惑星ラトリア。
その付近で次元航行船が留まっていた。
『ギブリ艦長』
執務室に通信が入る。
『定例報告完了しました』
『ご苦労』
それだけ伝えて通信を切る。
報告内容はラトリアに関しての状況であり、報告先は時空管理局の本局である。
ラトリアは管理外世界である。
だが管理外世界といえど、ただ放っておいているわけではない。
仕事の一つとして監視があった。
管理局が定めている基準として、世界は順序を得て進化すべきとしている。
急速な技術の発展は混乱を招き、世界の崩壊へと繋がる。また、倫理や社会常識と共に成長していく必要があるとしていた。
そのため、次元世界同士の外交について管理局は目を光らせていた。
そしてこれはギブリに与えられた仕事でもあった。
いつもと変わらない、何ら変哲もない仕事。
辺ぴの星であり、業務内容の重要性が低く、閑職も同然の仕事である。
(ふざけている)
現状に不満を漏らす。
ギブリは与えられた仕事は卒なくこなす方である。
ただ野心があまりあるため、行き過ぎた行為が目立つことがあった。当然のごとく過去に本局からお叱りをもらい今現在に至っている。
ギブリが秘匿用の通信回線を使用する。
『なんだ』
女性が応答する。
『ご挨拶ですね。剣王。連絡がないからこちらから掛けたまでですが?』
そちらに非があるという意味を込めて言い放つ。
『思わぬ敵に出くわしたと報告があったのでな。話を聞いていた」
『ほう? どのような?』
楽しそうに質問する。
『おまえに話す内容ではない』
『冷たいですね。私たちは仲間ではないですか』
『笑わせるな』
アクトロスが突き放す。
『まあいいでしょう。それで、結果は?』
『作戦は成功だ』
『素晴らしい! 仕事ができる人は好きですよ』
ギブリが喜ぶ。
対してアクトロスの感情に起伏はない。
『そういうおまえは準備できているのか?』
『もちろんです。あなた方が勝てば、必ず管理世界へなることを約束します』
『ならいい。だが忘れるな。約束を違えばおまえの首を飛ばす』
釘を刺す。
そしてこれ以上話すことはないとばかりに通信を切った。
「恐ろしい女性ですね」
首を飛ばすというのは一切の冗談を含んでいなかった。
アクトロスは実際にフィラム王の首を飛ばしている。そして、そうなるように仕組んだのはギブリだった。
その後、アクトロスに反乱軍と活動するように仕向け、ラトリアの今の状況を作り出していた。
「フィラム軍と反乱軍、どちらが勝利するでしょうね」
航行船からラトリアを見下ろす。
「まあどちらが勝とうが関係ありませんが」
ギブリには二つの計画があった。
反乱軍が勝利した場合、ラトリアを管理世界に押し上げる約束をしている。
その代わりギブリは魔鉱石の採掘権を得ることが約束されていた。
管理世界にするための材料としては、本局に対し魔鉱石という優れた資源を見つけたと報告することである。
さらに魔鉱石の採掘権についても交渉が済んでいるという結果を献上する予定である。
そうすることにより、管理局での評価が上がり出世も望めるという計画だ。
反対にフィラム軍が勝利した場合も計画を用意していた。
可能性は限りなく低いが、フィラム軍が勝つことも考えられる。
そのときは両者ボロボロの状態となっていることは間違いない。四英雄と衝突して無事でいられるはずがないと予測する。
「少々強引ですが、そのときは侵攻計画に切り替えですね」
消耗したフィラム軍と反乱軍を殲滅し、ラトリアそのものを占領する計画である。
「今までは密航者を利用して、一個か二個採ってくる程度でしたが」
占領が完了すれば、魔鉱石が取り放題である。取りつくし、他世界に高く売る算段である。
この場合、出世は望めないが莫大な金を得ることは可能である。
「楽しみですね」
笑みを浮かべる。
ラトリアを見るギブリの目は宝石箱を見るかのようだった。
「講和の道は絶たれました」
会議室には軍人が集まっていた。
講演台の前にはレイニアが立ち、力強く説明を行っていた。
「中立地帯として指定されたこの場所への攻撃、そして最も攻撃をしてならない施設の破壊」
スクリーンには破壊された施設の画像が映し出されていた。
施設とは魔力変換施設のことであり、この国の心臓とも言えるものだった。
「もはや彼らはフィラムの民ではありません。フィラム王国、ひいてはラトリアに害をなす完全なる敵となりました」
それを否定する者はいない。
「今こそ反乱軍を打ち滅ぼす時です。即刻、軍の出撃を要請します」
レイニアが発議する。
しかし、賛成を示すものはいない。
空気が重い中、一人の将官が口を開く。
「問題は山積みだ。王は弑虐され、今や政治は乱れている。我らだけで判断するには……」
遮るようにロデオ中佐が発言する。
「もはや猶予はありません。施設が破壊された以上、動きを封じられたも同然です。ですが今であれば話は別です。備蓄があり、余力のある今であれば攻勢に出ることは可能です」
施設の破壊により、インフラのほとんどが死んでしまっていた。
復旧には時間と人手が大きく割かれることとなる。その間に相手は新たな準備を整え、再び攻め入ってくることだろう。
「言っていることはわかる」
先ほどの発言者とは別の者が話す。
階級は少将だった。
「だが勝てる見込みはあるのか?」
現実問題として、戦力において彼我の差があった。
両軍において数はフィラム軍が多い。しかしその数的有利を覆すほどの戦力が存在した。
反乱軍には四英雄がいる。
それ故にフィラム軍は強く出れずにいた。
「勝算はあります。高町君、こちらへ」
待機していたなのはが前に出る。
若干動きがぎこちない。こういう場は不慣れである。
「なんだこの少年は?」
当然の疑問である。
「彼は高町なのはと言います。先日襲撃があった際、成り行きではありますが四英雄のうち三人を撃退しています」
なのはは目をつむる。
このあと言われることについては想像に難くなかった。なので心を閉ざし、何もかも聞き流す準備をする。
柳に風の構えである。
「何!?」
「何を馬鹿なことを!」
「冗談も休み休み言いたまえ」
非難の声が飛び交う。
注目の的にさらされたなのはは柳としての存在を強めていく。
「よろしいでしょうか」
ロデオ中佐が割って入る。
「四英雄との戦闘をこの目で確かめたわけではありませんが、信憑に足る話ではあります」
全員がロデオの話に耳を傾ける。
「レイニア大佐が実戦にて力量を確認しております。その戦闘に関しては私を含め、何人かの兵士が目にしています」
少しではあるが、先ほどより本当なのではないかという空気に変わる。
ただそれでも納得できないという雰囲気のほうが強い。
「実際に見ていただいたほうが良いかと思い、資料を用意してあります」
ロデオが端末を操作する。
するとスクリーンに戦闘時の録画が流れ始めた。
(録ってたのかよ)
隠し撮りしていたわけではないが、録画していた事実は今知った。
レイニアとなのはの戦闘の様子が流れていく。
ところどころ、なのはの動きが速すぎて合成した映像みたいになっている部分があった。
録画が終わる。
今となっては疑念はだいぶ薄くなっていた。
「ふむ」
少将が髭をいじる。
「それで、どうするというのかね」
レイニアの話は信じてもらえていた。
「剣王アクトロスを倒します」
フィラム王国の人間であれば、それがいかに難しいことかはわかっている。
「剣王を倒す、か」
無理だと言うものはいない。
もしかしたら可能なのでは、皆が思い始めていた。
「倒せるのか?」
少将が問う。
問われた本人はどこ吹く風である。
「……ん?」
見られていることに気づく。
なのはは全く話を聞いていなかった。
一度、柳モードを解除する。
「えっと」
どうしたらいいかわからず、レイニアを見る。
「剣王とこちらの少年、どちらが強いかなんてことは、誰にもわかることではありません」
勝敗の予測は不明である。
「わかるのはアクトロスを倒せるかもしれないということです。しかし、私たちが打って出るには十分な理由です」
少将が考える。
答えは出ているも同然のため、あとは決断するか否かである。
「わかった」
座視していては敗北するのみである。
それならば、勝つ手段を取るべきだ。
「大佐、軍の指揮を執りたまえ」
少将がレイニア大佐に命令を下す。
「はっ!」
賽は投げられた。
あとは詳細について詰めていくこととなり、会議は終了となった。
フィラム王国。
ラトリアにある唯一の国家であり、人口は五千万前後である。
魔力素の濃度が高く、生きていくには過酷な環境だった。
しかし、ラトリアの人々は適応し、ある程度の濃度であれば生きていけるようになっていた。
ただ、その代わりに魔力素が必要不可欠となっていた。
魔力素が枯渇した環境では生きられない。
かといって、濃すぎても生活に支障をきたす。
魔鉱石が魔力素を吸い込み、それらを人々が活用し濃度を調節する。
ラトリアの人たちは魔鉱石と共存するかのように生きていた。
「他世界からの移住も少なく、外交もそれほど盛んではないのです」
なのははラトリアについての話を聞いていた。
「だからというわけでもありませんが、制度や形式、様式などは旧態依然のままなんです。もう少し交流があれば、発展も望めるのかもしれませんが」
レイニアが苦笑いをする。
ただその言いように違和感を感じた。
「レイニアさんは管理世界となることには反対なんですよね」
「ええ」
迷わず即答する。
発展を望むなら管理世界となるべきだ。
「どうしてですか?」
「理由は様々ですけど、あまり信用できないというのが一番です」
言葉の端からほんの少しだけ怒りを感じた。
「管理世界となることに賛成のように聞こえたかと思いますがそうではありません。客観的に事実としてそう思っているだけで、管理世界となること自体には反対です」
少しずつ早口になっていく。
そのことに気づき、一度間を置く。
「ラトリアには密航者が絶えません。年々増加傾向にあり、度々対応に追われています」
平静を装っているが、にじみ出る怒りは隠しきれていない。
「狙いは魔鉱石です。魔力の吸収を終え、成熟した魔鉱石には高値が付きます。一つ売れば家が買えます。五つ売れば生活には困りません。十個も売れば遊んで暮らせるでしょう」
外界においての話である。
ラトリア内では、それほど値が付くことはない。
「一攫千金を目論むものは後を絶ちません……まあ、大抵は高濃度の魔力素にやられて自滅するのですが」
中には対策をしてくる者もいる。
わかりやすいのはガスマスクのように魔力素を薄めるフィルターを持ってくる者だ。
「魔鉱石の盗難は大きな問題ですが、それに付随する問題も発生しています」
レイニアが溜息をつく。
「魔鉱石が成熟したかどうかは外部の者からすると判別がつきません。ですので、目に付くものをあらかた採っていこうとするのです」
怒りが再燃する。
「私たちが最も必要とするのは成熟していない魔鉱石です。それを盗られてしまうと生きていける環境ではなくなってしまう。まさに死活問題です」
さらに感情がこもり始める。
「だから外交が増える要因となる管理世界への参加は反対なんですね」
管理世界となれば、外交が増える。
そうなると人の流入も増えることだろう。
「そう、ですね」
それを聞いてレイニアが落ち着きを取り戻す。
なのははまだ九歳である。
本来、このような話を子どもにしても理解はしてもらえない。
戦闘力に加えて、この頭の良さ。
一体どんな過去を歩めばこうなるのだろうと疑問に思い始めていた。
けれども一旦、その疑問は端に置いておく。
反対の理由にはまだ続きがあった。
「けど、それだけじゃないの」
暗い表情をする。
「管理局を信用できない理由は二つあるわ」
話す言葉に明るい感情はない。
「一つは密航者の中に管理局の関係者がいたこと。二つ目は管理局が密航に見て見ぬふりをしていることよ」
レイニアが管理局に向ける感情は決して良いものではなかった。
「密航者を捕まえて尋問したことがあるわ。そのときの担当がグリフォだったから、少しばかりキツめだったのだけど……」
レイニアが気持ち悪そうな表情を見せる。
嫌な光景を思い出したらしい。
「このことを管理局に説明してもらうよう連絡したことはあるのだけど、一切関係ないの一点張りだったわ」
なのはが管理局の内部事情を勘案しながら思考する。
まず、普通に考えてこんなこと明るみに出すような真似はしない。
どう考えても本局に情報が行く前に握りつぶされているはずだ。
管理局はいつでも人手不足である。
誰かの耳に入ったとしても、聞かなかったことにされるのがオチだ。
誰だって関わり合いになりたくない。身内が起こしている問題ともなればなおさらだろう。普段からとてつもなく忙しく、そんなときにパスされた爆弾を処理したがる人はいない。
管理外世界のことは後回しにならざるを得ないだろう。
(クロノやリンディさんなら話は別なんだろうけど)
アースラの面々を思い浮かべる。
あそこにいた人たちは特別と言ってもいいくらいである。
地球に来たのが他の局員だったなら、地球は滅んでいたかもしれない。
「二つ目については?」
「以前から密航者の摘発や取り締まりをお願いしてたの。けど、そういったことは管理世界として登録されないと出来ないって返されたわ」
(出来ない? そうだったか?)
なのはがミッドチルダで勉強したことを思い出す。
頭の中にある教科書をめくるが、該当する項目は出てこない。
(講義で聞いたことあるような、ないような……うーん、ダメだ)
この話はクロノかフェイトあたりに聞かないとわからなかった。
「おかしな話よね。管理外世界だとしても、管理局の支局を設置しているところもあるんですから」
地球にも支局が出来たことがある。
それを考えると確かにおかしい。
「おかげさまで密航者は大手を振って来ているわ。管理局の許可付きですものね」
皮肉たっぷりに言い捨てる。
実際に管理局が許可しているわけではない。
密航は犯罪である。
ラトリアに密航し、魔鉱石を持ち去ったものもいる。
だが、実際に捕まったものはいない。
逮捕の前例がないのである。一人や二人逃してしまうことはあるかもしれないが、全く捕まえられない、なんてことはないはずである。
万年人手不足ではあるが、それでも全員を逃すほど無能ではない。
このことから、わざと見逃しているとしか思えなかった。
そもそも捕まえる気もないのだろう。
そしてこれらの情報から、ラトリアへ行って魔鉱石を持ち去っても逮捕はされない、ということを導き出すものもいる。
そのため、事実上密航を許可しているとなるのは当然の結論である。
(管理局もきな臭いところがあるからな。ここまでされれば信用できなくなるのも頷ける)
なのははレイニアの戦う理由について理解した。
そして、この戦争における反対派の理由も大体同じだろうと推察する。
「捕まえた人たちはどうしたんですか?」
管理局が関与しないとなると元の世界に引き渡したのだろうか。
「全員殺したわ」
さらっと、当たり前であるかのように言ってのけた。
たまに驚くことがある。
他世界にいると自らの倫理観や常識の違いから、隣で話している人間が違う生き物に見えてしまうことがある。
だがそれは相手にとっても同じことである。
己の価値観を押し付けるのは衝突しか生まない。自分を見失わないことは大切だが、時には心を殺すことも重要である。
だから何も言わない。
そういうものなのだと、沈黙を保つことが他世界における活動のコツである。
「私たちの戦う理由、わかってくれたかしら」
「はい」
一気に話を聞いたため、少し整理が必要だった。
なのはは聞いたことを頭の中で反芻し、情報を整理していく。
そのためなのはは静かにしていたのだが、同じくレイニアも黙ったままだった。
不思議に思い、レイニアの横顔を見上げる。
「けど」
どうしたのかと聞く前にレイニアが口を開く。
「もう一つ、理由があるの」
怒りと悲しみ。
両方が混在した表情をしていた。
「私のお母さんは管理局の関係者によって殺されたの」
一瞬、息が止まる。
「母は父と同じく魔力の採集を仕事にしてたわ。そして、仕事の最中そいつは現れた」
もう怒りは隠していなかった。
「母を押しのけ、無理やり魔鉱石を採ろうとした。魔力を溜め込んだ魔鉱石は爆弾と一緒よ。扱いを間違えれば暴発してしまうわ」
無法者は魔鉱石が金銀財宝に見えたのだろう。
「そのとき事故は起きた。魔鉱石は暴発し、母とそいつは被爆したわ。母は生きていたけど、足が動かなくなってしまった。それから1年は頑張ってくれたんだけど、それ以上は持たなかったわ」
母親のことを思い出しながら話す。
レイニアからは悲しみが伝わってきていた。
「ごめんなさい。ここまで話すつもりはなかったの」
涙を一粒、指で拭いとる。
「さっきまでの話に嘘はないわ。だけど、私にとってはお母さんを奪われたことが一番許せない」
憎しみから来る決意。
レイニアには戦争に対しての確固たる意志があった。
「戦いの前だから、口数が多くなっちゃったのかしら」
緊張してるのかもと微笑む。
「高町君にとって、八神さんは大切な人なのよね」
「はい」
淀みなく答える。
「ふーん」
レイニアはニヤニヤしていた。
「彼女?」
「……違いますよ」
「そうなの? でも好きなのよね?」
大切な人から好きな人に変わっていた。
否定はしないが、意味合いが違う。
「好きですよ。一人の人間として」
「えー、照れなくていいのに」
面倒な絡み方をしてきていた。
今度、模擬戦を行う機会があったらもっとボコボコにしてやろうと誓う。
会話の最中、レイニアの部下が近くまでやってくる。
「出撃準備完了!」
「了解」
軍人の顔つきに変わる。
輸送機のエンジンが駆動し、兵士が乗り込んでいく。
ヘリコプターのプロペラが回り始め、そちらにも同じく兵士が乗り込む。
レイニアとなのはも目の前のヘリコプターへと乗り込んだ。
離陸し、飛び立つ。
決着をつけるための戦いの開幕である。