朝モヤに包まれた山の中を、静葉は一人で歩いています。
彼女は文が閉じこもっている間に、そーっと天狗の詰め所を抜け出したのです。
特に誰かが追いかけてくる気配もありません。
(……文には酷なことをしてしまったわね。でも、あなたの力がどうしても必要なのよ。そのためにわざと、あなたを動揺させたの。許してね)
静葉は心の中で文に謝ると、また道を歩き出します。
「……それにしても、これからどこへ行こうかしら。うかつに空なんか飛んでたらまた捕まっちゃいそうだし……。しばらくは徒歩で進むしかなさそうね」
しばらく歩くと、やがてわかれ道に出くわしました。はてさて、どっちに進んだらいいのでしょうか?
「迷った時はこれにかぎるわ」
静葉は、道に落ちていた枯れ木を拾うと地面に立てます。そして手を離すと枯れ木は右側に倒れました。
彼女は迷わず右側に進みます。その後もわかれ道があるたびに、枯れ木が倒れた方に進みます。
……こんなんで本当に大丈夫なのでしょうか?
「大丈夫よ。ほら、何か見えてきたわ」
むむっ、確かに彼女の目の前に、何か建物のような物がボンヤリと見えてきました。ここからじゃよくわからないので、更に近づいてみることにします。
更に近づいてみると、その建物は家と言うのも、はばかれるほど簡素で粗雑なつくりでした。まるでかわや。あるいはほったて小屋です。
こんなのに、誰か住んでるんでしょうか?
静葉は小屋の入り口に近づくと、おもむろにドアを叩きました。
「もしもし」
すると、中からトントンとドアを叩き返す音が聞こえてきます。
「あら、使用中みたいね」
「違う! ここはかわやじゃない!!」
と、叫びながら中から出てきたのは……。おっと、天狗です!
紫色の市松模様のスカート姿に茶髪でおさげ髪の天狗が出てきました。
どうやら文と同じ鴉天狗のようですが……?
「ええと、あなたはたしか……。オオシマナギ……」
「はたてよっ! 全然違う!」
はたてと名乗った天狗は、こちらを不審そうに、にらんでます。
「そう言うアナタは確か……。イマムラショウヘ……」
「秋静葉よ」
「……秋? 秋。あー……! ……こんなトコロに何の用よ!」
「特に用はないわね。ただ道を歩いてたらここにたどり着いたの。ところであなたは天狗のようだけど……」
「あれ? ちょっと待って!? 何かアナタ見覚えあるかも!?」
急に彼女は静葉の言葉をさえぎってきます。なんとも失礼なヤツです。
「あ、わかった! アナタ、あれね! 文と仲良いって言う神さまでしょ!? そうでしょ? 絶対そうでしょ!?」
「ええ、そうよ」
静葉がうなずくと、あっという間に彼女から警戒の色が消えました。案外、友好そうなヤツです。
「なーんだ。それならそうと始めから言ってくれればいいのに。てっきり刺客かと思ったじゃない!」
「刺客って。あなた誰かに狙われてるの」
と、静葉がたずねると、はたては慌てて口をおさえます。何やらワケがありそうなヤツです。
「な、なんでもないなんでもない!こっちのコトよこっちのコト! それよりほらほら! コレ見て!」
と、彼女は一枚の新聞を取り出しました。
どうやら文のとは、また別な新聞のようです。
「へぇ、あなたも新聞作ってるのね。どれどれ……」
汚い手書き文字で彩られたその新聞には、こう書かれてました。
【独占スクープ! 天狗の総大将は天狗じゃなかった! 謎の指導者が暗躍か!?】
「……へえ。これが本当なら確かに大ニュースね」
「この一大スクープを街で配ってたら、デマをばらまくな!って、上のヤツラに怒られてさー。命の危険を感じて、ここまで逃げてきたのよー」
「それでこのほったて小屋にいたってわけね。で、この記事内容の証拠はあるの」
「もちろんよ! 私はどこぞのブン屋とちがって、デマなんてばらまかないわ! なんたって私は直接見たんだから!」
と、言った彼女の目は、真剣そのものですが……?
「ふむ。直接見たってんなら間違いないんでしょうね。でも、どうやって直接見たの。トップとなれば、そう簡単にあうことも出来ないでしょうに」
「ふふん。そこは私の能力を使ってねー」
「まあ、透視能力でも持ってるの」
「いえ、念写よ」
「ネンシャ……。年始まわりに、あいさつにでも行ったの」
「ちがう! コレよ! コレコレ!」
と言いながら、彼女がフトコロから取り出したのは、何やら四角い装置。どうやらカメラのようですが、文のヤツとはまた違うようです。
「コイツで念写したのよ」
と、言って彼女が、そのカメラを何やら操作してからパシャリと使うと、その画面に写真が現れます。
「ほら、見て見てー! これは河童の住処の様子よー!」
静葉がその画像を見ると、確かに河童が暮らしている場所らしきものが写っているのが見えます。
「……あなたは、これを使って、天狗の総大将を写したっていうのね」
「ええ、そうよー」
静葉は、思わず額に手を当てながら彼女にたずねます。
「……ちなみに一応聞くけど。それは誰なのかしら」
「そ、それはさすがに言えないわ! 企業秘密よ!」
「そこをなんとかお願いできないかしら」
「無理無理無理無理無理ー!」
「……もしかしたら、この戦争を止めることができるかもしれないのよ」
「……え、本当!?」
「本当よ。私を信じなさい」
はたては、まわりをきょろきょろと見渡して誰もいないのを確認すると、そっと彼女の耳元に口を近づけて、その名を告げます。
更にカメラを使ってご丁寧にその人物の写真を静葉に見せます。
どうやら彼女も戦には反対派のようですね。
「……それ、信じていいのね」
「本当! 本当! あ、言っておくけど私にあったコトは、ぜっっったい誰にも言わないでね!?」
「ええ、わかったわ。約束するわ」
「お願いねー! 神さま!」
「ええ。それじゃ。邪魔したわね」
はたてのほったて小屋を後にした静葉は、歩きながら今の経緯を振り返ります。
「……ふむ。どうも、いまいちうさんくさいけど、もし、あの子の言うとおり総大将ってのがあいつなら、確かに大スクープとなるでしょうね」
うーん。一体誰なんでしょう。気になりますね。
「さてと。とりあえずもう少し情報を集めてみることにしましょうか。まずは、にとりを探さないと……」
そう言いながら静葉は、河童の住処の方へと向かいました。
と、そのとき、彼女の様子を遠くから眺める怪しい人物の姿が!
「……ふふふ。面白くなってきそうだわ」
その人物はニヤリと口元を緩ませると、こーんこーんとその場から姿を消すのでした。
一体、彼女は何者なのでしょうか……?