そのころ、夕暮れどきの里。
里の外れの柵の前に、帽子をかぶった少女の姿がありました。
こいしです。表情こそいつもの彼女と変わらない様子ですが、何やらうつむいたままで、たたずんでいます。
そこへお面をたくさん引き連れた無表情な妖怪が現れます。その妖怪は不思議そうな様子でこいしに声をかけます。
「どうした、こいし」
「んー? あ、その声はこころちゃんだ! やっほー」
「やあ。やっほー」
こころが無表情のままあいさつをすると、ようやくこいしは顔を持ち上げさせました。
「……で、どうしたんだ? 珍しく元気ないじゃないか」
「あ、わかるー?」
「ああ。わかるとも。なにがあったんだ」
「うーん……じつはー」
こいしは彼女に、地霊殿で起きているコトを説明しました。
話を聞いている間、こころの付けている面が、くるくると忙しそうに入れ替わります。
どうやら感情がめまぐるしく入れ替わっているようです。
「……と、いうわけなんだよー」
「……そうか。よくわかった」
「よかったー。わかってくれて」
「ああ、わかったが。なんだ、そんなコトか」
「ええー。そんなコトー?」
「ああ、そんなコトだよ」
「ひどいやー! 私は割と真剣なのにー。こころちゃんのばーか! いじわるー!」
それを聞いたこころのお面が猿に変わります。どうやら困ってしまった様子です。
「……ああ、いや、すまない。そういうつもりで言ったわけじゃないんだよ?」
「じゃあ、どういうコトー?」
「こいしがやるべきコトはもうわかっているだろうって、言いたかったんだ」
「え……?」
「地霊殿を悪いヤツに乗っ取られてしまったんだろう? なら、やるこコトは一つって話だよ」
彼女の言葉にこいしはしばらくぽけーっとしていましたが、やがてわずかに目を見開いてつぶやくように言いました。
「……やるコトは一つ。……ああ、そっか!」
「わかったか」
「うん! さすがこころちゃんだね! いつでも困ったときには助けてくれる!」
「いやいやそんな。たいしたコトはしてない。でも、こいしの役に立てたのならよかった」
「うん! もう大丈夫!」
「そのようだな。いつものこいしに戻ったようで私もうれしいよ」
彼女のお面が福の神に入れ替わります。喜びの面です。よきかな。よきかな。
「よーし! 私、ガッツーンとかましてくるよー!」
「そ、そうか。ほどほどにな……?」
「はーい! ありがとう!」
そう言うとこいしは、満面の笑みを浮かべ立ち上がってふわふわっと去って行きます。
その様子をこころは無表情で見送るのでした。
□
同じころ、穣子と静葉は地霊殿への道を降りていました。
四人は二手に分かれ、慧音とリグルは正規の入り口から地底に潜り、穣子と静葉は以前、お燐が教えてくれた近道を通って、それぞれ地霊殿へ向かっていたのです。
「……へえ、こんな裏道があったなんてね」
「お燐が教えてくれたのよ。ここを通れば直で地霊殿に行けるわよ!」
「そうなのね。それはありがたいわ」
二人が縦穴をゆっくり降りていると、下の方に何やら気配を感じます。
「ん? 待って。下に誰かいるみたい!?」
「あれは……」
二人を待ち受けていたのは。
「ふふふ……。きっとこの道を通ると思ってましたよ」
「ちっ! 読まれてたのね!」
「典。何の用よ」
「そりゃ、もちろん……」
そう言って典は試験管のようなものを取り出します。
「むむっ! やる気ね!」
「待って。その前に一つ確認するけど」
「……なんですか?」
「典。あなたはやっぱりリバースの一員なのね」
「ふふふ。……これが答えですよ」
典は、その試験管のようなモノを見せびらかすように振って見せます。
「……穣子。いくわよ」
「うん!」
二人はアビリティカードを取り出し構えました。戦いの幕開けです!