「くっ!? なんだこれは!? 誰の仕業だ!?」
正邪はもがきますが、相当強い力で締め付けられているようで抜け出るコトできません。
「あれはバラのつる……!? まさか!?」
と、お燐が訝しんだそのとき!
「はーい。いまから、キョーレツなのガツーンとかましまーす。危ないですので、白線の内側までおさがりくださーい!」
と、能天気な声があたりに響きます。
「その声は!? こいしさま!?」
お燐が呼びかけた次の瞬間。
「がっつぅーーーーーーーーーーーん!!!」
という、かけ声(?)とともに、こいしが鏡に向かって両手を高々と掲げたポーズで体当たりをかまします。
ズゴォオオオオオオオオオオオンっ……!!
その衝撃たるや凄まじいもので、まるであたりは地震が起きたかのように大きく揺れ、あちこちから建物のきしむ音が響いてくるほどでした。
あまりの衝撃に思わず全員その場でしゃがみ込んでしまいます。
建物のきしむ音とともに、キャッキャキャッキャと、こいしの無邪気そうな笑い声があたりに響き渡ります。
まるで、ちょっとした悪夢です。
「こ、これは! な、なんという衝撃なんですかっ!?」
「……こ、こいしさまは、ああ見えても、れっきとした大妖怪。その力はあたいたちが束になっても太刀打ちできないほどなんですよー……!」
と、そのときです。あたりにピシッという音が響き渡ります。
「なに!? まさか!?」
正邪は慌てて『幻夢鏡』に近づきます。しかし次の瞬間。
バリィイイイイイイィィィン!
と、乾いた音を立てて、なんと『幻夢鏡』は割れてしまいました。
「うあああああっ!? そんなバカな!? 『幻夢鏡』がぁー!?」
思わず絶叫する正邪。そのときちょうど針妙丸が目を覚まします。
「あ、針妙丸さま! 大変ですよ! 『幻夢鏡』が!」
「な、なんだ!? いったい何が起きたというのだ!? なぜ鏡が割れて……!?」
と、彼女が驚きの声をあげていると。鏡の割れた隙間から、突然あやしい光が放たれます。
「な、なんだ!? 鏡の様子が……!?」
「いけない。みんな、鏡から離れましょう」
嫌な予感を察知した静葉たちは、すかさず鏡から離れます。
ほどなくして鏡は、異様な気を放ちながら、あたりのモノを次々と吸い込み始めました。
「これは! 割れたコトで『幻夢鏡』が暴走しだしたというのか!?」
「……くっ! 針妙丸さま! ここはひとまず退散しましょう。三十六計逃げるにしかずです!」
「う、うむっ!」
正邪と針妙丸は、すかさずその場から逃げようとします。ところが。
「おっと! そうは問屋が卸さないっと」
二人の前に魔法の壁が放たれ行く手を阻みます。
「なっ!? これはまさか!?」
二人の前に姿を現したのはナズーリンと典でした。
「な、何のつもりだ!? オマエら!」
「まさか!? キサマらも……!?」
「お察しのとおりだよ。二人とも」
「……ふふふ。リバースはアナタたちだけのものじゃないというコトですよ」
「……どいつもこいつも裏切りモノばっかりだ!」
「……おやおや裏切りモノですって? ……ふぅ。勘違いもはなはだしいですねえ?」
「なに……?」
鏡に吸い込まれないように屈んで必死に耐えている二人に向かって、典は得体の知れない笑みを浮かべて言い放ちます。
「……勘違いするな? 鬼人正邪、針妙丸。私ははじめからオマエらの味方なんかじゃないんだよ……?」
「……ひっ!?」
「なっ……!?」
彼女の得体の知れないオーラに、思わず二人はすくみ上がってしまいます。
「お、オマエ、いったい何者な……」
と、正邪が彼女に問いただそうとしたそのとき。
「うわぁーーーー正邪ぁ!! たすけてくれぇーー!?」
正邪が叫び声に気づいて振り返ると、なんと針妙丸が鏡に吸い込まれそうになっています。
どうやらさっきすくみ上がったときにバランスを崩してしまった様子。
「針妙丸さま!? 早く私の手につかまって……!」
正邪は、鏡に吸い込まれかけている針妙丸に手を差し出しますが、届きません。
「うわぁーーーん!! 正邪あああぁーー!!」
「針妙丸さまぁーーー!」
正邪は決死の思いで身を乗り出し、ようやく泣き叫ぶ彼女の手をつかむコトができました。しかし、身を乗り出したせいで彼女もバランスを崩してしまい……。
「うわああああぁーーーーーー……」
結局、二人ともそのまま鏡に吸い込まれていってしまいました。
その様子を見ていた典はにやっと笑みを浮かべ、ポツリとつぶやきます。
「……愚か者のたどる末路ですよ」
正邪と針妙丸を飲み込んでしまった『幻夢鏡』ですが、それでも暴走はおさまらず、とうとう地霊殿の壁の装飾なども吸い込み始めています。
「これはいけない! このままでは建物が持ちません! 私たちも避難しなくては!」
「そんな! 地霊殿が壊れてしまったら、さとりさまに合わせる顔がないよ!?」
「あの鏡さえ収まればいいのだけど、恐らく今、攻撃したところで全部吸収されてしまうでしょうね」
「そんな!? 芋投げてもダメそう?」
「そんなのダメに決まってるでしょ!?」
「じゃあ、そう言うリグルがなんとかしてよ!?」
「ええっ!? そんな無茶を言わないで……!?」
と、そのとき、リグルは例のペンダントを思い出します。
そう、フランドールからもらったロケットペンダントです。
(そういえば困ったときに使ってと言ってたっけ……!)
リグルはすぐさまペンダントを取り出します。
「フランドールさん! 破壊の力、お貸しください!」
彼女は、ワラにもすがる思いでチャームのフタを開けました。すると。
――きゅっとして、どっかーーーん!
彼女の声があたりに響いたかと思った次の瞬間! 『幻夢鏡』のゲージが、ボォオンと音を立てて粉々に砕け散ってしまいます。
そのまま鏡は、たちどころに静かになっていき、やがてウンともスンとも言わなくなってしまいました。
「やった……のか?」
ナズーリンが恐る恐る鏡に近づこうとしたそのとき。
「その鏡に近づかないで!」
振り返ると、そこには慧音と魔理沙に抱えられた霊夢の姿が。
「……その鏡は非常にキケンよ……! 素人が触れてはいけないわ! あとは私にまかせて!」
そう言って彼女は鏡の前に立つと、何やら呪文のようなものを唱えながら『幻夢鏡』に封印のお札を何枚も貼り付けます。
「……これでこの鏡が暴れ出すコトは二度とないはず。あとは私が、博麗の巫女として責任もって処分するわ」
そう言って、霊夢がふうと息をつくと、あたりは静寂に包まれます。
「……ああ。これでようやく本当にすべてが終わったんだ……」
誰ともなくポツリとつぶやくと、皆、安堵した様子で思わずその場に座り込んでしまいました。
と、そのときです。
「皆さん。本当にありがとうございました」
そう言いながら皆の前に姿を現したのは地霊殿の主さとりと、赤と青の特徴的な模様の服を着た銀髪の女性。……そう。
「永琳!? なぜ、あなたがここに!?」
おどろく聖に永琳は涼しい顔で告げます。
「……ごめんなさいね。聖。私、あなたをずっとだましてたの」
「え……?」
一同あぜんとする中、静葉が静かに口を開きます。
「……そう。すべてはあなたの
永琳は微笑を浮かべたまま何も語ろうとしません。構わず静葉は続けます。
「あなたがそこの管狐さんと手を組んでいることは薄々気づいてたわ。彼女は私とあなたしか知り得ないことを知っていたもの」
「なにっ……!?」
思わず驚きの声を上げたのは慧音です。
「なんだと!? おい、永琳! 敵と手を組むなんていったいどういうことだ!? きちんと説明してくれないか!? ……もう、あっちこっち裏切り者ばかりで、こっちは頭が混乱してしまいそうだ……!」
すると、ようやく永琳は口を開きます。
「ええ、そうね……。それじゃ種明かしといきましょうか。私の『壮大な計画』の……!」