アクトロスが地面を蹴る。
間合いが詰まり、大剣が振り下ろされた。
黒剣で受け止める。
衝撃により地面が陥没する。
「受け止めるか」
素直に感嘆する。
アクトロスが戦う場合、ほとんどがこの一撃で終わっていた。
なのははその一撃を受け止め耐え続ける。
(力を抜くな!)
なのはが全身に力を込める。
(少しでも油断すれば全部持っていかれる!)
体中から汗が吹き出す。
心臓をフル稼働させ、トルクを上げて血流を速めていく。
(押し返して抜け出す!)
なのはが四肢に力を入れようとする。
反撃は許すまいと横からの打撃により邪魔される。
リッジラインの拳がなのはの横っ面を殴り飛ばす。
クリーンヒットである。
転がっていく。
体勢を立て直すも、すぐさま砲撃が飛んでくる。
キャットのブレイカーが地面に着弾する。
直撃は避けるが、爆風に巻き込まれてしまう。
飛ばされた先ではグリフォが待ち構えていた。
デビルフィッシュの八本の手足がなのはを襲う。避けた時の勢いが止められず、吸い込まれるように包囲されてしまう。
四方から囲い込むように刃が襲い掛かる。
黒剣で致命傷となる箇所だけは守り切る。
そのほかは受けざるを得なかった。
黒剣の能力を発動させる。
グリフォは武器が破壊されないようにその場からすぐに引いた。
「その剣、やはり危険ですね」
グリフォは身をもって知っているため、他の誰よりも警戒心が働いていた。
横からアクトロスの水平切りが来る。
息をつく暇がなかった。
斬撃を受け止める。
「ぐっ!!」
剛腕剛撃。
気力も体力も持っていかれそうになる。
(間合いを詰めろ! あの大剣なら取り回しは効かないはずだ!)
剣を滑らせ、懐に入る。
体を捻り、黒剣を振るう。
しかしシールドによって阻まれる。リッジラインのカバーは優秀だった。
上段から大剣が降ってくる。
見切り、数ミリの隙間を残して避ける。衝撃と共に、地面に大きな亀裂が入る。
超至近距離。
なのはとアクトロスが腰を落とす。一撃絶死の距離である。
「おおおおおおお!!!」
「はああああああ!!!」
竜と虎が吠える。
大剣と黒剣がぶつかり合う。
視認不可能な打ち合いが繰り広げられる。
また、至近距離だろうとアクトロスにとっては関係なかった。大剣をまるで木の棒でも振り回すかのように扱っていた。
次の瞬間にどちらの首が飛んでもおかしくはなかった。
リッジラインとグリフォの足が止まる。割って入れるレベルではなかった。
「化け物ですね」
グリフォが笑う。
笑うしかなかった。二人とも英雄としての領域を逸脱していた。
打ち合いが続いていくがすぐに終わりが訪れる。
アクトロスが打ち合いを抜け出す。距離を取るように後ろへと跳んでいた。
「ふむ」
自らの大剣を見る。
「それが例の能力か」
アクトロスの大剣は何か所か刃こぼれをしていた。
打ち合いの最中、黒剣による武器破壊を受けていた。
なのはは大剣の破壊を試みていた。
だが壊せなかった。アクトロスが壊させなかったのである。
豪胆な剣技ばかりかと思ったが、破壊されないように剣を振るうことも可能だった。
黒剣に食いつかれないように流すような剣技で対応していた。
「油断すれば即時決着だな」
「降参してもいいんだぜ?」
「ハッ!」
笑う。
「馬鹿を言うな。ここからだろう戦いは」
楽しそうに語る。
リッジラインたちはこんなアクトロスを見るのは初めてだった。
「これほどの相手、この先の生涯で二度と会うことはできんかもしれんのだ……いや、無理だろうな」
アクトロスは同等の戦いというのをしたことがなかった。
いつだって、戦いの先には当然の勝利しかなかった。
「惜しいな」
これほどの高揚は初めてである。
それを一度きりで失くすのは実に惜しかった。
「高町なのは」
アクトロスが日常会話をするように発する。
「私のものになれ」
時が止まる。
「は?」
「連れ添いになれと言った」
聞き間違いとかではなかった。
「えっと、それってつまり」
「伴侶という意味だ」
意味合いも想像していたものと同じだった。
わけが分からず、なのはが考え込む。それをアクトロスが悩んでいると勘違いする。
「なら条件を付けよう」
整理する前にアクトロスが話を進めてしまう。
「戦いが終息し、おまえが生き残っていたときに再度決闘を挑もう」
戦いとは、この戦争自体のことを指している。
「そのときに私が勝ったら婿として迎える。それでどうだ?」
混乱しそうになる。
諸々のことは置いておき、ひとまず言っていることを無理やり理解する。
「色々聞きたいことはあるんだけどさ……俺が勝ったらどうなるんだよ」
「好きにしろ。私が叶えられる事であれば何でもしてやる」
嘘を吐くタイプではない。
アクトロスは本気である。
「そう、ですか。とりあえず受けて立つかはそのとき考える」
「いやおまえは受ける」
きっぱりと言い切る。
「うーん、自分で言うのもなんだけど結構薄情なところあったりするぜ?」
「平時の覚悟を問うても意味はない。瀬戸際に立った時のおまえの覚悟はすでに推し量れている。私の目に狂いはないさ」
そこまで言われると悪い気はしなかった。
「アンタのことは嫌いじゃないみたいだ」
「嫌われていたとしても関係ないがな」
「どういうことだ?」
「好きになるまで愛し続けるだけだ。そしておまえのすべてを受け止めてやる」
なのはがその人間性に少しだけ胸を打たれる。
恋や愛だのはわからないが、友人としてであれば良い関係を築けそうだった。
上から魔力反応を感知する。
空から降ってきた砲撃魔法を回避した。
「ちょっと! いつまで逢い引きしてんのよ! いい加減片付けて!」
こんなときに色気づくなとキャットがわめいていた。
「アクトロス、遊びはなしだ。そいつを片づければ戦局が動く」
今、戦局はフィラム軍がほんの少し優勢である。
数で勝っていて、かつ四英雄を一人が抑え込んでいるのだから当然である。
何かしらきっかけがあれば戦局が動くことは間違いなかった。
戦闘が再開する。
今度は静かな立ち上がりとなっていた。どちらが先に動くか様子を伺う。
(間合いはちょうどいいか)
アクトロスとなのはの距離は十メートルほど。
二人にとっては無いに等しい距離だが、詰めるには一呼吸分は必要である。
その間合いでなのはが居合の構えを取る。
それを見て、皆一様になぜと疑問を持つ。
普通に考えて悪手である。ここにはキャットがいる。
待ち構えるだけなどいい的でしかない。
案の定、キャットが砲撃の準備に入る。
(御神流)
撃たれるよりも速く、なのはが行動に移した。
狙いはアクトロスの胴体。
そこ目掛けて剣を振った。
(虎切!)
斬撃が飛んでいく。
奇襲に近い形で放ったため、避けることができなかった。
「なにっ!」
アクトロスの肩から血が飛び散る。
魔法の使用もなく、火器も使用していない。
ただ純粋に、剣技によって遠距離の攻撃を可能としていた。
神速により間合いを詰める。
虚を突かれたため反応が遅れてしまう。
黒剣が噛みつく。
大剣が削られていき、真っ二つとなってしまった。
すぐさま首元に黒剣が突きつけられる。
「勝負ありだ」
止めを刺すべきではある。
だがアクトロスは負けを認めない性格ではない。自ら膝を屈することを待つ。
「これは、私の驕りだな」
負けを認める。
そして自分の責であることを自覚していた。
アクトロスは戦いを愉しんでいた。気づかないうちに己の喜びを優先していた。
初めての経験による歓喜に心が惑わされてしまっていた。
結果として軍人としての自分を忘れてしまっていた。
その結果がこれであると、アクトロスは自責を感じていた。
アクトロスが黒剣を掴む。このまま刃を回転させれば指が飛ぶことだろう。
「キャット、撃て」
指示を出す。
「ブレイカーで私ごと消滅させろ」
自分もろとも消し飛ばせと命令する。
少しだけ躊躇する。
しかしすぐにシャイニングブレイカーの準備に入った。アクトロスの覚悟は本物であり、いつだって本気である。それは四英雄なら誰もが知っていることである。
チャージが完了する。
今度はフルチャージである。
(くそっ! 仕方ない)
なのはがブラック・オルロフの能力を起動させる。
ここで消し炭になるわけにはいかなかった。
瞬間、地揺れが発生する。
直下型のような大きな揺れ、それと同時に巨大な魔力反応も感知した。
「地震!?」
キャットも砲撃を一時中断する。
黒剣から手が離れたため、なのはも一旦後退した。
(これは)
この揺れには覚えがあった。
つい最近経験したことでもあり、七年前にも経験したことがある。
この揺れは地震ではなく、次元震によるものだった。
(一体どこで)
発生源を探る。
それは探すまでもなかった。原因はまさに目の前である。
揺れが収まる。
アクトロスの前には一個のジュエルシードが浮かんでいた。
紫色に光る石から、意思を感じ取る。
「私を求めるか」
アクトロスとジュエルシード。
互いに同調し合うものがあった。石を手に取り、体と同化していく。
願いを叶える石、ジュエルシード。
その石は真の願いを叶えるため、王の資質がある者へと導かれる。
──ジュエルシードNo 7、改め、ジュエルNo7 アメジスト。
全ての裁定は武力と共に、力を携えた理想に民は魅せられるのだった。
アクトロスが大剣を手にする。
審判を下すための大剣──剛剣、メギド。
「行くぞ」
新たな剣を手にし、なのはへと向かっていく。
剛剣と黒剣が交差する。
(もう一回だ!)
再度、武器破壊を試みる。
無数の刃が回転し、メギドを食い荒らそうとする。
しかし一向に壊れはしない。刃こぼれすらしていなかった。
「なっ!」
今度はなのはが驚く番だった。
今まで一度たりとも壊せないものなどなかったのだから。
力で押し切られ、後方に吹き飛ばされてしまう。
(硬すぎだろ!)
ブラック・オルロフの力を持ってしても、メギドを傷つけることはできなかった。
「何が起きているかはわかりませんが、今が好機ということですね」
後ろからデビルフィッシュが襲い掛かってくる。
攻撃をされるのが嫌なタイミングというものがある。
グリフォはそのタイミングを嗅ぎつけるのが得意だった。そして、なのははその瞬間を狙ってくるのをよくわかっていた。
(何度も通じるかよ!)
カウンターで黒剣を振る。
奇襲に対しての奇襲である。
首を捉える。
回避は間に合わず、グリフォの首が飛ぶ。
(これは!)
手応えがなかった。
後ろにいたはずのグリフォが消えていく。
「案外わからないものでしょう」
脇腹が斬られる。
「あなたといえども一瞬では判断できなかったみたいですね」
敵のいないほうへ飛びのく。
なのはが斬ったのは幻影魔法だった。
幻剣グリフォ、英雄の名は伊達ではなかった。
続けざまにリッジラインが襲ってくる。
「グリフォ、止まるな! 一気に片を付けるぞ!」
「いいでしょう。賞賛の一言でも欲しいところですがね!」
二人が襲い掛かってくる。
『兄弟!』
「わかってる!」
ティルの指示通り、リッジラインが傷口を狙う。
普段ならしない行為だが、今は外道こそが正解である。
拳が負傷部分へと向かう。
だが到達することはなかった。リッジラインの腕が、肘と膝で挟み込まれていた。
「ぐああっ!」
腕から骨の砕ける音が聞こえてくる。
「デビルフィッシュ!」
剣が八本に分かれようとする。
硬いもの同士がぶつかり合う音が鳴る。剣が開いていなかった。開く前になのはが噛みついて、開かないようにしていた。
「狂犬がっ!」
振り解こうとするが、咬合力が強すぎてビクともしなかった。
なのはがグリフォの胸倉を掴む。
そのまま引き寄せ、頭突きを食らわした。
続けて髪の毛を掴み、地面へと叩きつける。
なのはが歯をむき出しにして立ち尽くす。
その一部始終をキャットが上空から見ていた。
それは生涯、忘れることの出来ない光景だった。心なしか、怒り狂った野良犬の唸り声が聞こえてくる。
手負いの獣は危険なのである。
「二人ともよくやった」
アクトロスが魔法を発動させる。
ジュエルシードが覚醒し、新たに会得した魔法である。
「この一撃、我ら同志のために撃たせてもらう」
メギドに魔力が集まっていく。
膨大な魔力であり、魔法ランクは測定不能である。
それは現存する魔法の中において、最高位に位置する魔法だった。
神域魔法のように非現実的な話ではなく、確かに存在が確認されている魔法である。
ただ誰にでも扱える魔法ではなく、限られた者にのみ使える魔法でもあった。
「行くぞ、高町なのは」
アクトロスとの距離は離れたままである。
けれども距離は関係なかった。この魔法にとってはすでに射程圏内である。
剣を振り下ろす。
メギドから王の一撃が放たれた。
星が揺れている。
そう思えるほどの衝撃だった。
大地が割れ、その先にある山が二つに割れていた。
王域魔法、王剣。
遥か昔、幾万の兵が夢を託した一撃である。
「流石だな」
喜びの気持ちと共に賞賛を送る。
ただ今回ばかりは喜びと同時に恐れも混じっていた。
「ウソでしょ」
キャットが眼下の光景を見て驚く。
そこにはなのはが立っていた。
確かに攻撃は当たっていた。
死んでいてもおかしくない一撃である。
「ごっ!」
なのはが血を吐き出す。
当然、無傷とはいかない。
肩から腰にかけて、大きな斬撃の跡があった。
(まずいな)
いま追撃をされれば確実に殺されてしまう。
そのため、虚勢を張る必要があった。立っていれば相手も警戒する。そのため倒れるわけにはいかなかった。
少しずつ呼吸を整えていく。
(アクトロスは……?)
追撃が来ないことを不思議に思い、最も警戒すべき相手を見る。
見るとアクトロスは膝を着いていた。額からは大量の汗が流れ出ている。
「ちょっと!」
「心配無用だ。少し休めば動ける。それより」
アクトロスが他の倒れている二人を見る。
「わかったわよ」
キャットがリッジラインとグリフォを回収する。
二人ともまだ意識はあった。
「すまない」
「いいから早く済ませて」
「ああ」
リッジラインが回復魔法を発動する。
グリフォに掛け、次は自らを回復させる。
「すまんが完治は無理だ。回復に回せる魔力がない。骨は治した。おまえなら動けるだろ」
「ええ、問題ありません」
グリフォとリッジラインが復帰する。
全回復ではないが、戦闘継続は可能である。
「アクトロス」
「私はいい。それにこれは負傷ではない。回復魔法ではどうにもならん」
リッジラインの申し出を断る。
その理由を聞いて、素直に引いた。
「わかった。肩の傷は?」
「無論、支障はない」
そう言うだろうと思っていた。
そちらの傷も治すことはせず、残った魔力を戦闘で使うことにする。
「決着を付ける」
リッジラインとグリフォが攻撃準備に入る。
「魔王討伐と行きましょうか。知っていますか? 魔王は英雄に倒される運命なんです。今回もただそれだけのことだったということですね」
二人が踏み込む。
もはやリッジラインもなのはを子どもとは見ていなかった。明確な倒すべき敵である。
アクトロスは止めない。
ここで死ぬようならば、それまでの男だっただけのことである。
(せめて)
覚悟を決める。
(せめて、はやてが無事でいられるように希望を繋ぐ)
奥義の使用を決める。
使うのは神速。
それを二重掛けするつもりである。
使えばただでは済まない。
ケガがない状態でも負担の大きい技である。
それでも躊躇はない。
(全員殺すまで解かない)
自らの体のことはもうどうでもよかった。
四人を討ち取ること、その決意だけを胸に刻む。
「行くぜ」
そうして奥義を使おうとしたときだった。
『Round Shield』
なのはを守るようにシールドが現れる。
そのシールドにリッジラインの拳が阻まれた。
黄金に輝く、金色のシールド。
「ごめん、遅くなった」
雷光の魔導師、フェイト・テスタロッサがそこにいた。
「フェイ、ト」
幻ではない。
本物のフェイトだった。
『Thunder』
「スマッシャー!」
電撃を帯びた砲撃魔法が撃ち込まれる。
戦闘による疲労により、避けることはかなわなかった。
リッジラインがモロに全身で受ける。
「一人増えたくらいでは変わりませんよ!」
グリフォが突きを繰り出す。
「はいストップ!」
アリシアがタイムストップを使う。
グリフォの時が止まっていた。
「アルフ!」
「任せな!」
アルフがアッパーを放つ。それに合わせて時の進みを戻した。
グリフォのみぞおちに重い一撃が入る。不意打ちを食らったグリフォが地面に伏す。
「おまたせ、なのはくん」
「アリシア」
アリシアも来ていた。
「助かった、ありがとう」
「うん! もっと褒めて!」
アリシアが頭を差し出してくる。
その頭を撫でてあげる。
「イダッ!」
腕に痛みを感じる。
軽くつねられただけだが、傷があった部分だったため声をあげてしまう。
「な、何?」
フェイトがむくれていた。
「私は?」
「え?」
「私も助けた」
フェイトが何を求めているのか理解する。
「ありがとう、フェイト」
「どういたしまして」
少し機嫌が良くなる。
「ちょっとちょっと!」
もう一人、なのはの元へ飛んでくる子がいた。
「みんな速すぎ!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
後ろを向いて姿を確認する。
「なのは!」
「え……!?」
そこには見知った顔がいた。
それはこんなところにいるはずのない人物だった。
「ア、アリサ!!?」
アリサ・バニングス。
なのはの大切な友人の一人である。
アリサが降り立ち、なのはの目の前まで来る。
「来てあげたわよ!」
自信満々に言い放つ。
「ど、どうして」
「友達だからに決まってるでしょ」
「いや、そうじゃないだろ」
「そうじゃないって何よ。他に何の理由があるのよ」
話が嚙み合わなかった。
というよりもアリサがわざと嚙み合わせないように会話をしていた。
なのはの聞きたいことはわかっている。ただアリサはいつも通り友達としての会話を楽しんでいただけだった。
「アリサ」
「わかってるわよ」
フェイトに注意される。
口数が多いのは緊張の裏返しでもあった。
あまりふざけている場合でもない。そのことはアリサもわかっているため、素直に注意を受け入れていた。
「なのは、簡単でいいから状況を説明して」
「ああ」
誰が敵で、何をするべきかを伝える。
「了解、一人は私が相手する」
見定める。
話を聞く限り、リッジラインが一番強い。
フェイトが誰と戦うかを決める。
「アルフ、アリシアのサポートをお願い」
「あいよ」
フェイトは一人でも問題ない。
そのため、アルフをアリシアのサポートに回した。
「私はアレね」
アリサがキャットを見上げて言う。
「え」
「何よ」
「戦うの?」
「当たり前でしょ」
流石に無理ではと考える。
意気揚々としているアリサを止めようとする。
「大丈夫です。僕も付いてますから」
アリサの肩からユーノが現れる。
懐かしのフェレット状態である。
「あなたのことは聞いています。とても強い人だと」
なのはのことについてはフェイトやアリシアが説明していた。
「それとこれを」
ユーノがレイジングハートを差し出してくる。
「どうして」
「フェイトから渡してほしいと頼まれました。デバイスを持っていないだろうから使わせてほしいと」
状況を理解する。
「わかった。ありがとう」
レイジングハートを受け取る。
「行くわよユーノ!」
「わわっ! アリサ、急に飛ばないで!」
アリサが行ってしまう。
「本当に大丈夫か……?」
心配になる。
だがフェイトが止めないし、何も言わない。
つまりは大丈夫ということなのだろうと推測する。
「こっちも早く準備しないと」
今すぐにレイジングハートの設定を完了させなければならなかった。
「レイジングハート」
『はい』
「初期設定を実行してくれ。悪いけど急ピッチで頼む。使用したい魔法をイメージで伝えるから、すぐに構築を……」
『Stand by Ready. Set up』
なのはがバリアジャケットを纏う。
そして片手にはブレイブモードのレイジングハートがあった。
『Divine Sword』
ディバインソードが展開される。
「レイジングハート……おまえ」
『どうしましたマスター。鳩が豆鉄砲食らったような顔してますよ』
レイジングハートには記憶があった。
「おまえの、せいだろうが」
その声は震えていた。
『他責思考は感心しませんね』
目頭が熱くなっていく。
気持ちが溢れていき、涙が落ちていく。
一粒、赤く光るコア部分に落ちる。
『これも私のせいですか?』
「…………そうだよ」
『そうでしたか』
涙が止まらなかった。
なのはにとって、レイジングハートは最も長い時間を共にした相棒である。
『マスター』
レイジングハートが主人を呼ぶ。
『会いたかったです』
もう何も不安はなかった。
涙を拭う。
再会を喜ぶのは後である。
今はやらなくてはならないことがあった。
なのはもいつものように相棒を呼ぶ。
「行くぜ、レイジングハート」
『All right』
踏み出す。
その足取りに迷いはなく、気力に満ち溢れていた。