作戦目標は指揮官の打倒。
すなわち、剣王アクトロスを倒すということである。
「彼女を倒すことができれば、戦いに勝利したも同然です」
アクトロスがいるから、志を同じくする者たちが付き従っている。
彼女がいなければ空中分解は避けられない。
わかりやすい勝利方法だが、最も難しい方法といっても過言ではなかった。
だが今は高町なのはがいる。
相手に英雄がいようとも、フィラム軍には反則級の手札がある。
確実に勝てるという保証はないが、今までの勝算の無さから考えれば天と地ほどの差である。
「高町君はアクトロスを。私たちは他の三人を抑えます」
なのはがアクトロスを倒す。
その間の時間稼ぎとして、レイニアたちが他の戦力を相手にする算段である。
四英雄には及ばないが、レイニアも近い実力を持っている。
時間を稼ぐことに集中するのであれば、その役目を果たすことは可能だ。
「そういえば」
一つ気になったことがあった。
先ほど王が弑逆されたと聞いた。つまり、身内による殺害である。
「国王はなぜ殺されたんですか?」
「わからないわ」
「そうですか」
『多分、管理局と繋がっていたせいね』
レイニアが念話に切り替える。
他人の耳もあるためだろう。
『国王は国民と同じく外交に反対だった。けど実際は違った。国王は管理局と繋がり、色々と甘い蜜を吸っていたみたい』
表では反対し民衆の支持を得て、裏では管理局と繋がり個人的な利得を得ていた。
『密航や帰還を見逃したり、その手助けをしていたらしいわ。それによって見返りをもらっていたのが殺害された原因ね』
外交はしないと言いつつ、裏切るようなことをしていればタダでは済まないだろう。
『誰にやられたんですか?』
『アクトロスよ』
剣王自らの手で王は葬られていた。
『真実を知ったアクトロスは国王の首を斬り飛ばしたわ。それにアクトロスは外交に尽力していた。あの怒りようはまるで髪が天を衝くようだったわね』
とても怖かったと付け足す。
『なぜアクトロスは外交を?』
話の流れで気になったことを聞く。
『病気を治すためよ。主に医療技術の流入が目的だったかしら』
魔力循環障害のことである。魔力が排出しきれず、体を蝕んでいく病気のことだ。
ラトリアにおいては発症率が高く、宿命とも言える病だった。
そして、ラトリアの医療技術では現状治療は不可能である。
『尽力はしていたけど、いつになっても受け入れられることはなかった。密航者にウンザリしていた人が多かったから、アクトロスの話が受け入れられないのも当然という空気だったわ』
外との繋がりを持てば人の流入は避けられない。
それは国民のほとんどが反対だった。
ここまで話を聞き、戦争の全容が見えてきていた。
レイニアたちの戦う理由がわかった。
アクトロスたちの戦う理由もわかった。
思うところはある。
第三者から見れば、まだ話し合いはできる。
だが止まらない。きっとどちらかが倒れるまで終わらない。もはや理屈だけではないのだ。
少しだけやるせない気持ちになり窓の外を見る。
そのときキラリと光るものが目に映った。
「魔力反応!!」
パイロットが叫ぶ。
なのはがドアを蹴り飛ばし、外へと飛び出る。
黒剣を取り出し、ヘリに向かってきた攻撃を弾き飛ばした。
(この攻撃は……!)
弾いた攻撃は見たことのあるものだった。
遥か前方には三人。
「ふむ」
そのうちの一人の手元に蛇腹剣が納まる。
「手練れがいるな」
シグナムがなのはを見定める。
「私が相手をしよう。ヴィータ」
「わーってるよ」
ヴィータが鉄球を生み出す。
飛んでいるヘリや輸送機を落とすつもりである。
「させるかよ!」
なのはが魔力弾を生成する。
キャットに投げたものと同じものをヴィータに向かって投げた。
ヴィータが鉄球の一つを叩く。
真っすぐと飛んでいき、なのはが投げた魔力弾と正面衝突した。
しかし、鉄球は一瞬で塵となって消えてしまった。
「いっ!!」
ヴィータから素っ頓狂な声が上がる。
全く想定していなかった事態である。
凶弾が迫る。
それを間一髪で避ける。
歴戦の戦士、守護騎士。
流石というべきである。
「来るぞ」
シグナムが構える。
なのはが流星のごとく飛来し、剣と剣が衝突する。
とんでもない衝撃がシグナムを襲っていた。
自らの限界を超えた力を受け止めたことにより、両腕の筋肉繊維が次々と切れていた。
押し込まれるのも時間の問題である。
「レヴァンティン!!」
カートリッジをロードする。
底上げされた身体能力により、なのはの黒剣を弾く。
そして反撃へと繋げていく。
「紫電一閃!」
その剣速は視認できるレベルではなかった。
だが黒剣に受け止められる。
「まだだ!」
さらにカートリッジを使う。
体が悲鳴を上げる。しかしそんなことは関係なかった。
直感が告げる。
今この瞬間に全力を出さねばやられる。
レヴァンティンが火炎を纏う。
繰り出すのは己の限界を超えた斬撃。
紫電一閃、四連斬り。
決死の連撃を繰り出す。
次の攻撃も、その次の攻撃も、黒剣で弾いていく。
目を閉じることが許されない斬撃である。
攻防はすぐに終わった。
最後の一撃が弾かれ、シグナムに大きな隙が生まれる。
「ラケーテン!」
横からヴィータが迫る。
「ハンマー!」
鉄槌が頭上から振り下ろされる。
突起部分を掴み取り、動きを止めた。
「…………は?」
信じられなかった。
渾身の一撃が片手で止められていた。
「うおぉぉ!」
ザフィーラが反対側から向かってくる。
放たれた拳を黒剣の腹で受け止める。
『レイニアさん』
念話を飛ばす。
『先に行っててください』
普通に考えれば無謀である。
ただ今の攻防を見てて、なのはが負ける姿は想像できなかった。
『わかったわ』
ヘリが飛んでいく。
それを見送り、ヴィータのデバイスから手を離した。
反撃の意思がないことを伝える。
それをシグナムが汲み取り、なのはに質問をした。
「おまえが高町なのはか?」
「そうだけど、誰かから聞いたのか?」
「ああ、リッジラインという男、それと我が主から」
大方予想通りの答えである。
「人間の子どもの魔導師と聞いていたのだがな……鬼か悪魔の類だったか?」
シグナムが普段は言わない冗談を言う。ただこの時ばかりは言わずにはいられなかった。
それほど現実として受け止め難いことだった。
「ごくごく普通の男の子だよ。それでおまえらは誰だ?」
我ながら白々しいものだと思考する。
「ヴォルケンリッターが将、シグナム」
それに続くようにヴィータとザフィーラが名乗った。
「はやては無事か?」
「……無傷だ」
どこまで話すべきかシグナムが悩む。
しかし、はやてはなのはのことを大切な友達だと言っていた。
ある程度のことは話しても問題ないだろうと判断する。
「そうか」
なのはが心底安心した様子を見せる。
ひとまずケガがないのなら一安心である。
「それで、なんで俺たちに攻撃を仕掛けてきた?」
シグナムに問いかける。
「命令だ」
一言だけ答える。
多くを話さないのは、何を言うべきか考えながら話しているからだった。
「俺はこれからはやてを助けに行く。おまえらも一緒に主人を助けないか?」
「ケッ! 別にあんなチビどうなろうと」
『ヴィータちゃん』
シャマルからお叱りの念話が入る。
「チビっておまえ……」
「んだよ」
言わなくてもいい言葉が喉元まで来る。
だが飲み込むことはできなかった。
「おまえもチビやんけ」
ポロっと出てしまう。
「あんだとテメー! やんのかコラ!」
ヴィータが息まいていた。
「てか、テメーもチビだろうが!」
なのはの額に青筋が走る。
なぜだかはわからない。
昔からヴィータを相手にすると売り言葉に買い言葉となってしまう。
おそらくだが、似た者同士なのかもしれない。
いつもならこのまま喧嘩にもつれ込んでいたところだ。
だがなのはは成長していた。深呼吸をして落ち着く。まだ話は終わっていない。
「それで、どうなんだ」
「おまえに加担し、主を解放するという話か?」
頷く。
「出来ん相談だ。我らが反旗を翻せば主の身に危険が迫る」
先ほどより言葉を多く発する。
シグナムはなのはとヴィータがじゃれついている間に考えをまとめていた。
「加えて、現状我らの目的が阻まれることはない」
守護騎士の目的。
それは闇の書を完成させることである。
それが成されるのであれば、極論主人の安否は二の次である。
ただ主人が死んでしまえば闇の書を完成させることができなくなる。そのため主人を守ることと闇の書を完成させることはほぼ同列扱いではある。
現状、反逆しない限りはやての安全は守られている。
そして蒐集に関しては禁止されていない。
「故におまえの提案には乗れん」
シグナムが再び剣を構える。
「わかった」
もはや戦う以外なかった。
時間があればもっと説得していたところだが、これ以上の時間経過は許容できない。
「本気で行くぜ」
なのはが黒剣を構える。
この世界に来て、何度か戦闘をした。
何かしらの不具合がありつつもどうにか戦闘をしていた。
(けど)
懸念はもうない。
黒剣の扱いにも慣れた。馬鹿みたいに向上した身体能力にも慣れた。小さくなった体の動かし方ももう問題ない。
今、高町なのはの本領が発揮されようとしていた。
神速により一瞬で間合いを詰める。
レヴァンティンと黒剣が再び交差する。
黒剣が唸り声を上げる。今回はわけが違った。
レヴァンティンからは悲鳴が上がっていた。
(武器破壊!)
シグナムが瞬時に状況を理解する。
即座にレヴァンティンを引き離さそうとする。
しかしそれは許されなかった。
黒剣から逃れようとするレヴァンティンをなのはが掴み取る。
無理やり引き戻し、黒剣に押し当てた。
再びレヴァンティンが削られていき、刀身が真っ二つとなってしまった。
「くっ!」
シグナムの体勢が崩れる。
「シグナム!」
ヴィータとザフィーラが助けに入ろうとする。
向かってくるザフィーラに折った刀身を投げつける。
シールドによって投擲が防がれる。
接近し、徹によって衝撃を裏に通す。
「なん、だと」
経験したことない攻撃に驚愕する。
ただ驚いている暇などない。なのはを前にして一秒たりとも止まってはいけない。
なのはがザフィーラの顔面を正面から鷲掴みにする。
そのまま後ろから向かってきていたヴィータに対してぶつけに行った。
ヴィータの鼻っ面にザフィーラの後頭部が激しくぶつかる。
鼻血が飛び散り、二人の頭の上では星が回っていた。
なのはが大きい魔力の塊を両手に作り出す。
術式は何も付与されていない。ただの塊である。
それを二人に対してゼロ距離で爆発させた。
魔力ダメージにより、二人の意識が途切れる。
「まるで狂犬だな」
食い荒らすかのように相手を壊していく。
それこそが高町なのはの本質を前面に出した戦い方だった。
ただ、これだけが戦法としてあるわけではなかった。
洗練された剣技、ストライクアーツを軸にした格闘術。
荒い戦い方だけだと決めつけると痛い目を見るはめになる。
二つの戦法が切り替わるように存在し、この二面性によって高町なのはのタチの悪さを増長させていた。
落ちていく二人をなのはが両脇に抱える。
「勝負はついた。これ以上意地を張る必要もないだろ」
それを聞いてシグナムが剣を降ろす。
なのはの言う通り、これ以上の戦闘継続は難しい。それにここまでやられてしまえば言い訳も立つ。
「不殺主義か」
「どちらかと言えば、かな。それが必要なら迷うようなことはしない」
なのはがシグナムに近づき、二人を渡す。
「けど、おまえらは別だ」
シグナムが疑問に感じる。
「はやての騎士だからな」
なのはとはやては友達である。
シグナムはある程度の理解を得ていた。
「一人、人外の領域にいる者がいる」
手心を加えてもらった手前、それに対する礼を示す。
「名はアクトロス。ベルカの戦乱時代であれば、間違いなく名を残していただろう」
ベルカの戦乱時代。
猛者で溢れかえっていた争いの絶えない時代である。
「だが、おまえなら勝てるかもしれんな」
ありのままに思ったことを伝える。
そこに嘘や世辞はない。
「まあ、頑張るよ」
それだけ言い残し、なのはは飛び立った。