朝焼けの中、黒い三角形状の戦闘機の大群が、上空をゆっくりと飛行しています。
静音設計なので音はほとんどしません。
その先頭の機体の上には人かげが。
神奈子です。
大編隊は、そのまま紅魔館上空までやってくると、その場で静止します。
あたり一面は、まるで黒雲に包まれたかのように真っ暗になってしまいました。
「……では、あいさつがわりに。撃てーぃ!」
彼女の号令とともに、その先頭の飛行機から実弾が紅魔館に向かって撃ち込まれます。
弾は、そのまま館の門へ着弾し、爆音とともに壁ごと門を粉々にしてしまいました。
間一髪で逃れた美鈴が、
「………さて、どう出るかな?」
神奈子が様子をうかがっていると、突然、大きな魔方陣が展開し、紅魔館全体にブ厚い魔法の壁が張られました。
「なるほど。まずは守り固めからということか。……では、お手並み拝見といこう。攻撃開始!!」
神奈子の号令で、戦闘機から次々と実弾が撃ち込まれます。
弾が着弾するたびに、黒煙が舞い上がり、焼け焦げたニオイがあたりに充満していきます。
「……よし、撃ちかたやめーぃ!」
神奈子はいったん攻撃を止めます。
相手側の状況を肉眼で確認しようとしたからです。
やがて黒煙が薄まり視界が開けてくると、そこにはほぼ無傷の紅魔館の姿がありました。
「……ま、そう簡単には割れやしないか。にしても不気味だね……。てっきりむこうも総攻撃をしかけてくるかと思っていたが……。もしかして持久戦にでも持ち込む気か……。ん……?」
そのとき、紅魔館の屋根の方から上空の戦闘機に向かって、赤い光が放たれます。
戦闘機は素早く旋回してよけますが、続けざまに飛び立った何かが機体を貫きます。
貫かれた戦闘機は、火柱を放ちながら、そのまま地上へ墜落してしまいました。
更に戦闘機を貫いた何かは、その勢いのまま神奈子の方へと襲いかかってきます。
「……ふんっ!」
神奈子はとっさに目の前に光の壁をつくって襲撃を防ぎます。その正体は……!
「……やれやれ。これは驚いたね。いきなり主がお出ましとは!」
「……フン! オマエらのような烏合の衆は私一人で十分ってコトさ!」
神奈子はレミリアを霊撃で吹き飛ばすと、彼女に言い放ちます。
「そうかい。そりゃ、こっちとしても手間が省けて助かるよ! それじゃ、我が軍の力見せてやろうか!」
□
一方、地上では、うどんげと静葉とレジスタンスが待機していました。
うどんげはレジスタンスに救護班として借り出されていたのです。どうやら事前に誰かにレジスタンスの力になるように言われていたらしく、彼女は二つ返事で要請を受け入れてくれました。
「何かあったときはアナタたちの力になるようにって言われてたのよ。やっと力になれるときが来たわね!」
「実にありがたい話だわ」
「ええ。まったくです。頼りにしてますよ。うどんげさん」
「ケガ人の救護はまかせて!」
彼女がそう言って胸を張ったそのときです、上空から戦闘機が一機、地面に落下し炎上するのが見えました。
「む、さっそく墜落したようね! すぐ救護に!」
うどんげはすぐさま墜落現場に向かおうとします。が、それを静葉が呼び止めます。
「大丈夫よ。行ってもどうせケガなんかいないから」
「何言ってるのよ!? あんなに炎上しているのに……」
「あれには誰も乗っていないのよ」
「えっ……?」
「実はあの戦闘機は、河童が自分たちの住処から遠隔操作で動かしているの」
「ええ!? あの一機一機を!?」
「そうよ。だからあれがいくらうち落とされたところで、こっちに犠牲者は出ないのよ」
「そんな技術……。いったい誰が?」
「あの軍神さまよ」
「……マジで? そんな兵器、月でもめったに見ないのに」
驚くうどんげに、聖が苦笑しながら告げます。
「……私も最初、作戦の計画書を読んだときは目を疑いましたよ。なにしろ河童軍からの直接的な作戦参加者は神奈子さんだけだったんですもの。そういうことだったんですね。静葉さん」
「ええ、そうよ。少ない兵力で強襲をかける。それが神奈子のねらい。……そのためにあの兵器は、必要不可欠だったってわけだわ」
□
戻って上空。
「……あ、そうなの? コレ誰も乗ってないんだ? じゃあ、遠慮なく撃墜し放題ってコトじゃないの」
「まあ、そうと言えばそうだ。だが、もちろんタダではやられんぞ?」
「へえ、そう。そりゃ楽しみだわ!」
「では、いくぞ! フォーメーション展開!」
神奈子の号令で戦闘機は、一斉に上空を旋回し始めます。そして
「撃てーぃ!」
号令とともに、一斉にレミリアに向かって、砲撃が放たれます。
「ははっ!! そんな鉄くずが、我がスピードについてこれると思うのか!?」
レミリアは砲撃の隙間を縫うようにして飛び回り、次々と戦闘機を撃墜していきます。
その様子を神奈子は黙って見守っていました。
□
さて、そのころ河童の住処では……
「……よし! 兵器はみんな飛び去ったな! 今なら手薄なはず! それじゃ、武器を取れ! イクゾォオーーー!!」
たかねたち山童一派が、スキを狙って河童の住処に襲撃をしかけようとしていました。ところが……
「来やがったな! 山ザルども!」
彼女らは待ち構えていたにとりたち河童組に、あっという間にとらえられてしまいます。
「バ、バカな!? なんでオマエたちがいるんだ!? 戦に行ったんじゃなかったのか!?」
「バーカ! オマエらの考えなんか長官はお見通しなんだよ! まんまと引っかかりやがって、この単細胞!」
「く、くそー!? 話が違うぞ! あのゴミギツネぇー!!」
ワイヤーでグルグル巻きにされたたかねたちを見ながら、にとりは通信機を取り出します。
「アーアー。もしもし。もしもし。こちらにとり。無事、山ザルの捕獲に成功!」
「うむ。そうかご苦労! では、そのまま作戦に合流してくれ」
通信相手は神奈子でした。彼女は安堵した様子で通信機を切ると、続けざまに誰かと連絡を取ります。
「……待たせたな。オマエの出番だぞ! 諏訪子!」
「おーけー。……もー。ホント、待ちくたびれたわよー……?」
「すまん、山童どもの襲撃が思ったより遅くてな……。だが、今のところほぼ順調だ」
「わかったわ。じゃ、すぐ行くから待ってて!」
通信を切ると、諏訪子はフッと笑みを浮かべて言い放ちます。
「……それじゃ行くよ! 天狗部隊全軍出撃!」
彼女の号令とともに、選りすぐりの天狗の精鋭部隊が、天狗の住処から一斉に紅魔館に向かって飛び立つのでした。