっと河童たちが一杯いるんだけど……」
「もしかしてお昼休み中とか……?」
と、二人がそびえ立つ建物を眺めながら歩いていたそのときです!
ドゴーンという地響きのような爆発音が響いたかと思うと、遠くの建物から、もうもうと真っ黒な煙が!
大変! 火事です! 火事です!
けたたましいサイレンが鳴り響き、次々と河童たちが、あちらこちらへと逃げていきます!
「何かあったみたいね!?」
「もしかしてお
二人は河童混みをかきわけて、爆発した建物の前へとやってきました。
あたりは爆発に巻き込まれた河童たちやら建物の破片やら機械の残骸やらで、アビキョウカンのジゴクエズです。これはひどい!
「これはひどい!」
「これはひどい! どうやら相当すさまじい爆発だったみたい。やっぱお空なのかな……?」
と、ヤマメは不安そうに目の前の建物を見上げます。
依然として建物からは不気味な黒煙がもくもくと上がり続け、あたりには焦げたニオイが漂っています。
「もしかしたら、この中にお空がいるかもしれない。私、中に入るよ!」
「ちょっとちょっと!? 正気なの!? 今あの中行くのは、どう考えてもキケンじゃないの!?」
穣子の制止を振り切ってヤマメは、建物の中に入っていってしまいました。
穣子も仕方なく彼女を追いかけて中へと。……あーあ、どうなってもしーらない!
「うわぁ。すごい煙、真っ暗でぜんぜん前が見えない!」
「あぢいぃ。これ以上、進めそうもないわよぉ……。もうダメええぇ。あぢぃー……」
「お空ー!! いたら返事してー!! お空-!!」
熱さと煙でへばってしまった穣子を放って、ヤマメは何度もお空の名を叫びました。
すると、階段の上から「うにゅぅ」と鳴きながら黒い翼の生えたススだらけの妖怪が姿を現します。
ヤマメは、すぐさまその妖怪の方へと駆け寄りました。
「お空! 生きてたんだね! 良かった!」
「うにゅ……。ヤマメぇ……。さとりさまはどこぉ~?」
「話は後! 今は早くここから出ないと!」
二人は、くたばっている穣子をたたき起こすと、急いで建物から脱出します。
ほどなくして建物は、黒煙に包まれながら、ガラガラと音を立てて崩れてしまいました。
いやいや、もう少しで巻き込まれるところでしたよ!? 危ない危ない!
間一髪で脱出した三人は、休憩をするために、近くの池へとやってきました。池の水は比較的キレイです。
どうやら汚い水は、あの沢だけのようですね。やはりサンギョウハイスイというヤツでしょうか。
「……ねえ、お空、いったい何があったんだ?」
「うにゅ……。あのね。カッパのヤツがね。お空からヤタガラスの力をぬきとろうとしたの。そしたらね。むねの赤いのがぴかーって光って。気がついたら、めのまえが火の海になってたの」
「そうだったのか。でもなんとか無事でよかったよ!」
「うにゅー……っこわかったよぉ~ふえぇん!」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
仲間にあえて安心したのか、お空はその場で、すやすやと眠り始めてしまいました。
「お空のヤツ……。ちょっと幼児退行入っちゃってるみたいだ。よっぽど怖い目にあったんだろう」
「まったく、ひどい事するわねー。こんな可愛い子に手を出すなんて……」
「本当、そうだ! 許さない! ぜったい仕返ししてやらないとね!」
「気持ちはわかるけど、仕返しってったってどうするのよ? その子の力使って、河童の住処を更に火の海にでもするつもり?」
「それもわるくないけど、そんなのよりもっと恐ろしい目にあわせてやるさ!」
ヤマメはとつぜん立ち上がって両手を高々と掲げました。そして彼女の目が妖しく光ったかと思うと、手のひらから紫の煙のようなものが上空へ向かって放たれます。
そのまま紫の煙は、風に吹かれて散っていきました。パープルヘイズ! 何やら凄く嫌な予感がしますけど……?
「……ねぇ、ヤマメ。アンタ今何やったの……?」
「ああ、ウィルスをばらまいてやったのさ! 河童にだけ感染するヤツを。しばらくすればここは疫病が
「はあ!? 何てことするのよ!?」
「フン! このヤマメさまを怒らせた報いさ! 本当だったらエボラ出血熱並みのヤツをばらまいたってよかったんだけどね! せいぜい流感程度に止めておいてやったよ!」
ヤマメ、なんて恐ろしい子!
「ちょっとー!? そんな事されちゃ困るのよ!? 私はにとりっていう河童に用があるんだからね!?」
「あ、そうだった! やっちゃった。てへ」
「てへ。じゃないわよ!? 彼女が病気になっちゃったらどーすんのよっ!?」
「大丈夫、大丈夫。ウィルスって発症するまではセンプク期間ってのがあるんだ。その間にその河童さんを探し出せば大丈夫……かな。多分」
「もう! で、そのセップク丸とかってのはどれくらいなのよ!?」
「一日くらい……かな? あと、セップク丸じゃなくてセンプク期間ね」
「そんなのどっちでもいいわ! っていうか短すぎよ!? すぐ探し始めないとダメじゃない!! バツとしてアンタも手伝いなさいよ!」
「あー……。うん。そうしたいのはやまやまなんだけど……。ほら、お空眠っちゃってるし、この子と一緒に行動したら目立っちゃうし……」
「あー! もー! わかったわよ! 私一人で行ってくるから! そのかわり! あまり! 遠くに! 離れないでいてよねっ!?」
「おっけーおっけー。気をつけてねー」
ノンキに手を振るヤマメに見送られ、穣子は、さんざん文句を吐き散らしながら一人だけで河童の住処へと戻っていくのでした。