その1
紅魔館の全面降伏によって、レミリアの脅威は去りました。役目を終えた神奈子と諏訪子は紅魔館の処遇を決めたあと、身を引き神社へと戻りました。また、静葉も役職を降り、再び自由の身となりました。
こうして幻想郷に平和が訪れたのです。……表向きには。
「おじゃまするわね」
「やあ、静葉さん。お久しぶりです」
静葉が文の事務所を訪れると、文が笑顔で出迎えてくれました。更に。
「あれー? 神さまだ! やっほー! 久しぶりー!」
どうやら偶然遊びに来ていたようで、はたても一緒に出迎えてくれました。
「文。変わらなそうね はたても元気そうで何よりだわ」
「ええ。おかげさまで!」
「モチのロンよ! 元気元気!」
「ところで新聞はあるかしら」
「もちろんですよ。はい、今朝の新聞です!」
「ふむ、やはりそうなのね」
「……ああ。これのコトですか?」
「ええ……」
新聞には同盟継続を知らせる記事が一面に記されています。
そう、戦が終わった今も、実は天狗と河童の同盟は継続しているのです。と、いうのも、河童と天狗で同盟を続けるか否かの投票を行った結果、同盟を続けるという意見が大多数をしめていたのです。これは意外な展開です。
「まさかの結果よねー」
「そうですね。私も驚きましたよ。ま、そう言う私も同盟継続に票を入れましたけど」
「私も同じく! だってアイツらと別にいがみ合う理由なんてないもんねー?」
「ええ。それに同盟を結ぶ前から私は河童と付き合いありましたし」
「そうそう。なにを今更ってトコだよねー!」
「……ふむ、これが新時代の幕開けってことなのかしらね」
「ええ。そうなのかもしれません。あ、そうだ河童と言えば」
「何かしら。文」
「いえ、そういや、久々ににとりのところに行ってきたんですけど……」
「あら、どんな様子だった」
「なにやら元気がなさそうでしたよ。ふさぎこんでいるというか……」
「ふむ……。そうなのね」
「へーえ。アイツもへこむコトなんてあるんだー?」
「ちょっと心配ですね……」
「……ええ。そうね。……よし、私がちょっと様子見に行ってきましょう」
「ぜひ、お願いします! 静葉さん!」
「まかせて。それじゃ、おじゃましたわね」
「また気軽に来て下さいね!」
「まったねー!」
二人に見送られながら静葉が家を出ると、仲睦まじそうに歩いている天狗と河童の姿がありました。
静葉はそれを微笑ましそうに見つめながら、にとりの家へと向かうのでした。
□
そのころ、穣子とヤマメは秋ハウスで、寝そべってくつろいでいました。
「あーこれでやっと平和が戻ったのねぇー」
「そうだねー」
「長かったわー……」
「そうだねー」
「……ヤマメ。アンタこれからどうすんの?」
「そりゃあもちろん。地底に戻るよ。地底の妖怪だし」
「そっかー。そうよねー。……なんか寂しくなるわねー」
「そうだねー。ずっと一緒だったもんね。ま、いつでも会いにおいでよ。歓迎するからさ」
「ありがとー」
「それにこっちにもまた遊びに来るつもりだよ。あ、そうだ! 今度は私の友人も連れてこようかな」
「おっ。大歓迎よ! そんときは美味しいもの作って待ってるわー!」
「ありがとう! 楽しみにしてるよ! ……さてと、そんじゃ私はそろそろ行くね!」
「はーい! またね! ヤマメ!」
ヤマメは、笑顔で手を振りながら穣子の家を出ると、そのまま地底へと戻っていくのでした。
□
一方、そのころレジスタンスの隠れ家では。
「なんですって!? それは本当なの? 永琳」
「……ええ、残念ながら本当よ、聖。リバースって組織によって地霊殿は占領されてしまったわ。私は間一髪で免れたけど、さとりたちはやつらによって……」
「なんてこと……。いったいやつらの目的は?」
「おそらく、この世界の転覆ね。首謀者と思われる
「それは厄介な……。早めに叩いておきたいところね」
「ええ、そうね。私も色々策を考えてみることにするわ」
「ありがとう。永琳。助かるわ」
永琳は一礼するとその場を去って行きます。すれ違いで慧音がやってきます。こちらも何やら困惑気味な様子。
「どう、何かわかった? 慧音」
「……ああ。これを見てくれ」
彼女が持ってきた書類に聖は目を通します。
「……そう。これで間違いはなさそう?」
「ああ、マミゾウと協力して調査した結果だ」
「そう。……なら信用出来るわね」
聖は、ふうと息をつくと、思わずぼそりとつぶやきました。
「……そう。まさか彼女が裏切り者とはね……」
「さて、これからどうする?」
「彼女と直接話して確認したいわ。すぐ使いを送りましょう!」
そう言って聖はリグルと一輪を呼び出すと、ある場所へと向かわせるのでした。
□
そのころ静葉は、にとりをたずねて河童の住処へ来ていました。
戦が終わったためか以前のような物々しさはなく、穏やかな様子になっています。
流れる川の水もキレイな清流になっており、これならいくら飲んでも大丈夫そうです。
「にとり。入るわよ」
静葉は何度も呼びかけていますが、返事はありません。仕方なく、彼女が家に入ると、にとりは一心不乱に何かの機械を作っていました。
「にとり」
「あ。静葉さん!? びっくりしたー!」
「ずっと呼びかけても気づかないんだもの」
「あ。ゴメン。これ作るのに夢中になってて……」
「何を作っているの」
「あ、いやいや、別に大したもんじゃないよ。なんていうか……。気持ち悪くてさ。気を紛らわせるために機械いじってないとっていうか……」
「……ああ、記憶のことね」
にとりは手を止めると、思わず、ため息をつきます。
「……まったくいったい何なんだろう。二つの記憶があるってさ。どっちも私の記憶には違いないんだけど……」
「……考えられるとすれば、あの実験のせいなのかもしれないわね」
「なんか私もそんな気がしてるんだよね。……でも、どういうコトなんだろう」
「……そうね。あなたの二つの記憶の混在。そしてこのおかしくなってしまった世界。……それがもし『季節操作マシ~ン』のせいなのだとしたら……」
「だとしたら……?」
「……本当、困っちゃうわね」
「だぁー! なんだよそれ!? 名推理を期待してたのに!」
思わずずっこけるにとりに、静葉はにやりと笑みを浮かべます。
「……でも、何か理由はあると思うのよ。聞くところによるとあの装置って境界を操作するものなんでしょう」
「そうだよ。失敗したけど」
「きっとそこに何かあると思うのよ」
「そうだね。それは間違いなさそうだ!」
「……どうやらもう少し色々調べてみる必要がありそうね。この世界についても含めて」
「え? この世界についても?」
「ええ。そうよ」
「え、だってもう平和になったんじゃないの? レミリアのヤツも退治されたし」
「……ええ、そうね。でも、どうも引っかかるものがあるのよね」
「そうなの……?」
「ええ……」
静葉は思わず、思案ありげに眼をとじるのでした。
□
さて、使いとして送られた一輪とリグルの二人は、聖に言われた場所へと急いで向かっていました。その場所とは……。
「ずいぶん端の方へきたけど……」
「あ、見えてきたわ! あそこよ!」
二人が着地すると、そこはヒガンバナが咲き乱れ、人の気が感じられません。そう、ここは……。
「……無縁塚。ここに私たちの仲間がいるのよ」
「こんな寂しそうな場所に?」
「そう、ナズーリンって言うネズミの妖怪なんだ」
「ネズミの妖怪……? そういや、なんか前に地底で見たような」
二人が進むとやがて、掘っ立て小屋が見えてきます。
「あの中にいるはず。行くわよ!」
「はい!」
二人はさっそく小屋に入りますが、中には誰もおらず、そのかわり机の上になにやらノートが。
「誰もいないみたいね……。仕方ないからこれを持って帰って聖さまに届けましょう!」
二人は、すぐさまアジトに戻るとノートを聖に渡しました。
「二人ともご苦労さま。……そう、彼女はいなかったのね」
「はい。そのかわりにこれがありました。どうぞ」
一輪からノートを受け取った聖は、さっそく中身を読みます。
「……これは!」
「どうしました聖さま?」
「……一輪。今すぐムラサと一緒に寺に戻りなさい!」
「え……!? はい、わかりました!」
「リグル。あなたはここに残って警備をお願いします!」
「わかりました。……聖さまはどうされるんですか?」
リグルの問いに聖は真剣な眼差しで答えました。
「私は今から地底に行ってきます!」