高町なのはくん2   作:わず

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重ね合う想い

 

「間もなく目的地です」

 

 パイロットより連絡が入る。

 

『各員、降下準備』

 

 他のヘリや輸送機に乗っている兵士が動き出す。

 

 目的地に到達し、レイニアが出撃命令を飛ばした。

 兵士が一斉に飛び立っていく。

 

 小隊ごとに隊列を組み、それらが合わさり大隊を形成する。

 その先頭ではレイニアが飛行していた。

 

 そして出撃を開始して数分、敵軍と接敵する。

 

 レイニアが目視で捉えた瞬間、大きな魔力反応を感知する。

 

『散開!』

 

 レイニアが念話で指示を送る。

 向かってくるのはキャットの砲撃魔法だった。

 

 威力、速さ、どれを取ってもラトリア随一である。

 何人か被弾し、戦線から落ちていく。

 

 戦端が開かれた。

 

『ねえ、いる? アイツ、来てる?』

 

 キャットがソワソワドキドキしながら聞く。

 これが恋人に対するものなら可愛く思えるところだが、現実はそうではない。

 キャットの顔は強張り、恐怖に満ちていた。

 

『いや、確認できないな』

 

 下で待機しているリッジラインが返事をする。

 今のところ高町なのはの存在は確認できない。

 

『ほっ……なら一安心ね』

『そうだな。それより』

『大丈夫、レイ姉には当ててないよ』

『……そうか』

 

 レイニアに当たっていたとしても、それほど問題ではなかったはずである。

 魔力量が多いため、バリアジャケットの防御力も高い。

 なのだが、リッジラインは被弾していないと聞いて一安心していた。

 

 フィラム軍と反乱軍の衝突が始まる。

 

 そんな中、一際魔力量の多い魔導師がリッジラインの目の前に降り立った。

 

「レイニア」

 

 リッジラインとレイニアの目が合う。

 

「ライン」

 

 レイニアがラインと呼ぶ。

 お互いに良く知った仲である。

 

「私が相手をします」

 

 想い人に剣を向ける。

 リッジラインは構えない。

 

「君とは戦いたくない」

 

 どうして、などとは聞かなくてもわかる。

 だから違う質問をする。

 

「なぜ反乱軍に付いたの?」

「それは」

 

 言いにくそうにする。

 

「私のため?」

 

 言い当てられる。

 リッジラインはレイニアのために戦争に参加していた。

 言いたくなかったのは、レイニアに気を使わせたくなかったからだ。

 

「変わらないのね。図星を突かれると黙っちゃう」

 

 レイピアを構える。

 

「ラインが相手なら本気を出さないとね」

 

 魔力出力を全開にする。

 

「待て!!」

 

 リッジラインが慌てる。

 それは異様なほどに焦っていた。

 

 レイニアが突撃する。

 突き出される剣を掴み取り、動きを止めた。

 衝撃により土煙が立ち込める。

 

「頼む、待ってくれ……!」

 

 リッジラインの手からは血が流れていた。

 手から血が落ちていき地面を染める。同時にレイニアの口からも血が流れていた。

 

 レイニアはある病気を抱えていた。

 それは母親が発症した病気と同じだった。魔力の排出が上手くいかず、体を蝕んでいく病である。

 

 レイニアの症状は進行が遅く、多少の魔力使用では問題はない。

 だが本気となれば別である。症状は進行し、体は急激に蝕まれることになる。

 

 そしてこの病からレイニアを救うためリッジラインは反乱軍に参加し、管理世界となることを望んでいた。

 

 管理世界となれば、管理局の援助も受けられる。

 管理局、及び他世界の医療技術があれば、レイニアの病を治す可能性が高まる。

 レイニアだけでなく、この病に苦しむラトリアの人々を助けることもできるかもしれなかった。

 

「止まれ! レイニア!」

「止まれないわ、ライン」

 

 レイニアが手に力を入れる。

 このまま引けばリッジラインは大ケガを負うことになる。

 

「指が飛ぶわよ」

「構わない」

 

 握る力を強める。

 その意志は固い。

 

「頼む……」

 

 血が垂れていく。

 

「離して」

 

 手を離す気はない。

 

「戦わないならどいてよ!」

 

 リッジラインは動かない。

 何も言わず、何もしないリッジラインに苛立ちを見せる。

 

「中途半端な覚悟で戦場に立たないで!」

「覚悟はある」

 

 レイニアが嘲笑混じりに言う。

 

「笑わせないで! 私とあなたは結局のところ他人よ。それでもあなたにとっては命を掛けるほどだとでも言うの?」

「そうだ」

 

 言葉に揺らぎはない。

 目に迷いもなかった。

 リッジラインの言葉は心の底から出たものである。

 

「だったら……!」

 

 レイニアが唇を噛む。

 

「だったらなんで! 私たちのところから去ったのよ!」

 

 言葉にはしていないが、二人は互いに想い合っている。

 特別な関係となるのも時間の問題だった。

 

 しかしリッジラインはレイニアを置いて去った。

 仲の良かったキャットもいなくなった。姉のようなアクトロスも消えた。

 レイニアは一人だった。

 

 それでもレイニアは剣を取った。

 仲間がいなくなっても、管理局の手を取ることだけは嫌だった。

 その思いを胸に、一人でも戦うことを決めた。

 

 そのはずだったが、ここに来て迷いが生まれる。

 リッジラインの想いがレイニアを止めていた。

 

「……私は、嫌よ」

 

 レイニアが本音を吐露していく。

 

「私は、管理局を許すことはできない」

「知ってる」

 

 自分の気持ちをかき回そうとする男に思いをぶつける。

 

「お母さんを殺したアイツらの管理下になるなんて……そんなの許せない!」

「知ってる」

 

 ただ、感情のままに吐き出す。

 

「アイツら全員死んじゃえばいいのよ!」

「そうだな」

「なら、なんで!」

「君を救いたいから」

 

 言葉にして伝える。

 

「君のことが好きなんだ」

 

 初めて、想いを言葉として伝えた。

 

「それだけなんだ」

 

 戦う理由はそれだけであり、それこそが命を掛ける理由でもあった。

 

 レイニアが剣から手を離す。

 膝をつき、涙を流す。

 

「でも……でも……!」

 

 レイニアはわからなくなる。

 戦う理由はある。しかし、戦えば大切な人が傷つく。

 

 感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 いっそのこと、小さい子どもみたいに泣きじゃくってしまいたくなる。

 しかしそれが許される立場ではない。レイニアも軍人である。

 

 もう後には引けないのである。

 

「ごめんね、ライン。私は戦うわ」

 

 レイニアは立ち上がる。

 

「もう私だけの戦いじゃない。みんなラトリアのために戦っている」

 

 涙は止まらない。

 気持ちを切り替えることはできない。

 それでも立つ。立ち上がる以外道はない。

 

「あなたたちに戦う理由があるように、私たちにも戦う理由がある」

 

 再び剣を取る。

 今、レイニアを動かすものは何か定まっていない。

 だとしてもやるべきことをやらねばならない。レイニアは今、自分が軍人であるという事実にすがるしかなかった。

 

 リッジラインも構える。想いは伝えた。それでもレイニアは止まらない。

 あと彼女のために出来ることと言えば、なるべく傷つけず、早急に決着を着けることだけだった。

 

『ちょっと!』

 

 キャットから緊急の念話が入る。

 

『ヤバイ! アイツ来た!! こっちに向かってきてる!!!』

 

 リッジラインが空を見る。

 遥か先には高町なのはがいた。

 

『逃げてもいいぞ』

『何よ! 私じゃ役に立たないって言いたいの!?』

『いや、そういう意味では』

 

 なのはから逃げても誰も文句は言わない。

 他意はなく、本心からキャットのことを心配しただけである。

 

『私だって……!』

 

 しかし逃げない。

 

『私だってレイ姉を助けたいの!』

「……キャット」

 

 キャットが覚悟を示す。

 

「私が、止める!」

 

 魔法の準備に入る。

 

「キャッスル!」

『Shining Breaker』

 

 ブレイカーの準備に入る。

 二つの砲門を合体させ、チャージを開始する。

 チャージをしたキャットの砲撃を避けるのは難しい。予測して発射と同時に動かなければ回避は不可能である。

 

 準備が終わり、本気のシャイニングブレイカーが発射された。

 範囲もさながら、光のような速さだった。

 

 ブレイカーが止められる。

 またもや黒剣一本で防がれていた。ただこうなることはキャットも予測していた。

 

「舐めるなぁ!」

 

 さらに出力を上げる。

 キャッスルからオーバーヒートの警告音が鳴っていた。キャットの膨大な魔力量にデバイスが耐えきれていなかった。

 

 砲撃が極大化する。

 人ひとりどころか、ヘリや輸送機すらも飲み込むほどの大きさである。

 

 これはなのはも予想外だった。

 圧力は増していき、ついにはなのはを飲み込んでしまった。

 

「はぁ、はぁ」

 

 全力を出したことによる疲労を見せる。

 キャッスルからは熱が放出されていた。

 勢いよく排熱を行い、周りが高温に包まれていく。

 

「大丈夫?」

『問題ありません』

 

 キャッスルは壊れずに済んでいた。

 

 着弾による煙が晴れていく。そこからなのはの姿が現れた。

 

「いってぇ」

 

 なのはは黒剣を使用して、ブレイカーを削っていた。

 直撃とはいかなかったが、通常の砲撃魔法一発分くらいのダメージは入っていた。

 

 なのはの目線がキャットへ向けられる。

 

『ごめん、やっぱ逃げていい?』

『隙があれば構わないが、今はやめとけ』

 

 今となっては蛇に睨まれた蛙である。

 逃げようものなら即座に捕らえられてしまう。

 

「来てくれたのね」

 

 レイニアが空を見上げる。

 これで戦力は整った。後は作戦を遂行するのみである。

 

「行くわよ」

 

 レイニアも気合を入れなおす。

 リッジラインと対峙する。足に力を込め、踏み出そうとした瞬間だった。

 

 レイニアが前のめりに倒れていく。

 背中からは大量に出血していた。

 

「レイニア!」

 

 リッジラインが駆け寄る。

 すぐに回復魔法を発動させる。

 

「何を遊んでいるんです」

 

 リッジラインが見上げる。そこにはグリフォがいた。

 

「グリフォ!」

 

 非難の目を向ける。

 

「何ですかその目は? その女は敵でしょう」

 

 リッジラインが口をつぐむ。

 言っていることは正しい。反論することはできない。

 

 だとしても許せなかった。

 

 グリフォは二人の仲が良いことは知っていた。

 知ったうえで、奇襲を仕掛けていた。

 

 それを思うと、なおのこと許すことはできなかった。

 リッジラインが唇を噛み締める。怒りで飛び掛かってしまわないように自らを抑えつけていた。

 

 回復魔法を最低限にとどめておく。

 魔力循環障害のレイニアにあまり魔法は使いたくない。

 

「その行いも反逆とみなされますよ」

「わかっている」

 

 立ち上がる。

 最後に流れ弾が当たらないように防御魔法を張っておいた。

 

「先に行きます。あまりモタモタしないでください。あのガキはそこまで来ているんです」

 

 グリフォが飛んでいく。

 リッジラインが空に上がり、キャットの隣に並んだ。

 

「レイ姉は?」

「大丈夫だ」

 

 レイニアは気絶しているが、今のところ命に別状はない。

 

「アイツ殺しちゃったほうがいいんじゃないの?」

 

 物騒な冗談を言う。

 

「今なら後ろから撃ち抜けるけど」

 

 キャットが砲門をグリフォに向ける。

 冗談ではなかった。

 

「やめておけ、それより下がるぞ」

「うん」

 

 リッジラインとキャットが移動する。

 逃げるような全速力ではない。

 

 そのあとをなのはが追いかけていく。

 すると開けた場所へと到着した。そこには一人の女性が立っていた。

 その横にグリフォとリッジラインが降り立つ。キャットは浮かんだままである。

 

 なのはも続くように正面に降りる。

 

「おまえが高町なのはか?」

「そういうアンタは?」

 

 赤い髪に背丈ほどの大剣。

 聞いていた特徴と一致する。おそらく、作戦目標の人物だろう。

 

「アクトロス」

 

 それだけ述べる。

 実に簡単な自己紹介だった。

 

 リッジラインが一歩前に出る。

 

「高町、悪いが全員で相手をさせてもらう」

 

 なりふり構っていられる相手ではなかった。

 何がなんでも叩き潰す腹積もりである。

 

「借りは返させてもらいますよ」

 

 グリフォが得意気に剣を向けてくる。

 アクトロスが隣にいるためか今は強気である。

 

 少し違和感を覚える。

 アクトロスからは武人気質を感じる。今までの経験からこの手合いは一対一を望んでくる。

 そのため、この状況に納得していないのではないか、となのはは感じていた。

 

 アクトロスがなのはの視線に気づく。

 

「卑怯だ、とでも言いたげだな」

「言ってほしいのか?」

 

 アクトロスが面白そうにする。

 

「本来なら一騎打ちにて相手をするところだが、今は優先すべきことがある」

 

 予想通り、戦士としての矜持を持ち合わせていた。それと同時に軍人としての理性もあった。

 

「おまえのことを聞く限り、私一人で勝てるかはわからんといったところだ。ならば、より確実に勝てる方法を取らせてもらうまでのこと」

 

 強者としてのプライドもあるはずだ。

 だがそれを捨てられる強さもあった。アクトロスは現実を見ることのできる戦士である。

 

「好きにすればいいさ」

 

 そうは言うが実のところ少しばかり卑怯だとは感じている。

 多人数で襲い掛かってきて、それは卑怯ではないなんて思うほど聖人ではない。

 

 けどそれを非難したりはしない。

 勝てばいいのである。戦いは勝たなくては意味がないのだ。

 

 仮に卑劣で外道な手段を使われようと負けたほうが悪い。

 基本的になのははそう考えている。ただ、その場合はとことん容赦はしないとも決めていた。

 

 なのはが深く息を吸い込む。

 それから、溜めた息を吐き出した。

 

「……ふぅぅ」

 

 吐くと同時に脱力を行う。

 筋肉の強張りを逃がしていく。

 

 相手は四英雄の全員。

 こうなるかもしれないとは予想していた。それでも負ける気はしていなかった。

 

 ──アクトロスを前にするまでは。

 

(強い)

 

 今まで戦ってきたものたちと比較しても確実に上位に入ってくる。

 神話級の化け物を除くと、一位か二位を争うかもしれなかった。

 

(これは、やばいかもな)

 

 のどが渇いていき、血流が冷たくなっていくのを感じる。

 この緊張の仕方は久しぶりだった。

 

 アクトロスの強さは、全盛期の高町なのはの七割に迫る実力である。

 

 なのはが胸に手を置く。

 自然と、そこに手が伸びていた。

 

 いつも首に下げていた相棒がいない。

 

 そのことに不安を覚える。

 しかしながら泣き言は言っていられない。

 

 今は自分の持てる力で戦うしかないのである。

 

「行くぞ」

 

 アクトロスが踏み出す。

 高町なのは対ラトリア四英雄の戦いが開始された。

 

 

 

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