秋姉妹の奇妙な大冒険   作:バームクーヘン2号

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最終話

 

 ……では、現実世界の方へ戻るとしましょう。

 

 そう、この『夢物語』は、もうちょっとだけ続くんです。

 

 さて、今度こそ本当に平和が戻った幻想郷。

 

 二人も家に戻り、冒険活劇モードから日常へと戻った……。ように思えましたが。

 

「ねねねねねねねえさーーーーーん!?」

 

 穣子は、血相を変えて静葉の元へ走ってきます。

 

「どうしたのよ」

「たたたたたいへんなのよーー!!」

「何があったの。そんな青ざめて。またイモでもなくしたの」

「ちがう!? ひひひひひっ雛がいないのっ!!」

「あら、お出かけ中かしら」

「いや、そうじゃなくてー!」

「いったいなんなのよ。いいから、落ち着いて話しなさい」

 

 静葉がじれったそうにしていると、穣子の口から、とんでもないコトが告げられます。

 

「そっそれが、雛って存在がいないんだって! 誰も雛のコト知らないっていうのよ……!」

「……え、なんですって。雛が」

「いったいどういうコトなのよー!?」

「……ふむ、穣子。私、ちょっと出かけてくるわ。悪いけどお留守番お願いね」

「あ、うん! 気をつけてね!?」

 

 静葉は急ぎ足で、出かけていってしまいます。しばらくしてやってきたのは……。

 

「やっほー! 遊びに来たよー!」

 

 河童のにとりでした。

 

「あ、にとり! ねえ、聞いてよ! 聞いてよ!?」

「な、なになに? そんな慌ててどうかしたの? またイモでも忘れたの?」

「違うっ!? 雛がいないのよ! この世界に雛がいないってのよ!」

「ええっ……? 雛って、たしか、あの厄神さまだよね……!?」

「そうよ! その雛よ! ってか、他にどの雛がいるってのよ!?」

「いや、そりゃそうなんだけど……。しかし、そりゃいったいどういうコトなんだ!?」

「そんなの知らないわよ! なんか、ねーさんも慌ててどっか出かけちゃったし……!」

「え、なーんだ。静葉さんいないのか。せっかく話があったのに……」

「あ、そーだったの? でも、そのうち帰ってくるんじゃないの。このまま待ってたら?」

「それもそっか。じゃ、お言葉に甘えて、待つとしようかな。と、いうワケでおもてなしヨ・ロ・シ・ク」

「はぁ!? なんでアンタなんかもてなさなきゃいけないのよ!?」

「なんかとはなんだよ!? 私は客人だぞ。客人はもてなすモノだろ?」

「あいにくだけど、キュウリはないわよ」

「なんだって!? おもてなしのキュウリもないなんて、なんて非常識な家なんだ!?」

「やかましいわ! そんなに欲しけりゃ自分で手に入れてきなさい! 里の畑でも行けばクサるほどあるでしょ!?」

「私にドロボウしろってか!?」

 

 などと、二人がピースカギャースカ騒いでいると……。

 

「ただいま帰ったわ」

「あ、ねーさん。おかえり!」

 

 家に帰ってきた静葉は、なにやら難しそうな顔をしています。

 

「どしたのさ。静葉さん。そんな顔して」

「……あら、にとりじゃない。ちょうどよかったわ。『この世界』についてわかったことがあるのよ」

「え……?」

 

 静葉は深呼吸をすると、真顔でゆっくりと語り始めます。

 

「……二人とも。驚かないで聞いて欲しいんだけど」

「う、うん?」

「な、なにさ……」

「……結論から言わせてもらうわ。ここは『私たちの知っている幻想郷』じゃない」

「えっ!?」

「なんだって!?」

「……今、文のところに行ってきたの。そして私が知っている友人や妖怪についてたずねてみたのよ。そうしたら……」

「そ、そうしたら……?」

「まさか……?」

「そのまさかよ。にとり。雛以外にも存在しない人物が多数いたのよ」

「なっ……!?」

「いったいどーいうコトなのそれ!?」

「……そうね。考えられるのは……」

 

 と、そのときです。

 

「おやおや、皆さんおそろいでしたか。コレは都合がいい」

 

 典がこーんこーんと姿を現します。

 

「アンタ、何しに来たのよ! どーせまた、からかいに来たんでしょ! さっさとかえりな……」

「待ちなさい。穣子」

 

 静葉は、典を追い出そうとする穣子を制止すると、彼女にたずねます。

 

「典。今日は何の用かしら」

「ふふふ……。今日は皆さんに見せたいモノがありましてね……?」

 

 そう言いながら彼女は、どこからともなく、何かの装置のようなモノを取り出します。

 

 それは、河童のお皿のような形をした何やらうさんくさそうな機械――

 

……そう、なんと!

 

「あぁーーー!? そ、それは!?」

「『季節操作マシ~ン』じゃないか!?」

「……あなた、どこでそれを」

「ふふふ……。これは非常に危ないモノだったので、私が回収させてもらってました」

「回収しただとぉ!? アンタに何の権限があって勝手に回収したってのよ!? このゴミギツネ!!」

「そうだ! そうだ! コレがあればもっと簡単に世界を元に戻せたかもしれないんだぞ!?」

 

 と、口をとがらせて抗議する穣子とにとり。しかし静葉は思案ありげに腕組みをして、典にたずねます。

 

「……ねえ。あなた、いったい何者なのよ。いい加減、正体明かしたらどうなの」

「ふふふ……。そうですね。もう目的も達成しましたし……ね?」

 

 そう言って彼女が、ウインクをすると、突然あたりに、すさまじい妖気が吹き荒れ始めます。そして紫色のもやもやが、部屋いっぱいにひろがっていき、気がつくと典の姿はそこにはなく、かわりにいたのはキツネはキツネでも、九尾のキツネ。そう……。なんと!

 

「……ふふ。皆さん改めまして。私は八雲紫の式、八雲藍(やくもらん)です。あなたたちには感謝しますよ。秋姉妹。そして河城にとり」

「うあぁーーーー!? アンタは八雲んとこのキツネぇーーー!?」

「えっ!? えぇえーーー!? ウッソだろぉーーーー!?」

 

 その正体に驚く二人。しかし静葉はすでに心当たりがあったのか、特に驚く様子もなく、彼女に告げました。

 

「……そう。そういうことだったのね」

「ずっと、だましてて、ごめんなさいね。でもこれも、この世界の秩序を守るためだったのですよ」

 

 そう言って藍はニコっと笑みを浮かべます。ちなみに足元には、気を失った典が倒れています。

 

「……全部話してもらっていいかしら」

「ええ、もちろん」

 

 藍は縁側に座ると、ゆっくりとコトの顛末を語り出しました。

 

「……この世界で起きた『異変』についてはもうご存じですね。正邪と針妙丸の二人が引き起こした『あの日』をきっかけにして幻想郷のバランスが、大きく崩れたということは」

「ええ、そうね。その点について、ずっと疑問に思ってたのよ。あなたたち八雲一家は何をしているのかって。こういうときに真っ先に出てくるような存在だもの」

「ええ。そう思うでしょうね。実は紫さまは、すぐにこの『異変』の解決のために動こうとしたんです。ところが『異変』で強大化した地獄の妖怪たち。……ようは畜生界のヤクザたちですね。やつらが暴れ出してしまったんです。今のやつらが地上へ現れでもしたら、間違いなく幻想郷は崩壊してしまう。紫さまはそれをふせぐために他の賢者たちと一緒に、やつらを抑えることで手一杯になってしまったんです」

「……それであなたがかわりに」

「ええ、そのとおり。私は紫さまにかわって、この『異変』解決のために動き出しました。まず、この姿のままでは何かと不都合なので、同じキツネの妖怪である典に憑依させてもらいました。彼女には気の毒でしたが、同じ狐だけあって、実によく体になじんでくれましたよ。そして、随時、紫さまと連絡をとりつつ、同じく『異変』にいち早く気づいた永琳と一緒に、この世界を元の秩序に戻すため、色々と奔走(ほんそう)していたのです。そんな時です。あなたたちが急に『現れた』んですよ」

「え……?」

「私たちが現れた……って?」

 

 キョトンとした様子の二人。しかし静葉は表情を変えずに藍に告げます。

 

「……『別の世界線の幻想郷』から私たちが『この幻想郷』へやってきた。と、いうことね。この『季節操作マシ~ン』の暴走によって」

 

 静葉の言葉に、藍はニコッと笑みを浮かべました。

 

「……そのとおり。いやいや、驚きましたよ。突然、時空の大きな乱れが観測されたんですから。まさか、別世界の住人が迷い込んで来るとはねえ……?」

「やれやれ、これでようやくすべて繋がったわ。私がこの世界に感じていた違和感も何もかもすべてが。……そもそも世界そのものが違っていたということだったのね」

 

 そう言って、思わずため息をつく静葉を尻目に藍は、ふさふさのしっぽを揺らしながら、話を続けます。

 

「あなたたちは、この世界がおかしくなってしまったのは自分たちのせいと思い込み、この世界を元に戻そうと動きだしました」

「そうよ! この狂った世界を一生懸命元に戻そうとしたのよ! 私たち頑張ったんだかんね!? ほんとうに……!」

「……申し訳ありませんが、あなたたちのその思いを利用させてもらったんです。……いやあ。実にいい働きをしてくれましたよ。おかげで本当に助かりました」

「ぐぬぬぬ……っ! 神を利用するとは!! この代償は高くつくわよ!?」

「そうだ! そうだ! ひどいぞ! 一言くらい言ってくれてもよかったじゃないか!」

 

 と、抗議する二人に、藍はニヤッと不敵な笑みを浮かべて告げます。

 

「あら、あなたたちは事故とは言え、時空をねじ曲げたわけですから、本来なら重罪人なんですよ? 実際、紫さまはひどく怒ってましたし」

「えっ? い、いやソレは……。だってやりたくてやったわけじゃないし。……そ、そう! 悪いのはこの得体の知れない機械! これが暴走したのが原因よ!」

「おいおい、待てよ!? 機械のせいにするなよ! そもそも、装置を作ってって私に頼んだのはアンタらだろうが!?」

「こんな暴走する機械を作れなんて一言も言ってないわよ!?」

「どんな機械も一回くらいは暴走するモンなんだよ!」

 

 みにくい罪のなすりつけ合いを始めた二人を尻目に静葉は、藍にたずねます。

 

「……もしかして、あなたが私たちを『異変』解決に利用したのは、罪滅ぼしの意味合いもあったのかしら。私たちが犯した罪の」

「……ええ。そうですね。ま、これは私の独断ですけど」

「そう、それで。わたしたちはどうなってしまうのかしら」

「本来なら存在自体抹消ものですよ。この世界にいてはいけないイレギュラーなんですから。……でも、先ほども言いましたけど、あなたたちはよく働いてくれましたし、私もあなたたちの手柄を交渉の材料にして、紫さまと掛け合ってみたんです」

「そう。それで彼女はなんて」

「……仕方ないわね。それじゃあ今回だけは特別の特別ということで、元の世界に帰してあげましょう。……とのことですよ」

「……そう。それはありがたい話ね」

 

 そう言って静葉は、ほっとした様子で息をつきます。藍はすっと立ち上がり三人に告げます。

 

「さて、というわけで、さっそくあなたたちを元の世界に戻してあげましょう。三人とも。準備はいいですか?」

「え!? いきなり!? ちょっと待ってよ!」

「そ、そうだ。まだ、こ、心の準備ってモンが……!」

「あ、そうだ! 離れる前にここの皆にもう一度あいさつしたいわね! ヤマメとかリグルとか」

「あ、そうだね! せっかくこっちの妖怪たちとも仲良くなったし。最後に飲み明かしたいよ。ねえ、帰るの明日じゃダメ?」

 

 にとりの質問に藍は、にっこりと笑みを浮かべて告げます。

 

「ダメです」

「そ、そんなー!?」

「そもそも、あなたたちがこの世界からいなくなったら、ここの住人は、あなたたちとの記憶を全部失いますから意味ないですよ? もちろん、あなたたちも元の世界に戻ったらここでの記憶は失いますし」

「えっ!?」

「そ、そうなのか……!」

「……そういえば、藍。本来のこの世界の私たちはどこにいるのかしら」

「ああ。あなたたちが来たときに消えましたよ。タイムパラドックスってやつです。まあ、あなたたちが帰ればまた復活しますけどね」

「そう。……と、いうことは、にとりの記憶が二つあるのって、もしかして」

「おやまあ、そうなんですか? ……うーん。それは恐らくバグみたいなものでしょう。でも大丈夫。元の世界に戻れば、どっちにしろここでの記憶もなくなるので」

「そ、そうなのか。それはそれでなんか寂しいな。ここでの私の記憶も楽しい思い出いっぱいあったし……。ここでの私も、いい仲間にめぐりあえていたんだなぁって……うう。」

 

 言ってるウチに感極まったのか、にとりは思わず声を詰まらせます。

 

「あ、そうそう。秋静葉さん。最後に一つ教えて欲しいことが」

「……なにかしら」

「……あなたは、どうしてこの世界を元に戻すため、あんなに積極的に動いたのです? 神にしては珍しい行動だとずっと思ってましたが、いったい裏には何の思惑があったんですか……?」

 

 藍の問いに静葉は、フッと笑みを浮かべて告げました。

 

「……それは、神の気まぐれってやつよ」

 

 藍は苦笑しながら首を横に振って静葉に告げます。

 

「まったく、どこまでも食えないお方だ……。さて、ではそろそろお時間です」

 

 三人は藍に促され、彼女の前に立ちます。

 

 いよいよ、お別れの時が来たのです。

 

「ねえねえ! こっちの私にもよろしく言っといてよねー!? あと、ちゃんとイモ食べてる? って聞いといてよ! あとそれと……」

「……うう、さよなら『幻想郷』! 良いところだったよ……っ!」

「藍。それじゃ、いろいろ世話になったわ」

「私こそ、大変お世話になりました」

 

 そう言って深々と礼をする藍に、静葉はフッと笑みを浮かべて告げました。

 

「……『こっちの私』にもよろしくね」

「ええ。ぜひ今度、あいさつでもしに行かせてもらいますよ」

 

 藍は笑みを浮かべて静葉に告げると。宝玉をかかげます。

 

「それでは……!」

 

 ほどなくして、あたりに空間のひずみが発生し、三人をあっという間に飲み込みます。

 

「さようなら! 名もなき英雄たちよ!」

 

 そう言って、藍は姿を消した三人に、深々と礼をするのでした。

 

 そして……。

 

 □

 

 

「……ここは」

「……ん?」

「……あれ?」

 

 三人が目を覚ますと、そこは見慣れた秋ハウスの中でした。

 

「……ふむ。どうやら、いつの間にか寝ていたみたいね」

「いやー。なーんか、すごーくながーい夢を見ていたよーな気がするんだけど……」

「え……!? 穣子も!? 私もだよ!」

「……不思議なものね。私もよ。白昼夢ってやつかしら」

「んー。でも、肝心な夢の内容が思い出せないのよねー……」

「え……!? 穣子も!? 私もだよ!」

「ふむ……」

 

 三人はそろって首をかしげます。

 

 ……はたして、本当に夢だったのでしょうか。

 

 三人はゆっくり起き上がると、新鮮な空気を吸うために、外へ出ました。

 

 すると……。

 

「うわっ……!?」

「わーお……!?」

「あら、素敵……」

 

 外は見渡す限り、見事な秋模様となっていました。

 

 三人は、思わずゆっくりと深呼吸をします。

 新鮮な秋の空気が、体中を駆けめぐり、まるで三人の体を浄化するかのようでした。

 

 ふと、静葉が微笑みながら告げます。

 

「……ねえ。穣子、にとり。……私、思い出した気がするわ。何の夢を見ていたか」

「え!? 姉さんも!? 私もよ!」

「私も! 私も……!」

 

 三人は晴れ晴れとした表情で、空を見上げました。

 

 

 ――晴れた秋の空は、どこまでも青く澄み渡り、秋風に吹きつけられたウロコ雲が、細く長く伸びています。

 

 

 三人は、その秋空の、その更に奥の方に見える『世界』へと、それぞれ思いを馳せるのでした。

 

 まるで、夢の余韻に浸るように。

 

 

 このうたかたの『夢物語』の終えんを惜しむように――

 

 

 

 

               秋姉妹の奇妙な大冒険 おしまい




無事完結となりました。
このお話が、少しでも誰かの琴線に触れられたらこれ幸いです。
約三か月の間、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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