秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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その22

 さて、そのころ、紅魔館の地下では……。

 

「ヒマだからアナタたちにワタシの話相手をお願いしたいのよ」

 

 そう言ってイスに座っている少女は、二人に向かって微笑み、読んでいた本をテーブルに置きます。その本の表紙には大きく『にんじん』と書かれています。

 

「ア、アンタはもしかして……。レミリアの妹……!?」

「ええ、いかにも。レミリアの妹、フランドール・スカーレットよ」

「な、なんかアンタ、雰囲気ちがくない?」

「フフ……。そうかしら?」

 

 そう言って彼女は、すました表情で金の髪をかき上げます。言われてみれば、なんかいつもより大人びているような……?

 

「……あ、あの、それで話ってなんですか?」

「せっかくだから姉の話をしてあげようと思って」

「姉って、レミリア?」

「ええ。そうよ。『あの日』を境に変わってしまった姉についてね」

 

 フランドールは、目を細めてゆっくりと勝手に語り出しました。パチュリーといい、ここの住人は勝手に語り出すのが好きなようです。

 

「そう……。あれは突然前触れもなく起きたわ。突如、姉の魔力が増大化したのよ。あとからわかったけど、他の妖怪たちにも似たような状況が起きた。そして、それはのちに『あの日』と呼ばれ、その恩恵を受けた妖怪たちは、己の力を誇示するために暴れ始めたのよ」

「ああ、そういえばリグルもそうだったんだっけ?」

「……うん。でも私は、元々その気はなかったんだ。今まで仲の良かった地上の妖怪たちが急に暴れ始めて、怖くなって地底に逃げたんだ。でも同じだった。結局はヤマメたちと組んで地上へ繰り出すことになっちゃったんだ」

「……悪いけど、話続けるわよ?」

「あ、ゴメンナサイ。話の腰折っちゃって……」

「姉は強大な力と引き換えにあるモノを失ってしまったのよ」

「あるモノを……?」

「ええ……。それは王としてなくてはならないモノ。すなわち『品格』よ」

「……あー。つまり、すんごい力持ってるけど、その力に振り回されてるって言うか、乱暴になっちゃったって言う?」

「平たく言えばそういうコトね。『あの日』を境にして姉は感情の起伏も激しくなってしまったのよ」

「……なるほど。だから里の人間をつかまえるなんて野蛮な行動に走ってしまったんですね」

「……全く情けないモノね。曲がりなりにも君主を名乗るならもっと民から慕われるような行動を取らないと。あれでは暴君、いや、ただのガキ大将ね。誰からの支持も受けられやしないわ」

 

 そう言って、呆れた様子で首を横に振るフランドールに、穣子がたずねます。

 

「そういうアンタはどうなのよ? ……なんかエラく大人びてるように見えるけど?」

「……あら、気づいた? ワタシも例外なく『あの日』の恩恵を受けて力が強くなったわ。でも、姉ほど強大な力は手に入れられなかったのよ。思うに、元々力が強かったというのもあるのでしょうね」

「……まあ、たしかにアンタの能力は、反則に近いもんねぇ。何でも壊しちゃうし」

「……フフ。で、そのかわりに見てのとおり、ワタシは姉にはない『品格』を手に入れるコトができたのよ」

「そうなの……?」

「ええ。そうよ。今のワタシは、とても頭の中がスッキリしていて何一つ曇りがないの。おかげで、どんな難しい本を読んでも、内容が頭の中に面白いくらい入ってくるのよ。この地下の自室にいても何一つ退屈しないし、暴れたくて体がうずくようなコトもない。以前は考えられなかったわ」

「それはなんともうらやましい……!」

「……ほえー。そこまでくると、もう別人だわね」

「フフ。さて。話に付き合ってくれたお礼にアナタたちに面白いモノを見せてあげるわ」

「え、なになに?」

 

 フランドールはテーブルの上にある鉄の棒らしきものを手に取ると、壁に向けます。すると、壁に何やら映像が浮かび上がりました。

 どうやら外の映像のようです。映像にはレミリアが戦闘機の大群と戯れ……もとい、戦っている姿が映っています。

 

「見てのとおり、ちょうど外では、姉が同盟軍と戦っている最中よ」

「うへぇ……。あの大量のスゴそうな兵器をたった一人で相手してる……。こわっ!?」

「……フフ。さて、ここで二人に、とあるゲームに参加してもらおうと思うんだけど」

「ゲーム……って? もしかして、世界の運命を賭けたババ抜きでもする気!? 言っとくけど私、カードゲーム……。弱いわよ!?」

「……それ、自慢できることじゃないよね。穣子」

「いえ、カードゲームじゃないわ。でも、賭けっていう点は当たってるわね」

「賭けですか? いったいどんな……」

 

 フランドールは、クスリと笑うと二人に告げます。

 

「姉と同盟軍。どっちが勝つかについてよ」

「え……!?」

「はぁ……?」

「フフ。さあ二人は、どっちが勝つと思う?」

 

 不敵な笑みを浮かべるフランドールに、リグルがたずねます。

 

「……あの、ちょっと待ってください。答える前に一つ聞いていいですか?」

「いいわよ。なにかしら? 虫妖怪さん」

「その賭けの対象は何ですか……?」

「そうね。……それじゃ、お互いの命でどうかしら?」

「い、命ぃ……!?」

「……ええ。わざわざ敵地に乗り込んできているくらいなんだから、命を賭けるくらい容易いコトでしょう?」

「いや、そういうワケでもないけど……。だって、そもそも私たち、道を間違えただけで、ここに来る予定なんかなかったしー……」

「あら、往生際が悪いわよ? いちおうワタシもアナタたちの敵ってコト忘れないで欲しいわ。この場において生殺与奪(せいさつよだつ)の権利を握っているのは、このワタシよ?」

「ぐぬぬー……っ!」

「……あ、あの、ちょっと待ってくださいよ。フランドールさん」

「なあに?」

「私たちはアナタの命なんて別に望んでいません。……そのかわり、私たちが賭けに勝ったら、ここにいる人間たちを全員解放してください!」

 

 リグルの言葉を聞いたフランドールは驚いた表情を浮かべますが、すぐに不敵な笑みを浮かべると告げます。

 

「……なるほど。確かに理にかなっているわね。いいわ。約束しましょう。じゃあ、ワタシが勝ったらアナタたちの命をもらい、アナタたちが勝ったらここの人間を解放して里を元に戻すという条件にしましょうか。それじゃさっそく二人の答えを聞こうかしら」

「そりゃもちろん決まってるでしょ! ……えーと」

「同盟軍です!」

「そうよっ!」

「……あら、そう。ではワタシは姉に賭けましょう」

 

 そう言ってフランドールは余裕の笑みを浮かべ、ティーカップにお茶を注ぎます。

 

「……さあ、これで賭けは成立したわ。あとはゆっくり戦況を見守りましょうか。あ、そうそう。そこにある紅茶は、好きに飲んでもいいわよ。もっともお口に合うかどうかはわからないけどね……?」

 

 そう言ってフランドールはティーカップを口に近づけます。

 二人はお茶には手を付けず、固唾(かたず)をのんで外の映像を食い入るように見つめるのでした。

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